ステ振りの王様

高戸

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26話 迷宮の妖精は

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 一応の説明はされた。

 まずこの場所、迷宮は試練の対価として力を与える場所、だそうだ。
 何故こんな場所が存在するのかはこの妖精でも知らなかった。
 ちなみにこいつは妖精の原種で、魔力が濃いことが特徴らしく、この手乗りサイズにして人間のおよそ5倍ほどの魔力を有している種だ。だが、ダンジョンで生まれたことで年齢はまだ5歳。
 ここではダンジョンマスターという運営係になっているようだ。

 そして肝心の試練と力だが、試練の方はこの場所に来た時点でクリアしている。迷宮によっては最後のボスが存在する事も在るらしいが、ここで手に入れる事が出来る能力ってのが特殊なせいで必要無いらしい。

 聖剣。
 剣自体が扱う物を選び、選ばれた物には絶大な力が与えられる。
 あらかたの適合条件は解っていて、1つは光属性をその身に宿している事。次に剣を扱う才能が少なからずある事。
 まあ、最後には心の力とかいう何とも漠然とした物も必要らしいが。

「この条件なら可能性があるのはエリスだよな」

 実際光属性の時点で魔法系職決定なうえにそこから職業補正無しで剣術を覚えるバカもいないだろう。
 聖剣は取れるものならどうぞと言わんばかりに、中央の台座に刺さっていた。

「聖剣が抜けたなら、それは貴方の物よ」

「うん」

 エリスが部屋の中央に進んでいく。
 光属性も剣術も行使可能な代わりに体力が半減しているエリスのためにあるような物、偶然と言ってしまえばそれまでだが、偶然なのだろうか?

 エリスが聖剣の前に立ち柄を握る。
 聖剣はエリスが握った瞬間光り輝き、収束した頃には大剣サイズだったはずの聖剣は片手剣サイズのコンパクトな物になって、引き抜けていた。

「ああ、ぎゃ。ああああああああああああああああああ」

 成功した。その言葉が俺の頭によぎった刹那、エリスの絶叫が部屋中の轟いた。

「が、はっ。ああ。ヤメロ!! 暴れるな!!。今  必要は無、い!!」

 エリスの声は止まる事無く、絶叫とも悲鳴ともとれる声は聖剣に向かう否定の声とともに、3分近く続いた。

「大丈夫か!?」

 駆け寄るとエリスは、大量の汗をかき、虚ろな目で俺に「やった」と言い残して、気絶した。

 ピコン♪
______________
回復魔法
INT+1000
______________

 俺はすぐに治療を開始した。

「大丈夫だよ、その娘は成功してるから。生きてる事自体が証拠だしね、数分で目覚めると思うわよ」

 成功したのか、確かに剣を入手出来ているが。
 エリスの頭を膝にのせて、妖精と向かい合う。

「じゃあこのダンジョンはクリアです! お帰りは転移陣が聖剣の台座の奥にあるので、そちらからどうぞ。 ちなみにこのダンジョンは転移陣で転移してから少しして崩壊するのでお気を付けてね。以上説明終わり!」

 なんだその新人のための対応ファイルの中を丸々読んだ、みたいな後付け文。

「というか、ダンジョン崩壊は困るぞ。このまま維持で頼む」

 せっかく変換師で魔石の魔力を変換できることを見つけたんだ、それにここの魔物から採れる素材は俺の『国』にとって貴重な資源だ、簡単につぶれて貰っては困る。

「いやいや、聖剣無くなった時点でこのダンジョンに存在意義ない訳だからね! それにこのダンジョンを存続させようと思ったら、聖剣の代わりになれるような強い魔物やアイテムがこのダンジョンに来てくれないとむりなのよね」

 まあ、単純に考えてもそうなるよな、ダンジョンの維持を聖剣からあふれ出る魔力で補ってたっぽいし。
 強い魔物か道具ね。



「なあそれって、一階層にいるドラゴンでも足りないのか?」

「え!?」

「え?」

 まさかコイツ気が付いてなかったのか?

