【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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幼女+紳士さん

18話 〜力が欲しい〜

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「まさか。このような所に階段があるとはな」
 三つ目オオカミに襲われた場所から数分歩いた先に、崖を登るための階段があり、現在ゼティフォールと助けてくれた翼が生えた女の子はそこを登っている。その階段は長らく使われていなかったのか、錆や塗装はげが目立ち、ステップに足を掛ければ『ギィ』と音が鳴り、普通なら壊れないか少し心配になって使うのを避ける程であった。
「うん。えとね、ここのぼったら、まちがあるの」
 しかし、ふたりともそのような心配などしておらず、足取りは軽かった。
「ほう。それは良かった。しかし、このクッキーは何度食べても美味いな」
 ゼティフォールは女の子から何枚かのクッキーと水を少しを貰い、腹を満たしつつ足を進める。
「でしょー」
 女の子は翼で飛ぶとまではいかないが、羽ばたかせてステップを何段か飛ばしながら進んでいた。
「何から何まで助かった。ありがとう。君がいなければ今頃私はあそこでオオカミのエサにでもなっていただろうからな」
 ゼティフォールは女の子に礼を言った。
「どういたまして!」
 女の子は一瞬振り向いて言った。
 三つ目オオカミを『め!』で星になる程遠くへ吹き飛ばした後、女の子は持っていたスプレー型の回復薬でゼティフォールの腕の傷を治してくれていた。それに、今現在“元気になるクッキー”と水を分け与え、ついでに町までの道案内までしてくれているのだ。
「それにしても、君は何故このような所にひとりでいるのだ。親は近くにいないのか?」
 ゼティフォールは、自身に血をくれた女性の事を思い出しつつ訊いた。
「えとね、ははうえは、すごくとおくにいるの。ちちうえはね、いまさがしちう」
 特に気にもしていない様子で女の子は答えた。
「そうか、すまない……。寂しい思いをしているのだな」
 そんな様子に、ゼティフォールの方が気を落としてしまう。
「なんであやまるの?」
 女の子は足を止めてゼティフォールに訊く。
「いや、辛い事を思い出させてしまったかと思ってな……。そう言えば、“父上”を探しているのだろう、誰か助けてくれる大人はいないのか?」
 今まで女の子と一緒に誰かがいるのを見たことがなかった。
「ん~……。おとなのヒト? はいないよ」
 少し困惑したように女の子は言った。
「ひとりで旅をしているのか。危険ではないのか? モンスターや悪いヒトもいるし、危険な場所だってある。怖くないのか?」
「こわいことは、なかったよ?」
「本当にか?」
 少し驚いた様子でゼティフォールが言う。三つ目オオカミの一件でゼティフォールより逞しいのは判るし、色々サバイバルの道具を持っていて準備も万全のようだが、まだ小さな子どもである。普通なら、大人と一緒に行動をし、護られるのが一般的であった。
「うん」
 女の子はまた階段を上る。良く見れば崖の上まであと少しだ。
「そうか……。オオモノとしかいいようがないな」
 あのオオカミを前にして怖くも感じなかったし、脅威とも思っていなかった。それに、ひとりでの野宿も問題ないという事だ。嘘を言っている様子もない。
