【7人の魔王2】してもない婚約を破棄された聖女の兄なのだが、なんだかんだで魔王の嫁になっていた。

「知らない間に売られていた」

海底の魔王領アトランティス。もっと暗くて静かな国だと思ってたのに、明るくて穏やかな国だった。

光も差さない海の底だというのに、そこかしこにランプのように淡く光る花が生えている。住居や道には膜を張ったように海水が入ってこないのに、人魚たちはするりと膜を潜り抜け、海の中を泳いだりしている。踊り子スタイルの姉ちゃん ーーー ティティスがああいう軽装なのは、いつでも水に入れるようにしていたわけだ。

俺と妹はアオイさんの客って事になった。とりあえずは、だが。


「1年猶予をあげるから身の振り方を考えなさぁい？うちの誰かの婿や嫁になっても良いのよぉ？」


ティティスが何故か俺たちの方を見ずにアオイさんの顔を見ながらいう。アオイさんは何故か赤くなったり青くなったり百面相だ。可愛い。だがわからん。妹もニマァという擬音が付きそうな笑顔で俺を見ている。まったくわからん！



要するに、今回の『贄の儀式』はやはり失敗で、『海の魔女』であるティティスがやり直しを要求したという事だ。


「待ちに待った贄は石ころだし、碧海様のお気に掛けてらっしゃる仔ウサギと《聖女》が王宮に居るっていうからぁ……まぁ、ちょおっと脅しただけよぉ？」


1年待ってやるから代わりを寄越せ、とティティスが要求し、メンドゥサ国王夫妻は首を縦に振ったらしい。その代わりってのが俺と妹だ。

なんてこった。知らない間に売られていた。

まあね？王族貴族より、元平民の俺たちの方が価値は低いよ？養父のハルフォードのおっちゃんも男爵だし？黙らせやすいよね。っていうか、ハルフォードのおっちゃんとか、うちの父ちゃん母ちゃんにちゃんと連絡とか……うん、事後承諾だろうなあ。

ああ、国王夫妻には結構可愛がられてた気はしたんだがなあ。仕方ねえよなあ。所詮他人、しかも平民だしな？


「仔ウサギの精を絞ったら碧海様が拗ねちゃいそうだからぁ、サイラスにはあと1年頑張って貰おうかしらぁ？」


そう、『生贄』の実態は『精液提供者』。人魚は女性ばかりなので他種族と子を作らなければならないのだが、他種族とは子供が出来にくく、でも何故か人間との間では生まれやすい。なので生贄に捧げられた男は3食昼寝付きで精液を提供する。10年経てばお役御免で、退職金貰って他国に移り住むか、このアトランティスで生きていくか。まあ10年も生活してれば大体いい感じになった人魚あいてが居るんで永住するらしい。

えっ、なにそれ？結構いい職場じゃねえ！？漁師のおっちゃんたちが「生贄は頭からバリバリ食われるんだ。悪い子は海の魔女が連れに来るぞ」って言ってたの嘘かよ！？


「ええ～？う～ん……食べちゃう贄もあるわよぉ？だっていくら顔が良くてもぉ、性格が不細工な男は食料だものぉ」

「………」





聞いてはいけない海の魔王領の闇だった……。