【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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紳士さん

11話 〜聖なる光〜

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「予想以上に時間食っちまった」
 ダンテがぼやく。
「仕方ないよ、まさか白雷だけでなく、同時に城下まで攻められたんだから」
 モンスターを切り伏せながら、鎧の男は言う。
 そう、魔王軍に応援要請の連絡が入った少し後に、魔王国の城下町に怪物の襲撃ありと報告が入った。
 そして、まだ軍の準備が整っていなかったために、魔王軍幹部が自らそちらに動かざるを得ず、応援出発までに時間がかかってしまったのだ。
 怪物は現在ぴーころ率いるモンスター隊によって早々に討伐されたが、家屋や設備の被害が多く、住民の避難に多くのニン数を割かれてしまった。
「街の皆は助けるが、魔王さんの方も放っておけねえ、な!」
 ダンテは道を塞ぐモンスターにパンチを入れる。
「まさかの力を解放するなんてね……」
 魔王軍はいくつかの隊に分かれ、避難所の救援を行っている。
「それを使わねえといけない状況って事は、こっちの襲撃が本命かもな……」
 ダンテはパンチでモンスターを吹き飛ばす。
「流石にこのモンスターの量が多すぎる。異常だ」
 鎧の男はロングソードに光を纏わせる。
「それも策略の内ってことか? まあ、王の力ってやつが発動している内は大丈夫だろうがよ……」
 白雷の街の衛兵も戦っているが、一体一体の強さはそれ程でもないものの、あまりのモンスターの量にそろそろ体力の限界を迎えようとしていた。
「そうかもね!」
 鎧の男が剣を水平に切り払うと、光の刃が現れ、周囲のモンスターを一気に消し去った。
「おいゼプト。……それ、本当にただのロングソードか?」
 建物や味方に一切の被害を出さず、敵だけを打ち払う。しかもそれを、その辺の下級兵士も持っているような武器でやってのける鎧の男に、ダンテは呆れまじりに笑いかける。
「ああ。勇者の剣は封印したからね。かと言ってあまり武器にお金は掛けたくないしさ……」
「ったく……。お前は昔もそうだったが、結構ケチだよな」
「ケチではないさ。ダンジョンや洞窟が悪いんだ。考えてみてくれ、買った武具が次のダンジョンに落ちていたら買う気も失せるだろ?」
 既にこの周囲のモンスターは倒しきっていた。
「まあ、確かにそうだ。勇者も大変だったんだな……」
「ありがとうございますゼプト様!」「勇者様と一緒に戦えて光栄です!」「ご協力感謝します!」
 戦いがひと段落し、手が空いた兵士達がゼプトを囲み、恭しく敬礼をする。
「待って待って、俺はもう勇者じゃありませんので、そんな畏まらないでください!」
 ゼプトは慌てて止める。
「やっぱ、元とは言え勇者様は人気だね……」
 嘗て魔王を倒し、世界に平和を取り戻した伝説の勇者。ブルーオリハルコンの重装鎧を身に纏う、神より祝福を受けし光の子である。現在は魔王国で外交官を担っている。勇者の力こそ返上したがその強さは健在で、知名度信頼度の高さから国と国を取り持つこの仕事は天職のひとつともいえる。
「お、おいゼプト、あれを見てくれ!」
 ダンテが空を指す。
「ブラックホールだ……。まさかゼティフォールにこれを使わせるとは」
 ゼティフォールが作り出したブラックホールと、それを囲むように張られた結界が空を覆い尽くしている。
「だな……」
 度肝を抜かれた衛兵たちが騒ぎ出す。
「皆さん、落ち着いて下さい! この魔法はこちら側のモノで、敵がこれを受けたならもう勝利は目前です!」
 ゼプトの一声で、『勇者が言うなら本当だろう』と、衛兵たちは徐々に静まっていく。戦闘や魔法を見慣れている衛兵だからこそ、この程度で済んだのだろう。
「もし民間人が催眠状態でなかったら、パニックだろうな……。まあ最悪、魔法でなんとかなるから良いけどさ」
 ゼプトが周りに聞こえないよう呟く。
「おお、空が戻って行くぞ!」「我々の勝利だ……」
 ブラックホールが消え、闇が元の場所に戻る。そして、別の避難所もモンスターの脅威から守りぬけたのか、いくつおの勝鬨が聞こえる。白雷の街は、を取り戻した。