「ついた!」
 女の子は階段を登り切り、崖の上にあった草原に足を踏み入れる。そして、嬉しそうに何度もジャンプをしている。
「早いな。……ふむ、魔王を越える強さの子どもか。世界はどうなってしまったのだ?」
 ゼティフォールは手を顎にやる。
「まだー?」
 女の子は上から顔を出し、待ちきれないとばかりにゼティフォールに言う。
「ああ、すまない。すぐに追いつく」
 ゼティフォールは足を速める。
「あの女性はと言っていたが、もしやあの子がそうなのか? いや、似てはいるが瞳の色も違う上に、髪はあれほどくせ毛ではなかったはずだ。しかし、見た目など、魔法か何かで変えられるからな……。それに、本人でなくとも関係者の可能性も捨てきれぬ。まだ結論を出すには情報が足りぬな……」
 考えながらも歩を進め、ようやくゼティフォールも階段を登り切った。
「おそーい。くたびれちゃった」
 女の子は不満そうな顔をしつつ、芝生の上で座っていた。
「待たせたな。……ほう、ようやく町のお出ましか。これ程近くにあったのだな」
 崖から百メートルもない所に町があった。
「じゃあ、いこっか」
「ああ」
「まちについたら、おふろはいんなきゃね!」
 女の子が楽しそうに言った。
「まあ、入りたくはあるが、何故だ?」
 ゼティフォールは何故風呂の話題になったのか分からなかった。
「だってしんしさん、くさいんだもん!」
「む、本当か?」
 思わず眉間にシワが寄ってしまう。
「うんちのにおいするよ?」
「……。はっ……!」
 ゼティフォールは手や足等、自身の匂いを嗅いでいく。
「確かに……。あの時か」
 ゼティフォールは昨日、三つ目オオカミの追跡を免れる為に、動物かモンスターかのフンの混ざった土を全身に塗った。その後川に入り軽く洗ったが、その程度では頑固な臭いや汚れが落とせる訳も無く、薄くはあるがしっかりそれの臭いが染み込んでいた。
「それに、おようふくも」
「……そうだな。足りるであろうか?」
 ゼティフォールは少ししか入っていない財布を眺める。
「いこ!」
 足が重たくなってしまったゼティフォールを女の子が呼んだ。
「ああ」

「……ここはラブラドリーテというのか。ふむ、活気があって良いところだ」
 交通機関や機械、魔機こそ発達はしていないが、何軒もお店や家が建ち並び、道路には行商のモノか車が何台も通っていて、道行くヒトも活力があった。
「うお! なんだ?」「くさ!」
 ゼティフォールを見たヒトが全員ではないにしても驚いたり訝し気な顔をしていた。
 上半身裸で臭い男が道の真ん中で立っていたら仕方のない事であるが。
「どいてくれ、そこにいたら邪魔だよ!」
「おっと、すまない」
 ようやくゼティフォールは道を開ける。
「しんしさん、やどはあっちね」
 女の子が宿の看板のある方向を指さす。
「わかった」
「じゃあにー」
 ゼティフォールが返事をするが早いか、女の子はそう言って人混みに紛れてしまった。
「あ、待ってくれ……! 名前くらい聞かせてくれ!」
 ゼティフォールも慌てて人混みに入り女の子を探すがもう影も見つからなかった。
「行ってしまった。……色々聞きたかったのだがな」
 見渡せども姿を確認出来ないので、ゼティフォールは教えて貰った宿を目指した。
「仕方ない、今は風呂だ」
 ゼティフォールは『いつの間にか現れて、気付けば姿を消して、不思議な子だ』と思った。
 父親を探すと言っても、ひとりで探しているようだし、見つける当てはあるのだろうか?
