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濃霧VS黄金の矢
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ピィーーーーーーーーーーッッッ………!
ヴェクスさんの身体を中心にけたたましいアラート音が鳴り響いた。
「何があったの!?」
「ばかな、魔獣用のアラートだと! どうして接近に気づけなかった!」
「あ、あわわ、胸当てしまっちゃったッス」
「これ! 早く付けて!」
黄金の矢の面々がテントから飛び出してくる。ヤッバ、みんな起こしちゃったよ。
「排除!」
僕の焦りなんてお構い無しに、ヴェクスさんの大槌が唸りをあげて振り下ろされる。
ボグゴォ!
地面がクレーター状に陥没し、付近を揺らす。とんでもない威力だ。当たったら潰れトマトになっちゃうだろう。
でも威力だけだ。
動きは大ぶりで隙が多く容易にかわせる。スピード自体は速いんだけど、予備動作が大きくて次の動きが丸わかりだった。
「待って待って、誤解です。敵意は無いんです」
ヒュンヒュン、ブォオン!
大質量の奏でる耳鳴りにタマヒュンしそうだが、当たることはないな。
だからこうして避けながら説得することもできる。
「ストップストップ、半勃起してたのは不可抗力です!」
「変態抹殺」
だめだ、ヴェクスさんの目が赤く光って完全にエリミネートモードだ。
仕方ない。
「フランチェスカ!」
「むっ!」
僕も負けじと、どこからとも無く愛斧を取り出して大槌を受け止める。
うおお、ダイオーク程はないけど、なかなかに重い一撃だ。
そのまま大槌を滑らすようにいなし、バランスを崩した彼女の側面に、斧の平面で殴りつける。フェイさんが彼方まで吹っ飛んだ威力だ。ひとたまりもないだろう。
「無駄です」
「重っ!」
手加減はしていたけど、それなりの力を入れて殴ったのに無傷どころか吹っ飛びもしなかった。そうかヴェクスさん、タンク職か。アーチャーと魔法使いのパーティだもん、固い前衛は必要だよね。
カッ……!
フランチェスカの磨き抜かれた刀身に、背後から迫りくる致死の黄金が煌めく。
(ひぃ死角!)
煌ュオオオォン!
「あっぶね! 人に撃つなよそんなもん!」
「ちっ、外した!」
とんでもない速度の物体が僕のいたところを通過していった。黄金の軌跡が今なお空間に灼き付いている。
テント組では一番早く臨戦態勢に移っていたアストアさん。その手には黄金色の美しくも恐ろしい弓が握られていた。
「煌弓リングナールの死角の一撃を避けた……!?」
「うっそ! やばいよボス! あいつただもんじゃない!」
「う、撃つッスよ!」
「みんな、撃ちまくりなさい! もしかしたら人の皮を被った魔獣かもしれないわ、遠慮は不要! シグ、魔法の準備を!」
「心得た……《ユーラ・ユイラリ・ア・ユーフレア》……」
古樹から切り出したようなゴツゴツした杖を手にしたシグリッドさんの周りに、不可視の力が渦巻いている。
でも僕には分かる。あれは練られまくった魔力だ。
もちろんやばい。
「いや、ちょ、ま」
「バスタークラウドフォーメーション《撃滅包囲陣形》展開! 撃てぇ!」
散ッ!
弓術士たちは素早く散開し、僕の死角を的確に位置取った。
煌ュオオオォン!
シイィィィッ!
ヒュウウゥーンッ!
黄金の矢の乙女たちによって無慈悲な死の尖兵たちが放たれた。
アストアさんの放つ矢は、まさしく強弓で全ての一撃が重くていなせない。さらに微妙に軌道が変化する変化弓。
ルカの弓は風そのものといった疾さで、速さだけならアストアさんを僅かにうわまっているかもしれない。さらに連写速度も凄まじい。
ミントはその二人に比べ遅いし威力も低いが、天性の当て感とでも言うべきか、常に嫌なところに撃ってくるのがいやらしい。
それぞれ性質の異なる矢が、明確な殺意をもって僕を襲う。
「ひいいいぃ! しぬっ、しぬっ」
「逃がしません」
逃げる僕を塞ぐよう巧妙に立ち回るヴェクスさん。
カンカン、とたまに彼女へ矢が当たるがそこまでダメージは無い。あたる瞬間、何かに弾かれたように見えた。魔法的な防御か、あるいは魔道具か。
(なるほど、ヴェクスさんは盾であり、僕に対する目隠しでもあり、逃走を塞ぐ柵でもある……って感心してる場合か!)
