63 / 68
燃えて、なくなれ【9】
しおりを挟む
森で暮らし始めて1年が経った。
その日、木々がざわめいていて、私は木の声に導かれるまま森の中を走ると、布に包まれた何かを見つけた。
それはもぞもぞと動いていて、恐る恐る布を取ると、そこには小さい人がいた。
「これは、人?」
『あら、懐かしい。リィナも昔はこんなにちっちゃかったのよ』
「私が?」
『ええ。あの時は本当、苦労したわ。眠ったと思ったらすぐに泣いて起きちゃうし、赤ちゃんなんて初めて育てたから…。でも、今こうやって立派に育ってくれて嬉しいわ』
「…私のこと、いつも見守ってくれて、今まで育ててくれて、ありがとう」
『どういたしまして。…でもこの子の親はどこに行っちゃったのかしら?もし、居ないのなら、このままにしておけないわね』
「ええ。…こんなに、かわいいのに」
赤ちゃんに触れると、頭の中に映像が流れ込んできた。
悲しく思えるのは、この子の気持ちなのかしら。
『どうして私を見てくれないのよ!産みたくもない子どもを産んだのに!』
『知らねえよ!お前が勝手に産んだんだろ!』
『お嬢様、ごめんなさい。だけど、きっとこの家に居ても幸せにはなれないから…。ごめんなさい』
言い争う両親。ご飯を与えられない。抱きしめてもらうことも、微笑みかけてもらうこともない。その境遇を哀れに思った侍女が、この森に彼女を置いて去っていったようだ。
「この子は、ここに置いていかれたのね…」
『見えたのね』
「ええ。ねえ、私が、この子を育ててあげられないかしら。私が森に育てられたように、この子を…」
『きっと、できるわ。わからなかったら、私が教えてあげる。一緒に育てましょう、この子を』
そうして、新しい家族が増えた。
**********
「リスト!父上は最近よくお前を呼び出しているようだが、何かあったのか?」
領主城の廊下で、久しぶりにリストを見かけたカルロスは声をかけた。しかし、なんだかそっけない態度に寂しさを覚えた。
「いや、何でもないよ。ただいつものようにお使いを頼まれるだけさ」
「そうか、なにかあったらすぐに言うんだぞ」
「ああ。わかってるさ、じゃあな!」
リストは短く返事をして、すぐに踵を返してしまう。
リストはカルロスから見えなくなった途端、壁にもたれかかった。
「全てはお前のためなんだ。許してくれ」
気持ちを切り替えた後、領主の部屋へと向かった。
**********
場所は変わり、領主の部屋
「領主様、ご指示の通り兵を集め、ビスマルク領にて訓練を受けております。ただ、兵の訓練完了には3年掛かるかと。また、前回の領主会で賛成を得られなかった領主には、指示通りの物を贈っておきました」
「リストよ、よくやった。しかし、ビスマルク領主に言っておけ、訓練に3年は長いと、2年以内に身につけさせろ」
「はっ!」
「以上だ、下がれ」
「失礼致します」
「全く、どいつもこいつも使えぬ者ばかりだ、だが、もうすぐあの森と魔女が手に入る。あの2つを手に入れさえすれば、私は神になったも同然。私を顎で使う王ですら敬服するだろう。森という大いなる恵と、その管理者である魔女、手に入れるのが楽しみだ」
その日、木々がざわめいていて、私は木の声に導かれるまま森の中を走ると、布に包まれた何かを見つけた。
それはもぞもぞと動いていて、恐る恐る布を取ると、そこには小さい人がいた。
「これは、人?」
『あら、懐かしい。リィナも昔はこんなにちっちゃかったのよ』
「私が?」
『ええ。あの時は本当、苦労したわ。眠ったと思ったらすぐに泣いて起きちゃうし、赤ちゃんなんて初めて育てたから…。でも、今こうやって立派に育ってくれて嬉しいわ』
「…私のこと、いつも見守ってくれて、今まで育ててくれて、ありがとう」
『どういたしまして。…でもこの子の親はどこに行っちゃったのかしら?もし、居ないのなら、このままにしておけないわね』
「ええ。…こんなに、かわいいのに」
赤ちゃんに触れると、頭の中に映像が流れ込んできた。
悲しく思えるのは、この子の気持ちなのかしら。
『どうして私を見てくれないのよ!産みたくもない子どもを産んだのに!』
『知らねえよ!お前が勝手に産んだんだろ!』
『お嬢様、ごめんなさい。だけど、きっとこの家に居ても幸せにはなれないから…。ごめんなさい』
言い争う両親。ご飯を与えられない。抱きしめてもらうことも、微笑みかけてもらうこともない。その境遇を哀れに思った侍女が、この森に彼女を置いて去っていったようだ。
「この子は、ここに置いていかれたのね…」
『見えたのね』
「ええ。ねえ、私が、この子を育ててあげられないかしら。私が森に育てられたように、この子を…」
『きっと、できるわ。わからなかったら、私が教えてあげる。一緒に育てましょう、この子を』
そうして、新しい家族が増えた。
**********
「リスト!父上は最近よくお前を呼び出しているようだが、何かあったのか?」
領主城の廊下で、久しぶりにリストを見かけたカルロスは声をかけた。しかし、なんだかそっけない態度に寂しさを覚えた。
「いや、何でもないよ。ただいつものようにお使いを頼まれるだけさ」
「そうか、なにかあったらすぐに言うんだぞ」
「ああ。わかってるさ、じゃあな!」
リストは短く返事をして、すぐに踵を返してしまう。
リストはカルロスから見えなくなった途端、壁にもたれかかった。
「全てはお前のためなんだ。許してくれ」
気持ちを切り替えた後、領主の部屋へと向かった。
**********
場所は変わり、領主の部屋
「領主様、ご指示の通り兵を集め、ビスマルク領にて訓練を受けております。ただ、兵の訓練完了には3年掛かるかと。また、前回の領主会で賛成を得られなかった領主には、指示通りの物を贈っておきました」
「リストよ、よくやった。しかし、ビスマルク領主に言っておけ、訓練に3年は長いと、2年以内に身につけさせろ」
「はっ!」
「以上だ、下がれ」
「失礼致します」
「全く、どいつもこいつも使えぬ者ばかりだ、だが、もうすぐあの森と魔女が手に入る。あの2つを手に入れさえすれば、私は神になったも同然。私を顎で使う王ですら敬服するだろう。森という大いなる恵と、その管理者である魔女、手に入れるのが楽しみだ」
44
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる
mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。
どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。
金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。
ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる