ステ振りの王様

高戸

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33話 ペアvsペア

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 バン!!

 発砲音が俺の耳に入る。
 銃弾は、薄紫の壁に阻まれ、『必中』の強制力は弾速がゼロになるのと同時に消えた。

「おい、1人で十分じゃなかったのかよ?」

 弾丸を受け止めたのは、勇者の後ろで見物していた【神官】だった。その顔には悔しそうな表情が伺えるが、勇者に剣を落とさせた俺を打ち取る手段があるのかどうか。

「それは、1対1の話です。卑怯な」

「それは理由にならないな。お前のとこの軍隊は龍一匹に半壊しただろ」

「龍を従えてるとは思いませんでした」

「半壊した事からの逃げ道をそこにしか見いだせないのか? お前達が滅ばされるのが、『力の弱い妖精種の小さな村が抵抗できるはずもない』という過信の結果でしかないと、そう言いたい訳なんだな?」

 煽り全開の言葉だが、彼女の怒りは鑑定眼なども必要ないほどに、誰にでもわかる事実として現れていた。

「その口閉ざして差し上げます」


 【神官】と【勇者】がペアだったとしても負ける要素は無い。
 だが、彼女の行動は少しおかしく感じる。


神官★★★★★★
 F、攻守の祈りDEX+400
 E、INT+400
 D、加速の祈りMND+400
 C、治癒の祈りDEX+400

 【勇者】は多くのかすり傷のせいか、所々に疲労が見受けられる。
 何故、彼女は治癒をしない?

 【神官】のCランクスキルが有れば回復は可能なのではないのか。
 『治癒の祈り』は俺が思っているような効果では無いのか?

 それに『攻守の祈り』や『加速の祈り』は開戦時に掛けるバフじゃないのか?ブレスの時点で『攻守の祈り』を全体にかけていれば生存率は確実に上がっただろう。それをしなかった理由はなんだ。

 そして最後の疑問……あの薄紫色の結界はどのスキルだ?

「特化、攻撃」

「?」

 小さくは吐いたつもりだったが俺の言葉が【神官】の耳に届いたようだ、意味は解らなかったようだが。

「ストレングス三千五百、デクスタリティ千、『大振り』『怪力』『武器補正・極』『間合倍化』『抜刀強化』……」

 肩の力を抜いて行く。集中して狙いを定める。

「『抜刀術』!!」

 込めた言葉の大きさに 【神官】も察したようで、目を見開き手を前に出し腰を落とし受け身の構えを完成させる。

 溜めた力の開放。
 俺の放った斬撃はいまだ、発動中の結界にぶち当たる。

 衝突の瞬間、そこには土煙が舞い上がり小さな竜巻が出来ていた。
 鼓膜が破れそうな音。
 徐々に小さくなる残響に呼応するように、少しずつ砂埃は晴れていった。

 そこに残っていたのは大きくひび割れ、指でも触れようものなら崩壊してしまいそうな薄紫色の結界だった。
 攻撃を防ぎ切ったことで気が抜けたのか、【神官】の女は膝を地面につけた。

「私の結界がこんな直ぐに壊されるなんて……」

「すまないカレン、僕が先走ったから」

「ノル、貴方は悪くありませんよ。それよりも今はこの状況を乗り切りましょう」

 崖っぷちのクセに何を呑気にしてるんだか。
 呆れる。

「再度問おうか。降伏するつもりは?」

「無い!」

 【勇者】は剣を拾い上げ急加速で迫って来た。

「『魔法剣・炎』!」

 炎を纏った刀身は、溶けてしまいそうな熱気を放ち上段から叩きつけられる。

「『アクアフィールド』防御設定」

 炎には水、冷静に対処すれば何のことは無い。
 体全体を囲うように現れた水にジュボッ!と入った刀身からは熱気が発せられる事は無く、水圧で剣速も遅くなっている。

 炎も速度も無くなってしまった相手の剣を弾くのに技術は必要なかった。
 防御用のステータスにしてたのも無駄になったな。

 弾き飛んだ【勇者】に突っ込む。
 体制を崩している今なら俺の次撃が届く可能性は高い。

 ピコン♪
______________
STR+2000
AGL+1000
反応速度+500
反射神経+500
見切り
演算
ウィークポイント補足
______________


「はっ」

 横に一線、そのひと振りは【勇者】の右腕を切り付けた。
 それでも膝を折る事無く身を引いてい行く。

「大丈夫ですか?」

 心配そうな【神官】の女は勇者の腕を支えるが使えるはずの『回復魔法』を使う素振りは全くない。

「大丈夫、まだ戦える」

 どうやら【勇者】自らの『回復魔法』を使用するようだ。

「方位・結界!!」

 傷が治って行く【勇者】を確認した【神官】は俺の四方に結界を展開し、檻のような使い方をしてくる。
 反射神経に振っていたおかげか、結界の展開速度よりも俺の反応とAGLの方がコンマ早かった。

 【勇者】が追撃してくるかとも考えたが、どうやら魔力が限界に近付いているようで肩で呼吸を始めている。

 それならばと『抜刀術』にポイントを振り、飛ばす。
 【神官】の結界に阻まれるが3撃で砕け散った。

 4撃目を飛ばそうと思ったが。
 舞い上がった土煙の中から【勇者】が突進してくるので、一度鞘から剣を抜き受ける体制をとる。

 金属音が鳴り鍔迫り合いに持ち込まれるが、それは望むところだ。
 シリアもいる事はもうばれているのでどんどん銃弾が撃ち込まれて行く。
 三発の銃声が轟く。

 一発は【勇者】の足を貫通した。
 シリアの『必中』は対象の部分まで狙えるはずだが、距離が遠すぎて視認できなかったのだろう。
 脚を射抜いただけでも十分だ。


 『怪力』を発動させ、一気に押し込む。
 踏ん張れない足では、受け流すこともできないようだ。

「一面展開!」

 【神官】は【勇者】の劣勢を悟ったのか、俺と【勇者】の間に一面だけの結界を張り、無理矢理分断する。

 だが、そろそろ法則も解って来る。


「その結界、一度に展開できるのは一体幾つだ?」

 AGLを3000まで引き上げ、一気に【神官】との距離を詰める。
 俺の言葉に一瞬怯んだ【神官】だったが、関係ないとばかりに、【勇者】の目の前にある結界を消し始めた。
 やはり結界は一度に1つしか張れないらしい。

「けっか 」

「おせえ!」

 身体能力は高くないようで上段から振り下ろされた俺の剣を後ろに転ぶ事で、致命傷を避けた。
 右肩を浅く切り付け、【神官】が付けていたペンダントが宙を舞ったが。転ぶ瞬間に結界を自分の四方に張られ、止めを刺すことは出来なかった。

 【勇者】の足もすでに完治していたのが見えたので、一度後退する。















後書き
終わらせられない……
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