奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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1.出会ってしまいました。

1-3

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「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」


軽く頭を下げて、私の任務はひとまず終わり。早いとこ他の作業に戻ろう、と席を離れようとした時。

パシッと手首が掴まれた。何? と視線を向ければ私の左手首が紅先輩に掴まれてて。


「え、あの」

「おねーさんさァ」


気だるげに声をかけられる。


「うちの高校の人でしょ?」


え、とその顔を見れば再び視線がぶつかって。

すぐに誤魔化せばよかったものを、私はまじまじと先輩の顔を見てしまう。

切れ長の瞳はやはりどこか気だるそうで。闇色がジトっと私を見据えてる。

鼻筋はすっとしていて、輪郭は細いのに男らしさを感じさせる。

なるほど、これだけの美形なら女遊びもし放題……じゃなくて。


「……離していただけますか?」


務めて冷静に私は返す。正直心臓はバクバクだしお腹の辺りがヒヤッとしてる。

なんで分かるの? 新入生の事も把握してるの? なんのメリットがあって?


「知ってるっしょ? うちの高校がバイト禁止な事くらい」

「……」


分かってるよ、分かってるけど。そんな、派手な頭髪の人に校則を咎められても……。


「やめなよ亜主樹あずき。怖がってるよ?」


甘い声で助け舟を出してくれたのは、栗生先輩。

サラッサラの金髪とたれ目がちな両眼の甘い顔。こちらも紅先輩に劣らずの美形。


「ごめんね? お仕事中なのに。」


栗生先輩は困ったようににこっと微笑むと、「亜主樹」と紅先輩を咎める。

仕方なく、といったように紅先輩は私の手を離した。スタッフとして再び一礼して、今度こそ私はレジ奥へ逃げる。この際戻るより逃げると言った方が正しい。


「ちよちゃんどうかした?」


先輩スタッフの東海林しょうじさんが私の様子を見て声をかける。ここは小さな喫茶店。今日のホール担当は私と東海林さんしかいない。


「あの人たち、同じ学校の先輩なんですけど……私が学校に内緒でバイトしてるのバレちゃったみたいで……」


私が言うと東海林さんはチラッと先輩たちの席を見て。


「なるほどね。いいよ、あの席私が担当するから、ちよちゃん私の方やってくれる?」

「ありがとうございます。」
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