奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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「亜主樹ー、やり過ぎじゃない?」
「何が。」

一応俺名義で経営する店の奥で画面上の数字と睨みあっていると、くりゅーがそんな話を振ってきた。

「あの女の子のことだよ。なんだっけ、名前」
「千夜子のこと?」
「そうそう。いくらなんでも一緒に住むってさ。本気ってわけじゃないんでしょ?」
「何本気って。」

俺がそう返すと、くりゅーは金髪を掻き上げてため息をつく。揺れたピアス同士がぶつかって、高い音を立てた。

「付き合うとか、そういうんじゃないのかって。」
「ないね。彼女作るとか分かんねーし。」

またくりゅーがため息をつく。

「じゃあ、眞姫とかどーすんの。」
「誰ソイツ。」
「お前のキープの1人じゃん。」

嘘だろ? という目で見られるが本当に覚えていない。キープったって、ヤッてわりと良かった奴置いてるだけだし? 名前覚える必要ある?

「顔が出てこねーな。」
「この前ホテル行ったんじゃないの?」

アイツか。

「ソイツが何。」
「怒るんじゃないのかって話だよ。」
「向こうも俺以外と遊んでんのに? 俺だけ怒られんの?」
「だって一番お前に固執してんじゃん。」

そう言われて少し考える。

「今も店来てると思うけど。」
「どうせアカネに媚び売って無視されてんだろ。」

アカネ。女嫌いで喧嘩っ早い俺の弟。無口で無愛想で表じゃ自由に生きられないあいつのためにこのクラブがある。

「兄貴」

噂をすれば、うんざりした様子の弟が入ってくる。

「トップが席外していいの?」
「ふざけんな。あの女アンタのだろ? 俺に押し付けんじゃねェ」

周りから見れば俺に似てるらしい弟。俺みたいに髪を染めたりタトゥーを入れてるわけでもなけりゃ、くりゅーみたいにピアスを空けてるわけでもない。

「俺の女にした覚えねーけどな。捨てといて。」
「えぇ⁉」

素っ頓狂な声を出したくりゅーを、俺とアカネが睨む。

「睨まないでよ。結構気に入ってたじゃん。」
「そーだっけ。」
「そうだよ」
「どーでもいいけど、自分が拾ったんなら捨てんのも自分でやれや。」

返事の変わりにヒラヒラと手を振ると、来た時と同じようにうんざりした様子で出ていくアカネ。

「あーあ……いつか背中刺されるよ……」
「千夜子もんなこと言ってたな。ああ、あいつは『殴りたい』だったっけ。」

ぼんやり思い出しながら時計を見る。そろそろ帰るか……あいつも戻ってるだろーし。

「そのちよこちゃんは亜主樹的にどういうポジションにいるわけ? キープと違うの?」
「千夜子? ポジションねぇ……猫とかかな」

警戒心強いし。小さいのもあって、小動物か何かみたいな感じがすんな。可愛く鳴くし。

「猫って……」
「あー……でも言うほど猫っぽくはないかもな。気まぐれでもねーし。懐かれてるってよりは、慣れるって感じ? あ、慣れるじゃあ爬虫類か。はは。」
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