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【セオドア独白】1
しおりを挟む発端は19年前の話だ。婚約者を亡くした隣国の公爵令嬢が我が国の王太子に嫁いだ。その直後に隣国が滅びて新しい民主国家が建った。
亡国の名は『ソルライト』。そう、ルネライトと祖を同じくする国だった。
亡国の公爵令嬢は紺碧の宝石瞳だった。祖母がルネライト王家の姫だったらしい。
公爵令嬢は王太子妃となり、紺碧の瞳と夕焼け色の宝石瞳の双子の王子を産んだ。
出産の日にちが成婚の日から数えて早すぎた。僅か5月。隣国公爵令嬢が王太子妃になる前に成した子供ではないかと推測され、夕焼け色の宝石瞳の王子は死産となった。双子を産んだ王太子妃は酷い難産であったため、二度目の子は母子共々命はないと医師に告げられた。
……わかるかな?そう、その生き残った方の王子が私だ。
夕焼けのように赤い瞳の宝石瞳はソルライト王家の『王の瞳』。きっと母上の婚約者だったのはソルライト王家の誰かだった。父上は ーーー ルネライト国王陛下は悩んだだろう。けれど同じ時期に、ルネライトの『王家の瞳』を持つ姫が生まれてしまったんだ。
姫の名はエマ。
薄桃色の瞳を持って生まれてきたばかりに、王家に『出来損ない』と蔑まれ、蛮族のように放浪する一族の男に下げ渡された王女が生んだ姫。
当時王太子であった父上は考えた。
ではその娘に生ませれば良い ーーー と。
当時の記録をみると怖気が走ったよ。最初、父上はエマを手元に置いて良いように育て、自分の愛妾にするつもりだったらしい。当時2歳の子供を。出来損ない、と蔑み、捨てた妹の子供を。エマを犯して子を孕ませるつもりだったんだ。反吐が出る…!
けれどシーグローブ公爵の激しい拒絶でそれは出来なかった。
それならば息子と、王太子と婚約させると言って城に誘き寄せよう。囲ってしまえばどうにでもなる。
うん、あの男は人間じゃない。獣だ。私は心底あの男と血が繋がってなくて良かったと思ったよ。
その頃の私はね?ああ、お前も知っているね?酷い有様だったよ。
私以外は全て屑だと思っていた。神さえも不要のものだと。気に入らない使用人は首にしたし、鞭打たせたし、首を刎ねさせて、自由気ままに虐げた。自分以外は塵だと。自分は選ばれた王になるべき存在なのだと驕った。
お前とエマに会った瞬間、私は変わったんだ。
今まで何をしたのか。なにをしていたのか。客観的に自分を見れるようになった。
お前とエマを『欲しい』と思ったよ。ずっと傍に置きたい、と。お前たちの笑顔が見たい。私だけを好きでいて欲しい私しかその瞳に映さないで好き好き愛している愛しい愛しい誰に見渡さない誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも!!
……私は変わった。変わったように演技をした。お前たちに嫌われないように。お前たちが私を愛してくれるように。お前たちが私を誇りに思ってくれるように。いつしか演技は私の体に馴染み、演じ続けるのは苦にならなかった。
けれど人間というものは、生来の本質というものは変わらない。
それは神殿を訪れたあの日だった。
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裏設定
『宝石瞳』
カッティングした宝石のように、見る角度や光の加減で濃淡を変えて輝く瞳。はるか昔、魔王を討伐した双子の勇者がその瞳を持っていた。兄は夕焼け色の宝石瞳を、弟は夏空色の宝石瞳を。魔王を斃した勇者は魔国を2つに分けて国を興した。初めは王族であれば珍しくもない瞳だったが次第に宝石瞳を持つ子孫は減少。いつしかその宝石瞳を持つ者が神に選ばれた王だと言われるようになった。
『ソルライト王国』
勇者(兄)の興した王国。蒸気機関車が走り、大砲(火薬)の開発も進んでいた国だった。繁栄と滅亡の裏にはシーグローブ一族が関わっていた。
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