結婚して旦那親戚の持ち家に引っ越したら幽霊屋敷でした。

紅月千里

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瞑想し迷走する

ジジイはお呼びじゃないんですが

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さて閑話休題。ちょっと時間がさかのぼった話になる。

子供を産んで今のこの家にきて体験したことは数多くあったが。その中でも最悪なことがあるとすれば、祖父の夢を見るようになったということである。
実際には祖父の悪夢を見るようになった。

祖父は私が高校2年に癌と認知症で死んだ。元々少なかった男の兄弟が戦争で亡くなってから、祖父は家系の中で唯一の男性としてワガママに自分本位に生きて家族を動かしてきた。祖父がダメなヤツと烙印を押したものは家族の一員として認められず冷遇された。

私の母、私の兄弟、祖父の妻である私の祖母は冷遇された。祖父の長男、私にとっての叔父とその妻は優しい人たちだったが、彼らに対しても酷かった。少しでも気に入らないと威圧し怒鳴りつけた。叔母の妻は殴られることも日常茶飯事だった。

しかし祖父はちょっとでも立場がある人やガタイのいい男性などには弱気になり下手に出る人だった。弱そうな人には傲慢な態度をとり、強そうな人には下手に出る祖父だった。

私はなぜかそんな祖父のお気に入りだったが、私は祖父が大嫌いだった。

まぁ、そんな祖父だが亡くなってから随分時間が経っていたこともあり、私はすっかり忘れ去っていた。それなのに夢に出てくるようになった。全く迷惑なジジイである。
祖父と呼ぶのはジジイにはなんだか言葉が勿体無いので、今後ジジイと表記する。

子供が1歳頃、初めてジジイが夢に現れた。いつも通り横になりドラと読経の音が消えてやっと寝付いた時である。
気がつくとジジイの家にいた。母の実家であるその家は昔ながらの大きく古く、しかしジジイの長男嫁が綺麗に片付けているおかげですっきり広々としている。しかし明るいはずの部屋が薄暗く、部屋の中が見えにくい。家の大黒柱とも言える大きな柱にメガホンのようなスピーカーが設置されている。実際には無いが夢の中にはあるスピーカーが突然耳障りな音で響いた。ガサついた音割れしてるノイズが聞こえる。

ガァァァァ・・・ピィィィ・・・ザザ・・・ザザ・・・

嫌な音だな。そう思いスピーカーが設置されている柱を見る。そこにはメガホンのようなスピーカーではなく、柱にジジイがくっついていた。後頭部が柱に貼り付いている。顔がこちらを向いているが、無表情で目は白く濁って何も映していない。昔から歯の無い口がパカンと開いていて、真っ暗な洞穴のような口から耳障りなスピーカーの音を絞り出していた。絵面的に、なんとなくムンクの叫びに似ていなくもない。

・・・ガァァァァ・・・ピィィィィ・・・

ジジイが何か話し出す。耳障りな声で、割れたスピーカーの音で二重に三重に音が響いてエコーがかかり何を言ってるのか聞き取れない。

ぁぁああああぁぁガァアアアアおおぉぉおおビィィイイイイイ

音がどんどん大きくなり、あまりに音がガァガァ響いて何を言ってるのか内容が聞き取れない。周りにいる祖母や叔父叔母がスピーカージジイに土下座をして、お願いだから収まってくださいと拝み込んでいた。

気がつくとジジイがくっついている柱はジジイの家の柱ではなく、ウチの、今住んでいる家の柱にくっついていた。拝み込んでいる親戚一同の姿は消えているのにジジイの姿は妙にはっきり浮かんでいた。
ちょうど巨大ゴキブリがくっついていた柱に、ジジイがくっついていた。無表情なジジイが後頭部を柱にくっつけて、口から割れたスピーカー音を発している。口の中は真っ暗闇で目が白く濁った姿は、ある意味巨大ゴキブリ以上に恐ろしかった。片方の白く濁った目玉が眼窩からぬるりと滑り落ちる。ぴちゃっ。畳に目玉が落ちた汚い音がする。その音に全身の鳥肌が立ち、後頭部の頭皮が恐怖でキュッと締まるのを感じた。

いつから目が覚めていたのか私には解らなかった。

気がつくと座ってジジイが消えた柱を見ていた。
私は横になって寝ていたはず。でも気がつくと起き上がって柱の前に座っていた。体は汗びっしょりで座っていることに気づいた途端鳥肌が一斉にたった。全身がガタガタ震えて、体を自分で押さえなければ倒れてしまいそうだった。

