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一日の儲け

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「シャールちゃん、ラーズさんに会ってきたよ。もしかして、ドラゴンソードが僕に弟子入りするって知ってた?」

「あ……はい、知ってました。ラーズさんに口止めされていたんですけど、その様子だと本人たちから伝えられたんですね。黙っていてごめんなさい」

 申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げて謝るシャールちゃん。君は悪くない。悪いのはあの狼おじさんだ。

「ううん、気にしてないよ。あと、査定の方はどう?」

「あっ、はい。査定が終わりました。内訳はご説明しますか?」

 ふむ。面倒だけど初回だし、ここは説明してもらおう。シャールちゃんは信用しているけど、一応お金のことだしね。

「お願いできる?」

「畏まりました……よいしょ」

 彼女はどん、と可愛い掛け声で机にお金を置いた。なんか知らないお金がある。そう言えば僕、銀貨より下のお金使ったことないんだよな……。

「まず、魔石の査定額から申し上げます。EX魔獣のランラビットの魔石が20個で10万ソルンになります。Jランク相当の魔石は全部でちょうど100個でしたのでこちらも10万ソルンでした。ボス魔獣のオークの魔石は3千ソルンですね。総額で20万3千ソルンになります」

 おお、ランラビットはやっぱりEX魔獣だったのね。すごいな。生肉は売ってないのに魔石だけでこんなにいくんだ。あとゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフの魔石も数があったからそれなりになったな。一個当たり1000ソルン? つまり大銅貨一枚か。

「素材に移ります。ダンジョンウルフの毛皮、コボルトの牙、オーク肉、ゴブリンのがらくた。合計して8350ソルンになります。よって魔石と合わせた査定額は21万1千350ソルンとなります。ご査収ください」

 約21万ソルンか。一日の儲けとしてはかなり稼げたよね。ていうか、石みたいなお金が混じっているんだけど、もしかしてこれって石貨ってやつかな。やばい、感動した。朱金貨の方がよく見るからね。

 前を見ると、「ふー」とやり切った表情のシャールちゃん。晴れ晴れとして充実感に溢れている。

「もしかして換金作業初めてだった?」

「は、はい。練習では何回もやったことあるんですけど、実業務では初めてでした。やっと受付嬢になれた気がします。えへへ、ケイさん。ありがとうございます」

 ぎこちないけど柔らかい笑顔。うう、良かったね。シャールちゃん。

「ちなみに、この金額って多いの?」

「かなり多いですね。普通の、つまりJランク冒険者の場合でしたら一日頑張って1~3万ソルン辺りが相場です。ポーター雇った場合は5万ソルンくらいですが、ポーターに支払うお金もあるのでものものすごく稼げる訳ではありません。ケイさんはランラビットを大量に仕留められたのと、それ以上にJランク魔獣を仕留め、なおかつ魔法の鞄で根こそぎ持ち運べたのが大きいです」

 まあ、魔石も素材も嵩張るだろうからね。ぽいぽい鞄に押し込んでたけど、ポーターいなきゃきついよこれ。魔石は普通の石と同じくらいの重さだし、それが120個って相当の重さだよ。他にも武器防具のメンテナンスに、ポーション代もあるんだし。ポーションとか金貨一枚するんでしょ? リスク回避する手立てはいくらでもあるけど金がかかる。もちろん、ある程度安全対策をしないで、費用を浮かすこともできるけど、ベットするのは自分の命か。ぎりぎりの選択だね。

「冒険者ってけっこうシビアな職業なんだね」

「そうですね。数年冒険者をしていてもJランクという方はざらにいますから。だからIランクというだけで随分見る目が変わるんですよ?」

 確かに、ターク君たちの様子見てれば分かる。村で一番ってだけでも、ゴブリンたちに囲まれたら手も足も出ない訳だからね。となると、この前ジャンゴさんのところにいたシャズスさんを見送ったのは失策だったかなぁ。確かGランクだったよね? なるほど、すごかったんだなって実感するよ。そしてラーズさんのやばさも。

「ありがとう。これからも慢心しないように頑張るよ」

「はい。そうして下さい。……ケイさんの未帰還認定証を受け取るのは、私、嫌なので」

 シャールちゃんにしては珍しく強い言葉。有り難く受け取ろう。

 ギルドから出ると、外でベステルタが暇そうに待っていたので謝って合流する。

「換金できたの?」

「うん、出来たよ」

「ふーん、でもケイお金たくさん持っているじゃない。はした金なんじゃないの? なんだか嬉しそうよ?」

 あれ、そうかな。

 顔を触ってみるとちょっとにやけていた。うーん、やっぱり自分で稼いだお金だからかな? 一日で20万なんて、すごいよね。ほとんどベステルタの後ろについて行っただけだけど。フレイムベアよりは実感あるかな。

 それにしてもこのお金どうしようかな。微妙に現実感あるお金だからか、貯金しちゃいそうだ。フレイムベア関連のお金は現実感無くて、無造作に使っちゃうんだよな。あー、本格的にカリンやシルビアに管理してもらおうかな。でも孤児院に現金置いておくのは不安だし……。あっ、もしかして商業ギルドに預けることってできるのかな。そしたら引き出せる人にカリンとシルビア指定すればいいよね。シルビアは商人だし。今は研究者っぽいけど。

……

「ケイ、この後はどうするの?」

 次はどうしようかな。うーん、お昼まではまだ時間がありそうだ。となると、なんだかんだで先送りになっていた家の見積もりや設計にそろそろ着手しないとな。この前、孤児院の増設に来ていたドワーフのドゴンさんに教えてもらった本部とやらに行ってみるか。場所はばっちり覚えている。