くっそ、この連係普段からやってやがるな。やりづらいったらありゃしない。
すでに何十発かはかすっているし、直撃も数本ある。いちばんヤバそうなアストアさんのモンハン武器みたいな弓だけは避けて、他のは被弾前提だ。
つーか、このままじゃジリ貧だ。いずれ削り殺される。
『ベステルタ! べすえもん! べすたん!』
『ハァイ、どうしたのケイ?』
『ごめん、助けて! おっかない冒険者に襲われてるんだ!』
『知ってるわ。全部観てたもの』
『えっ……そ、そうなの?』
『そうよ。ケイがサンドリアの魔法を使って、そこの女たちをいいようにしてたわよね。私で発散しないで、そんな行きずりの女たちと』
あ、だめだ。ベっさん、オコです。怒りの声色が伝わってきます。
『ご、ごめん。あれはなんていうか、抑えきれなくて! ベステルタで発散するのも悪いかなと思って!』
『私はケイの契約者なんだから、貴方の精を全部独占したいの。わかる? カリンやジオス教徒たちならまだいいけど、行きずりの女たちと、あんなに興奮して……。せめて言ってほしかったわね。しばらくそこで反省するといいわ』
『わー! まって! 反省しました! すみません、助けてください!』
『ま、これも修行よね。いざとなったら助けてあげるから頑張りなさい』
プツッ。
パスの途切れる音がする。
……や、やばい。ほんとにやばい。僕一人で何とかしなきゃいけなくなった。
(……このままでは、ジリ貧……なら!)
「濃霧!」
「霧魔法!? またマイナーな魔法を!」
「あの身体能力で魔法まで使えるの!?」
「うぅ~なんも見えないッス~」
「ヴェクス、サーチお願い!」
「了解。レーザー光、照射」
ピカーーーー、っと赤い光が周囲に照射されギラギラと蠢き、僕を探す。
(今のうちに練喚功をもっと深くまで……)
「そこです」
岩場に隠れた僕に一本のレーザー光が照射される。
悪寒を感じ飛び退ると、すでに岩場は穴だらけになっていた。
「オスのクセにちょこまかと! さっさと死になさい!」
霧の中をレーザー光が這い回り、僕を見つけた途端、矢が降り注ぐ。
(レーザーで索敵してるのか、ならもっと密度を濃くすれば……)
僕は濃霧の密度をさらに高める。
もぉぉわわぁーん。
よし! 過去一番の濃さだ。さっき出した種汁くらい濃いぞ!
すると僕を追っていたレーザー光は濃霧に阻まれ反射し、あらぬ方向へと拡散していった。
「索敵レーザー、濃霧による反射により無力化されました」
「き、霧魔法ってこんな使い方があるんスか?」
「だめ! 霧が濃すぎて相手が見えないよ!」
「シグ!」
「任せろ……《強き風》」
ゥゥウブオオオォォ!
にわかに強風が吹きすさぶ。荒れ狂う嵐が重たく滞留しようとする濃霧を力付くで晴らしていった。
「見つけた! 斉射!」
居場所が露わになった僕へ、再び致命の矢群が襲いかかる。
しかし。
ヒュンッ、クンッ。
「なにあれ!」
「矢の軌道が変わっちゃったッス!」
「……矢避けの風壁か? なんと面妖な、まさか風魔法まで使えるのか……」
すでに風壁を発動していた僕の周りには静かなる疾風が駆け巡っている。それによってルカとミントの矢は軌道を変えることができた。
でも。
煌ュオオオォン!!!
(やっぱアストアさんのは無理!)
