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間章 あの子が忘れた物語Ⅰ
28話 黒い魔法使い
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夜闇を赤赤と炙る炎。何もかもが焼け焦げる燻った臭い。至る所に落ちた、人だったものの黒い影。
「ああ、悪くない眺めだな」
それらをうっとりと眺めながら、ブレイズは眼下に燃え盛る炎とよく似た色の瞳を細めた。
「──ブレイズ」
険しい色の声をかけてきた青年を、ブレイズがちらりと振り返る。彼はその菫色の双眸に鋭い眼光を宿していた。
熱風が二人の髪を煽る。黒とブロンドが、赤い光を受けながらはたはたとはためいていた。
「なんだ、カラー。まだここにいたのか?」
「どうしてゲイツさんを殺したんだ。ルーナさんもリッカも、君達を迎え入れてくれたのに」
「どうしてって」
ブレイズが笑う。まるでドラゴンが人に化けたような美しい容姿を持つ彼は、無邪気な笑顔を見せた。
自身の行いの残虐さを全く悪だと感じていない笑顔。それがカラーには酷く恐ろしいものに感じ、思わず後退る。
「彼らが人間だったからに決まってるだろ。それに、アイツらはずっとお前を虐げていたじゃないか」
そして再び、ブレイズは炎に飲まれた街を見下ろす。
「見ろよカラー。なかなか綺麗だろ? 今日からここは魔法使いのための街として生まれ変わる。楽しみだよなあ」
「本気で言ってるのか?」
「もちろん。皆で願ったことだろ。それとも、今さら怖気づいたのか?」
ブレイズが嗤う。その美しい顔を歪めて、ニタニタと悪魔の笑みを貼り付ける。いいや、彼は自身の残虐性を誰よりも理解していた。理解して尚、それを正義と信じて疑わなかった。
「遅かったなあ。もう止まらないよ。俺が死んでも誰かが同じように進めるさ。それくらい、魔法使い達の怒りは深かったんだ」
ああ、遅かった。誰よりカラーがそれを感じていた。出会った時の純朴な少年の面影は、目の前の青年には無い。彼は壊れ、狂ってしまったのだ。
魔法使いが虐げられ、道具のように扱われる世界の残酷さに怒り、理不尽を憎み、魔法使いの為に立ち上がったかつての英雄は魔王となって己の望みを燃やし続けていた。
誰も彼を止めなかった。全員が正しく望んだことだったから。
「ここからだよ、カラー。ここから俺達は俺達のための世界を作るんだ」
「そのために人間を排除したら、ただ魔法使いじゃないという理由だけで人間を殺したら、それこそ彼らがしてきたことと同じじゃないか!」
「そうだな。でも必要なことなんだ。気づいたんだよ。綺麗な理想だけじゃ、俺達は望むものを手に入れられない」
「君のやっていることをフィメロが知ったらどう思う!? あの子が傷つくことくらい、分かるだろ!」
ブレイズの最愛の妹。最後の良心。彼女の名を出せば、彼が正気に戻ってくれるはずだとカラーは縋る思いだった。
けれど。
「怒るだろうな。失望させると思う。けど、それで構わない。その先の世界であの子が笑って暮らせるなら、どれだけ嫌われても構わないさ」
「ブレイズ……」
今まさに確信してしまった。彼はもう、後に引くつもりがないことを。どうやっても、この手が、この声が彼に届くことは無いことを。
ブレイズの身体がうっすらと金色の光を纏う。母なる石の加護。管理者であることの証。魔法使いの最上位。世界を覆すほどの魔法を、ほぼ代償無しで扱うことのできる存在。
この青年に勝てるとしたら、同じ管理者だけだろう。彼の才能を考えれば、それでも難しいかもしれない。
ブレイズ様、と彼を慕う魔法使い達の声が聞こえる。それに彼は笑顔で応えた。その光景を、カラーはぼんやりと見つめることしかできなかった。
「ああ、悪くない眺めだな」
それらをうっとりと眺めながら、ブレイズは眼下に燃え盛る炎とよく似た色の瞳を細めた。
「──ブレイズ」
険しい色の声をかけてきた青年を、ブレイズがちらりと振り返る。彼はその菫色の双眸に鋭い眼光を宿していた。
熱風が二人の髪を煽る。黒とブロンドが、赤い光を受けながらはたはたとはためいていた。
「なんだ、カラー。まだここにいたのか?」
「どうしてゲイツさんを殺したんだ。ルーナさんもリッカも、君達を迎え入れてくれたのに」
「どうしてって」
ブレイズが笑う。まるでドラゴンが人に化けたような美しい容姿を持つ彼は、無邪気な笑顔を見せた。
自身の行いの残虐さを全く悪だと感じていない笑顔。それがカラーには酷く恐ろしいものに感じ、思わず後退る。
「彼らが人間だったからに決まってるだろ。それに、アイツらはずっとお前を虐げていたじゃないか」
そして再び、ブレイズは炎に飲まれた街を見下ろす。
「見ろよカラー。なかなか綺麗だろ? 今日からここは魔法使いのための街として生まれ変わる。楽しみだよなあ」
「本気で言ってるのか?」
「もちろん。皆で願ったことだろ。それとも、今さら怖気づいたのか?」
ブレイズが嗤う。その美しい顔を歪めて、ニタニタと悪魔の笑みを貼り付ける。いいや、彼は自身の残虐性を誰よりも理解していた。理解して尚、それを正義と信じて疑わなかった。
「遅かったなあ。もう止まらないよ。俺が死んでも誰かが同じように進めるさ。それくらい、魔法使い達の怒りは深かったんだ」
ああ、遅かった。誰よりカラーがそれを感じていた。出会った時の純朴な少年の面影は、目の前の青年には無い。彼は壊れ、狂ってしまったのだ。
魔法使いが虐げられ、道具のように扱われる世界の残酷さに怒り、理不尽を憎み、魔法使いの為に立ち上がったかつての英雄は魔王となって己の望みを燃やし続けていた。
誰も彼を止めなかった。全員が正しく望んだことだったから。
「ここからだよ、カラー。ここから俺達は俺達のための世界を作るんだ」
「そのために人間を排除したら、ただ魔法使いじゃないという理由だけで人間を殺したら、それこそ彼らがしてきたことと同じじゃないか!」
「そうだな。でも必要なことなんだ。気づいたんだよ。綺麗な理想だけじゃ、俺達は望むものを手に入れられない」
「君のやっていることをフィメロが知ったらどう思う!? あの子が傷つくことくらい、分かるだろ!」
ブレイズの最愛の妹。最後の良心。彼女の名を出せば、彼が正気に戻ってくれるはずだとカラーは縋る思いだった。
けれど。
「怒るだろうな。失望させると思う。けど、それで構わない。その先の世界であの子が笑って暮らせるなら、どれだけ嫌われても構わないさ」
「ブレイズ……」
今まさに確信してしまった。彼はもう、後に引くつもりがないことを。どうやっても、この手が、この声が彼に届くことは無いことを。
ブレイズの身体がうっすらと金色の光を纏う。母なる石の加護。管理者であることの証。魔法使いの最上位。世界を覆すほどの魔法を、ほぼ代償無しで扱うことのできる存在。
この青年に勝てるとしたら、同じ管理者だけだろう。彼の才能を考えれば、それでも難しいかもしれない。
ブレイズ様、と彼を慕う魔法使い達の声が聞こえる。それに彼は笑顔で応えた。その光景を、カラーはぼんやりと見つめることしかできなかった。
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