毎晩ドラを叩いて読経をあげる声を聞いても恐ろしいと感じたことは不思議となかった。しかしジジイの夢には恐怖で震え上がった。身の危険を感じる恐ろしさだった。

さらにその夢の数ヶ月後に再び強烈な悪夢に襲われた。

やはり場所は祖父の家。前回の夢と同じ部屋。

祖父が死んでしまって葬式を行なっていた。祖父は棺に横たわっているが、目が開いていた。真っ黒な瞳が見えて爛々と輝いており、とても死んでしまった人には見えなかった。生きたまま葬ったのでは無いかと思うくらい目が輝いている。祖父が棺桶から起き上がるドラキュラ伯爵のごとく起き上がりそうになり、周りの親戚一同が必死に起き上がらないように体を抑え込んでいた。体を押さえ込んでいないものたちは、土下座をしながら言っていた。

「どうか死んだままでいてください」

しかしジジイは全くそんなことを聞く気がなく、起きあがろうとしていて押さえている親戚一同を押し戻して起き上がってきていた。

私は立ったまま固まってそれを眺めていた。ジジイを押さえるとか触るとかしたくなかった。ただただ目の前での光景に心底ビビりながら眺めていた。

夢から覚めた。前回と違ってちゃんと横になって寝ている体勢だったが、布団の中で体がガクガク震えていた。怖いと意識する以前に体は本能的に恐怖を感じていた。心より脊髄が恐怖を感じ反応していた。

「一体なに?」

体の震えが収まるのを待ちながら思わず自問し、ただ座っていた。しばらくするといつも通りドラを叩く音と読経をあげる声が聞こえてきた。

不思議なものである。この音がこの家で一番心霊現象っぽい怖い現象であるはずなのに、既に1年以上毎晩体験し続けたせいで完全に日常の一コマになっていた。人間の適応力、恐るべしだ。
そして異常な音でも毎晩聴いていると、だんだん慣れて安心できるのである。読経の声でも日常の一部になると、聞いてるうちに徐々に震えが収まっていった。

読経の声を聞きながら少しずつ頭が働くようになった。
「なんで急にジジイが出てくるんだ」私は自問した。

ジジイが夢に現れることは、それまで全くなかった。高校からそれまで十数年間一度もなかったのだ。それが何故ここにきてジジイが夢に現れるようになったのか。挙句の果てには私の家の柱で迷惑な心霊スピーカーをやってるのか。

変わったことといえば、私の結婚。そして私の出産だ。

子供ができたからジジイが夢に現れるようになったのだろうか。夢を思い返してみた。ジジイがスピーカーになった夢も棺桶から起き上がる夢も私の子供は夢には出てこなかった。ジジイが子供に執着する様子もなかった。もし私の子供が関係するのなら子供も夢に出てくるだろう。しかしジジイは私の子供に興味どころか、私が子供を産んだことすらどうでもいいようだった。

「・・・じゃあ結婚か?」
私は確信した。

婚約してから分かったのだが、夫の父親の実家と私の母親の実家が同郷で、しかも近くに住んでいた。多分行き来はないと思うのだが、それを確認する手立てはない。
ただ墓参りしたときに気付いたのが、お互いの墓が小さな丘一つ隔てただけのお隣同士だったということだ。
なんなら同じ丘のあっち側とこっち側と思ってもいい距離。そして更に言うなら、この土地自体が大きな墓地だった。火葬になる前に普通に人の埋葬が行われていた土地。その土地の端っこに祖父は家を建てて住んでいた。実家同士は海と山で離れていたが、墓繋がりでは本当にご近所さんだった。

そして私は子供の頃、この墓地で長い時間を過ごしていた。遊ぶ所のない田舎で、母は離婚してから3年この祖父の家で暮らしていた。そして再婚して再び離婚した時にもしばらくこの家に住んでいた。

私はこの墓地で弟とかくれんぼをし、墓地の破棄された花の花びらをおままごとの道具にして遊んでいた。乾いた土手で蟻地獄を見つけては魅入っていたものだ。山の中に住んでいて、ご近所がほとんどなく同じくらいの子供も近くにいない自分にとって、そのお墓は子供の頃の遊び場所だった。そのお墓は私にとって馴染み深い場所で、その墓に祖父母は眠っている。

そして夫の父方の祖父母親戚も同じ地に眠っている。

ふと、この結婚は自由恋愛・自由意志だったのかと不安になった。私と夫の意思だけではなく、他の意思も働いていたのではないかと。
よく言われるように結婚とは個人同士のものではなく、家と家との繋がりでもある。別に何らかの意図はなくても、単純に結婚したことでその墓地とつながっている家とつながり、それで墓地とのつながりが強化され祖父が私に接触しやすくなったのではないか。

スピーカーのように大声で私に語りかけてくるジジイ。死んでもなお起き上がってきて、死にきれない様子のジジイ。死んでもなお、お願いだから聞いて欲しいと懇願するのではなく、聞けと強要してくるような高圧的な態度なのだ。私は額を抑えた。

「うんざりだわ、あんたには」
既に色々起こって手一杯だった私には本当に迷惑な話だった。
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