モンハン弓から放たれる強弓はまったく意に介さず、風壁を突き抜けてくる。とんでもない威力だ。
「くううぅ、ルカのもミントのも通らないよ~!」
「あんなの反則っス!」
「これほどの手練れ……もしかして」
「ゲンズブール家の連中が関わってるかもしれん」
「なおさら生かしておけないわね。シグ、いける?」
「もちろんさ……征くぞ」
古樹の杖を掲げ、彼女は朗々と詠唱した。
『ユーラ・ユイラリ・ア・ユーフレア。
宿りて満ちよ、百なる光精。
貫き駆けよ、射手たる霊。
穿て、光のインペトゥム。
《降り注ぐ百条の光矢》』
シグリッドさんの額に汗が一つ雫流れる。
「ヴェクス、スイッチ!」
「了解」
ヴェクスさんが巻き添えを食わないように後方へ退いたのと入れ替わるように魔法が発動する。
古樹の杖の先からまるで銀河のような光の束が迸り、空中で結束。そして爆発的に散らばった。
百本の矢はでたらめな軌道を描きながらも、一つの例外無く僕めがけて突っ込んでくる。
一瞬見惚れてしまうほどの光の奔流。ニステル以来の明確な『死』を連想した。
真っ白な何もない世界のビジョン。
ここで死ぬわけには行かない。
まだ亜人たちの約束を果たしていない。
コスモディアポーションの計画もまだ道半ばだ。僕が倒れたらシルビアはどうなる? カリンやザルド、奴隷たちは?
「うおおおおお練喚功ぉぉぉおおおぉ!」
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
世界がスローになる。
力が一段、深きに流れる。
………………
「ばかな……」
シグリッドの表情が驚愕に歪む。
「《降り注ぐ百条の光矢》を撃ち落としているのか……?」
彼女が行使できるインペトゥムの中でも、抜群の破壊力と汎用性がある《降り注ぐ百条の光矢》。
数多の戦闘に置いて、確実に敵を仕留め屠ってきた多大なる信頼を寄せる魔法。
その事実が崩れ去ろうとしていた。
「シグリッド、あれはいったい」
「ありえん……ありえんが、私の魔法を別の魔法で撃ち落としているようだ」
アストアも思わず手を止め、シグリッドは食い入るようにその光景を見つめる。
《降り注ぐ百条の光矢》が迎撃されていた。
追い詰めたと思った冴えない風体の冒険者が、シグリッドすら感嘆を覚えるほどの魔力制御で光矢一本一本に、魔法をぶつけ相殺しているのだ。
「矢避けに使っていた風魔法か? しかし、既存の風魔法にあんな精緻な制御ができるだろうか」
魔法に関しては長年研鑽を積んできた経験も自負もある。めったなことでは他人の魔法を褒めたりはしない。
「……すごいな」
それは心からの称賛。敵であることも忘れ、純粋な気持ちが口からこぼれた。
………………
頭がとてもクリアだ。でもすんごい痛い。頭痛が痛い。僕の身体が僕じゃないみたい。
シグリッドさんの放ったゲキヤバ魔法の一本一本を、僕は風弾で撃墜していった。
光の矢が煌めて、風弾が唸りを上げる。その真っ只中に僕はいた。。
ドロリ、と鼻から何か出て視界が赤く染まる。
(うわっ、鼻血めっちゃ出とる……目も……毛細血管かなんか切れたのかな)
ついでに耳鳴りがひどい。そのうち耳からもなんか出そう。
(早く終わってくれ、もう持たない)
身体が重く、動けない。
これをしのげば、しのげさえすればまだ戦える……。
「ね、ねえ、なんかおかしくない? なんであの人反撃してこないの?」
「確かにッス。今は無理でもさっきはまだ余裕ありそうだったッス……」
矢を打つ手を止めてこの状況に疑問を持ち始めた二人。
そう! そうなんすよ! 無実です! 罪はあるけど! 君たちの胃の中のやつは僕のせいだけど、この件は無実です!
「……いえ、油断を誘う罠かもしれないわ」
「相手の手の内が見えない以上、情けをかける必要はない。ヴェクスが危険だと判断を下したんだ。状況的に殺れるうちち殺ってしまったほうがいい」
「で、でも」
「ルカ。お前の優しい気持ちは分かる。だが、起こってしまってからでは遅いんだ。ここで手を緩めたことで、最悪の自体につながったらどうする? お前は一生後悔することになるぞ。それにここは迷宮。何が起きても自己責任。向こうも分かっているだろう」
「……うん」
「シグリッドの言うとおりよ。ヴェクスの索敵を潜り抜け、撃滅包囲陣形をやりすごし、私の一撃もかわし、シグリッドの魔法にすら対抗している正体不明の男。放置するには危険すぎるわ」
ルカぁ! 説得されないで! せ、正論ティーだけどぉ!
