奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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1.出会ってしまいました。

1-1

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複雑な家庭ってのは一定数あるようで、私の家もその一つだと思う。

金銭関係で政略結婚をした両親から生まれた私は、同じく金銭関係のために将来は政略結婚をする運命で。


「こちらになります。氷榁ひむろ様はもう中でお待ちです。」

「ありがとうございます。」


今日は月に一度、許嫁同士である私たちが会う日。料亭の座敷に通された私は、一呼吸置いてから婚約者の待つ部屋に入る。


「おはようございます、初雪さん。お待たせしてすみません。」

「姉さま!」


謝罪をした私に言葉を返したのは、謝罪の受け手である初雪さんではなく。


「茉白。」


彼女が当たり前のように居ることにもう慣れた私は、輝く笑顔で私を見る義妹に苦笑いを返すだけだった。

茉白は私の異母姉妹。

親同士の決め事で結婚した両親が仲が良いわけなんかなくて、母が亡くなったあと喪が明けて間もなく父が連れてきた女性の子。

半分だけ血の繋がった、一つ年下の妹。母が生きていた頃からの浮気相手とこうも早く再婚するその豪胆さには呆れるしかない。


「何を突っ立っている。座ったらどうだ。」

「そうします。」


私の向かいに座るのは、私が産まれる前から決められた許嫁の氷榁ひむろ初雪《はつゆき》さん。

そう、今はまだ、「私の」婚約者。でも彼の隣でにこにこと話しているのは茉白なわけで。

母と父は仲が悪かった。同様に、私も父と仲が悪かった。

父が私を初雪さんの許嫁にしたのは、家の面倒なことは全部私に押し付けて、可愛い茉白には自由に生きて欲しかったからなんだと今なら思う。

だけど。


「初雪さん、あのね、」

「どうした?」


目の前には、可愛らしく頬を染めて話す義妹とそれを優しい眼差しで見つめる初雪さん。

お互いに惹かれあってるって、誰が見ても分かる。

今日茉白にここに来るように言ったのは父か初雪さんか。

……どっちだって変わらない、か。

結局、初めの会話以降私と初雪さんが話すことは無かった。
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