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閑話:眼鏡騎士とTAKASHIとかおるちゃん
しおりを挟む量産型ロリコン大量生産実況事件という有名な事件がある。略してロリ実況事件。
とあるゲーム動画の実況者のとんでもなく可愛い妹が実況中に飛び込んできた、俺たちリスナーには神回だった。
その実況者は当時高校生。あまり機材がないらしく、スマホをカメラがわりにパソコンに繋ぎ、リアルタイム放送のお粗末なもの。
お面で顔を隠し、イケボ声優が寝ぼけたような ぬるい美声で淡々と実況するその少年は、とある大規模MMOで ここ数週間でランカーに躍り出た。コメントの弾幕はやっかみの声半分、賞賛、ツッコミ、愛の告白と、マジでカオスだ。
祭りで買ったと思しきキツネのお面はプラスチックの輝きを放っていた。
『あー、んでー、このアイテムですねー、運営にちゃんと問い合わせたら仕様だってことでー、使っておkらしいからー、取り方教えちゃいまーす(*´ω`*)』
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
全米が泣いた。世界が泣いた。嬉し恥ずかし男泣きだ。
てってれー、てれってってー。
軽快な音楽と共に少年が操作するキャラクターが洞窟に突っ込んでいく。
ランカーを目指す誰もが、いや、ランカーさえも画面の前でパンツ脱いでメモ用紙を握った。
が。
『もぉー!おにいちゃん!!ごはんっていってるのー!』
ドンドンバン!とすとすとす。
ノックというにはあまりにも凶暴なドアドンと、軽快な足音。
画面に覗いた、デニムのミニスカと、すらりとした小さな足。
がたん!とカメラがわりのスマホが動いて実況者である少年と幼女を映す。
幼女は頭から突撃をかまし、ぐりぐりとドリルのように少年の腹に穴を開けようとしていた。
『うっわwやめろってクソかおる!にいちゃん今忙しいんだから!!』
『うそ!あそんでるもん!はやくはやくはやく!おなかすいたはやく!!きょうはちーずはんばーぐなの!ちーずとけちゃう!』
『てか溶けなきゃマズいだろ!』
『かたまっちゃう!』
『うーん、まあなーかたまるなー…うぉw…っいてて!やめろってもう!』
べし、ばし!と幼女の後ろ姿からは不釣り合いの凶暴な音。
『おにいちゃんはやくはやくはやく!!かおる、ふーふーしてくんないとたべらんない!』
『親父にしてもらえよ!』
『ぱぱやだ!たばこくさいもん!』
『お袋はぁ!?』
『さっき、やきん、いったもん!』
『まじかよおおおおおおもおおおおおおおおおお!』
『おにいちゃぁぁん……(グスッ)』
『あー…もう、クッソ……!泣いたらブスになるぞ!』
『ぶすでいいもん…。はんばーぐ…たべたいもん……(グスグス)』
『…しょーがねーなあ、ほら、いくぞ(ナデナデ)』
『……めだまやきもたべる…(グスン)』
『てめえ嘘泣きじゃねーかクソが (ꐦ°д°) 』
『ちがうもん。かおる、かわいそうなんだもん(ヒックヒック)』
『あー、もう、わかったわかった』
画面には、ざわ…ざわ…とコメントが流れ続ける。俺もコメントしまくった。
兄の胸に頬を押し当てて ぐずる幼女が映る。
……………………!!??
『……あー、ごめんねー?明日またこの時間にー、じゃあ、まったねー?』
涙目の天使を抱いて、キツネ面の少年が手を伸ばしてくる。
プツン。
画面が暗くなり、真っ暗なモニターにとんでもない数のコメント、コメント、コメントコメントコメントコメント。
天使だ!天使がいた!
うらやましす
かわええええええええええええなんだあれ!?なんだあれ!!!
なんだ、ただのリア充か……死ねばいい
ちょっとおおおおおおおおお最後まで言えよおおおおおおおおおおお
わっふるわっふる
てめえゲームで会ったらデスループ食らわせてやるからな!
祭りじゃ祭りじゃわっしょおおおおおおおおおおい!
お兄さん、妹さんを拙者にください!!
え、まじかよ!?
TAKASHI…リアルでもチートなのか……
そんなことよりこっからどういくんだよおおおしぬうううううううう
ぼくちんがフーフーしてあげるでゲスよ
帰ってこい、TAKASHI!!
惜しい人を亡くした…
かおるちゃんは俺が育てるから成仏しろ
この実況の直後に、狙ったように運営がパッチを配布。くだんのアイテムはラスボスを倒し、ソロで裏ボスを倒した後の周回でドロップするようになる。それができるプレーヤーはアイテムはいらないよ糞が!!
翌日のTAKASHIの配信では、とんでもない怨嗟のコメントで画面が見えないほどだった。
当のTAKASHIは『ごめんねー?マッマのチーズインハンバーグには勝てなかったー (。・ω・。)』と ゆるーく発言。ゆるさねえ このやろう。
当然のようにTAKASHIの個人情報がネット上に流れるが、何者かによる鮮やかな情報統制で鎮火した。怖え。
ちらりと見た魚拓では、TAKASHIの素顔はとんでもない美形で、あのかおるちゃんの兄!って感じだった。その魚拓も保存する前に秒で消えた。マジ怖え。
さらにこの実況から、ロリコン紳士同盟『かおるちゃんとチーズインハンバーグを守る会』が結成される。
俺の会員番号は103番。
せめて2桁が欲しかった!!
会長はあの情報統制の主らしく、適度に紳士達に餌を与え、だがロリコンのお約束である『イエスロリータ!ノータッチ!』を徹底させた。犬一堂は従った。はみ出せば制裁が待っている。ぶるぶる。
さて、そんな前世の記憶だが、今まさに目の前に、生まれ変わったTAKASHIがいるわけで。
これは運命か!そうだな、そうに違いない!
「実況のTAKASHIさんですか!?いつも動画見てました!サイトにも日参してました!師匠って呼んでいいですか!?」
「おっ、リスナーさん?うむ良かろう、呼びたまえ(`・∀・´)」
「有り難き幸せ!」
「タカシ先輩!俺もアニキって呼んd…」
「断る(・д・)チッ」
「 」
この異世界で、ナマTAKASHIとかおるちゃんを拝んで生きていけるとは!何という僥倖だろうか。
遠い地球の会長、観察は俺が引き継ぎましょう!
同盟の同志諸君、君たちに伝えられないのが非常に残念だ!
ああ、残念残念うはははははははは!
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