「それに、男というだけで何かしらの罪は背負っているものよ。彼にはここで朽ち果ててもらいましょう」
冷徹な目で矢を構えるアストアさん。
さっきその罪を犯したばっかりなので何も言えない……。
いや、そんなわけあるか!
このクソフェミがぁ! 女尊男卑めぇ! こんなことなら挿入までしとけばよかったわ!
「大丈夫、あなたたちは何もしなくていいわ。私がケリを付ける……」
彼女はそう言うとモンハン弓を高々と掲げる。
『狂神オーセンよ、御身の雷鳴を我が弦に宿し給え……』
すると弓が俄に発光し始める。バチバチッと帯電し、チェレンコフ光のような青白い輝きは見る者ゾッとさせる。
(これ、魔法じゃない……もしかして固有スキル?)
『……破天の君よ、我が敵を討て!《雷撫》』
その後は全部スローモーションだ。
煌ュ殷ィィィインンンン!
青白い六つの矢がとんでもない軌道で放たれた。音がやばい。矢というより雷か。人に向かって雷撃つなよ。バケモンか。
(あ、死んだわこれ)
反射的にフランチェスカを構えるが、自分の身体じゃないようにノロノロとして到底間に合わない。
ブツッ。
急速に力が失われ冷えていく身体。これ、たぶん練喚功も切れましたわ。
(ああ……勝てなかった……)
全力で抗ったけどだめだった。悔しさがこみ上げる。
でも、どうやら引き分けには持ち込めたようだ。シグリッドさんの光矢の最後の一本撃墜し、力が尽きる。魔力はまだ大丈夫そうだけど、精神力というか、脳の回路がもう限界だ。おっ、めちゃくちゃ驚いてる。いい顔だ。舐め回したい。
ガクリと膝をつき、光矢と雷が僕を襲う。せめて前を向こう。そのまま視界が暗くなっていく。
『……うん、ここまでのようね。よく頑張ったわ。ボロボロのケイ、すっごくカッコよくて、とっても可愛かったわよ』
ヴェクスさんの身体を中心にけたたましいアラート音が鳴り響いた。
「何があったの!?」
「ばかな、魔獣用のアラートだと! どうして接近に気づけなかった!」
「あ、あわわ、胸当てしまっちゃったッス」
「これ! 早く付けて!」
黄金の矢の面々がテントから飛び出してくる。ヤッバ、みんな起こしちゃったよ。
「排除!」
僕の焦りなんてお構い無しに、ヴェクスさんの大槌が唸りをあげて振り下ろされる。
ボグゴォ!
地面がクレーター状に陥没し、付近を揺らす。とんでもない威力だ。当たったら潰れトマトになっちゃうだろう。
でも威力だけだ。
動きは大ぶりで隙が多く容易にかわせる。スピード自体は速いんだけど、予備動作が大きくて次の動きが丸わかりだった。
「待って待って、誤解です。敵意は無いんです」
ヒュンヒュン、ブォオン!
大質量の奏でる耳鳴りにタマヒュンしそうだが、当たることはないな。
だからこうして避けながら説得することもできる。
「ストップストップ、半勃起してたのは不可抗力です!」
「変態抹殺」
だめだ、ヴェクスさんの目が赤く光って完全にエリミネートモードだ。
仕方ない。
「フランチェスカ!」
「むっ!」
僕も負けじと、どこからとも無く愛斧を取り出して大槌を受け止める。
うおお、ダイオーク程はないけど、なかなかに重い一撃だ。
そのまま大槌を滑らすようにいなし、バランスを崩した彼女の側面に、斧の平面で殴りつける。フェイさんが彼方まで吹っ飛んだ威力だ。ひとたまりもないだろう。
「無駄です」
「重っ!」
手加減はしていたけど、それなりの力を入れて殴ったのに無傷どころか吹っ飛びもしなかった。そうかヴェクスさん、タンク職か。アーチャーと魔法使いのパーティだもん、固い前衛は必要だよね。
カッ……!
フランチェスカの磨き抜かれた刀身に、背後から迫りくる致死の黄金が煌めく。
(ひぃ死角!)
煌ュオオオォン!
