【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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紳士さん

12話 ~追うモノと追われるモノ~

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 ────嘗て私は世界を征服し闇に包んだ。世界を、ヒトを、恨み恐れたがらだ。
 まず恨んだのは、吸血鬼に呪いをかけたモノだったか。光を浴びれば灰になり、血を吸えば魔力が暴走しバケモノになるか狂乱するか死ぬか。しかし血を吸わなければ力を抑えられずに同じ結末をたどる。
 例外として、私は血を吸っても魔力が暴走しないヒトを見つける事ができた為に、生き延びる事ができた。だが、同じ村に住む皆は全滅した。私が手を下したモノもいた。
 それ以来吸血鬼を見つける事はできなかった。この世に吸血鬼が残っているかも分からないが、それでも私は諦め切れずに旅に出たのだ。
 仲間や家臣を増やし、時には別れ、戦いを繰り返し、王の盃を手に入れた私は魔王になった。魔王になれば何も恐れるモノはないと、呪いも無くなると、吸血鬼同族に会えると、幸せなあの頃に戻れると思った。
 だが、そうはならなかった。一向に現れない同族、日を浴びれば焼ける身体、何をしても解けぬ呪いに私は恐怖した。誰が呪ったか疑心暗鬼になった末に、反論するモノや怪しいモノを追放し、力を奪い物資を奪い、逆らえないようにした。
 去って行くモノは少なく無かったが、元より反逆者だったモノが去っただけだと自身に思い込ませ平静を保った。
 日の光を何時しか忌々しく思い始め、盃の力でで世界を闇に包んだ。
 その頃だったか、味覚も感じず、痛みも感じず、ヒトが何を言っているのか分からなくなってしまった。姿こそ変わらずともあの頃の私はバケモノと言って間違いなかっただろう。
 魔王になってから100年が近くなった頃、"神に選ばれし光の勇者の誕生"その噂が広まった。そのせいなのか、世界中で対魔王と立ち上がるモノが増え始めた。民が対抗できぬように手を尽くしたというにこの事態。私は焦り、家臣を総動員させ必死で勇者を探した。そして発見できたのは勇者が16歳の時だった。
 見つかるはずも無かった。一部の家臣が裏切っていたのだ。神と共に民が力を合わせていたのだ。そして、とうとう私は勇者を倒せなかった。私の元に現れた勇者一行は色々な意味で私を上回っていたのだ。
 倒すチャンスが無かったわけではなかった。初めの家臣を倒された時、砦が落とされた時、光の戦士と合流した時、後に勇者の剣と呼ばれる剣を作り出した時、それらの時に私が自ら動けば倒せていた。
 確実にな。
 ただの強さだけなら私が勇者に負ける事は無かったからだ。
 それこそ家臣達が対峙した時、それのことごとくに苦戦を強いられ、旅の道中で何度もやられてしまっていた。
 しかし、あやつは不屈の精神で何度でも立ち上がり、その度に強く逞しくなっていった。
 いつの間にか、世界《私》に抗う若モノがどこまでやれるのか興味が湧いた。面白いと思ったのだ。勇者の存在を。
 だから私は毎回、勇者に送りつける刺客を、少しずつ強くしていった。戦力を調整したのだ。圧倒的になり過ぎないように。
 しかし、勇者の旅が終盤に差し掛かった頃、我が軍も戦力を調整する余裕は無くなっていた。
 私自らが出向く事は無かったものの、戦闘に自信のあるモノは殆ど出陣させた。家臣ひとりで戦わせているから勝てないのかと思い、複数体で組ませたり、大軍で攻めたりもしたが、仲間やヒトの軍やその場にいた民と協力しそれを凌いだ。
 追い詰められた私は、信を寄せている幹部4ニンと共に城にて待ち構えた。決戦だ。
 勇者の仲間は見覚えがあるモノばかりだった。
 不死身の戦士ダンテ。勇者が旅に出る前からひとりで魔王である私に盾突いた男であり、勇者が現れた時には革命軍のリーダーとして協力した。ダンテは何度追い詰めても必ず次の戦場には現れ、革命軍の士気を上げた。民が自身にもできる事があると希望を持つことができたのはダンテのおかげでもある。
