27 / 68
アイラとーー
しおりを挟む
結婚するまで、私達の人生の中で、道が交わったことはない。もちろん、私の場合ではあるが、きっと向こうもないはずだ。
私の母は、物心着く前に亡くなっていて、父にも母にも、身寄りとなる人はいなかった。父は私が学校に通うまで、育児と仕事を両立させてきた。
私が学校に通っていたのは、7歳から12歳までの5年間。その学校は、平民も受け入れてくれる唯一の学校で、それなりにお金のある平民しか入れなかったけれど、父は喜んで入学手続き書類にサインした。
学校は、まずクラスが平民と貴族で分かれていた。平民はまず読み書き、計算、女子は裁縫を習い、男子は体育で体力づくりに勤しむ。貴族は、立ち振る舞い、ダンス、教養について学んだ。
だんだん学年が上がると、大体の平民は12歳で学校を卒業し、そのまま学校で習った技術を使い、働く。貴族は中等部という、もう一つ上の学年へ進級していき、最終的には高等部を卒業するらしい。その間に、貴族は高位貴族の方に名前や顔を覚えてもらったりするらしい。
学校の中で、平民と貴族が一緒に行動することはほとんどない。教室のある棟も別々で、共有するところといえば、体育館や図書館、裁縫室ぐらいかもしれない。
なかなか貴族に会ったりはしない中で、一度だけ、あの人を遠目で見たことがある。
図書館の近くに、巣箱を設置している木があって、その日あの人はその木の下で昼寝をしていた。そのとき、巣立ちに失敗した小鳥が巣箱から落ちてしまい、それに気づいた彼が、慌てて小鳥をキャッチして巣箱に戻してあげた。
その時のあの人の表情が胸に焼き付いて、なぜか頭から離れなかった。
そして私は学校を卒業し、父の仕事の手伝いをしながら生活していた。あの人のことは、忙しい毎日の中で、だんだん思い出さなくなっていた。
そんなとき、父が陛下から男爵位を賜ることになった。こんな今だから、娘に早く嫁ぎ先を…と思ったのかもしれない。あの人との婚約が成立したことを、父から聞いた。そして、婚約期間を過ぎ、遂に輿入れすることが決まった。
あらかじめ、父から政略結婚だと聞いている。
けれど、学校では遠かったあの人のそばに居られると思うだけで嬉しかった。あのとき、小鳥に向けたような顔を、私にも向けて欲しいと思った。
けれど…。
結婚式から、彼は帰ってこなかった。
自分の中で、理解しているつもりだった。
あの人には好きな人がいる。自分よりも、守るべき愛する人が。
それなのに、家令を通して、その愛する人の話し相手を頼まれた。どうしてって思ったけど、自分は仮にもあの人の妻だから、あの人の言うことには逆らっては駄目だと思って、あの人の真に愛する人に会いに行った。
彼女は、私を太陽のような笑顔で出迎えてくれた。義務で出席するようになった夜会の各々とは違う。本当の笑顔で。
私たちはいつの間にか心許せる友達になっていて、でも、私は政略結婚の妻。きっとすぐにあの人とは離縁して、元の生活に戻るのだろう。
そう思っていた。
けれど、それを彼女が許さなかった。
何故かそれが嬉しかった。
このとき、本当に、誰かに求めてもらえることの嬉しさを知ったような気がする。
あの人のお母さまにも出会って、"母"と言う存在の偉大さに、やっと気づけた。
あの人は、私にないものをたくさん持っている。
時々、それを羨ましく感じるときがある。
ないものをねだる自分。
こんな自分はひどく醜い。
だからあの人も、私に会いにきてくれないのだろうか?
私の母は、物心着く前に亡くなっていて、父にも母にも、身寄りとなる人はいなかった。父は私が学校に通うまで、育児と仕事を両立させてきた。
私が学校に通っていたのは、7歳から12歳までの5年間。その学校は、平民も受け入れてくれる唯一の学校で、それなりにお金のある平民しか入れなかったけれど、父は喜んで入学手続き書類にサインした。
学校は、まずクラスが平民と貴族で分かれていた。平民はまず読み書き、計算、女子は裁縫を習い、男子は体育で体力づくりに勤しむ。貴族は、立ち振る舞い、ダンス、教養について学んだ。
だんだん学年が上がると、大体の平民は12歳で学校を卒業し、そのまま学校で習った技術を使い、働く。貴族は中等部という、もう一つ上の学年へ進級していき、最終的には高等部を卒業するらしい。その間に、貴族は高位貴族の方に名前や顔を覚えてもらったりするらしい。
学校の中で、平民と貴族が一緒に行動することはほとんどない。教室のある棟も別々で、共有するところといえば、体育館や図書館、裁縫室ぐらいかもしれない。
なかなか貴族に会ったりはしない中で、一度だけ、あの人を遠目で見たことがある。
図書館の近くに、巣箱を設置している木があって、その日あの人はその木の下で昼寝をしていた。そのとき、巣立ちに失敗した小鳥が巣箱から落ちてしまい、それに気づいた彼が、慌てて小鳥をキャッチして巣箱に戻してあげた。
その時のあの人の表情が胸に焼き付いて、なぜか頭から離れなかった。
そして私は学校を卒業し、父の仕事の手伝いをしながら生活していた。あの人のことは、忙しい毎日の中で、だんだん思い出さなくなっていた。
そんなとき、父が陛下から男爵位を賜ることになった。こんな今だから、娘に早く嫁ぎ先を…と思ったのかもしれない。あの人との婚約が成立したことを、父から聞いた。そして、婚約期間を過ぎ、遂に輿入れすることが決まった。
あらかじめ、父から政略結婚だと聞いている。
けれど、学校では遠かったあの人のそばに居られると思うだけで嬉しかった。あのとき、小鳥に向けたような顔を、私にも向けて欲しいと思った。
けれど…。
結婚式から、彼は帰ってこなかった。
自分の中で、理解しているつもりだった。
あの人には好きな人がいる。自分よりも、守るべき愛する人が。
それなのに、家令を通して、その愛する人の話し相手を頼まれた。どうしてって思ったけど、自分は仮にもあの人の妻だから、あの人の言うことには逆らっては駄目だと思って、あの人の真に愛する人に会いに行った。
彼女は、私を太陽のような笑顔で出迎えてくれた。義務で出席するようになった夜会の各々とは違う。本当の笑顔で。
私たちはいつの間にか心許せる友達になっていて、でも、私は政略結婚の妻。きっとすぐにあの人とは離縁して、元の生活に戻るのだろう。
そう思っていた。
けれど、それを彼女が許さなかった。
何故かそれが嬉しかった。
このとき、本当に、誰かに求めてもらえることの嬉しさを知ったような気がする。
あの人のお母さまにも出会って、"母"と言う存在の偉大さに、やっと気づけた。
あの人は、私にないものをたくさん持っている。
時々、それを羨ましく感じるときがある。
ないものをねだる自分。
こんな自分はひどく醜い。
だからあの人も、私に会いにきてくれないのだろうか?
183
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる