【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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幼女+紳士さん

17話 ~わるいことしたら、『め!』~

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「────────はっ!?」
 ゼティフォールは突然目を覚ました。
「どうなったのだ……?」
 仰向けに倒れているので周りがどうなっているか分からないが、何とか無事だったようだ。それに、
「火が付いているな。……暖かい」
 顔を横に向けると、パチパチと燃える焚火が、ゼティフォールの冷えた身体を優しく暖めてくれていた。
「……ほう。綺麗だな」
 再び空を見上げると、夜空いっぱいに広がる星の光が、闇夜を神々しく彩っていてとても綺麗だった。
「ね、きれいでしょー!」
「む……?!」
 突然予想だにしていなかった所から声を掛けられて、ゼティフォールは慌てて体を起こした。
「おはよ……。こんばんは!」
「こ、こんばんは……?」
 ゼティフォールは一切敵意の感じないその挨拶に少し混乱したが、なんとか返事をすることができた。
「えっとね、くらかったから、ひぃつけたよ!」
「……君が助けてくれたのか?」
 声の主は火の向こう側にいて良く見えないが、声から若いのは分かった。
「くっきーたべる?」
 そう言うと、声の主はこちらに近づいてきた。
「げんきになるくっきー。すっごくおいしいの!」
 火で照らされて声の主の姿がはっきりと見える。
「……思ったより、小さいな?」
 その姿にゼティフォールは驚いてしまった。
 それもそのはず、こんな真夜中の森でゼティフォールを助けてくれたのは、淡いピンクのドレスを着た、4歳程の女の子だったからである。
「ん? くっきーたべないの?」
 女の子がしゃがんで、手に持っていたクッキーを差し出しつつゼティフォールの顔を覗く。
「いや、頂くとしよう。朝から何も食べていなくて腹が減っているのだ」
 ゼティフォールは身体を起こし、座った状態でクッキーを受け取る。
「そか! じゃあ、もういっこあげるね」
 女の子がポケットからもう一枚クッキーを取り出した。
「ふむ、私としては助かるのだが、貰ってもよいのか?」
「うん。いっぱいあるし、おなかへってるんでしょ」
「そうか。では、遠慮は野暮というものだな。いただきます」
「あ、おあがりなさい!」
 女の子は嬉しそうに言った。
「ふむ……。これは美味い。空腹と疲れに染みるな……」
「よかったー。げんきなった?」
「ああ、おかげでな。ありがとう」
 ゼティフォールは柔らかな甘みとサクッとした食感を愉しんで、クッキーをくれた女の子に礼を言った。
「どういたまして」
 そう言って女の子はスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて礼をした。
「ふむ……。どこかの貴族の子か……?」
 独り言を呟いた。女の子のそれは砕けた印象はあるものの、なかなか手慣れていて、しかも高級そうなドレスを身に纏っていると来たら、そう考えるのもおかしくはないだろう。
 しかし、もしそうならば何故このような所に? しかも親や大人と同伴でもなくたったひとりで……。
「なあ、君は何故ここに?」
 ゼティフォールは女の子に尋ねた。
「……む、何処へいったのだ?」
 しかし、女の子の姿はいつの間にか消えていて、ここにはゼティフォール以外だれもいなかった。
「夢……。いや、焚火はあるし、空腹もいくらか紛れている。もしかすると、この森の精霊かもしれぬな」
 ゼティフォールは再び仰向けになる。
「ふむ。怪我が治っているな。これもあの子がか? もし次に会う事があれば、礼をしないといけないな……」
 流石に破れた服は治っていないが、三つ目オオカミに付けられた傷はどれも塞がっている。
「今日は疲れた。もう寝るとしよう……」
 気づけばオオカミの遠吠えも聞こえないし、夜の森の不気味さも星の輝きによってかき消されていた。
「……すぅ、すぅ」
 それに安心したゼティフォールは、地面の上だというのにものの十秒ほどで眠りに落ちた。とても気持ちよさそうな寝顔をして。

 
「う、くぉぉおああ……。寝違えてしまった、ようだ。痛たたた……」
