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絶死の森到着からのお土産
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デイライトから快適な空の旅。
プテュエラと他愛もないことを話していたらあっという間に時間が経ってしまった。
最近ハマってることや、お肉の話。
ダンジョンでの経験や、奴隷たちの話。
こうしてみると意外と話してないことが多くてびっくりした。
「ケイはデイライトでとても楽しそうだな。私も嬉しいぞ」
目を細め、軍帽クール顔をほころばせる。そんな風に言ってくれると僕も嬉しい。
しばらく話していると、いい気持ちになってうとうとし始めた。
「眠くなったか? 寝ていいぞ。もう少しだけかかるからな」
「うん……そうする……」
微睡んでいるうちに辺りは少しだけ日が翳っていった。
眼下の光景は転々とした街並みから、荒野、大河と移り変わっていき、やがてすべてを覆い尽くす翠緑の大森林に埋め尽くされた。
僕はというと、なんか夢を見ていた。どんな夢だったかな。なんかネリリンと一緒に立ち向かう? みたいな夢だったかも。どうせ見るならもっと甘い夢を見たかった。あいつ強烈だったからな……。
ーー
「ケイ、起きろ。そろそろだ」
ん、もうそんな時間か。
ふわぁと欠伸をして起きると懐かしき超大森林。翠の迷宮。隔絶された人外魔境。非常に濃い樹木の匂いがする。
「なんか意外と到着が早かったね?」
「そう思うか? やはり良いものを食べているし、体調がいいのだろうな。前と同じ力しか出していないんだが、効率よく飛べた気がするんだ」
ふむ。前は確かデイライト~絶死の森で半日くらいかかっていたんだよね。で、今回はそこまでかかっていないように感じる。三、四時間ってところか? じゃあ二、三割効率が上がったってことか。すごいな。
「着陸するぞ」
ふわりふわり、と大地に降り立つ。
地面が近づくにつれ、記憶が蘇る。
みんなとの思い出。温泉とか、生肉食ってた時とか。
「あっ、畑が大きくなってる!」
あれはシュレアが作ってた畑だ。前よりも拡張されて、いろんな作物がなっている。ていうかだいぶ大きくなってる!
そして、その側にゆっくりと気怠そうに動く白衣を着た植物系お姉さん……。
ボサボサの黒髪、クマのある青白い顔……。
「シュレア!」
不健康だらしない系クール不機嫌美人……大きめの白衣に黒のタイトスカート……手足が樹木! ロマンの塊! 性癖の塊!
「うおおおお! シュレアアアアァァごぶぶぇっ」
バチィン!
到着するなり初手だいしゅきホールドしにいった僕を、容赦ない樹木ビンタが襲う!
べちぃん! バチバチィン!
「いだだだっ、いだいっ、ガチで痛いっ」
「おや? 不埒な侵入者かと思ったら、シュレアを放ったらかしにして、遊び歩いていた契約者様じゃないですか」
ぎちちちち。
樹木君たちが僕を締め上げる。練喚功発動してもビクともしない。ぱ、ぱわー。
「ラミアルカたちから聞きました。ジオス教徒でもないニンゲンと濃厚に繁ったようですね。ラミアルカがアホみたいに自慢してくれました」
あ、アホって。まあ確かにたまにアホっぽいけど。
「そ、それはわからせるために、ですね」
「なるほど。わからせるためなら仕方ないと。ではシュレアもケイをわからせるとしましょう」
ざわ、ざわわ……。
シュレアがのっそり近づくにつれ、樹木たちが呼応して不穏に揺らめく。
極寒の嫌視線はまっすぐ僕を貫いて、命がカラカラに吸い取られてしまいそうだ。
でも……。
“ぺかーーーーーーーーー”
め、めちゃくちゃ枝角が光ってる……。うおっ、まぶしっ。すんごい眩しい。
「どうして顔を背けるのですか? ケイ。もっと恐怖の声をあげなさい。シュレアにごめんなさいと言うのです」
「シュレアさん、ごめんなさい」
“ぴかっ、ぺかーっ”
“ぴかぴかぴかっ!”