 こやつが私の前に現れた時は、『やはりか』と思わざる終えなかったわ。腐れ縁よな。
 次にぴーころせんせー……。もとい白き神獣ぴーころ。一見ただの気の抜けた白い猫にもかかわらず、この猫は、恐ろしい程に強い。
 初めての出会いは、私が悪に染まる前。自分で言うのも恥ずかしいが、純粋な吸血鬼の子どもで、まだ呪いの恐怖も知らない頃だ。
 病弱であったために友はいなかった。たまたま調子の良い時だったか、外に出てひとりで遊んでいた時に、村に紛れ込んだぴーころと私は出会った。
 友となった私達は、そこから次第に外に出て遊ぶようになった。あまりの身体能力の高さに憧れてしまい、私は弟子となり、ぴーころを師匠せんせーと仰いだ。
 まあ、ぴーころは元々旅の途中だったみたいで、私が一通り近接戦闘ができるようになったら、肉球の判が押された紙書き置きを残し去って行った。結局今まで、私は魔法無しの純粋な近接戦闘で勝つことはできなかった。
 故に、ぴーころせんせーが敵になったと聞いた時は冷や汗を流したものよ。
 最後に、とは言っても、魔王城に乗り込んできた勇者の仲間という括りでだが。外には外で仲間や協力者がいたようだからな。
 それで、最後は大魔法使いチャピランティヌス。こやつも私が子どもの頃に出会った。
 私の体が、日々の修業によって丈夫になってきた頃だった。突然、村の近くに隕石が落ちて来てな。
 近くにいた私とぴーころは、急いでその場に向かった。せんせー曰く、『未知に挑む事こそが成長の一歩』らしい。火が燃え盛り、煙がもくもくと立ち上る隕石に、私は恐る恐る近づいた。
 よく見ると、隕石の中心で何やら動いているのだ。何かの事故で巻き込まれたなら助けなければならないと思った私は、覚えたての闇魔法で煙を吸い取りつつ、砂をかけて火を消した。正直、せんせーが手伝ってくれれば一瞬であっただろうがな。
 火を消す事ができた私は隕石を拾ってきた石で破壊した。そして、それは出てきた。
 そう、熱々で、良い焦げ目のついたふんわりとした白パンだ。何とも美味しそうだったのは言うまでもないことだが。
 チャピランだ。色々あって長老の所で住まわせて貰う事になり、チャピランともよく遊ぶようになった。あやつは一目見た魔法を、攻撃魔法に限ってだが、一瞬で習得していった。小さな闇の球を一つだすのが限界の私は、嫉妬してしまい、何度も喧嘩してしまったものよ。
 しかし、チャピランは何モノなのだ?
 そして、チャピランもぴーころせんせーと一緒に旅に出てしまった。世界中の魔法を見てみたいとの事であった。
 ……どれだけの魔法使いを嫉妬させるつもりだ。
 とにもかくにもそのような面々とまみえた私は、思ってしまったわ。そして、戦った後確信した。
『私が倒されるのは運命だ』と。
 しかし、倒されて良かったと今は思う。あれ程忌まわしいと思った朝日を浴びた時は、あまりの美しさに感動してしまった。
 そして、自身の行いへの償いをするために、魔王城を勇者一行に任せ、世界を廻り復興に協力していった。
 そこでは、私の行いに相応の言葉をかけるモノも多かったが、一番反応に困ったのは、暖かい言葉をかけるモノが少なくなかった事だ。
 私としては、100年も悪政を敷いてきた暴君なのだから、想像を絶する暴言を毎日浴び、食事という食事全てに毒を盛られ、数え切れない量の刺客に追われ、地平線を覆う量のモンスターの群れが押し寄せ、寝れば一瞬で処刑でもされる。そんな旅を覚悟していたのだ。
 だが、過酷さは予想の100分の1にも満たなかった。確かにするべきことは沢山あった。疲れる事も沢山あった。
 だが、ヒトを、仲間を、信じて笑いあう。そのような生き方も良いものだと思える位には、皆暖かかった。
 故に私は、どのようなモノであれ、相手にはまず敬意をもって接する事を心がけている。
 ああ、すまない。自分語りが過ぎたな。今日はこれで切り上げるとしよう。長らく生きていると、どうしても話が長くなってしまうようだ。

