悪役令嬢の末路

ラプラス

文字の大きさ
52 / 68

遠い昔【メアリ視点】

しおりを挟む
 「ふふっ。そろそろ奥様もお目覚めになっている頃かしら」

 メアリはふんふんと鼻歌を歌いながらアイラの部屋に向かっていた。時刻はだいたいお昼を少し過ぎたあたり。仕事に夢中になっていたメアリは眠っている主人のことを思い出して、軽い昼食を手に主人の部屋に向かっていた。

 「奥様。おはようございます!そろそろ起きましょうね!」

 しかし、返事はない。

 「あら。まだお眠りなのかしら?」

 失礼します。と一言掛けてから入室しようとするとーーメアリは数秒固まった。

 奥様と瓜二つな見知らぬ人が、奥様を見つめている……。

 ここで、きゃーと叫んだ方が良かったのか、それとも母直伝の護身術をかけた方が良かったのかわからない。とにかく、声をかけてみることにした。

 「あ、あのぅ」

 バッとその人はこちらを振り返る。

 「どなた様でしょうか?」
 「私は…アイラ。あなた、こちらに来てこの子の額に手を当ててみて」

 奥様と同じーーアイラと名乗るその女性は、手招きして、奥様の額に手を当ててみてほしいらしい。一体何の目論見があってこんなことを?
 相手に敵意がないことを確認して近寄り、そろりと奥様の額に手を当ててみる。
 その瞬間、びっくりしてぴょっと手を離した。

 奥様は冷たかった。死んだ人みたいに。

 「あ、あああああのうっ。奥様は死「死んでないから。安心して」」
 「今この子のは眠っているだけ。でも、このままじゃ身体だけが壊死して魂が帰ってこれなくなる」

 ーーだから……。

 その人の身体が、掠れて消えていく。
 前にも同じような光景を見たことがあるような気がした。私がまだ幼子であった遠い昔。
 もしかして、

 「あなたは…」
 前に、私に…。

 その人はにっこり微笑んで、最後に『頼んだわよ』と残して消えてしまった。


**********

 あれは…私がまだソンニの村にある別荘で暮らしていたとき。私が生まれて4年目の夏のことだったと記憶している。数十年も前に大火災が起こったなんて、当時の写真を見なければわからないくらい、村は回復していた。ただ、前と同じような景観…とはいかなかったらしいけれど。
 それでも、私が今見ている村こそが私の故郷に間違いなかったから。気にも留めなかった。

 そんなある日。見知らぬ女性が別荘を訪ねてくる。

 「こんにちは!こちらはしゅとわねーぜこうしゃくけしょゆうのべっそうです。なにかごようでしょうか?」
 「まぁ。こんにちは。ちいさなかわいいメイドさん」

 かわいいと言われて嬉しくなる私。
 女性は一度迷ったように俯き、しかし決意したように顔を上げた。

 「ローディーは、いらっしゃるかしら?」
 「もうしわけございません。だんなさまはいま、さかなつりにでかけていらっしゃいます。なかでおまちになりますか?」
 「いいえ。大丈夫よ、ありがとう。それじゃあ伝言を頼めるかしら」
 「はい!おまかせください」
 
 「××××××××××××××」

 「頼んだわね」

 そう言って、そのときも女性は掠れて消えてしまった。

 旦那様と若旦那様が釣りから戻られたときに、旦那様に伝言を伝えると、足早に物置きに向かわれてしまい、追いかけて物置きに辿り着くと、旦那様は一枚の絵をご覧になっていた。
 私に気づいた旦那様はこちらに手招きする。近づいてみると、そのカンバスの中には昼間の女性がいた。

 「このかたです!ひるまにこられたのは!!」
 「そうか…」
 「このかたは、だんなさまのごゆうじんですか?」
 「…私の片想いの相手なんだ」
 「すてきです!」
 「そうかな」
 「はい!また、会えたらいいですね」
 「そうだな」



 『また、必ず会いに行きます。』

 そう残した女性はそれ以来私が姿を見ることはなかった。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

処理中です...