僕が言葉を発するたびに枝角が猛烈に点滅し、発光する。こんな近距離でぴかられたらポ◯ゴンショックになっちゃう。
「こら、シュレア。もうそのへんにしておけ。ケイにも色々あったんだ。遊んでいた訳じゃない」
ぷ、プっさーーーん!
様子を見ていたプテュエラが苦笑して間に入ってくれた。
「しかし……ケイは事前に何も言わず帰ってきました。一言あってもよいのではないのでしょうか」
「うむ。つまりケイにとってここは何も言わずに帰れる場所だということだ。そんな言葉不要だろう」
ぷぷぷぷプッさーーーーーーーぁぁん!
ありがとう……それしか言う言葉が見つからない……。
「む……」
「ケイは向こうでジオス教徒のために良く頑張っていた。あれ以上やるには身体が二つでもないと無理だ」
「……確かに。身体が二つ無いと無理ですね」
シュレアはなにやら思案し難しい顔をして黙り込む。
ち、ちょっと。身体二つは比喩だからね? 真っ二つにしないでね? ケ/イは嫌だからね? リンカが悲しむから……悲しむよね?
「あれ、そう言えばリンカは?」
「リンカは……今いろいろあってシュレアの中で休眠中です」
休眠中? え、大丈夫なのそれ。
「心配は不要です。これはシュレアにとって良き変化なのです」
なら大丈夫か……シュレアが大丈夫っていうなら大丈夫だろう。
「そう言えばケイはお前のためにお土産をたくさん選んでいてくれたみたいだぞ」
「む……お土産ですか」
“ぺかっ、ぺえっっかーーーーっっっん!!!”
今日一番の発光。
「ぬおおおっ!」
ぐおっおおおっ! 目がっ、目がぁぁぁっ、痛いっ、イっタい目がぁぁぁぁっ!
「何を悶えているのですか。気持ち悪い」
「だ、だってぇ」
「まあ相変わらず嫌な顔で安心しました」
「それ喜んでいいの?」
シュレアは樹縄を解き、手の枝触手をそろそろと僕の首に巻きつけてさわさわと撫でる。顎の下がしょわしょわする。どういう感情なんだろう。
このままキュッと絞められたら鶏みたいにコケッと逝ってしまうが、シュレアがそんな事するはずもなく。
「ではシュレアのために選んだという嫌なお土産を見せてもらいましょうか」
「見る前から嫌って言わないでよぉ」
「はは。ケイ、照れ隠しに決まってるだろ? 見せてやればいいさ」
「照れ隠しなどしていません」
枝角をぴからせながら嫌そうな視線で僕を見てくる。言ったのプテュエラなのになんでこっちに跳弾してくるの……。
「ケイがシュレアを放っておきながら選んだお土産なのだから、嫌なものに決まっています」
「ロジックがおかしいよぉ」
「いいから早く見せてください」
「はい」
ボロンっとお土産を鞄から取り出してシュレアに渡していく。
「これは?」
「デイライトにあった珍しそうな野菜や植物、花だよ。種もあります」
「こっちは?」
「植物の図鑑だよ。読めないかもしれないけど、絵を見るだけでもか楽しいかと思って」
お土産を見せるたびに、“ぴかぴか”とリズムよく点滅する。
「む、この匂いは」
「これはダンジョンシガーだよ。この前あげたやつよりも質がいいんだ」
「ふむ」
“ぴかぴっかーっ!”
おお、反応がいいぞ。
この前ダンジョンでドロップしたダンジョンシガー。シュレアは目を細めて手に取り、匂いを嗅ぐ。興味を引いたようだ。よかった。
「あとはお酒もあります。温泉湖で飲むと楽しいし気持ちいいよ」
「お酒……悪くないですね」
あ! 点滅が早くなってる! これはいい傾向だ。
じゃあ次のお土産はもっと気に入ってくれるだろう!