 下にクッションになるような葉っぱや柔らかい土などを一切敷かずに寝たせいで、ゼティフォールの体はであった。
 そして、ぎこちない動きながらもなんとか背伸びやストレッチをして、ようやく動きがマシになる。
「今度野宿をする場合は、何か考えねばならぬな」
 ゼティフォールは自分の周りを確認する。
「ふむ、魔力の残滓か……。やはり夢ではなかったようだ」
 目を凝らすと、焚き木の火の着いていた部分に、魔力の小さな粒や灰のようなものが見えた。これが魔法を使った後に出て来るだ。残りカスではあるが、どんな魔法を使ったかだいたいの情報を読み取れるため捜査に使ったり、飲み込んだり塗布すれば少ないながらも使った魔法の効果を得られたりもする。
「身体が冷えているな。少し飲んでおくとしよう……」
 例えば今ゼティフォールがしたように、炎の魔法の残滓を飲み込めば、身体を温める作用が得られるのだ。塗布しても良いが、そうなると特定の場所しか温熱効果が得られないのだ。
 しかし、何でも飲み込めば良いというものでもない。魔法の種類や触媒によっては害を為す可能性も十分にある。故に、今回は飲み込んだのは、焚火にしか使っていないのが判っているからである。
「温まってきているな。よし、喉も乾いたし、川に行くとしよう」
 ゼティフォールは立ち上がる。
「ふむ……。身体を洗った場所より少し上流の方が良いな。問題は無いと思うが、万が一が残っていても困る」
 こうしてゼティフォールは昨日も行った川に向かった。
「昨日は気付く余裕も無かったが、こうして見ると、なかなか長閑な場所であるな」
 小鳥の鳴き声が聞こえたり、小さな虫が歩いていたり、無害そうな草食動物がいたり、草木が風で靡いたりと、ここだけ切り取ると平和そのものであった。
「この辺りでよかろう」
 お目当ての場所に着き、ゼティフォールは手で水をすくって一口飲んだ。
「ふむ。なかなか美味であるな」
 水分もまともに取れていなかったので、より一層美味しく感じたのもあるだろう。だが、それを差し引いても美味しい水である事に間違いは無かった。
「む……?」
 ゼティフォールが水を堪能していると、肩の辺りから布が垂れてきた。
「これは……。もしや……!?」
 ゼティフォールは自身の背中に目をやる。
「ああ……! まさか、これ程までとは……」
 昨日ゼティフォールは、背中部分を三つ目オオカミに噛まれた。必死であったのと、それ程強く噛まれたように感じなかった為あまり気にしていなかったが、確認してみると、服の背中部分は現在、といって過言ではない程にまでなっていた。
「気に入っていたというのに……。ああ、昨日からなんと不運なのだ」
 ゼティフォールはとても落ち込んでしまった。何故なら、
「ああ、魔王になる前から、ずっと大切にしていたというのに。恩人から貰ったものだというのに……」
 と、いうわけだからだった。
「仕方ない。これ以上状態が悪くなる前に……」
 ゼティフォールは上着を脱ぎ、財布用に持たされたアイテムポーチに収納した。一応魔法で拡張してはいるが、小型のお金用なのであまり多くは入らないようになっていて、服をいれてしまえば殆ど満タンになってしまっていた。
「はあ……」
 ゼティフォールは座り込んで空を眺めた。お腹は減っているが、今は何もする気にはなれなかった。とは言っても、今は植物以外自力でとるのも難しいのだが。
『クピクピクピ……』
 近くで水を美味しそうに飲む音がした。
「む!?」
 ゼティフォールはヒト助け船が来たと思って、嬉しくなってそちらに顔を向けた。
「む……」
 が、ヒトではなかった。
「逃げろ……!」
 それどころか、一番見たくない相手。三つ目オオカミであった。
『ガルルルゥッ!』
 しかも、この殺気の立ち具合から、昨日撒いた個体であろう事は想像に難くない。
「何故これ程執拗に追いかけて来るのだ!」
 ゼティフォールは木を避け、岩を登り、石を投げ、枝で牽制しつつ逃げ続けた。だが、森での移動は三つ目オオカミの方が長けていて、次第に距離を縮められていく。
「……くっ!? しまった!」
 しかも、地面から飛び出していた木の根っこにゼティフォールは躓いてしまう。
『バウッ!』
 三つ目オオカミは吼えながらゼティフォールに跳びかかった。
「ぐっ……!」
 ギリギリの所で三つ目オオカミの首の所を抑え、からがら噛みつかれるのを防いだ。
