奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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14.今年もそろそろ終わる頃です。

14-2

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「解けた?」

栗生先輩が帰った後、私は苦手な理系科目の課題をあずき先輩に教えてもらっていた。

「まだです……これと同じ形式の問題さっきできなかったので……」
「ゆっくりでいいよゆっくりで。だからもうちょい自分でやってみ?」

この人はほんとに教え方が上手い。聞けば全部教えてくれるわけじゃなくて、ある程度は私に考えさせてそれでもダメだと教えてくれる。私の解き方を見て理解してるのか、どこで間違えててどういう風に考えればいいのかまで懇切丁寧に。

正直教科担任よりあずき先輩に教えてもらった方が早いし確実。先生に質問しにいったこともあるけど、分からない人の気持ちが分からない人の説明って全然頭に入ってこない。

「うーん……先輩、ここはこうじゃないですか。」
「ん。」
「そしたら、この公式使えば答え出てくるんじゃないんですか?」

自分の描いた図をシャーペンでトントン叩きながら先輩に聞く。

「これはその式じゃねーな。」
「ええ……」
「ここまでは合ってる。」

頭を抱える私を横目に、先輩は「がんばれ」と若干意地の悪い笑みを見せた。まだ教えてくれないのか……。

「できたぁ……!」

シャーペンをノートに放り、手を上げて感嘆する私。

「解けた? おー、合ってる合ってる。」
「やった……!」
「でもその下が間違ってる」
「え」

途端に手を下ろし、今しがた解いたばかりのノートと問題を見返す。

「ええー? なんで? こうだと思ったのにな……」

先輩も私のノートを覗き込んだ。

「あ? 式合ってんじゃん。」
「え、じゃあ」
「計算ミスだな。」
「うわぁー」

もったいない……!! 余白に計算し直し、答えを書き直す。

「どうです?」
「ん、正解。」
「やった。」

苦手な物理基礎も数学も、先輩がいるうちに進めちゃお。この逸材を指導者としてゲットできたのは結構大きいかも。

「勉強に関しては先輩ほど頼りになる人はいませんねぇ。」
「まーな。」

すごいのは事実だけど、少しは謙遜を覚えたらどうなのよ。

「あずき先輩は真面目にしてれば真面目ですよね。」
「俺は褒められてんの? 貶されてんの?」
「分析した事をそのまま伝えてるだけなので、どっちでもないです。好きな方で解釈してください。」
「じゃ褒められてるってことで。」

好きに解釈してとは言ったけど、そうもあっさり良い方に解釈するのはちょっとムカつくんですが?
まぁ、最初に会った時からそういう人だしな。

私と先輩の距離感は多分初めて会った日からほとんど変わってなくて、こうして勉強を教えてもらったり身体上の繋がりがある以外に結びつきなんてない。

お互いの事に干渉しない、というのがいつしか暗黙のルールになっていて、だから先輩の家の話が出た時に私は何も尋ねないし先輩も私に家のことは尋ねない。
お互いの事なんて聞かずとも調べればいくらでも分かるんだろうけど。

一緒にいるだけの他人。それが、ぬるま湯みたいに心地良い今の私たちの関係だ。
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