【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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紳士さん

9話 〜闇を纏いし魔王と歪なる魔物〜

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 雷御がを奪われる少し前、ゼティフォールは塔を登っていた。
 通常、白雷の塔は地上部分に設置してある転送装置で頂上にむかうが、今は雷御が電気を送れていないためメイン電源が落ち、転送装置は稼働していない。階段はあるが、階段を馬鹿正直に登れば、頂上に着く頃には朝どころか次の日の夜になる程高い。しかしゼティフォールは闇魔法の吸い込む力を利用し、階段には目もくれず空中移動でどんどん進んでいた。
 問題はこれからで、緊急事態に作動するらしき防護隔壁がいくつも道を塞いでおり、いかにゼティフォールといえど苦戦を強いられた。に加勢するために昇っているのに、辿り着く頃に疲れ果てていては本末転倒だからである。
 ちなみにこの白雷の塔は攻め落とされた事が今まで一度も無いのだが、それもそのはず。
 防護隔壁は後付けの設備で塔本体に比べれば脆いが、やはり隔壁というだけあってこの世界の加工できる最高クラスの硬度を誇る金属が使われている。それに加えて魔法をかき消す魔方陣が描かれているのだから、まず本気で守りを固められたらこの隔壁が突破できるのは世界でも数える程度で、登ったとしても雷の王である雷御が常時コンディション最高で出迎えるのだ。外から攻めようにも、通常時は触れれば跳ね返される、反射型結界が張られ、それをかいくぐっても雷御が敵を発見次第、容赦なく雷を落すのだから守りは万全のはずだったのだ。
 そう、万全のはずだったのだ。
「はぁッ!! よし、この隔壁で最後か。しかし、助けにいってやろうと言うのに、何だこの邪魔な隔壁は。間に合わなくなっても、責任は取れぬぞ……」
 ゼティフォールは力ずくで隔壁を蹴り壊し、ようやく頂上への扉が見える場所まで進んだ。予想以上に隔壁で時間がとられるので、ゼティフォールは一瞬外に出て進む事を考えた。だが、塔の周りは得体の知れぬ謎の黒い煙が隙間なく覆っていて、数え切れない量の怪物もへばり付いている。故にこの緊急事態で、下手に触れて取り返しのつかない状況になっては困るので、おとなしく内側から攻める事に決めたのだ。