「……この大量の布は?」
「良くぞ聞いてくれた! これは下着だよ。つまりおパンツだ! シュレアに似合うと思って。いつもノーパンで寒そうだからさ」
僕の言葉に、シュレアの目が細くなった。
おかしい、枝角の点滅がゆっくりになった。
「……下着、ですか」
「そう! ブランド物なんだ!」
「ふむ……」
静かすぎる声。表情はまるで、死にかけの大根を見下ろす園芸家のようだった。点滅は収まり、ゆっくりと黒く染まっていく。
「き、聞いて! まずこれ! 《スノーフロスト・リーフ》! 白地に霜模様と葉脈柄、まるで冬の朝露を思わせる一枚! 素材は極薄でも裏起毛! 温かさとエロスを両立した夢のパンツ!」
「次は、《ツタツタパッション・バイン》! 深緑のレースがぐるぐる絡んでて、シュレアにぴったりかなって! しかもハイレグでセクシーさ倍増! お尻のカーブを引き立てる造形で、うしろ姿が最高に映えるんだよ!」
「でね、これは《おねむりすぱいだーちゃん》! シルク素材に蜘蛛の糸みたいな繊維を混ぜてて、睡眠時専用! クモの巣状の刺繍が美しくも可愛い。ふわふわの柔らかさで寝返りしてもズレないんだ! あと、若干透けてるのが最高なんだよね!」
「そしてこれが本命! その名も《ストライプ・ストロベリー》!! 蒼と白のピッチが奏でるのは、素朴さと背徳感の二重奏……まるで清楚な女学生が、ひとたびその裾をめくった瞬間、現れる“エロスの序章”……っ!」
手にグッと力を込め力説する。
「さらにこの縞パン、なんと内側はほんのり苺色なんだ……表の清楚に対して、一枚めくると裏は完全に性的暴力! でも外からは分からない! それが縞パンの矜持なんだ……!! シュレア……縞パンこそ、パンツの正道……いえ、始まりにして終着点。下着界のαでありΩ。おパンツバイブル! だから僕はどうしても、君にこれを渡したかったんだよ……ッ」
僕は最後の一枚を高々と掲げた。
パンツを振り上げながら語っていたそのとき──
ズドォン!!
木の枝が全力で僕の脇腹に突き刺さった。
「ぐぼぅおっえぇ」
次の瞬間には、シュレア配下の枝くんたちによる物理攻撃コンボが始まっていた。痛い! でも誇らしい! 痛い!
「声を発さないでください。空気が嫌になります」
ううっ、ジト目ってもんじゃない。視線にぱわーがある。吐いて死にそう。死吐目だ。
「ご、ごめんなさい! でも心を込めたつもりなんだ! どうか受け取ってほしい!」
「……」
彼女は無言でパンツをひとつひとつ拾い上げ、抱え込むようにまとめる。しゅるしゅると樹木くんがやってきて、頑丈そうな籠を一つ編んでくれた。
「……♫……♪」
「……!」
「……?……?」
それにしても、シュレアに従うラクール樹くんたちはとても楽しそうだし、幸せそうだ。感情豊かな気がする。なんか僕も少しずつ彼らのことが分かるようになってきたのかもしれない。
「……」
ウッ。なんかシュレアにガン嫌見されている。なんかまずかったかな。
「……とりあえず、預かっておきます」
彼女はお土産とおパンツ類を丁寧に籠にしまって、僕を蔦でぐるぐる巻きにした。
「なんで僕をぐるぐる巻きにするんですか?」
「それで? 何しに来たんですか?」
ひどい。無視だ。
「そ、それはですね」
僕は簀巻きにされながらシュレアに今回の目的を話す。時折つんつんと彼女につつかれ、びよんびよんと身体をくねらすと、『害虫にだってもう少し品がありますよ』と言われた。
「……なるほど。理解しました。無傷のフレイムベアの死体が必要ということですね」
「は、はい! そのとおりです!」
「ふむ。ちょうどよいかもしれませんね」
シュレアのつんつん責めによって上下関係を分からされた僕は元気良く返事する。ちなみにプテュエラは隣であくびしながら毛繕いしている。凶悪な鉤爪あんよを豪快に開いて、頭の裏を搔いたりしてるもんだから、いろいろ丸見えだ。
「どこを見ているんですか?」
ぎちちちちち。
「すみません」
「……まあ、ジオス教徒のためになるのであれば、やぶさかではありません。協力してあげましょう」
「ありがとうございます! あ、あの。これ外してほしいんだけども」
「では、ケイ。さっさとフレイムベアを狩りに行きますよ」
「え、その。このままだと身動き取れない」
「ケイ、この前釣りをしたでしょう? 釣り餌には虫を使うのが一般的ですよ」
「えっ」
わ、わいが虫くんで釣り餌ってこと?
