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燃えて、なくなれ【10】
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それからまた3年後
「リィナ!はやく~」
「ベラ、もう少しだからちょっと待ってちょうだい」
家の戸口でリィナを急かせる少女はベラドンナ。3年前にリィナたちに森で拾われた赤ちゃんだ。森の不思議な力のためか、すっかり大きくなって、見た目は12歳の少女だ。
『ベラよ。そう急かすものでないよ、リィナの胎には子がいるのだから』
そうなのだ。リィナとカルロスは結婚して、今、リィナはカルロスの子を身籠っていた。
「だって、今日は久しぶりにリィナと買い物に行くのよ?楽しみで仕方がないの!」
「ベラ、お待たせ!行きましょうか」
**************
このところ、リィナは毎夜のように未来を思い涙を流していた。
「また、悪い未来でも見えたのかい?」
カルロスが心配そうにリィナに尋ねる。
「森が狙われてる…。また森に火をつけられるかもしれないわ。そんなことになったら、私、また家族を失うの?あなたも?ベラも?この子も?森も、山も?そんなの、耐えられないわ!」
「リィナ、心配しないで、私がリィナと家族を守るよ。だから泣かないで、お腹の赤ちゃんも、お母さんが泣いていたら心配してしまうよ」
「ええ。そうね、私にはあなたがいるんだもの。大丈夫よね」
「さ、もうお休み。大丈夫、ずっとそばにいるよ」
カルロスの優しい声に、意識がだんだんと遠のいていった。
*************
そして、出産の日が来た。
「うぅん、ん、あああああああ!」
『ベラ!もっとタオルとお湯を持ってきておくれ!』
「わかった」
『リィナ、頑張るんだよ!』
リィナの意識は朦朧としていた。ただ、下腹部の痛みとともに子どもの鼓動が聞こえる気がした。
一緒に、頑張りましょう。と、心の中で子どもに声をかけながら、必死に痛みに耐えた。
『頭が出た!もう少しだよ!リィナ』
その瞬間、あわいに引き込まれるような、不思議な感覚を味わった。
そして、未来を見た。生まれて来る子どもだけではない。子どもの子どもの子どもの子どもの…子孫の未来まで。
子どもたちが困難を乗り越えて、必死に生きていく姿を、見た。
とても幸せな気分になって、また、涙がすぅっと頬を伝い落ちていった。
「生まれたわ!」
その声で現実に引き戻された。
ずっとお腹の中で育てていた我が子。
とてもちっちゃくて、3年前のベラドンナよりももっと小さい。けれども、大きな産声を上げて泣いた。
今この瞬間、みんなの気持ちが一つになっていた。
………その時
ドンドンドンっと戸を乱暴に叩く音が部屋に響いた。
カルロスは木に「リィナとベラを気づかれないように外に」と指示すると、不安げな私に微笑みかけた。
「ちょっと見てくる」
カルロスが警戒して武器を持って戸に近づき、扉を開けると…。
「火を放て!そして魔女を捕らえるのだ!」
次の瞬間、家の周りはあらかじめ油が撒かれていたのか、すぐに火に囲まれた。
「カルロス様!」
『しっ』
カルロスの機転で火の輪から外れた場所にいた私は、悲鳴を上げた。
「父上?どうしてここに、それに、これは何の真似ですか!」
「それはこちらのセリフだ。カルロス、まさか魔女にたぶらかされていたとは、我が息子ながら情けない」
「父上、たぶらかされてなどおりませぬ。私は、彼女を愛しているのです」
「愛?くっく、そんなものまやかしだ。…見るところそこには魔女は居ないようだ。魔女を探して捕らえて来るのだ!捕らえてきたものに褒美をやる!但し、生きて捕らえて来るのだ!」
男たちの雄叫び、家を取り囲む火、リィナは怖かった。けれど、それよりもっと怖いのは、カルロスが対峙している男。
「カルロス、お前は魔女の居場所を知っているはず、魔女はどこだ!言え!」
「死んでも言いません」
「そうか、なら今ここで死ね!」
その瞬間、カルロスの胸に赤い花が咲いた。
「あなた!」
「ベラドンナ、アイラをお願い!」
リィナは駆けた。カルロスのもとへ。
「リィナ…。早く逃げなさい、此処は危ない。きみだけでも逃げ切るんだ」
「そんなの嫌!私もあなたのそばにっ」
それに気づいたカルロスは止めようとしたが、リィナは炎の中のカルロスの胸に飛び込んだ。リィナの瞳から零れ落ちた涙が、結晶に変わる。
「ずっと、あなたと一緒に…」
「魔女!そんな、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
醜く、哀れな叫びが森に響き渡った。
私たちは、どんな時も一緒よ。