「──ぐっ!?」
 ゼティフォールは急な頭痛で頭を押さえる。
「何だ? まるで、切られたかの様な痛みであった」
 痛みは一瞬だけで、既にひいているが、嫌な予感がしたのだ。
「……もしや」
 ゼティフォールは掌に魔力を集める。
「────雷よ、刃となれ」
 魔力は命令に反応して形を変えようとするが、待てども一向に形を整えられず、仕舞いには暴走してしまった。
「そうか……。やはり怪物が何らかの攻撃を仕掛けた事によって、が切られたか」
 掌の上で暴走している魔法を握り潰し、ゼティフォールは頂上を見上げる。
「まだ騒がしいという事は、雷御が生きているに違いない。だが、急がなくては……!」
 ゼティフォールは全力で跳び、一気に扉の前に到着する。そしてその勢いのまま扉を蹴りで粉砕、雷御のいる頂上に辿り着いた。
「まずい!」
 力を失った雷御は握り拳ほどに小さくなり、見た事も無いおぞましい怪物に叩き潰されそうになっている。
「──────闇よ、穿て!」
 ゼティフォールは闇の弾丸を放ち、雷御を叩き潰さんとする怪物の手らしき部位を撃ち貫いた。
 怪物は衝撃でひっくり返り、ばたばたともがいている。
「お、お主は!?」
 こちらの存在に気付き、雷御が声をかけて来る。ひとまず、やられるのは回避できた。
 だが、自身と血の契約を果たし、命を預けあったに、手を下そうとするこの愚か者に対し、ゼティフォールの怒りは抑えられなかった。いや、初めから抑える気も無かった。
「……我が友に手を出すは、魔王に手を出したも同義。貴様、覚悟は出来ておろうな……!」
 訊きはしない。ただ、手加減をするつもりはないと宣言した。
 怪物は腕を再生しつつ、ニンゲン型の頭についている目をギョロリとこちらに向ける。
「ゼティフォール、遅いぞい!」
 こぶし大程になってしまった雷御が、遅い登場を果たしたゼティフォールを説教しようと駆け寄る。
「すまない、見ない間に随分と小さくなったようだな、雷御」
 そう言いつつ少し口角を上げ、雷御の前足を魔法で治す。雷御が元気な事に安堵し、ゼティフォールに冷静さが戻る。
「初めはまだ話が通じそうだったんぢゃが、今はこの通りでな。しかもよく分からん力で、王の盃まで奪われてしもうた」
 体勢を直した怪物が、ゼティフォールにぶつかる様に突進する。
「……まだ、話の途中だ。少しくらい待てぬのか?」
 ゼティフォールはそれを受け止めつつ片足で蹴り上げ、ドラゴンの頭がかじりつく暇も与えず、流れるように回し蹴りで吹き飛ばす。蹴りを諸に受けた怪物は気を失い、ぐったりと倒れた。
「拍子抜けだな。……それで、その“よく分からん力”のせいで契約が切れたのか」
「ぬ、契約が切れたのか!? ぢゃあ、わし、もう闇魔法は使えぬのか?」
「ああ。だが雷御よ、貴公はそもそも闇魔法は使うのか?」
「使う使う! 毎日使うわい。弱めの闇魔法は、体の汚れを取ったり、良い感じにトリミングするのに丁度ええんぢゃ!」
「……そ、それは確かに不便になるな。しかし、元気があるようで良かった」
「いや、でももう殆ど力は残っておらんし、わしは白雷公とは名乗れんな。もう、静電気公ぢゃ……」
「生きていたのだから、また強くなればいいではないか」
「そうかのう……。そうぢゃ、何故ここに来たんぢゃ?」
「貴公と光以外の、七代行の王との契約が切れている上に、正体不明の怪物の出現情報もあるようでな。念の為ここに来たのだ」
「そうかい。ちと、遅かったのう」
 吹き飛ばされて沈黙していた怪物が、再び起き上がった。
「ふむ、そろそろ話はお開きだ。雷御は下がっていろ」
「気を付けるんぢゃぞ」
「ああ」
 怪物はゼティフォールに興味を示し、食らい尽くさんと走って来る。
「さあ、来るがいい」
 怪物は五つのドラゴンの頭で、入り乱れるように噛み付いていく。
「……ふむ」
 ゼティフォールはその攻撃を軽くいなし、
「この程度か?」
 手始めに手刀を使って頭の一つを切り落とす。
「雷御よ、油断していたのか?」
 切り落とした頭を投げて別の頭にぶつけつつ、ゼティフォールは雷御に声をかける。
「そやつ、雷が効かんかったんぢゃ!」
「……そういう事であったか」
 いかに王と言えど、それぞれの行が効かない刺客に攻められれば厳しい戦いを要求される。それに加えて、他の所でも今回のように大群で押し寄せて来たのなら、契約を切られたり王の証である盃を奪われるのも不思議ではない。
「──────闇よ!」
 ゼティフォールはいくつかの闇の球を出し、怪物に投げつける。
 すると、怪物はそれを食おうと齧りつく。確かに魔法を、魔力を食べてはいるが、上手く食べられておらず、時々ダメージを受けていた。
「休んでいる所すまない。雷御よ、少し力を貸せ!」
 ゼティフォールは雷御に向けて手を伸ばす。
「はいよ!」
 雷御は電気の塊のようになり、ゼティフォールの腕と一体化する。
「──────雷よ、彼のモノを穿て!」
 ゼティフォールは、怪物に向けていくつもの雷の弾丸を飛ばす。
「……なるほど」
 殆どはあっという間に怪物が喰らっていった。が、問題はそこより、食われなかった雷は怪物に当たっても傷付けられなかった事だ。
「とりあえず、実験はここまでにしようか」
 怪物は落ちていた自身の頭を食らう。