「ははは。シュレア、面白いな」
あらやだ無邪気な笑顔。でも君の契約者、これからフレべの餌にされようとしてますよ?
「……」
無言のシュレア。
え、ガチです? 嘘だよね。
ちょっと僕も笑って場を和ませよう。
「ふぉ、フォカヌポゥ」
「なんか気持ち悪い笑い方だな」
その通り。これは由緒あるキモ笑いだよ。
その様子を見ていたシュレアがやれやれと言った仕草で呟く。
「……ケイ。もしかしてまだ、自分が解放されると思ってるんじゃないですか?」
「え゛」
そんな筋肉ムキムキの元人間のB級妖怪みたいなこと言わないでよ。
「プテュエラ。話はある程度伝わってると思いますが、トリスカイデイカを探しに行ってください。ラミアルカとサンドリアは既に探しに行っていますので。めぼしい場所はこの通りです」
シュレアは何やら目印の描かれた木の皮を取り出してプテュエラに見せる。
「うむ。ベステルタから聞いているぞ。アセンブラの呪いに関する話だったな。委細承知した」
そう言うや否や、彼女は一陣の風に巻かれて消えた。いや、ほとんど力を外部に漏らさずに天高く舞い上がった。おぉ……プテュエラがもう、あんな点になっちゃった……。
「さて、ケイ。貴方はシュレアと一緒に修行ですよ」
「え。修行、するの?」
いきなり?
「はい。ケイはさっき、この子たちの意識を感じ取ることができていましたね? 以前よりもずっと深く交流できていました。であれば、修行を積むことでもっと多くの手段を得ることが出来ます。……いざとなったら失った自分の手足の代わりにすることだって出来ます」
あ、さっきガン嫌見されてたのは観察されてたのか。ていうかすごいな賢樹魔法。そんなサイボーグみたいなこともできるのか。
(いつの間にか賢樹魔法の習熟度もあがっていたのかもしれないな)
そういうことなら是非もないか。
「わかった。そしたらどんな修行をするんだい?」
「簡単です。フレイムベアを賢樹魔法で捕獲してください」
「ハハッ」
思わず笑っちゃったら、シュレアがイラッとしたような表情をした。やば、ミスったかも。
「……ケイ、嫌な顔で現実逃避しないでください。あと、手足を使わずに魔法だけで捕獲するように」
ふぁっ!!!!?!?