 ……ふむ、私は誰と話していたのだ? このような何も無い暗闇の中で、いったい誰と?
 ああ、そうか。これは夢だ。長い夢を見ていたようだ。では、そろそろ目を覚まさなければな。
 推測だが、まだ世界を救えてはいないだろう。何故かこれが始まりのような気がするのだ。根拠は何も無いがな。
 もし、夢の中と言えど、誰か話を聞いてくれていたなら、ありがとう。
 では、さらばだ────────。


 白雷が襲われてから1週間が経っていた。
 殆どの白雷の民は魔王城城下町に移り住むことになったが、やはり一部のモノは転居を拒んだ。
 荒れてボロボロになったとしても白雷の街ここが自身の家だと、大変かもしれないが離れたくないとの事だった。
 その気持ちを受け取って、魔王軍の一部を白雷の街に派遣されることになった。警備と復興に手を貸すためだ。
 エドウィンは魔王城との取次役と、皆のまとめ役として街に残った。もともと街のトップのひとりであったのと、魔機について詳しくこわれたモノを直すのも得意であった為、混乱も少なく済んだ。
 バルバラは移り住み希望者をまとめる為と、自身の療養の為に城下に行くことになった。大きなダメージを受けた上で、体に負担のかかる魔法を使ったので無理もない。
 雷御が電力を供給できなくなった為に街を覆う結界が張れなくなったが、先の襲撃以来モンスターの異常発生も無く、小規模の結界なら王城からの魔力供給でなんとかなった。
 
 城下に移り住みを希望した民はまず、魔王軍の魔法使いと協力したゼプトの出した転移魔方陣で城下に連れてこられた。そして、催眠がかかっているモノは、チャピランとその部下たちによってそれを取り払われた。
 セモリーナ率いる魔王城食堂の皆と、城下の志願者達の作ったスープは、心身とも疲れた民に大層喜ばれた。
 そして、怪我したモノも治療され、チャピランが事前に用意していた寝床で皆疲れを癒した。
 寝床とはいっても簡易的な、魔法拡張型テント~中だけコテージ~で、現在希望者には住居の紹介や、建設をとりおこなっている。
 ちなみに魔法テントとは、ボタンひとつでペンからテントになる、旅行者や遠征するモノにとっての必需品である。その中の拡張型とは、魔法によって中の広さ、形をある程度自由に組み替えられ、その上家具家電も出し入れ自由な、『これだけで良いんじゃないか?』と言うヒト続出の最新商品である。ピンキリだが種類によっては、家を建てるより高いものも存在する。
 中だけシリーズは、外までシリーズよりリーズナブルであるが、中がより見えにくいためプライベートを大事にするヒトに人気だ。そして今回用意された“中だけコテージ”は、二階建ての暖炉付きで、なかなかの快適さとお値段を誇る。
 魔王軍と城下の民の全面的協力と、チャピランの仕事斡旋のおかげで、一週間経つ今では、もう殆どのモノは仕事や住むのに困らなくなっていた。
 もともと白雷に通勤で来ていたモノは、簡易的ながらも建物を用意したり、リモートワークで頑張ってもらっている。
 チャピランの手腕は凄まじく、公共事業の現地調査、政策の取り決め、税の扱い、民の要望調査等、殆どひとりで担っている。そのためとても忙しく、ぴーころに乗っていつもうろうろしている。
「ありがとうございました!」
 魔王城城下町の大型スーパーにある鮮魚店。ここにも白雷から移住したモノがいた。
「もう慣れたもんだな。どうだ、ずっとここで働く気はねえか?」
 店主が冗談交じりに言う。
「いいんですか? 丁度相談しようと思っていた所なんですよ」
 このモノは、白雷の街でも鮮魚を扱っていたのでここに応募したのだ。
「お、本当か! いやー嬉しいね。若いのが入ってくれると、こっちもやり気が漲ってくるってもんだ」
 ふたりが談笑していると、店内にチャピランとぴーころが現れた。
「いらっしゃい。って、チャピランさんとぴーころさんじゃないですか!」
「どうも、こんにちは。巡回ですか? お疲れ様です!」
「あ、どうもどうもこんにちは。ちがった。……ごくろう、よきにはからえ!」「にゃぴぴ」
 チャピランは最近、なんとか威厳を出したいが為に偉ぶっているのである。大臣なので実際えらいのだが。
「はははっ。ありがとうございます」
「チャピランさん、今日はどうしたんですかい?」
「ちと、白雷の皆さんの状況確認をしている所なんですな。して、職場環境はどうですかな?」「ななななう」
 チャピランはぴーころから降りる。
「良いです。この先もここで働こうかと話していた所なんですよ」
 若者は快活に答えた。
「それはよかったですな。では、何か困った事があったら言ってくだされ」
 チャピランは満足そうに言った。
「そうだ、おふたりさん。良いカツオをタタキにしてるんですが、食べますかい?」
「へへっ。出されたものを食べないのは、失礼ですからな~。じゅるり!」
「なうなうなうなう!」
「じゃ、お客さんもいないし、皆で食べましょうかい」
 店主が奥から小皿を乗せたお盆を持ってきた。
「お! いいですなあ」「うにゃあ」「美味しそうですね」
「だろ?」
 チャピラン達は、手が空いた時よく巡回をしている。治安維持や、皆の意見を取り入れるためでもあるが、何より、このように
「うんみゃ~!」「にゃぴ~!」
 よく美味しいものや、プレゼントを貰えるからである。
「ああー。良いカツオですね」
「本当だなあ」
 そして、お店もこのふたりに商品を提供することで、
「こんなに美味しかったら、皆も食べなければジン生を損してしまいますな」
「なななう」
「ぴーころもそう思いますか。店主、このカツオを皆に教えて回ってよいですかな?」
 こんな風に宣伝もできて、win-winなのである。
「ありがてえ。お願いしますよ」

