Separation after darkness(少しだけ不思議な短編集)

萩原繁殖

文字の大きさ
7 / 8

豚の部屋

しおりを挟む
 僕の部屋。僕の部屋。眠る場所。他にはないところ。起きて、石のご飯を牛乳で押し込んで、電車。
 電車では森が立ち尽くしてる。森が鞄持ってつり革にぶら下がって寝てる。動物はいない。小鳥も、木漏れ日も。
 僕は屠殺事務の仕事している。ここで生まれたので。
「ぶぅぶぅ」
 机に座る豚さんたち。みんな血を流しているけど、スーツとベルトで止血してる。
「ぶぅー」
 オフィスの豚さん。隈はいないよ。部屋がないからね。
 僕は同僚に話しかける。
「なぁ、やっぱりこれって屠殺的じゃないか?」
「……」
 同僚は自分の出荷、加工データを抽出するのに忙しい。phpで書かれた自社ツールにぽちぽち蹄で打ち込んでる。
 次は会議。
 豚さんの作ったあじぇんだ。ふぁしりてぃたーは豚さん。
「ぶぅーん」
 豚さん上司。
「ぶぶう」
 豚さん先輩。
「……」
 同僚。
 みんな活発な議論をしてる。でも何て言ってるのか分からない。だから僕は仕事ができない。積極的に屠殺できないからね。それが生きるということだと教えられました。研修で。
「ぶふう?」
 先輩豚さんから意見を振られる。
「あの、やっぱり屠殺的じゃないですか?」
しん、と会議室が静まり返る。
「ぶふぅーっ」
「ぶっひっひ」
「…ぶっ」
 豚の皆さんはすごい勢いで笑いだした。おかしくて仕方ない様子で。
「 すみません。論旨に合っていなかったでしょうか」
「ぶふぅーっ」
 豚さんたちは大笑いだ。僕は自分を恥じた。なんて無能なのだろう。会議もうまくできないなんて。僕は心を閉じ、沈黙した。
 時計の針が17時を指す。
『終わりだね、終わりだね』
『そうだね、そうだね』
『あんだれぱ、あんだれぱ』
 16時くらいから妖精たちの囁き声が聴こえるようになる。
『かえろ、かえろ』
『あそぼ、あそぼ』
『あんだれぱ、あんだれぱ』
 妖精たちは歌い、僕は荷物をまとめる。
 豚さんたちはまだ屠殺してる。
「おつかれさまでした」
「ぶふぅー」
 皆さんも挨拶してくれる。職場でのコミュニケーションはできてる。皆さん、良くしてくれてる。僕が、僕が。
 電車には森が押し込まれてる。
 森はスマホをいじり、twitterでRTしてる。tiktokで短い動画を見てる森もいる。
 がたん、と大きく揺れた。足を思い切り踏まれる。
 痛いので文句を言おうと顔を上げると、森しかいなかった。森は話せない。沈黙している。森は動かないし、動けない。当たり前のことだ。だから足なんて踏まない。なら仕方ないか。仕方ない。
 家に帰る。僕の部屋、僕の部屋。
 ホットミルクを飲む。
 僕はそういえば何かを考えていたな、と考える。誰も知らないこと。僕もよくわかっていないこと。なんだっけ。わからない。流し込む。
 あそばなきゃ。でも、どうやるんだっけ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...