「あっぶね! 人に撃つなよそんなもん!」
「ちっ、外した!」
とんでもない速度の物体が僕のいたところを通過していった。黄金の軌跡が今なお空間に灼き付いている。
テント組では一番早く臨戦態勢に移っていたアストアさん。その手には黄金色の美しくも恐ろしい弓が握られていた。
「煌弓リングナールの死角の一撃を避けた……!?」
「うっそ! やばいよボス! あいつただもんじゃない!」
「う、撃つッスよ!」
「みんな、撃ちまくりなさい! もしかしたら人の皮を被った魔獣かもしれないわ、遠慮は不要! シグ、魔法の準備を!」
「心得た……《ユーラ・ユイラリ・ア・ユーフレア》……」
古樹から切り出したようなゴツゴツした杖を手にしたシグリッドさんの周りに、不可視の力が渦巻いている。
でも僕には分かる。あれは練られまくった魔力だ。
もちろんやばい。
「いや、ちょ、ま」
「バスタークラウドフォーメーション《撃滅包囲陣形》展開! 撃てぇ!」
散ッ!
弓術士たちは素早く散開し、僕の死角を的確に位置取った。
煌ュオオオォン!
シイィィィッ!
ヒュウウゥーンッ!
黄金の矢の乙女たちによって無慈悲な死の尖兵たちが放たれた。
アストアさんの放つ矢は、まさしく強弓で全ての一撃が重くていなせない。さらに微妙に軌道が変化する変化弓。
ルカの弓は風そのものといった疾さで、速さだけならアストアさんを僅かにうわまっているかもしれない。さらに連写速度も凄まじい。
ミントはその二人に比べ遅いし威力も低いが、天性の当て感とでも言うべきか、常に嫌なところに撃ってくるのがいやらしい。
それぞれ性質の異なる矢が、明確な殺意をもって僕を襲う。
「ひいいいぃ! しぬっ、しぬっ」
「逃がしません」
逃げる僕を塞ぐよう巧妙に立ち回るヴェクスさん。
カンカン、とたまに彼女へ矢が当たるがそこまでダメージは無い。あたる瞬間、何かに弾かれたように見えた。魔法的な防御か、あるいは魔道具か。
(なるほど、ヴェクスさんは盾であり、僕に対する目隠しでもあり、逃走を塞ぐ柵でもある……って感心してる場合か!)
くっそ、この連係普段からやってやがるな。やりづらいったらありゃしない。
すでに何十発かはかすっているし、直撃も数本ある。いちばんヤバそうなアストアさんのモンハン武器みたいな弓だけは避けて、他のは被弾前提だ。
つーか、このままじゃジリ貧だ。いずれ削り殺される。
『ベステルタ! べすえもん! べすたん!』
『ハァイ、どうしたのケイ?』
『ごめん、助けて! おっかない冒険者に襲われてるんだ!』
『知ってるわ。全部観てたもの』
『えっ……そ、そうなの?』
『そうよ。ケイがサンドリアの魔法を使って、そこの女たちをいいようにしてたわよね。私で発散しないで、そんな行きずりの女たちと』
あ、だめだ。ベっさん、オコです。怒りの声色が伝わってきます。
『ご、ごめん。あれはなんていうか、抑えきれなくて! ベステルタで発散するのも悪いかなと思って!』
『私はケイの契約者なんだから、貴方の精を全部独占したいの。わかる? カリンやジオス教徒たちならまだいいけど、行きずりの女たちと、あんなに興奮して……。せめて言ってほしかったわね。しばらくそこで反省するといいわ』
『わー! まって! 反省しました! すみません、助けてください!』
『ま、これも修行よね。いざとなったら助けてあげるから頑張りなさい』
プツッ。
パスの途切れる音がする。
……や、やばい。ほんとにやばい。僕一人で何とかしなきゃいけなくなった。
(……このままでは、ジリ貧……なら!)