カルロスが私を抱き寄せる。私もカルロスの胸に寄りかかり、目を閉じた。
大丈夫、きっと。
未来は続いてるから。
「リィナ!はやく~」
「ベラ、もう少しだからちょっと待ってちょうだい」
家の戸口でリィナを急かせる少女はベラドンナ。3年前にリィナたちに森で拾われた赤ちゃんだ。森の不思議な力のためか、すっかり大きくなって、見た目は12歳の少女だ。
『ベラよ。そう急かすものでないよ、リィナの胎には子がいるのだから』
そうなのだ。リィナとカルロスは結婚して、今、リィナはカルロスの子を身籠っていた。
「だって、今日は久しぶりにリィナと買い物に行くのよ?楽しみで仕方がないの!」
「ベラ、お待たせ!行きましょうか」
**************
このところ、リィナは毎夜のように未来を思い涙を流していた。
「また、悪い未来でも見えたのかい?」
カルロスが心配そうにリィナに尋ねる。
「森が狙われてる…。また森に火をつけられるかもしれないわ。そんなことになったら、私、また家族を失うの?あなたも?ベラも?この子も?森も、山も?そんなの、耐えられないわ!」
「リィナ、心配しないで、私がリィナと家族を守るよ。だから泣かないで、お腹の赤ちゃんも、お母さんが泣いていたら心配してしまうよ」
「ええ。そうね、私にはあなたがいるんだもの。大丈夫よね」
「さ、もうお休み。大丈夫、ずっとそばにいるよ」
カルロスの優しい声に、意識がだんだんと遠のいていった。
*************
そして、出産の日が来た。
「うぅん、ん、あああああああ!」
『ベラ!もっとタオルとお湯を持ってきておくれ!』
「わかった」
『リィナ、頑張るんだよ!』
リィナの意識は朦朧としていた。ただ、下腹部の痛みとともに子どもの鼓動が聞こえる気がした。
一緒に、頑張りましょう。と、心の中で子どもに声をかけながら、必死に痛みに耐えた。
『頭が出た!もう少しだよ!リィナ』
その瞬間、あわいに引き込まれるような、不思議な感覚を味わった。
そして、未来を見た。生まれて来る子どもだけではない。子どもの子どもの子どもの子どもの…子孫の未来まで。
子どもたちが困難を乗り越えて、必死に生きていく姿を、見た。
とても幸せな気分になって、また、涙がすぅっと頬を伝い落ちていった。
「生まれたわ!」
その声で現実に引き戻された。
ずっとお腹の中で育てていた我が子。
とてもちっちゃくて、3年前のベラドンナよりももっと小さい。けれども、大きな産声を上げて泣いた。
今この瞬間、みんなの気持ちが一つになっていた。
………その時
ドンドンドンっと戸を乱暴に叩く音が部屋に響いた。
カルロスは木に「リィナとベラを気づかれないように外に」と指示すると、不安げな私に微笑みかけた。
「ちょっと見てくる」
カルロスが警戒して武器を持って戸に近づき、扉を開けると…。
「火を放て!そして魔女を捕らえるのだ!」
次の瞬間、家の周りはあらかじめ油が撒かれていたのか、すぐに火に囲まれた。
「カルロス様!」
『しっ』
カルロスの機転で火の輪から外れた場所にいた私は、悲鳴を上げた。
「父上?どうしてここに、それに、これは何の真似ですか!」
「それはこちらのセリフだ。カルロス、まさか魔女にたぶらかされていたとは、我が息子ながら情けない」
「父上、たぶらかされてなどおりませぬ。私は、彼女を愛しているのです」
「愛?くっく、そんなものまやかしだ。…見るところそこには魔女は居ないようだ。魔女を探して捕らえて来るのだ!捕らえてきたものに褒美をやる!但し、生きて捕らえて来るのだ!」
男たちの雄叫び、家を取り囲む火、リィナは怖かった。けれど、それよりもっと怖いのは、カルロスが対峙している男。
「カルロス、お前は魔女の居場所を知っているはず、魔女はどこだ!言え!」
「死んでも言いません」
「そうか、なら今ここで死ね!」
その瞬間、カルロスの胸に赤い花が咲いた。
「あなた!」
「ベラドンナ、アイラをお願い!」
リィナは駆けた。カルロスのもとへ。
「リィナ…。早く逃げなさい、此処は危ない。きみだけでも逃げ切るんだ」
「そんなの嫌!私もあなたのそばにっ」
それに気づいたカルロスは止めようとしたが、リィナは炎の中のカルロスの胸に飛び込んだ。リィナの瞳から零れ落ちた涙が、結晶に変わる。
「ずっと、あなたと一緒に…」
「魔女!そんな、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
醜く、哀れな叫びが森に響き渡った。
私たちは、どんな時も一緒よ。
カルロスが私を抱き寄せる。私もカルロスの胸に寄りかかり、目を閉じた。
大丈夫、きっと。
未来は続いてるから。
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