「え、ちょ、え、ちょちょいちょちょちょとまてまってそれはむり」
「待ちません。そのために手足を縛ったのです。今のケイなら出来ます。では、行きますよ。『樹渡り』」
僕はシュレアと樹木くんたちに抱えられ、近くのラクール樹に飲み込まれ転移した。
もしかして笑ったこと根に持ってるのかな。樹だけに。
プテュエラと他愛もないことを話していたらあっという間に時間が経ってしまった。
最近ハマってることや、お肉の話。
ダンジョンでの経験や、奴隷たちの話。
こうしてみると意外と話してないことが多くてびっくりした。
「ケイはデイライトでとても楽しそうだな。私も嬉しいぞ」
目を細め、軍帽クール顔をほころばせる。そんな風に言ってくれると僕も嬉しい。
しばらく話していると、いい気持ちになってうとうとし始めた。
「眠くなったか? 寝ていいぞ。もう少しだけかかるからな」
「うん……そうする……」
微睡んでいるうちに辺りは少しだけ日が翳っていった。
眼下の光景は転々とした街並みから、荒野、大河と移り変わっていき、やがてすべてを覆い尽くす翠緑の大森林に埋め尽くされた。
僕はというと、なんか夢を見ていた。どんな夢だったかな。なんかネリリンと一緒に立ち向かう? みたいな夢だったかも。どうせ見るならもっと甘い夢を見たかった。あいつ強烈だったからな……。
ーー
「ケイ、起きろ。そろそろだ」
ん、もうそんな時間か。
ふわぁと欠伸をして起きると懐かしき超大森林。翠の迷宮。隔絶された人外魔境。非常に濃い樹木の匂いがする。
「なんか意外と到着が早かったね?」
「そう思うか? やはり良いものを食べているし、体調がいいのだろうな。前と同じ力しか出していないんだが、効率よく飛べた気がするんだ」
ふむ。前は確かデイライト~絶死の森で半日くらいかかっていたんだよね。で、今回はそこまでかかっていないように感じる。三、四時間ってところか? じゃあ二、三割効率が上がったってことか。すごいな。
「着陸するぞ」
ふわりふわり、と大地に降り立つ。
地面が近づくにつれ、記憶が蘇る。
みんなとの思い出。温泉とか、生肉食ってた時とか。
「あっ、畑が大きくなってる!」
あれはシュレアが作ってた畑だ。前よりも拡張されて、いろんな作物がなっている。ていうかだいぶ大きくなってる!
そして、その側にゆっくりと気怠そうに動く白衣を着た植物系お姉さん……。
ボサボサの黒髪、クマのある青白い顔……。
「シュレア!」
不健康だらしない系クール不機嫌美人……大きめの白衣に黒のタイトスカート……手足が樹木! ロマンの塊! 性癖の塊!
「うおおおお! シュレアアアアァァごぶぶぇっ」
バチィン!
到着するなり初手だいしゅきホールドしにいった僕を、容赦ない樹木ビンタが襲う!
べちぃん! バチバチィン!
「いだだだっ、いだいっ、ガチで痛いっ」
「おや? 不埒な侵入者かと思ったら、シュレアを放ったらかしにして、遊び歩いていた契約者様じゃないですか」
ぎちちちち。
樹木君たちが僕を締め上げる。練喚功発動してもビクともしない。ぱ、ぱわー。
「ラミアルカたちから聞きました。ジオス教徒でもないニンゲンと濃厚に繁ったようですね。ラミアルカがアホみたいに自慢してくれました」
あ、アホって。まあ確かにたまにアホっぽいけど。
「そ、それはわからせるために、ですね」
「なるほど。わからせるためなら仕方ないと。ではシュレアもケイをわからせるとしましょう」
ざわ、ざわわ……。
シュレアがのっそり近づくにつれ、樹木たちが呼応して不穏に揺らめく。
極寒の嫌視線はまっすぐ僕を貫いて、命がカラカラに吸い取られてしまいそうだ。
でも……。
“ぺかーーーーーーーーー”
め、めちゃくちゃ枝角が光ってる……。うおっ、まぶしっ。すんごい眩しい。
「どうして顔を背けるのですか? ケイ。もっと恐怖の声をあげなさい。シュレアにごめんなさいと言うのです」
「シュレアさん、ごめんなさい」
“ぴかっ、ぺかーっ”
“ぴかぴかぴかっ!”