「濃霧!」
「霧魔法!? またマイナーな魔法を!」
「あの身体能力で魔法まで使えるの!?」
「うぅ~なんも見えないッス~」
「ヴェクス、サーチお願い!」
「了解。レーザー光、照射」
ピカーーーー、っと赤い光が周囲に照射されギラギラと蠢き、僕を探す。
(今のうちに練喚功をもっと深くまで……)
「そこです」
岩場に隠れた僕に一本のレーザー光が照射される。
悪寒を感じ飛び退ると、すでに岩場は穴だらけになっていた。
「オスのクセにちょこまかと! さっさと死になさい!」
霧の中をレーザー光が這い回り、僕を見つけた途端、矢が降り注ぐ。
(レーザーで索敵してるのか、ならもっと密度を濃くすれば……)
僕は濃霧の密度をさらに高める。
もぉぉわわぁーん。
よし! 過去一番の濃さだ。さっき出した種汁くらい濃いぞ!
すると僕を追っていたレーザー光は濃霧に阻まれ反射し、あらぬ方向へと拡散していった。
「索敵レーザー、濃霧による反射により無力化されました」
「き、霧魔法ってこんな使い方があるんスか?」
「だめ! 霧が濃すぎて相手が見えないよ!」
「シグ!」
「任せろ……《強き風》」
ゥゥウブオオオォォ!
にわかに強風が吹きすさぶ。荒れ狂う嵐が重たく滞留しようとする濃霧を力付くで晴らしていった。
「見つけた! 斉射!」
居場所が露わになった僕へ、再び致命の矢群が襲いかかる。
しかし。
ヒュンッ、クンッ。
「なにあれ!」
「矢の軌道が変わっちゃったッス!」
「……矢避けの風壁か? なんと面妖な、まさか風魔法まで使えるのか……」
すでに風壁を発動していた僕の周りには静かなる疾風が駆け巡っている。それによってルカとミントの矢は軌道を変えることができた。
でも。
煌ュオオオォン!!!
(やっぱアストアさんのは無理!)
モンハン弓から放たれる強弓はまったく意に介さず、風壁を突き抜けてくる。とんでもない威力だ。
「くううぅ、ルカのもミントのも通らないよ~!」
「あんなの反則っス!」
「これほどの手練れ……もしかして」
「ゲンズブール家の連中が関わってるかもしれん」
「なおさら生かしておけないわね。シグ、いける?」
「もちろんさ……征くぞ」
古樹の杖を掲げ、彼女は朗々と詠唱した。
『ユーラ・ユイラリ・ア・ユーフレア。
宿りて満ちよ、百なる光精。
貫き駆けよ、射手たる霊。
穿て、光のインペトゥム。
《降り注ぐ百条の光矢》』
シグリッドさんの額に汗が一つ雫流れる。
「ヴェクス、スイッチ!」
「了解」
ヴェクスさんが巻き添えを食わないように後方へ退いたのと入れ替わるように魔法が発動する。
古樹の杖の先からまるで銀河のような光の束が迸り、空中で結束。そして爆発的に散らばった。
百本の矢はでたらめな軌道を描きながらも、一つの例外無く僕めがけて突っ込んでくる。
一瞬見惚れてしまうほどの光の奔流。ニステル以来の明確な『死』を連想した。
真っ白な何もない世界のビジョン。
ここで死ぬわけには行かない。
まだ亜人たちの約束を果たしていない。
コスモディアポーションの計画もまだ道半ばだ。僕が倒れたらシルビアはどうなる? カリンやザルド、奴隷たちは?
