奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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1.出会ってしまいました。

1-2

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「ふぅ……」


ため息をつきながら私はお客さんが帰ったあとのテーブルを拭いていた。

ここは私がバイトしてる喫茶店。

家を出て高校に通ってる私は、住んでるアパート代を稼ぐために放課後や休日にここで働いている。学費は家が出してくれてるけど。

個人経営の喫茶店だから従業員の人数も多くはなくて、長時間入れるから良い。

私の生家である八地家はそこそこの大きさの会社を持っていて、父はそこの社長で、つまるところ私は社長令嬢になるわけだけど。

社長令嬢がアルバイト。なんとも珍妙。しかも高校はアルバイト禁止だし。

学校では真面目に過ごしてるのに、こうして校則を破ってるのは罪悪感があるけど仕方ない。

父は世間体を気にして私をお嬢様学校の「菊ノ花きくのはな女学院」に入れたかった。

それに反発して、大喧嘩の末今の高校を選んだのは私だ。

男女共学の「桜花成玲おうかせいれい高等学校」。上位の進学校だったからか、学費くらいは出してくれる事になった。

合法的にあの家を出るためにどれだけ私が勉強したと思ってるの。

アルバイトはまぁ、教室でひっそりしてる私だから今のところはバレないと思うけど。

カランカラン、とお店の扉が開いた時のベルの音がして、私はすっかり身についた反射で「いらっしゃいませ」と作り笑顔。

……が、入ってきた人たちを見て引き攣る。

知ってる。あの人たち私でも知ってる。

金髪と、赤錆色の髪をした二人の男。桜花成玲は進学校だから治安もいいはずなのに、そこに全く似つかわしくない二人。


金髪の方が三年生の栗生くりう先輩、赤錆色の方が同じく三年生のくれない先輩。

喧嘩っ早いとか女遊びが激しいとか、不良校で聞こえてきそうな噂ばかりの人たち。

それでもお店に来てるお客さんである以上接客しないわけにはいかなくて、どうにか作り笑顔を保ったまま席へ案内する。

どうせ一年生の私のことなんてこの二人が知るはずもない。ただ単に、こんな形でも関わりたくないだけ。

紅先輩の黒い瞳と一瞬目が合った。私が逸らす直前、それがスっと細められた気がする。
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