僕が言葉を発するたびに枝角が猛烈に点滅し、発光する。こんな近距離でぴかられたらポ◯ゴンショックになっちゃう。
「こら、シュレア。もうそのへんにしておけ。ケイにも色々あったんだ。遊んでいた訳じゃない」
ぷ、プっさーーーん!
様子を見ていたプテュエラが苦笑して間に入ってくれた。
「しかし……ケイは事前に何も言わず帰ってきました。一言あってもよいのではないのでしょうか」
「うむ。つまりケイにとってここは何も言わずに帰れる場所だということだ。そんな言葉不要だろう」
ぷぷぷぷプッさーーーーーーーぁぁん!
ありがとう……それしか言う言葉が見つからない……。
「む……」
「ケイは向こうでジオス教徒のために良く頑張っていた。あれ以上やるには身体が二つでもないと無理だ」
「……確かに。身体が二つ無いと無理ですね」
シュレアはなにやら思案し難しい顔をして黙り込む。
ち、ちょっと。身体二つは比喩だからね? 真っ二つにしないでね? ケ/イは嫌だからね? リンカが悲しむから……悲しむよね?
「あれ、そう言えばリンカは?」
「リンカは……今いろいろあってシュレアの中で休眠中です」
休眠中? え、大丈夫なのそれ。
「心配は不要です。これはシュレアにとって良き変化なのです」
なら大丈夫か……シュレアが大丈夫っていうなら大丈夫だろう。
「そう言えばケイはお前のためにお土産をたくさん選んでいてくれたみたいだぞ」
「む……お土産ですか」
“ぺかっ、ぺえっっかーーーーっっっん!!!”
今日一番の発光。
「ぬおおおっ!」
ぐおっおおおっ! 目がっ、目がぁぁぁっ、痛いっ、イっタい目がぁぁぁぁっ!
「何を悶えているのですか。気持ち悪い」
「だ、だってぇ」
「まあ相変わらず嫌な顔で安心しました」
「それ喜んでいいの?」
シュレアは樹縄を解き、手の枝触手をそろそろと僕の首に巻きつけてさわさわと撫でる。顎の下がしょわしょわする。どういう感情なんだろう。
このままキュッと絞められたら鶏みたいにコケッと逝ってしまうが、シュレアがそんな事するはずもなく。
「ではシュレアのために選んだという嫌なお土産を見せてもらいましょうか」
「見る前から嫌って言わないでよぉ」
「はは。ケイ、照れ隠しに決まってるだろ? 見せてやればいいさ」
「照れ隠しなどしていません」
枝角をぴからせながら嫌そうな視線で僕を見てくる。言ったのプテュエラなのになんでこっちに跳弾してくるの……。
「ケイがシュレアを放っておきながら選んだお土産なのだから、嫌なものに決まっています」
「ロジックがおかしいよぉ」
「いいから早く見せてください」
「はい」
ボロンっとお土産を鞄から取り出してシュレアに渡していく。
「これは?」
「デイライトにあった珍しそうな野菜や植物、花だよ。種もあります」
「こっちは?」
「植物の図鑑だよ。読めないかもしれないけど、絵を見るだけでもか楽しいかと思って」
お土産を見せるたびに、“ぴかぴか”とリズムよく点滅する。
「む、この匂いは」
「これはダンジョンシガーだよ。この前あげたやつよりも質がいいんだ」
「ふむ」
“ぴかぴっかーっ!”
おお、反応がいいぞ。
この前ダンジョンでドロップしたダンジョンシガー。シュレアは目を細めて手に取り、匂いを嗅ぐ。興味を引いたようだ。よかった。
「あとはお酒もあります。温泉湖で飲むと楽しいし気持ちいいよ」
「お酒……悪くないですね」
あ! 点滅が早くなってる! これはいい傾向だ。
じゃあ次のお土産はもっと気に入ってくれるだろう!