『チャピラン殿~! ぴーころ殿~!』
 遠くでふたりを呼ぶモノがいた。
「む、ローランか。ごちそうさまでした!」「にゃら!」
「はいよ」
 カツオのタタキを平らげたふたりは、店主に皿を返し、口を拭った。そして、チャピランはぴーころに乗り、
「では、にげろー!」「うぅ、にゃう!」
 そそくさと逃げて行った。
「あ! なんで逃げるんですか!」
 ローランが去って行くふたりを見つける。
「やば!」「な、なう!」
 ローランが呼びに来るときは昔から面倒な事や大変な事が多いので、ふたりはよく逃げ出そうとするのだ。
 分かりやすくいえば、ふたりでないと対処できない事である。
「ま、待てー! また通信切っていたでしょ!」
 ぴーころはできるだけスピードを上げる。だが、住民にぶつからないように走れば、どうしても調整しなければならない。
「いけいけー!」「お、やってるな」「まいどー」「ローランさんがんばれー!」「ぴーころさんこっち空いてるよ!」
 ローランが目覚めてそれ程日は経っていないが、連日行われるこの逃走劇は、すでにこの町の名物となっている。不可抗力だが、こうしたやり取りが皆の緊張を和らげ、ストレスを減らす手伝いにもなっているとか。普段から仕事をしっかりやり遂げているからこそでもあるのだろう。
「何で毎回にげるんですかー!?」
 特に理由はないが、捕まるか捕まらないかのこのスリルがたまらないそうだ。
「ローランめ、近づいてきよったか。へへっ。面白くなってきたんですな!」「にゃろっぷ!」


 ────────夕日で真っ赤に照らされた河川敷。
「よ、ようやく、やっと、捕まえた……」
 数時間に亘る大逃走劇に幕が降ろされた。
「ふい~」
 満身創痍のローランとは裏腹に、チャピランはとっても満足そうだ。しかも、ぴーころに乗っていたのもあって未だ元気いっぱいである。
「何でそんなに楽しそうなんですか」
 振り回されたローランは何か文句を言ってやろうと思っていたが、チャピランがあまりに楽しそうで、調子を崩されてしまった。
「して、何の用ですかな?」
「そうだ、忘れてましたね……。ようやく、ゼティフォール様の目が覚めましたよ!」
「これ! そういう大切な事は早く言うのだ!」
 追いかけっこ、もとい大逃走劇の事など忘れたように怒るチャピラン。
「えー!!?」
 チャピランの理不尽な要求に、ローランはとても驚いた。それはもう、驚きすぎて、下顎が外れてしまう程に。そして、外れたのを気付かずに帰ってしまう程に。

 ちなみにローランは、釣りをしていたおじさんがたまたま釣り上げ、翌日たまたま通りがかった大逃走劇唯一の勝者ぴーころに届けられるまで、下顎無しの生活をしていたという。
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