側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。

とうや

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さよなら

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その後の卒業パーティーは、なんというかもう散々だった。


なんとかという男爵令嬢を腕にぶら下げたクソ王太子が壇上から公爵令嬢に婚約の破棄を言い渡した。

曰く、男爵令嬢を執拗に言葉で貶め虐めた。

曰く、男爵令嬢の持ち物を盗み、壊した。

曰く、男爵令嬢を階段上から突き落とした。


……えーと、馬鹿じゃねえ?


ドヤ顔で壇上にいる側近候補、お前ら誰かクソ王太子を止めろよ。あっ、お前らもそれがホントだって思ってるんだな。クソ王太子の護衛さんどこ行った!?もう常識人があの人くらいしか居ねえじゃん。えっ、配置換え!?……ジョゼ、お前よくそんな情報知ってるな…。情報収集は商人の常識?……はー、商人って大変だな。俺もお前の嫁として頑張らないとな。

でさあ…公爵令嬢であるお姫様がそんなチャチなことするかよ。王妹の娘で、筆頭公爵家の当主が溺愛してる一人娘だぞ!?ある意味この国最強のラスボスだぞ?「お父様あの女が鬱陶しいの」の一言で終わるじゃねえか。お姫様の熱狂的なファンクラブもあるんだぞ?お言葉を頂くだけで光栄だって空気なんだぞ?御本尊から虐められたらご褒美レベルらしいぞ。虐めなんかしないだろうけど。

明らかにおかしい断罪劇に、会場の空気が凍りついてる。怖い。めっちゃ怖い。みんなの顔が青い。壇上の馬鹿ども以外は。

ああ…こいつら踊らされてたんだろうなあ。

ちょっと可哀想になる。終わったな、こいつら。男爵令嬢とやらは国内向けの工作員の可能性が高い。きっと王太子と側近達が国の中枢としてやっていけるかどうか試されていたんだろう。クソ王太子の替えはいくらでもいる。筆頭公爵家のお姫様が見限った瞬間に終わっていたんだろう。

公爵令嬢が笑顔で「婚約はすでに白紙になっている」と告げると、漸くこの断罪劇が茶番だと思い当たったらしい。

クソ王太子は色んな選択肢があった。

俺を捨てて、大人しく公爵家が引いたレール通りにお姫様と結婚して傀儡の王になること。

でお姫様との婚約を白紙に戻し、廃太子になってまた王位争奪レースを一から仕切り直すこと。

自ら王位継承権を返上し、臣下へ降ること。

そのどれも選ばずに、楽な方へ楽な方へ流された結果がこれだ。

漸く自分の立ち位置を把握したクソ王太子はウロウロと視線を彷徨わせ、俺を見つける。……そんなさあ…今頃縋るような目で見られたって困るんだよね。

……まあ、たった一つだけ突破口がない事はない。苦しい言い訳だけど。俺が被害を被るだけの、俺以外ハッピーで終わる方法。


『王太子殿下もまた、』……と。


俺が出て行って言えばいい。俺が王太子から離れたのも、そのためだ、と。




言え、ば………




「……………」





口を開こうとするが、声が出ない。パクパクと…口を開けては閉める。






「………っ…ぁ……………!」










「ウィステリア」







ジョゼが俺をギュッっと後ろから抱きしめた。


「………っ、は…」


俺、は…。


今、何をしようとした?

いまさら?このクソが100万個付いても足りないようなクソな王太子を助けようとした?また自分を犠牲にして?最悪、ジョゼまで道連れにして?

……うわぁ…怖いわー、習慣って。10年尽くしたら癖になってんだろうなあ。それともこれはの恋の残骸なのだろうか。


これは踏み絵だ。


神様っていうのがこの世界に本当にいるのなら、これは『ジョージを取るか、ジョゼを取るか』の踏み絵なんだろう。


……うん、落ち着いた。


「ジョゼ」


俺をがっちりホールドするジョゼの腕に触れる。バッカだなあ、心配すんなよ。……まあ多少クラッときたけどさ?


「行こうかジョゼ。みたいだし」












さよなら。














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