「……この大量の布は?」
「良くぞ聞いてくれた! これは下着だよ。つまりおパンツだ! シュレアに似合うと思って。いつもノーパンで寒そうだからさ」
僕の言葉に、シュレアの目が細くなった。
おかしい、枝角の点滅がゆっくりになった。
「……下着、ですか」
「そう! ブランド物なんだ!」
「ふむ……」
静かすぎる声。表情はまるで、死にかけの大根を見下ろす園芸家のようだった。点滅は収まり、ゆっくりと黒く染まっていく。
「き、聞いて! まずこれ! 《スノーフロスト・リーフ》! 白地に霜模様と葉脈柄、まるで冬の朝露を思わせる一枚! 素材は極薄でも裏起毛! 温かさとエロスを両立した夢のパンツ!」
「次は、《ツタツタパッション・バイン》! 深緑のレースがぐるぐる絡んでて、シュレアにぴったりかなって! しかもハイレグでセクシーさ倍増! お尻のカーブを引き立てる造形で、うしろ姿が最高に映えるんだよ!」
「でね、これは《おねむりすぱいだーちゃん》! シルク素材に蜘蛛の糸みたいな繊維を混ぜてて、睡眠時専用! クモの巣状の刺繍が美しくも可愛い。ふわふわの柔らかさで寝返りしてもズレないんだ! あと、若干透けてるのが最高なんだよね!」
「そしてこれが本命! その名も《ストライプ・ストロベリー》!! 蒼と白のピッチが奏でるのは、素朴さと背徳感の二重奏……まるで清楚な女学生が、ひとたびその裾をめくった瞬間、現れる“エロスの序章”……っ!」
手にグッと力を込め力説する。
「さらにこの縞パン、なんと内側はほんのり苺色なんだ……表の清楚に対して、一枚めくると裏は完全に性的暴力! でも外からは分からない! それが縞パンの矜持なんだ……!! シュレア……縞パンこそ、パンツの正道……いえ、始まりにして終着点。下着界のαでありΩ。おパンツバイブル! だから僕はどうしても、君にこれを渡したかったんだよ……ッ」
僕は最後の一枚を高々と掲げた。
パンツを振り上げながら語っていたそのとき──
ズドォン!!
木の枝が全力で僕の脇腹に突き刺さった。
「ぐぼぅおっえぇ」
次の瞬間には、シュレア配下の枝くんたちによる物理攻撃コンボが始まっていた。痛い! でも誇らしい! 痛い!
「声を発さないでください。空気が嫌になります」
ううっ、ジト目ってもんじゃない。視線にぱわーがある。吐いて死にそう。死吐目だ。
「ご、ごめんなさい! でも心を込めたつもりなんだ! どうか受け取ってほしい!」
「……」
彼女は無言でパンツをひとつひとつ拾い上げ、抱え込むようにまとめる。しゅるしゅると樹木くんがやってきて、頑丈そうな籠を一つ編んでくれた。
「……♫……♪」
「……!」
「……?……?」
それにしても、シュレアに従うラクール樹くんたちはとても楽しそうだし、幸せそうだ。感情豊かな気がする。なんか僕も少しずつ彼らのことが分かるようになってきたのかもしれない。
「……」
ウッ。なんかシュレアにガン嫌見されている。なんかまずかったかな。
「……とりあえず、預かっておきます」
彼女はお土産とおパンツ類を丁寧に籠にしまって、僕を蔦でぐるぐる巻きにした。
「なんで僕をぐるぐる巻きにするんですか?」
「それで? 何しに来たんですか?」
ひどい。無視だ。
「そ、それはですね」
僕は簀巻きにされながらシュレアに今回の目的を話す。時折つんつんと彼女につつかれ、びよんびよんと身体をくねらすと、『害虫にだってもう少し品がありますよ』と言われた。
「……なるほど。理解しました。無傷のフレイムベアの死体が必要ということですね」
「は、はい! そのとおりです!」
「ふむ。ちょうどよいかもしれませんね」
シュレアのつんつん責めによって上下関係を分からされた僕は元気良く返事する。ちなみにプテュエラは隣であくびしながら毛繕いしている。凶悪な鉤爪あんよを豪快に開いて、頭の裏を搔いたりしてるもんだから、いろいろ丸見えだ。
「どこを見ているんですか?」
ぎちちちちち。
「すみません」
「……まあ、ジオス教徒のためになるのであれば、やぶさかではありません。協力してあげましょう」
「ありがとうございます! あ、あの。これ外してほしいんだけども」
「では、ケイ。さっさとフレイムベアを狩りに行きますよ」
「え、その。このままだと身動き取れない」
「ケイ、この前釣りをしたでしょう? 釣り餌には虫を使うのが一般的ですよ」
「えっ」
わ、わいが虫くんで釣り餌ってこと?