 それに、子どもだけでは行けない危険な場所や、対処できない事だってあるだろう。
「今度見つけたら、協力を持ちかけてみるとしよう」
 昨日に引き続き、今日も助けてくれた恩を返さなければならない。それに、血を分けてくれた女性の手掛かりにもなるだろう。
「いらっしゃいませ」
 ゼティフォールが宿屋の扉を開けると、中から店員が声をかけてきた。
「すまない。風呂は入れるであろうか?」
「……はい、入れますよー。一名様のご利用でしょうか?」
 上に何も着ていない事については特に触れず、店員は自身の業務に集中した。
「ああ」
「宿泊はどうされますか?」
 ついでに臭いについても触れずにいてくれた。
「少し町を廻りたいのでな、その後考えても良いだろうか?」
「畏まりました。では、お風呂のみのご利用ですね?」
「ああ。お願いする」
「では、300になります」
 ゼティフォールの聞いたことのない単位だった。
「ディア?」
「はい、300ディアです。どうかなされましたか?」
 ゼティフォールは少し考え、
「ああ、お金の事であるな!」
 ようやく理解した。そして財布から口を塞いでしまっている服を一旦外に出し、中から適当にお金を取り出した。
「これで足りるであろうか?」
 ゼティフォールはお金を店員に渡して確認してもらう。
「……これ、ディアじゃありませんね。外国のお金みたいですよ」
「真か?」
「はい。どこのでしょう? 私はあまり詳しくないんで判りませんが……」
「……ああ、そうか! これはアレッサンドリーテの金という事か。国によって違うのだな?」
 アレッサンドリーテに行く直前に持たされた財布なので、その場所で使えるお金なのだった。
「はい、そうですね……。どうされますか?」
「ふむ、この金をそのディアとやらに替える事はできぬのか?」
「そうですね……。銀行に一度預けて頂いて、ディア取引きに変更して、それからご希望の金額のディアを取り出して頂ければ、できるはずです」
 店員は考えながら教えてくれた。
「ふむ……」
「ああ、それかお金を預けていらっしゃるんでしたら、パルトネルでもお支払いできますよ!」
 ゼティフォールが浮かない表情をしているので、店員は代替案をだした。
「すまない。銀行口座の開設はどこでできるのであろうか?」
「……ええっと、ここを出て北にまっすぐ行って頂いた先の右手にあります」
「ついでに訊くが、どのようにして開設するのだ?」
「それは銀行員の方が教えてくれますので、そちらに聞いた方が確実でしょう。ですが、身分証明書は事前に用意しておかないと開設できませんね。持ってらっしゃいますか?」
「……いや、無いな」
 ゼティフォールはズボンや上着のポケットや、財布の中身を確認したが、それらしいものは何もなかった。
「そうか、きっとローランがもっているのだな……」
 ゼティフォールの荷物はいつもローランが持ってくれているのだ。
「パルトネルがあればそれでも宜しいのですが……。まあ、持ってらっしゃるならわざわざ今から口座を作らなくてもお支払いできるのですが」
「携帯万能機で、何でもできるパルトさんであろう? 持っているなら既に出しておるわ! しかし、持っていないものを、どう出せばよいのだ……」
 ゼティフォールは途方に暮れてしまった。
「申し訳ございませんでした……。お知り合いの方や、ご家族様が近くにいらっしゃったりは……?」
 店員がまたも代替案を出してくれた。
「先に訊くが、ここは何という国か教えて貰っても良いだろうか?」
「はい?」
 疑問に思うのも当然だ。不法入国者や一部の知能あるモンスターですら自身がどの国に居るのか判るのに、目の前の男は知らないときたら、記憶喪失かなにかと思うだろう。
「もう一度訊く。ここはどこなのだ? 故あってこの国に来たが、ここがどこか知らされてなくてな……」
「はあ……。ディアマンテの南東にある町のラブラドリーテです。ええ、ここには許可を得て入国されたんですよね……?」
 店員は訝し気にゼティフォールを見る。上を着てなくて、臭くて、自分がどこの国にいるかも知らない男だ。怪しくないはずがない。
「も、勿論だ。許可を得ていないはずがないであろう? 変なことを訊くでないわ……」
 ゼティフォールは冷や汗をかく。