『ガウガウガウッ!』
 しかし、その程度で収まる三つ目オオカミではなく、少しでも気を抜けば噛みつかれ、もといこの勢いなら食い殺されかねないだろう。
「させるか……!」
 ゼティフォールは三つ目オオカミの腹に蹴りを食らわせる。
『ギャウン!』
 三つ目オオカミは不意を突かれて怯み、これ以上の危険を警戒してゼティフォールから離れた。
「はあ、はあ、はあ……」
 何時までも寝転んでいては危険なので、ゼティフォールも少し距離を取りつつ立ち上がった。
『グルルルル……』
 牙剥き出しである。
「仕方あるまい。ゼティフォールの名において顕現せよ、魔王の盃!」
 ゼティフォールは魔王の力を呼んだ。今まで忘れていたわけでは無い。見知らぬ土地、つまり外国で安易にその力を使って、国際問題に発展するのを危惧した為に、なかなか使うまでに踏み込め無かったのだ。しかし、ここで命を落としてしまっては元も子もない。故に、この選択をしたのだ。
「…………?」『…………?』
 しかし、何も反応せず、森に声が響いただけに終わってしまった。
『ガルルゥッ!』
 三つ目オオカミが跳びかかる。
「何故何も起きぬのだ!」
 ゼティフォールは踵を返し、全速力で逃げだした。
「魔王の盃! 魔王の盃! 出てくるのだ!」
 出るはずもないのだ。何故なら先の戦いにて、止むを得ずだがダンテが盃を壊してしまい、ゼティフォールの内には魔王の盃が存在しないからだ。
「もしや……! ゼティフォールの名において顕現せよ、闇の盃!」
 またも声が響くだけに終わった。しかも、大声を出したせいで、無駄な体力を使ってしまった。
「ふう……。何故使えぬのだ!」
 出るはずもないのだ。何故なら先の戦いにてダンテが止むを得ず壊してしまった魔王の盃。それと闇の盃は一体化していた。つまり魔王の盃が壊れたという事は、即ち闇の盃も壊れてしまっているという事なのだ。
『バウッバウッ!』
 この間にも三つ目オオカミは着実にゼティフォールまでの距離を詰めている。
「何か方法は無いのか……!」
 しかし、魔法は使えない。近接は皮膚の柔らかい所に入れば少しダメージが入るが、それでもあまり期待できない。
 かと言って、罠でダメージを与えようにもめぼしいものは植物の蔓や石くらいなもので、せいぜい少しの足止めしか期待できない。そもそも、この状態から罠をつくるのは不可能だが。
「しまった!」
 走って森を抜けた先にあったのは、高い崖だった。
『グルルル……』
 ゼティフォールはまたも追い詰められてしまった。
「やはりここ二日、私は不運のようだ……」
 三つ目オオカミに向き直る。
「私も、覚悟を決めるとしよう……」
 後ろは崖、前は三つ目オオカミ、左右は森だが、三つ目オオカミの足の速さを考えれば森に飛び込む前に捕まってしまう。今回は上着もないので、もし噛まれてしまえば直接皮膚だ。魔法が使えない今は、絶対に避けたいところだ。
「ふぅー」
 ゼティフォールは息を整える。ここまで来てしまえばもう、ヤルかヤラれるかだ。
『ガウッ!』
 先に動いたのは三つ目オオカミだった。三つ目オオカミはゼティフォールを鋭い爪で引っ掻く。
「ふんっ!」
 皮一枚で横に回避する。そして、ゼティフォールは三つ目オオカミの腹を蹴り上げた。
『ガウッ』
「まだだ!」
 空中にいる三つ目オオカミに、連続で拳を入れ、サマーソルトでさらに蹴り上げる。
「いくぞ……!」
 三つ目オオカミが空中にいる間に、ゼティフォールは腰を落とし、息を整え、拳を引く。
「はあっ!」
 そして、三つ目オオカミが自身の正面に来た瞬間、ゼティフォールは渾身の力で正拳突きを放った。
『ギャウンッ!?』
 三つ目オオカミは正拳突きを受けて2m程吹き飛び、地面に転げ落ちた。
「予想以上に重たかったが、これを受ければ流石のあのオオカミも……」
 ゼティフォールは『退いてくれるだろう』という期待をしたが、
『グルルル……。ガウ!』
 三つ目オオカミはまだまだ元気いっぱいで、なんなら涎まで垂らして威嚇している。
「何という事だ……!」
 だからと言って、ここで諦めてしまえば食われるだけだ。
「今度はこちらからだ!」
 地面を力強く蹴り、素早く距離を詰め、
「避けてくれるなよ……!」
 その勢いを活かして三つ目オオカミの顔目掛けてジャンプキックをお見舞いした。
『キャイン!』