「なあ、本当にこれで終わると思うか?」
 ダンテはゼプトにだけ聞こえるように声を落して訊く。
「どういう事だい?」
 ゼプトもダンテに合わせて声を抑える。
「魔王さんが完全に勝ったんなら良いんだ。けどよ、白雷と魔王城下を同時に攻めてこっちは戦力分散、相手は替えのきく操り人形みたいなやつだ。何かあると思っちまわないか? 考え過ぎならそう言ってくれてかまわねえが、気になってな」
「ダンテはこういう時カンが鋭い。例えば? 考えを聞かせてくれるか?」
「ああ。敵の本命は白雷の方。なら、まず一つ目の疑問だ。何が欲しい? こっちは電気を使った特殊なモノが多いが、エネルギーだって魔機だってあっちも負けてない。共同開発も多いからな。答えを出す前に二つ目の疑問だ。何故今なんだ? 国を落としたいなら、魔王さんが居ない時の方が絶対に楽だろ。そこで思い出す事がある。最近、行の王が怪物に襲われていたよな。なあゼプト、塔には魔王さんの他にだれが居る?」
「雷御がいるはずだ。……いや、待ってくれ。ゼティフォールがあそこにいるのはブラックホールあれで確認できたけど、俺達がここに来てから雷が落ちるのを確認できていない。ただ疲れて退避しているなら良いけど……」
「ああ、ブラックホールを出さないといけねえ相手だ。もしかすると敵は、どっちも倒すかそれに近い状況にできる自信があったはずだ」
「雷御とゼティフォール。ふたりの共通点は────────」
 その時、空がガラスの様に割れ、中から巨大な陰が姿を現した。
「何だありゃ……!」
 その陰は街のどこからでも確認出来る程に巨大で、中には目視するだけで発狂するモノまでいた。
「まずい……!」
 走り出したり叫びを上げるだけなら良い方で、発狂したモノは仲間を攻撃したり自殺を図るモノまでいた。
「魔王さんが危ない!」
「ダンテ、行ってきてくれるか! 俺はみんなを止める」
「ああ、こっちは任せた。じゃあ飛ばしてくれ!」
「ああ、そうだ。ダンテ、これを」
 ゼプトが白い宝石のついた指輪を渡す。
「これは?」
「使い捨てだけど、一時的に勇者の力を使う事ができる」
「お、便利なもん持ってるじゃねえか」
「以前作っておいたんだ。数は限られているけど、これならどんなモノにでも干渉できる」
「正体不明のデカブツにはピッタリだな」
「使い方はわかるね?」
「おう。勇者の力ってんだから、転送もできるんだろ?」
「ああ。危なくなったらすぐに逃げてくれ」
「はいよ」
「じゃあ、ゼティフォールを頼んだ!」
 ゼプトは手から光を出し、ダンテに魔法をかけた。
「行って来るぜ!」
 魔法はダンテを包み、あっという間に塔の頂上まで運んだ。

「こら、まずい状況だ……!」
 捕らえられ、身動きもままならない満身創痍のゼティフォール。魔王の盃を運ぶ蜘蛛型の怪物。そして、今にもそれを手にしようとしている正体不明の巨大な陰。
「さっそく出番だな」
 ダンテは頂上に着地しながら指輪をはめる。
「よっしゃあ!」
 この陰が何を考えているかわからないが、盃を奪おうというのだ。世界を良くしたいなんていう善人でない事だけは確かだ。
 ダンテは走り出した。
「まずは……。助けに来たぜ、相棒!」
 ダンテは拳に光を纏わせ、ゼティフォールを捕えていた蜘蛛をパンチで一網打尽にした。
「ダ……ンテ……?」
 ダンテが声をかけると、朦朧としながらも声をだした。
『羽虫ガ湧イタカ。地ヲ這ウ骸ト一緒二、消エルガイイ』
 ダンテの存在に気付いた陰は、手をかざし、ダンテに黒い煙を浴びせた。
「させねえ!」
 ダンテは光の壁を作り出す。その壁は煙を一切通さなかった。
「まだ骸じゃねえし、させる気もねえよ!」
 光の壁は煙を防ぎつつ、ゼティフォールのダメージを癒していく。衰弱は見た目以上にひどく、確かにあと少し遅ければにいてなってもおかしくなかっただろう。
『……コレヲ防グトハナ。シカシ、コレサエ手二入レバ、ソレモ詮無キ事……』
 蜘蛛が陰の前にまで来てしまった。
「どうする……!」
 陰は煙を出すのをやめて、盃に手を伸ばす。陰の手に届くまで幾ばくも無い。
 走って取り返そうとしても先程の煙か得体の知れない攻撃で邪魔をされるだろう。しかも、ダンテは魔法で引き寄せるなんて器用な事はできない。
「考えろ……!」
 この間にも、着実に盃が遠のいていく。
 ────どうする……。どうすればいい……?