「殆ど知性が感じられぬな」
 ゼティフォールは一瞬で距離を詰め、自身の頭に気を取られている怪物のドラゴン型の頭を、手刀でひとつ、ふたつと切り離していく。
 そして、ドラゴンの頭を全て斬り終えた時、先程まで眠っているように瞳を閉じて沈黙していたニンゲン型の頭が、突然目を見開き、悲鳴のような叫びをあげた。
「何だ?」
 怪物は口から、半透明の粒子が纏わりつく球体をはきだした。
「気を付けるんぢゃゼティフォール。わしはこの攻撃で力を奪われたんぢゃて!」
 腕から分離した雷御は、端に逃げながらゼティフォールに注意をかける。
「これがその、“よく分からん力”とやらか。……わかった」
 怪物が、粒子が距離を詰めて来るが、ゼティフォールが焦る事は無かった。
「ゼティフォールの名において顕現せよ、魔王の盃!」
 声に反応し、マナの泉より盃が顕現する。
「それが魔王の盃か、綺麗ぢゃの……。わしも初めて見るが、惚れ惚れしちまうわい」
 ため息の出るような美しさで、豪奢ごうしゃでありながら無駄な要素の無い装飾が施されているこの盃は、黄金に輝き、ひとつの暗い紫色の宝石がはめ込まれている。
 ゼティフォールは優雅にその盃に口を付け、中身をひとくち飲み込んだ。
 するとゼティフォールの目が光り、魔力が周囲に吸い寄せられ、凝縮された魔力が結晶となった。
「──そう易々と、私から盃を奪えると思うな」
 声は魔力を帯び、衝撃波となって怪物を襲う。その威力は凄まじく、粒子ごと怪物の出した謎の球体を破壊し尽くした。
 次に、ゼティフォールが手をかざすと目に見えぬ力が怪物を襲い、受けた怪物の体の殆どが一瞬で崩れていった。崩れた部分が跡形も無く消え去ったのは言うまでもない。
「──これで終わっては面白みも無いだろう?」
 ゼティフォールが空に手をかざす。すると無色のエネルギーが天より押し寄せ、空気を、次元を歪ませつつ怪物に鉄鎚を下した。
 怪物は形を留めることができず、魔王の力の前で為す術無く散った。
「やったか!?」
 喜びのあまりゼティフォールに駆け寄りつつ雷御が言った。
「いや、待て……。怪物は核があるはずなのだ。しかし、こやつには見受けられなかった。杞憂か、それとも……?」
 ゼティフォールは眉間にシワを寄せつつ周りを警戒した。
「あの怪物は他のと違って話ができたんぢゃ。何かしらの例外はあるぢゃろて」
「雷御よ、何か身に覚えは無いか? 攻撃が当たらなかったか、若しくは止めを刺そうとしてもできなかった事でもいい!」
「そういえばさっき、止めを刺したと思うたら、急にサイレンが鳴りだしての。もともとヒト型ぢゃったのに、気付いたら煙を吸ってあのようなバケモノになってしまったんぢゃ」
「そういう事であったか。であれば、あやつはまだ生きておる」
「まことか!?」
「ああ。それだけではない。直接的に攻撃をしてもやつは倒せぬ上に、何度も復活する」
「それは聞きとうなかったわい。あやつは一度目より二度目の方が厄介ぢゃったからの」
「戦う度に強くなるのか。雷御、やつはこのまま退くと思うか?」
「意識があるか判らぬが、わしは退かんと思うわい……」
「なら、今の内に避難しておけ。あれを倒すには力を解放せねばならぬようだからな」
 その時、耳をつんざく程の大音量でサイレンが鳴り響く。
「なんと!?」
 怪物が本当に復活しそうになり、雷御は動揺してしまう。
「早く行け!」
 ゼティフォールは、その場で固まっている雷御を急がせる。
「ま、任せたぞい!」
 我に返った雷御は急いで階下に降りていった。
「よし。気合いを入れるとしようか……」
 それを確認したゼティフォールは、深呼吸をし、マントを脱ぎ捨てた。
「────我が名はゼティフォール、闇を司る王であり、唯一無二の魔王である……!」
 ゼティフォールは盃を飲み干す。それと時を同じくしてサイレンが鳴りやむ。そして核が姿を現し、周囲から、街を覆っている結界からエネルギーを吸収し始めた。復活の時が近い。
「世に控える全てのしもべ達よ────」
 声に応じ、影、陰、黒、闇、光放たぬモノ達が、世界中からゼティフォールの元に押し寄せる。
 そして闇を失った場所は昼の比ではない程に明るくなり、影の一つも存在しない世界は異様そのものだった。
「────我が呼び声に応え、今ここに大いなる闇をもたらせ……!」
 集結した闇はゼティフォールを包み、取り込まれ、混ざり合い、光輝く世界と対を為すかのように、暗黒の闇そのものとなった。
 
 そこに存在した全ての魔力が吸収された事により、結界が粉々に割れる。
『ギィャ────!!』
 とうとう現れた怪物は、ヒトのようでヒトではないおぞましい声で叫ぶ。
 竜の首に、獅子のタテガミを持ったニンゲンの頭が付き、四肢の代わりに蛸の触手が伸びていて、背にはニンゲンの手の形をした翼がせわしなく蠢いていた。
「くくく……。始めよう……」
 ただ揺蕩たゆたっていた暗黒の闇も、この時を待っていたかのように、瞬く間にヒトの形に成った。
「“終宵しゅうしょう”、貴様に朝は訪れない……!」
 暗黒の闇ゼティフォールの瞳が、ゆらりと深紅に燃えた。
 
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