【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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幼女+紳士さん

23話 〜おるにゃん〜①

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「すぐに見つかって良かったですねぇ」
 食卓でグリルされたチキンを切り分けながらトニーが言った。
 ハーブと沢山のチーズが乗ったもので、鶏をまるまる一羽使っている。
「ああ。ものの五分とは言わず、二分程で見つかったからな。とは言え、その後何度か見失ったのだが……」
 ゼティフォールはトニーからチキンと付け合わせのマッシュポテトの乗った皿を受け取りながら言う。
 ステラがスナックミートを食べ終えてから一度、チョコレートを買ってからもう一度。
 最期に、牧場を出てトニーに『見つけたので今から帰る』と霧装の指輪で連絡してからも見失っていたので、合計三度も見失っていたのだ。
「しんしさん、おそいもん」
 ゼティフォールが目の前に置いたチキンを眺めつつステラが言った。
「ステラ、君が速すぎるのだ。一瞬でも目を離すともうはるか先にいる。瞬間移動か、時間でも操っているのではないか?」
 ゼティフォールは自分の分の皿もテーブルに置いて席に着く。
「はははっ。子どもが目を離した隙に何処かへ行ってしまうのは、どの場所や時代でも同じですな。しかし、怪我も無く迷子にもならずに済んで、本当に良かった」
「しんしさんは、まいごだったよ? いっただっきまーす!」
 フォークを持ちながらステラは言った。
「それも、そうですね!」
 そう言いながらトニーは笑った。
「していないと言い切れないのは、なかなかに歯痒いな……。では、いただきます」
 ゼティフォールは苦笑いを浮かべながらチキンを口に運ぶ。
 ゼティフォールは初めて来た町というだけあって、行き止まりに捕まったり、似た景色の道を間違えて渡ったりして、この家に着いたのはステラより一時間も後だった。
「僕もいただきましょうか。……ほう、我ながら上手くできましたね」
 そう、このチキンのグリルはトニーが作ったもので、食卓には他にフォカッチャが並んでいる。食卓にはまだ並んでいないが、食後にはケーキが控えている。
「ああ。火加減も塩加減も絶妙だ。フォカッチャともよく合う」
「おいしいねー」
 トニーの作った夕飯は、ゼティフォールとステラの舌も満足させたようだ。
「それは良かった。そうだ、話は変わりますが、おふたりは自己紹介されたのでしょうか?」
 この国には不法入国となってしまった以上、ゼティフォールは自身の名を名乗ることはできない。トニー等の事情を知っているモノの前だけでならいいが、今後ゼティフォールを知らないモノが同席した場合はそうもいかないのだ。
「ああ、まだであったな。ステラの名前は聞いたが……」
「そだ、しんしさんのなまえきいてない!」
 故に、ゼティフォールは当分の間使うを考えなければならなかったが、トニーが訊くまでゼティフォールは忘れてしまっていたようだ。
「そうですか。では、一緒に食卓を囲んだ仲という事で、そろそろ教えてあげた方が良いのではないでしょうか」
 トニーも名前を呼べなくて不便なのだろう。ゼティフォールは考えてすらいなかったが、トニーはもう決まっているとばかり思っていて、つい急かしてしまう。
「あ、ああ。そうであるな。……いつまでも紳士さんでは呼びにくい。トニーの言う通り、この機に改めて自己紹介と行くとしよう。ふむ、私は所作などから判ってしまうかもしれぬが、とある国の貴族でな。とは言っても身分をそのまま使えば自由に動けなくなる故、何処の国の出身かは教えられぬが。そして、このような状態であるから私の家の金も使えなくてな、貧乏を強いられ、現在私の友の古くからの知ジンであるトニーに力を貸してもらっているのだ」
 ゼティフォールは考える時間を稼ぐため、の自己紹介を敢えて長くして話す。
「そうです。事前に話して頂ければお迎えにあがりましたが、なにぶん私の連絡先を聞きそびれてしまったようで……。ですが、こうして五体満足で来られて何よりです」
 なかなか名前が出てこないので、『忘れてしまったのか? いや、ゼティフォール様の事だから、何か意図があるに違いない』と思いつつトニーは話を合わせた。
「そかー。それで、おなまえは?」
 しかし、ステラはごまかされなかった。
『────家臣のモノを借りるか? ゼプト、ダンテ、ローラン、いや、そのまま使ってしまえばこの先もし合流した時にややこしくなるな。幹部であった場合、出会う可能性は十分ある。
 では、今まで耳にしたモノの名前は……。殆ど思い出せぬ……。ああ、エドウィンにするか?