「ははは。シュレア、面白いな」
あらやだ無邪気な笑顔。でも君の契約者、これからフレべの餌にされようとしてますよ?
「……」
無言のシュレア。
え、ガチです? 嘘だよね。
ちょっと僕も笑って場を和ませよう。
「ふぉ、フォカヌポゥ」
「なんか気持ち悪い笑い方だな」
その通り。これは由緒あるキモ笑いだよ。
その様子を見ていたシュレアがやれやれと言った仕草で呟く。
「……ケイ。もしかしてまだ、自分が解放されると思ってるんじゃないですか?」
「え゛」
そんな筋肉ムキムキの元人間のB級妖怪みたいなこと言わないでよ。
「プテュエラ。話はある程度伝わってると思いますが、トリスカイデイカを探しに行ってください。ラミアルカとサンドリアは既に探しに行っていますので。めぼしい場所はこの通りです」
シュレアは何やら目印の描かれた木の皮を取り出してプテュエラに見せる。
「うむ。ベステルタから聞いているぞ。アセンブラの呪いに関する話だったな。委細承知した」
そう言うや否や、彼女は一陣の風に巻かれて消えた。いや、ほとんど力を外部に漏らさずに天高く舞い上がった。おぉ……プテュエラがもう、あんな点になっちゃった……。
「さて、ケイ。貴方はシュレアと一緒に修行ですよ」
「え。修行、するの?」
いきなり?
「はい。ケイはさっき、この子たちの意識を感じ取ることができていましたね? 以前よりもずっと深く交流できていました。であれば、修行を積むことでもっと多くの手段を得ることが出来ます。……いざとなったら失った自分の手足の代わりにすることだって出来ます」
あ、さっきガン嫌見されてたのは観察されてたのか。ていうかすごいな賢樹魔法。そんなサイボーグみたいなこともできるのか。
(いつの間にか賢樹魔法の習熟度もあがっていたのかもしれないな)
そういうことなら是非もないか。
「わかった。そしたらどんな修行をするんだい?」
「簡単です。フレイムベアを賢樹魔法で捕獲してください」
「ハハッ」
思わず笑っちゃったら、シュレアがイラッとしたような表情をした。やば、ミスったかも。
「……ケイ、嫌な顔で現実逃避しないでください。あと、手足を使わずに魔法だけで捕獲するように」
ふぁっ!!!!?!?
「え、ちょ、え、ちょちょいちょちょちょとまてまってそれはむり」
「待ちません。そのために手足を縛ったのです。今のケイなら出来ます。では、行きますよ。『樹渡り』」
僕はシュレアと樹木くんたちに抱えられ、近くのラクール樹に飲み込まれ転移した。
もしかして笑ったこと根に持ってるのかな。樹だけに。
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富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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