「そうだね、家の見積もりに行くよ」

「やっと行くのね。忘れたかと思って心配していたわ」

 うっ、申し訳ない。なんかやることがたくさんあって後回しになっちゃうんだよな。そうだ、今のうちにこの前、『亜人おうち計画(今名付けた)』で話した内容を整理しておこう。確か、それぞれ止まり木が欲しいだの、森とか土が欲しいだの、要望がありすぎてまとまらなかったんだよな。で、いったんベースはこんな感じ作ってもらうことにしたんだった。

・一般的な人の家をベースに、大きめに作ってもらう。

・一人一人の要望を叶えるには大部屋は厳しい。個室で対応。

・その代わり寝室(繁り部屋)を大きく作る。

 で、その上でシュレアが解決策として、絶死の森の樹木で家を作ってそこにリンカに根付いてもらうことにしたんだった。そうすることによって、家の内装を個人の要望に沿って自由にリンカが変えてくれるんだよね。その代価として、僕の魔力が持っていかれると。ああ、となるとレベルも上げなきゃいけないんだった。やることありすぎて大変だ。

 簡単に整理すると、

・外側はドワーフたちに絶死の樹木を渡して作ってもらう。

・内装はリンカと絶死の樹木にお願いする。

・対価の魔力のために僕はレベル上げする。

 って感じだな。

 よし、そんなこと考えているうちに着いたぞ。おお、結構でっかいな。中に入ってみよう。

 おお、かなり簡素な事務所だな。書類とかあるけど、ちゃんと整理されている。奥にカウンターがあって、その向こうに誰かいる。事務員の人かな?

「ん? 客か? すまんな、今は新たな予約は受け付けておらんのじゃ」

 出迎えてくれたのはひげもじゃのドワーフだった。そして第一声で断られた。マジかよ。でも、流石にこれでは帰れない。もう少し粘ってみよう。

「そこを何とか。この前リッカリンデン孤児院の増築受けてくれましたよね? そこでドゴンさんという人にこちらを教えてもらったんです。実は家を造ってほしんですが、けっこう大きくなりそうなんです。こちらの腕を見込んでぜひお願いしたいんですよ。あっ、これはほんのお気持ちですがどうぞ」

 ことり、と机の上にこの前買ったお酒を置く。完全に賄賂だけど、これくらい許されるだろ。

『わたしのお酒……』

 ベステルタがチャンネル内で悲しそうな声を出した。

『ごめん、また買うからさ』

「約束よ?」

 樽ごと買い占めないとな。

「なんじゃ、お前さん若頭の客か。なら構わん。代表が奥にいるから呼んできてやる。あと、この酒は頂いておくぞい」

 事務員ドワーフは最小の動きで酒を懐にしまうと、機嫌良さそうに奥に引っ込んでいった。やっぱドワーフはお酒用意しておくと話がスムーズに進みそうだな。ていうかドゴンさん若頭だったんだ。ドワーフの年齢が良く分からん。みんな一様に老けて見える……。

 しばらくすると、奥からさらに老けたドワーフが現れた。僕より小さいけどめちゃくちゃ貫禄ある。棟梁って感じだ。

「おお、お前さんがリッカリンデンのタネズだったか? 倅のドゴンから聞いておるぞ。儂は代表のドルガン。そちらの綺麗な獣人さんはどちら様じゃ?」

「初めまして。ドルガンさん。こっちはベステルタで僕のパーティーメンバーです。ちょっと言葉が不自由なので、基本的には僕と話してください」

「分かったわい」

 握手を交わして早速商談に入る。

 亜人たちのさっき整理しておいた情報を伝えると、呆れられた。

「なんじゃそりゃ。巨大な家の外装だけ作って欲しいじゃと? いくら費用を浮かそうと言っても内装省いたら意味ないじゃろ。儂らを舐めておるのか?」

 ドルガンさんの目がすっと細くなる。やばいやばい、そんなつもりはないんだけどな。でも確かにそういう風に思われてしまうかも。ミスった。

「そんなことはありません。えっと、なんというかこの家は知人たちにプレゼントする予定なんです。知人たちは内装に関しては非常に拘りを持っておりまして、自分たちでやりたいそうなんです。ただ、外側や家を組み立てる技術を持っていないので、そこをお願いしに来たんです」

 嘘は言っていない。言っていないが穴だらけな説明だ。現にドルガンさんはかなり疑わしそうな目で見ている。

「プレゼントと言っても、作った家はどうするんじゃ? まさか引きずっていくわけじゃあるまい?」

 うっ、やっぱり来たか。魔法の鞄に入るって言いたいけどめちゃくちゃ目立ちそうだよね。うーん、そうだ。知人から鞄を借りているってことにすればいいか!

「内密にして欲しいのですが、実はとても貴重な魔法の鞄を借り受けておりまして。大きな家でも問題なく収納できます」

「……にわかには信じられん。そんな物、国宝級のアイテムじゃぞ。大体材料はどうするんじゃ? そんな巨大な家の木材など一朝一夕では用意できんぞ」

 うわー、かなり疑念を持たれている。やばいな。このままだと通報されてしまいそうだ。信じてもらうにはどうしたらいい。

『ケイ、よく分からないけど森の木材出せば信じるんじゃない?』

『ナイス、ベステルタ!』

 チャンネル越しのベステルタのフォローにいいねボタンを百回押した。そんな機能ないけど。
 
「そういうと思って、この鞄の中に木材を収納してあります。それを見たら納得して頂けますか?」

「ふうむ、まあもし本当なら、納得するわい。付いて来い。奥の作業場を貸してやる」

 ドルガンさんに連れられてさらに奥の部屋に通してもらう。ふー、何とか門前払いは避けられたな。後は木材を出すだけだ。
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