 いや、白雷の街を束ねるモノだ。その内耳にするやもしれぬな……』
 ゼティフォールは思考する。
「ねえ。しんしさん、だいじょうぶ?」
 黙り込んでしまったゼティフォールを、ステラが心配する。もう迷っている時間は無さそうだ。
「ああ、大丈夫だ」
『────ふむ。何かないのか? 何か……。急げ、急ぐのだ……!』
 眉間にシワを寄せ、冷や汗を流すゼティフォール。
「もしや、喉でも詰まらせましたか? どうぞ、水でも飲んでください」
 トニーが心配してゼティフォールに水を渡す。
「ごくごくっ。ふー! すまない、助かった。ありがとう」
「いえいえ。急に黙ってしまったから驚きましたよ。ですが、もう大丈夫そうですね」
 きっと、もう時間を稼ぐのも限界だ。ふたりは待ちくたびれてしまっている。
 ゼティフォールはとても焦っていた。しかし、この事態はゼティフォール自身が招いたのだ。
 そう、仮の名前を用意しなければならないとは事前に聞いていた。それに加えて、現在一番の可能性が高いステラを迎えに行くと決まったのだから、その時点で名前を決めておくべきであった。
 確かに、誰も決めたか確認はとらなかったが、それを責めるのはお門違いというものである。
「ああ、もう大丈夫だ。私の名は……」
 最後のあがきであった。
『────ああ、先に考えていればよかった。しかし、こうなれば決める他あるまいな……。引き延ばすのも不自然極まりない。……そう、そうだ! 確か昔ローランの武勇伝は幾多の国で有名であった。それ故に、口伝、また口伝と広まった。そして話をまた聞きしたモノが、名前を“ローラン”ではなく、“オルランド”と言っていたわ。推測であるが、聞き間違いというわけでなく、国によっての鈍りや方言の違いで発音しやすいよう替えられたのであろうな。いやはや、この窮地で閃いてしまうとは、さすが魔王ゼティフォールとしか言いようがないな。我ながら素晴らしい』
「そう、私の名前はだ」
 こうして、ゼティフォールは今後オルランドとして名乗ることとなった。
 なかなか苦戦を強いられたが、何とか決める事ができてゼティフォールはホッとした。
「へー。しんしさん、そんなおなまえなんだ。よろしくね!」
 ステラはさっきまでの不自然な間について気にしていないようだった。
殿がなかなか名前をおっしゃらないから、何か仕込んで、僕たちを驚かせようとでもしたのかとおもいましたよ。ガハハハハっ」
「ああ、すまない。しかし、驚かせて食事が台無しになっても困る故、遠慮させてもらったのだ。フハハハハハッ」
 面目を保つ事が出来て気が緩んだのか、ゼティフォールも一緒に笑った。
 ちなみに、トニーはステラがこの家に着いた時、既にちゃっかり自己紹介を済ませていた。
「そうだ、ステラさんはひとり旅だったようですが、身分証明書などはお持ちでしょうか?」
 トニーが思い出したように訊いた。
「みぶんしょうめいしょ? これ?」
 ステラはポケットからひとつのカードを取り出して、トニーに見せた。
「そのようなモノを見てどうするのだ?」
 ゼティフォールには理由の検討が付かず、トニーに訝し気に尋ねた。
「ああ。オルランド殿とステラさんはこれから一緒に旅に出られるんでしたよね」
「うん、そう! ステラがまもってあげるの」
「いや、何を言っている。私が守ってやるのだ。」
 どちらがのかはともかく、成り行きで一緒に行動することとなったふたりだが、ゼティフォールの方は何度も助けて貰ったり、命を助けて貰ったりした恩を返したいのもある。
 それと、城で会った灰色の髪と銀色の瞳をした吸血鬼のという忠告を、真意が何にせよ今この段階で破るのは早計だという事で、できる範囲で守る事にしたのだ。
「ガハハハハっ。まあ、協力者同士とは言っても、ステラさんはまだ随分とお若いですからね、赤の他ニンと一緒とあれば国を越える時に厄介になります。ですから、ひとまず確認を……」
 トニーはステラの身分証明書を、手の平サイズの魔機でスキャンした。
「ほう。……親の情報は空欄になっていますが、魔王国が身元保証されているんですか。一応孤児扱いに近いですね……」
「どうするつもりなのだ?」
 オルランドはトニーに訊いた。
「ああ。オルランド殿の身分証明書が届いてからになりますので、今は何とも言えないですが、養子とするか一時的な保護者とするかですかね……」
「え、ステラがおかあさまになるの?」
 ステラが目を丸くして驚く。
「いや、逆だ。私が父親の設定になるかもしれないという事だ。下手に子どもを連れれば、私は扱いされかねんからな。……ふむ、見た目通りステラは4歳だったのだな」
 オルランドは身分証明書からスキャンされた情報を少し覗く。
 一緒に旅をする以上公にできる互いの関係性を作る必要があった。大人同士なら問題もないだろうが、ステラはまだ4歳で、そうもいかないのだ。
「そうだよ! ステラね、4さい!」
 ステラは指を立ててオルランドに見せる。が指は三本しか立っていない。
「ふふっ。それだと3歳だぞ。見てみろ、4歳はこうだ」
 オルランドはステラの曲がっている指を一本立たせる。
「むー!」
 しかし、ステラはすぐに指を曲げ直す。
「何故3の指ににするのだ?」
 ゼティフォールは疑問に思いつつ何度もステラの指を立てるが、ことごとく曲げ直される。
「もう、こっちがいいのに!」
 終いにはステラは怒ってしまう。
「ああ、すまない。……もしかして、小指を親指で支えるこの手の形が気に入っているのか?」
「……うん! ふんふ~ん♪」
 先程までオルランドが、良き理解者になったのが嬉しいのか、ステラは急に鼻歌を歌い、ゴキゲンでチキンを食べだした。
「……面白い。世のコトワリに真っ向から立ち向かうとは」
 ゼティフォールはステラに感心し、腕を組んで余韻に浸る。
「……では、ひとまずこれはお返ししますが、何か追加記入が必要になった場合またお借りしてもいいですか?」
 トニーは身分証明書をステラに返した。
「いいよー」
 返してもらった身分証明書をポケットに入れつつ、ステラはさらっと承諾した。
「軽いな……」
 オルランドは苦笑いする。
「トニーはわるいヒトじゃないでしょ?」
「どうでしょう? 僕なりに良いドワーフであるように努めてはいますが……」
 トニーは髭をなでながら困った表情になる。
「そか! じゃあ、がんばらないとね」
 ステラは口元を汚しつつ、チキンとマッシュポテトを平らげた。
「ふぃ~。おいしかったー」
「そうですね。僕ももっと頑張らないと!」
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