 咄嗟に回避を試みた三つ目オオカミだったが、間に合わず横っ腹にキックをうけてしまった。
「よし」
 ゼティフォールは吹き飛ぶ三つ目オオカミを更に追いかけ、
「これでどうだ!」
 上半身をひねりつつ跳躍し、空中で回転して、威力をそのままに渾身の蹴りを打ち込んだ。
『ガフッ』
 三つ目オオカミは大きく吹き飛んで、身体を何度も地面に叩きつけられた。
「は、はあ、はあ、はあ……。しかし、体力が無くなるのが早すぎる……」
 体力はもう限界で、立っていられなくなったゼティフォールは膝を付いてしまった。昨日のクッキー以来、水しか口にいれていない故、仕方ない事ではあるが。
「な、何……!?」
 倒れていた三つ目オオカミが立ち上がる。流石に少しはダメージが入ったようだが、動きは先程と殆ど変わっておらず、決定打には程遠い事が判る。
「くっ……」
 ゼティフォールは力を振り絞り立ち上がろうとするものの、立ち眩みで膝を折ってしまった。
『ガルルゥアア!!』
 三つ目オオカミがゼティフォールに跳びかかる。
「ぐふっ!」
 ゼティフォールは首を噛まれそうになるも、腕を盾にすることで免れる。だが、押し倒されてしまい、押し返す力も残っていない現状、絶望的と言わざるを得ない。
「ぐ……」
 昨日と同じように草でくすぐるにも、手の届く範囲に草ははえていない。それに、腕に食い込む牙を緩める手を放してしまえば、肉を食いちぎられかねない。
「このような、所で……!」
 次第に牙が食い込んでいってしまう。
「もう、無理、だ……」
 ゼティフォールが半ば諦めた瞬間。
「こまってるの?」
 ひとりの女の子の声がした。
「なっ!?」
 三つ目オオカミに抵抗しながら顔を横に向けると、直ぐ傍に昨日の女の子がいた。
「しんしさん、こまってるの?」
 女の子はそう言いながら更に近づく。良く見れば精霊では無く、生身のヒトだった。それに気付いたゼティフォールは、
「何を、しているのだ……! 早く逃げろ、食われても責任はとれぬ、ぞ……!」
 自分はもうどうしようもないかもしれないが、昨日助けてくれた女の子を少しでも危険から遠ざけようと、必死に抵抗しつつ逃げろと叫んだ。そう、最後の恩返しにでもなればと思ったのだ。
「……あたらしいあそび?」
 しかし、女の子に必死の訴えは届かず、むしろ楽しそうにしている。
「これは、遊びなどではない! ぐっ、私は、もう限界だ……!」
 三つ目オオカミがゼティフォールの腕を横に放り、今度こそと、首に噛み付こうとする。
「あ、ちがでてるよ!?」
 ゼティフォールは噛まれてなかった方の手で三つ目オオカミの下顎を掴み、今回もギリギリで耐える。
「分かったで、あろう……! 遊びではないのだ。だから、早く逃げてくれ……!」
 噛まれていた方の腕の感覚が無くなっており、もう動かすことはできない。片手だけでは、そう長くはないだろう。
「……」
 女の子はその場で考えてしまい、なかなか動かない。
「死にたいのか!!」
 ゼティフォールはなかなか逃げようとしてくれない女の子に、業を煮やしてしまい、思わず叫んでしまった。
「わ!」
 驚いた女の子は、我に返る。
「しんしさん、このオオカミさんにいじめられてるんでしょ?」
 やや真剣な顔つきで女の子がゼティフォールに問う。
「あの女性と同じ……?」
 良く見ると魔王城でゼティフォールを助けてくれた先見の民さきみのたみの女性同様、赤髪で、それに小さいながらも金色の翼が生えている。
「それより、何故逃げないのだ! 確かにこやつに、困らされてはいるが、くっ!」
 一瞬力が抜けてしまい、その時に牙が顎のあたりをかすめる。
「そか! じゃあ、たすけてあげるね?」
 女の子は笑顔でそう言うと三つ目オオカミの傍により、
「何をする気なのだ……?」
 手を振り上げ、三つ目オオカミ目掛けて小さな手の平を振り下ろした。
「め!」
 ────ペシッ!
『キャウウウゥゥ~~~~~ン!』
「え、え!?」
 女の子の『め!』こと平手打ちを受けた三つ目オオカミは、地面で一度バウンドした後空に飛んで行き、星となって見えなくなってしまった。
「え……?」
 あまりの予想外過ぎる展開に、ゼティフォールは語彙力を失い、『え?』しか言えなくなってしまった。
「え?」

 
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