「ドラゴン? あードラゴンね。そんなのもいたような気がするわね」

「気が付いてなかったんだな?」

「すいません」

「いや、もういいわ。それで足りるか?」

 管理能力を疑わずにはいられないな。一応コイツダンジョンマスターとかいう大層な肩書持ってるはずなんだが。いや5歳なら上出来って事なのか?

「いま確認したらホントに居たわ。多分足りるね。魔力の自動所得率が8%だから私からの自動所得もONにすれば余裕で足りますね、はい」

「そうか分かった、ならこのままダンジョンを維持してくれ」

「いやちょっと待ちなさいよ。何で私がそんなことしなきゃならないのよ?」

 くっ、そこに気が付くか。若干5歳なめすぎてたか。

「理由は無いな、でもお前ここが無くなったらどこに行くんだ?」

「それは解んないけど、基本的にダンジョンを失ったダンジョンマスターは消える」

 5歳妖精はうつむいて答えた。
 消えるってのは死ぬって事だろ、結局こいつだって死ぬのは嫌なんじゃないか。頑固な奴め。

「なら、このダンジョンを維持してくれるなら報酬をやるってのはどうだ?」

「報酬って何よ?」

「うーんと、ご飯?」

「無くても魔力が代わりになるわよ」

「じゃあ俺の所にたまに遊びに来る権利とか?」

「何であなたが疑問形なのよ? あとそれも無理、私はダンジョンから出られない」

「じゃあ逆に何が欲しいんだ? 俺に出来る事なら大抵ならかなえるぞ?」

 俺の中でダンジョンは何としても手に入れたい施設になっている、今更手放すことはしたくない。だから損を被るのは覚悟の上だ、何でも来い。

「本当に何でも?」

 またうつむいて今度はもじもじし始めた、何だろうトイレを用意して欲しいとかか? 流石に水洗スライム式のパイプをここに持ってくるのは魔物とかもいるし無理な気がするぞ? というか手乗りサイズの妖精の排泄なんぞ誰も気にせんだろ。いや流石に失礼なのか?

「勿論だ。なんでもいえ」

 だが、それならそれで用意しようじゃないか何でもするなんて言った手前もう引き返せない、何でもかなえてやろうじゃないか!

「じゃあ、たまにでいいから遊びに来てよ」

「そんな事でいいのか!?」

 驚いた、だがよくよく考えればおかしな事じゃ無い。5歳の妖精が1人で生まれてからずっとこんな魔物しかいない場所に居たんだ話し相手が欲しくても、そんなのは当たり前だ。

「いや、すまん少し驚いた。けどそうだな毎日は無理かもしれんが出来る限り通うようにしよう」

「ホント!!」

 妖精の顔は満面の笑みに満たされていた。
 いや流石にチョロすぎだろ、もっと、いや妖精に駆け引きするメリットなんて何もない訳だし俺の主観で物事を計るのは良くないよな。

「ああ。そういえばまだ名乗ってなかったな、俺はネイト。で、こっちがエリスこれからよろしくな」

 寝ているエリスを指さして自己紹介した。

「ネイトね、よろしく。えっと私の名前は……まだ無いのよね。そうだ!名付けてよ」

 名前って妖精のセンスなんて知らんぞ? いやこいつも別に文化とか体験してるわけじゃ無いしセンスとか関係ないのか? いやでも喋れるって事は、いやそもそも何処で言葉なんて覚えるんだ? 普通は親からだ、けどこいつには親は居ないはずだ。それとも親いたのか? はあこれ答え出ないな。別に気にするような事でもない。

 早々に諦めて名前を考える事に集中した。

「それじゃあ明日までに考えて来るよ。簡単には決められないし」

 そして諦めた。

「そっか、真剣に考えてくれて嬉しいわ」

 少しがっかりしたような気もしたが直ぐに期待を膨らませたように顔を勢いよく上げて来た。
 名前、ちゃんと考えないとな。


「じゃあそろそろおいとまするよ。そろそろ飯の時間だ」

「解った! 転移陣を地上にも作っとくから来るときはそこから来てね!」

 そんな言葉を背に俺は転移陣に入った。
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