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舞台裏
【第二十三話】その日、恋をした
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ティア ── ルルティアとの出会いは衝撃的だった。
ルルティアはある日突然、王族しか入れない『祈りの間』に現れた。護衛も、『影』さえ入れない、特殊な結界を張った空間だ。ありえない。だが彼女の白い髪を見て、王族の隠し子でも紛れ込んだのかと思った。だがそうじゃなかった。
ルルティアは結界を張った本人だったのだ。
『彼女』は『ルルティア』と名乗った。そして、『リリエンティア』と。
彼女の口から『ルルティア』の名を聞いた瞬間に俺の頭の中で何かが弾ける。
俺は小さな出版社の編集者で、 ── 『皇女ルルティアの数奇な運命』という、シリーズものの小説の担当をしていた。完結までは担当できずに打ち切りになったシリーズだが、たしかその世界観が……この世界によく似ている。
ヴァイス帝国第三皇子と平民出身の妃ルルメロウの間に生まれた『ルルティア』。生まれて何度も暗殺の危機に遭い、冤罪で両親を殺されて隣国に逃がされる。そういったストーリーだった。
『ルルメロウ』と名を思い出すと、言いようもない不快感と吐き気が押し寄せる。
俺の父は、皇位継承権を捨ててまで第三皇子に婚約破棄された女と結婚した。そして生まれたのが『カミーユ・アルノー』。この俺だ。
嫌な女だった。あの女にも何度も殺されそうになった。あのねっとりと絡み付くような声は、思い出すと今でも鳥肌が立つ。
どうやらルルティアも転生者で、先程『覚醒』してこの『祈りの間』に転移した。
同郷か、と思ったが、彼女は『ヒノモト』も『異世界』も知らないらしい。ルルティアはこの世界で『錬金術師』として生きていた記憶がある。それが『リリエンティア』で、この『祈りの間』は彼女の前世の私室だったそうだ。
『リリエンティア』は、我がヴァイス帝国の初代女帝であり、『白き善き魔女』。国外からは畏怖を込めて『破滅の白い魔女』と呼ばれる。そして、彼女の名は『リリティア』と伝えられているが、『リリエンティア』という名を知るものは ── 歴代皇帝のみ。
………と、いうことは…まさか彼女の前世が、皇家のご先祖なのか…。
淡い恋心が霧散する。さよなら、今生の初恋。
すぐさま転生や原作小説のことを話した。『カミーユ』として生きてきた俺は回りくどいことが嫌いになっていた。
俺の説明は気狂いの戯言に聞こえただろう。けれどもルルティアはその支離滅裂な言葉を自分で噛み砕き、見事に俺の言いたいことを理解した。
「……では、ルルティアは死ぬのね?妹のために」
「よくてよ?」と、ルルティアは微笑んだ。……待ってくれ、普通は「死ぬ」と言われれば少しは動揺するんじゃないのか!?
「別に死んでもよくってよ?千年も生きて、一度死んだのだもの。ただし、わたくしの人生は、わたくしの自由は、誰にもあげないわ。わたくしの心はわたしだけのもの」
ルルティアは笑みを深くした。その表情の、壮絶なまでの美しさ。とても二十歳にもなっていない小娘が浮かべられる笑みではない。
「死んであげてもいいのだけれど………思いの外、赤い猫にルルが懐いてしまったのよねぇ」
困ったわ、と頬に手を当てて溜息を吐くルルティアは、全く困ったように見えなかった。
「あなたも。わたしの子供でしょう?嫌だわ、なんなの、この為体」
返す言葉もございませんご先祖様…。
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