「うおおおおお練喚功ぉぉぉおおおぉ!」
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
世界がスローになる。
力が一段、深きに流れる。
………………
「ばかな……」
シグリッドの表情が驚愕に歪む。
「《降り注ぐ百条の光矢》を撃ち落としているのか……?」
彼女が行使できるインペトゥムの中でも、抜群の破壊力と汎用性がある《降り注ぐ百条の光矢》。
数多の戦闘に置いて、確実に敵を仕留め屠ってきた多大なる信頼を寄せる魔法。
その事実が崩れ去ろうとしていた。
「シグリッド、あれはいったい」
「ありえん……ありえんが、私の魔法を別の魔法で撃ち落としているようだ」
アストアも思わず手を止め、シグリッドは食い入るようにその光景を見つめる。
《降り注ぐ百条の光矢》が迎撃されていた。
追い詰めたと思った冴えない風体の冒険者が、シグリッドすら感嘆を覚えるほどの魔力制御で光矢一本一本に、魔法をぶつけ相殺しているのだ。
「矢避けに使っていた風魔法か? しかし、既存の風魔法にあんな精緻な制御ができるだろうか」
魔法に関しては長年研鑽を積んできた経験も自負もある。めったなことでは他人の魔法を褒めたりはしない。
「……すごいな」
それは心からの称賛。敵であることも忘れ、純粋な気持ちが口からこぼれた。
………………
頭がとてもクリアだ。でもすんごい痛い。頭痛が痛い。僕の身体が僕じゃないみたい。
シグリッドさんの放ったゲキヤバ魔法の一本一本を、僕は風弾で撃墜していった。
光の矢が煌めて、風弾が唸りを上げる。その真っ只中に僕はいた。。
ドロリ、と鼻から何か出て視界が赤く染まる。
(うわっ、鼻血めっちゃ出とる……目も……毛細血管かなんか切れたのかな)
ついでに耳鳴りがひどい。そのうち耳からもなんか出そう。
(早く終わってくれ、もう持たない)
身体が重く、動けない。
これをしのげば、しのげさえすればまだ戦える……。
「ね、ねえ、なんかおかしくない? なんであの人反撃してこないの?」
「確かにッス。今は無理でもさっきはまだ余裕ありそうだったッス……」
矢を打つ手を止めてこの状況に疑問を持ち始めた二人。
そう! そうなんすよ! 無実です! 罪はあるけど! 君たちの胃の中のやつは僕のせいだけど、この件は無実です!
「……いえ、油断を誘う罠かもしれないわ」
「相手の手の内が見えない以上、情けをかける必要はない。ヴェクスが危険だと判断を下したんだ。状況的に殺れるうちち殺ってしまったほうがいい」
「で、でも」
「ルカ。お前の優しい気持ちは分かる。だが、起こってしまってからでは遅いんだ。ここで手を緩めたことで、最悪の自体につながったらどうする? お前は一生後悔することになるぞ。それにここは迷宮。何が起きても自己責任。向こうも分かっているだろう」
「……うん」
「シグリッドの言うとおりよ。ヴェクスの索敵を潜り抜け、撃滅包囲陣形をやりすごし、私の一撃もかわし、シグリッドの魔法にすら対抗している正体不明の男。放置するには危険すぎるわ」
ルカぁ! 説得されないで! せ、正論ティーだけどぉ!
「それに、男というだけで何かしらの罪は背負っているものよ。彼にはここで朽ち果ててもらいましょう」
冷徹な目で矢を構えるアストアさん。
さっきその罪を犯したばっかりなので何も言えない……。
いや、そんなわけあるか!
このクソフェミがぁ! 女尊男卑めぇ! こんなことなら挿入までしとけばよかったわ!
「大丈夫、あなたたちは何もしなくていいわ。私がケリを付ける……」
彼女はそう言うとモンハン弓を高々と掲げる。
『狂神オーセンよ、御身の雷鳴を我が弦に宿し給え……』
すると弓が俄に発光し始める。バチバチッと帯電し、チェレンコフ光のような青白い輝きは見る者ゾッとさせる。
(これ、魔法じゃない……もしかして固有スキル?)
『……破天の君よ、我が敵を討て!《雷撫》』
その後は全部スローモーションだ。
煌ュ殷ィィィインンンン!
青白い六つの矢がとんでもない軌道で放たれた。音がやばい。矢というより雷か。人に向かって雷撃つなよ。バケモンか。
(あ、死んだわこれ)
反射的にフランチェスカを構えるが、自分の身体じゃないようにノロノロとして到底間に合わない。
ブツッ。
急速に力が失われ冷えていく身体。これ、たぶん練喚功も切れましたわ。
(ああ……勝てなかった……)
全力で抗ったけどだめだった。悔しさがこみ上げる。
でも、どうやら引き分けには持ち込めたようだ。シグリッドさんの光矢の最後の一本撃墜し、力が尽きる。魔力はまだ大丈夫そうだけど、精神力というか、脳の回路がもう限界だ。おっ、めちゃくちゃ驚いてる。いい顔だ。舐め回したい。
ガクリと膝をつき、光矢と雷が僕を襲う。せめて前を向こう。そのまま視界が暗くなっていく。
『……うん、ここまでのようね。よく頑張ったわ。ボロボロのケイ、すっごくカッコよくて、とっても可愛かったわよ』
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【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
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貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
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そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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