『ディアマンテか……。あやつが助け船をだしてくれるだろうか? いや、400年前に会ったきりだ。それ程親しいわけでもない相手に、わざわざ王が仕事を置いてこちらに手を貸すかも分からないな。そもそも生きているのか? 巨人は長生きとは言っても、寿命がどれ程かは知らぬからな……』
 ゼティフォールはひとりごとを呟いた。
「あの、お客様? お客様は、なんですよね?」
 警察や役人を呼んで捕まえなくても大丈夫なヒトなのか、という意味だ。
「ああ。すまないが、少しここを出るとしよう。知り合いが近くにいたはずなのでな、そのモノを当たってみることとする。手間を取らせたな、ではさらばだ……!」
 ゼティフォールは店員の顔色を見ないようにして、怪しまれないようにできるだけ優雅に店を出た。
「あ、ありがとうございました?」
 店員は困惑しながら挨拶をした。
「……ふー!」
 店を出たゼティフォールは、人通りの少ない裏路地に入り大きく息を吐いた。
「大丈夫か、問題ないか? 一国の王が、それも世界の危機を救うはずの魔王であるこの私が、不法入国をしましたなぞ、洒落にもならぬわ……」
 ゼティフォールは緊張からか早口になってしまっていた。
「しかし、あの灰色の髪の吸血鬼は、何故私をここに運んだのだ? それに、を探せと言っていたな。何のことだ? あと、あっという間も無くどこかへ行ってしまったあのらしき女の子も気になるな。礼もしそびれてしまったしな……」
 ゼティフォールは空を見上げる。
「まさか魔法補助や通信、映像を映し出すだけに飽き足らず、身分証明や代金支払いにまで使えるとは。これならばすぐに買っていれば良かったわ。パルトさん、パルトさんさえあれば……! いや、無いモノに文句を言っても仕方あるまい。それより、これからどうしたものか……」
 一瞬悪に堕ちて力を求めるような状態に陥りながらも、なんとか正気を保ったゼティフォール。
 その時、ひとりのドワーフがゼティフォールを見て、
「やっと見つけました!」
 と言った。しかもよく見るとスーツを着ていて、襟にバッジまで付けている。
「通報されていたのか……!?」
 役人か警察関係のモノだろう。きっと、宿屋の一件で怪しいと思った店員が通報し、不法入国の疑いがある不審者をつかまえてくれか何かと言ったに違いない。
「それ以外でこの町のモノが私を探すなぞ、見当もつかぬからな」
 スーツのドワーフが少しずつ近づいてくる。では、どうするか。
「逃げるしかあるまい!」
 ゼティフォールはドワーフとは反対方向に走って逃げる。
「あ! 待って下さい!」
 ドワーフはそう叫んだあと、
「逃げられました。現在そちらに向かっているようですので、準備をおねがいします」
 無線で仲間らしきモノに連絡をした。
「捕まるわけにはいかぬのだ……!」
 連絡されたとも知らないゼティフォールは路地を進み、そこを全速力で駆け抜ける。
「あのドワーフ、足は遅いようだ。これならばにげきれ、ぶふぉ!?」
「確保ー!!」
 路地の出口に待ち構えていたドワーフの仲間が、ゼティフォールを網で捕まえてしまった。
「しまった!」
 だが、もう遅い。全身を包み込む程の大きな網は強靭な上に、蜘蛛の糸のように粘着質でもあった為、ゼティフォールは殆ど身動きできなかった。
「はあ、はあ、同行お願いできますね? とは言っても、動けないでしょうけど……」
「くっ!」
 このモノらもただ仕事を全うしているだけなので、ゼティフォールは責めることはできなかった。
「では、車を出してください」
「はい、分かりました」
 ドワーフの仲間が返事をした後、懐から取り出したペンの形の魔機に魔力を流す。
「暴れないでくださいね。僕も手荒な事をしたいわけじゃあないんです」
 ドワーフは言う。
「準備できました」
 魔機は魔力を流されたことによって四人乗りの車に変形している。
「運んでください。できるだけ丁重に……」
 ドワーフがそう言うと、仲間がゼティフォールを担いで車に乗り込ませた。きっと事情聴取をされるのであろう。暴れても網が食い込むだけと、ゼティフォールは敢えて何かをいう事も無く黙ったままだった。
「心配する事は有りせんよ……」
 不満が顔に出ていたのか、同じ車に乗り込んだドワーフはそう言って、ゆっくりと車を走らせた。
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