 ダンテは頭を回転させる。
「いけるか……!?」
 ダンテは思い出す。ゼプトが勇者の力は『どんなモノにでも干渉できる』と言っていた事を。
「一か八か……」
 できるかは分からない。だが、やらなければ想像もつかない程の最悪の事態になるだろう。
 ならば、
「覚悟決めてあがくのが、オレの生き様よ」
 拳に全力で光を貯める。
「────どっせーい!!!」
 拳から放たれた光を纏った衝撃波が、まっすぐに飛んで行く。
「間に合ってくれ……!」
『邪魔ハサセヌ!』
 陰が衝撃波を阻もうと煙の球を出す。
『何!?』 
 衝撃波は煙の球は打ち砕き、尚も直進し続ける。
「行けー!!」
 衝撃波は、魔王の盃を打ち砕いた。
「ぃいよっしゃあ!」
『アア……。何ト愚カナ事ヲ』
 陰は欠片になった盃を拾う。
「やっぱ、それだけでも価値があるんだな? それじゃあ……」
 予測していたのか、ダンテは既に陰の近くまで来ていた。
「お前に渡すわけには、いかねえな!」
 盃であった欠片の散らばる場所。そこにダンテは拳を叩きつけ、魔方陣を展開した。
『ヨセ、ヨスノダ……!』
 陰が手をかざし魔法を止めようとするが、魔法には勇者の力が宿っていて、触れることすらできない。
「飛んでけーい!!」
 欠片は宙に浮き、それぞれ別の方角に、散り散りに飛んで行った。
『……ハ、羽虫ゴトキガ、ヨクモ、ヨクモ!』
 陰は激昂する。
「おっと、指輪が壊れちまったぜ……。やべえな」
 陰はまたも煙を出し、ダンテを追い詰める。指輪が無くなった以上、もう防ぐ手段は無い。
『セメテココデ、我々ノ手ズカラ、消シ去ッテクレヨウ!』
 陰はおぞましいオーラを纏った黒い球体を作り出す。
「どうしたもんか……」
 ダンテはゼティフォールをかついで、煙から避難する。と言っても、煙はどんどん範囲が広まっていくので、逃げ場は殆ど無かった。
「そうだ階段は……? ちっ、遅かったか! じゃ、飛び降りるのは…………無理だ! オレも魔王さんも跡形も無くなっちまう……」
 階段までの道は既に煙で塞がれていた。それに、白雷の塔の高さは尋常ではない。
『逃ゲラレハシナイ。羽虫二シテハシブトカッタガ、モウ終ワリダ……』
 攻撃準備が整ったのか、陰は大きく手を振り上げた。
『消エ去レ……!』
「オレ達こんなに早く、退場しちまうのか~!?」
 ダンテがおろおろと尻餅をつき、半ば諦めて頭を垂らした。
 その時、
「サンクラディオ!」
 空から現れた光の剣が、陰の腕を貫き爆散した。
『ウグァアアア……!?』
「ゼプト!」
「待たせたね」
 魔法の主はゼプトだった。
「魔王さんは生きてるぜ」
「良かった」
『マタシテモコノちから……。忌々シイ』
 陰はもがき苦しむ。
「やむを得ないか……」
 ゼプトは持っていた指輪を全て取り出して握りつぶし、自身に眩い光をもたらす。
「ゼプト、大丈夫なのか?」
「今出し惜しんでいたら、こいつに世界を滅ぼされてしまうかもしれないだろ」
「それはごめんだな。じゃ、一発決めてくれ!」
 未だ陰は苦しんでいるが、徐々に腕が再生してきている。
「ああ、一気に決める。────大いなる光よ、今、邪悪なるモノを打ち払え!」
 ゼプトの光が、さらに明るさを増す。
『我々ハ、我々ノ計画ガ……』
「────サンクルクス!!」
 空を覆っていた雲が開け、眩い閃光が降り注ぐ。
『グガガガガァアア!! しゅヨ、しゅヨー……!!』
 その大いなる光は、陰の体をことごとく貫き、跡形も無く打ち払った。

「やっとだな……。お疲れさん、ゼプト」
「ああ。まさか、こんな事になるとは思ってもみなかったよ」
「確かにな。……けっ、こんな良い朝日が出てるっていうのに魔王さん、気持ちよさそうにグースカ寝てやがるぜ」
 ゼティフォールはダンテに背負われながら、すうすうと寝息を立てて、起きる気配もない。
「ははっ。寝かせておいてやろう。朝日を浴びながら寝るのも良いものだしね」
「そうだな」
「なあダンテ……」
「何だ?」
「終わったと思うかい?」
「……いや、これで終わりなら新しい勇者はどうなる? それに、やられ際にあのデカブツが言っていた……」
とやらの存在だね?」
「ああ」
「さっきのより強いとなると、倒せるか不安だな」
「皆強くならねえと、厳しいな。特に魔王さんと新しい勇者には頑張ってもらわねえと」
「どれだけ俺達が頑張っても、であるふたりが弱ければ意味がないからね」
 ゼプトが塔の上から街を見下ろす。
「ま、あれだけこらしめたんだ。当分は大丈夫だろ!」
 ダンテは笑いながらゼプトの隣に立つ。
「そうである事を切に願うよ……」
 ふたりは朝の空気をすいながら、未来に思いを馳せるのだった。
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