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幼女+紳士さん
21話 〜やんちゃというより歴戦の猛者〜②
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「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ……。何という速さだ。最後まで、追いつく事すら、できなかったぞ……!」
息も切れ切れで倒れこむようにステラの待つ牧場の入り口に辿り着いたゼティフォール。
「ステラのかちー!」
ステラは嬉しそうに跳ね回っている。
「まだそれ程までに元気を残していたか。おそるべし……」
受付近くに設置してある椅子に、ゼティフォールはよろよろと座った。
「ジュース買ってくる?」
まだ息が整わないゼティフォールに、ステラが訊いた。
「はあ、はあ、売っているのか?」
「うん、あそこ!」
ステラは自動販売機を指さした。
「あれで、買えるのか……。便利なモノだな」
「それで、かう?」
ステラは再度ゼティフォールに確認する。
「待て……。はあ、ふう、試乗の料金は……」
ゼティフォールは料金表を探す。
「ひとり3700ディアですよ」
受付のヒトが先んじて答えた。
「ああ、ありがとう。ふむ……。よし、すまないがステラ、これで買ってきてくれ」
財布の中身を見て、足りるのを確認したゼティフォールは小銭をステラに渡した。
「はーい」
ステラはお金を受け取ると、近くに設置してあった自動販売機に駆けて行った。
「あのまま別の所で何かを買っていたら、足りぬところであったわ……」
ステラに渡した小銭を省くと、もう財布の中身は試乗体験ふたり分丁度しか残っていなかった。
「はい!」
戻ってきたステラがゼティフォールに飲み物を渡す。
「助かる……。何故、牛乳なのだ?」
渡された飲み物のパッケージには、“特濃牧場牛乳”と書いてある。ついでにステラも同じものを持っている。
「え? チョコにあうでしょ?」
ステラは何故牛乳がいけないのか分からないようだ。
「まあ、相性は良いだろうが、私は喉が渇いてしようがないのだ。お金は? 釣りはどうしたのだ」
ゼティフォールはステラに手を出した。
「これだけー」
ステラはポケットに入れていたお金をゼティフォールの手に乗せた。
「40ディアしかないのか!」
「あ、紳士さん当たってますよ!」
ゼティフォールが頭を抱えていると、他の利用者のヒトが声を掛けてきた。
「む、何が当たっているのだ?」
ゼティフォールが顔を上げると、自動販売機が軽快な音楽を奏でつつ光っている。
「自動販売機、早く飲み物選ばないと貰えないですよ!」
そのヒトは急いた口調でゼティフォールに言う。
「よく分らぬが、み、水を頼む……!」
結局何がどうなって当たった事になっているのか、自分がどう動けばいいか分からなかったゼティフォールはその利用者さんに水を頼んだ。
「はいどうぞ、水ですよ」
そのヒトは水のボタンを押して、出てきた水をゼティフォールの所まで持ってきてくれた。
「ありがとう。貴殿は命の恩人です……」
ゼティフォールは座りながらも礼をして水を受け取る。
「はははっ。子どもの体力は底なしかって、思えるくらい元気ですもんね!」
そのヒトは楽しそうに笑う。
「ごく、ごく、ごく……。ぷはぁっ! 百年越しに朝日を浴びた気分だ!」
水を飲んで元気が戻ったのか、ゼティフォールは清々しい顔をしていた。
「もう大丈夫そうですね。では、俺は帰りますので、さようなら!」
「はい。お気をつけてさようなら」
「さよーなら」
ゼティフォールは立ち上がり、恭しく挨拶を返した。それを見てステラも後に続く。
「いいヒトだったね。チョコたべる?」
「そうだな。……ここで食べて良いのだろうか?」
「あ、大丈夫です。そこのテーブルを使ってもらっていいですよ」
聞いていたらしく、受付のヒトが即座に答えた。
「助かる」
「ぅおー!」
ステラは喜びのあまり唸りを上げる。
「では、開けるぞ?」
ゼティフォールは紙袋から箱を取り出して、近くのテーブルに置いた。
「うん……!」
ステラの瞳は、もうチョコレートの箱以外映していない。
「それ!」
ゼティフォールが箱を開けて中に入っていたチョコレートが露わになる。一度店頭で見たモノではあるが。
「きゃー!!」
ステラの喜びは頂点に達し、思わず叫んでしまった。
「おっと、ステラ喜ぶのは良いが、少し声を小さくしなさい。それに踊りも控えて。受付のお兄さんが驚いてしまっているぞ」
ゼティフォールは謎のダンスを踊っているステラに注意する。受付のヒトは苦笑いをしている。
「……は~い!」
注意されても気は落とさず、少しだけ声を落としつつ返事をした。
「ほら、戻ってこないと先に食べてしまうぞ」
ゼティフォールはチョコレートをひとつ摘まんでステラに見せた。
「たべるたべる!」
それを見たステラはダンスを止めて、急いでテーブルの所に戻って椅子に座った。
「はい、よく味わうのだぞ」
ゼティフォールは戻ってきたステラにチョコを渡す。
「うん。いっただきまーふ。ん~、おいしー!」
待ちきれないステラは、いただきますの“す”を言い終える前に口に入れた。
「そうか、牛乳もあるぞ」
ゼティフォールはステラに牛乳も渡す。
「うん。ごく、ごく……。きゃは~! おいしー!」
ステラはよほどお気に召したのか、目を力強く瞑ってじたばたしている。
「ふむ。それ程までに美味そうに食べられると、買って良かったというものだな。では、私も……」
ゼティフォールもチョコレートを口に放り込んだ。
「ふむ。間違いないとは思ったが、高いだけあって美味いな。甘いモノ好きも満足できる甘さでありながら、ラズベリーソースの酸味が調和する事でくどさを感じさせにくくしているのか……。これは牛乳によく合う」
中々のお値段で、ゼティフォールは4個も買ってしまったのを後悔していた。だが、お値段以上の美味しさだったので考えを改める事となった。
「ないなった!」
ステラはもう自分の分の2個を食べてしまったようだ。
「味わえと言っただろうに。……私の分も食べるといい」
少しぼやきながらも、ゼティフォールは残っていた最後のひとつをステラにあげる事にした。
「いいの!?」
驚いたステラは、目を丸くしてチョコとゼティフォールを何度も見比べる。
「ああ。私よりステラの方がこのチョコレートを美味しく食べるからな、その方がきっと作ったヒトも喜ぶだろう」
そう言ってゼティフォールはステラの口にチョコレートを放り込んだ。
「あ、む! おいしゃー」
ステラはまたじたばたしてチョコレートを堪能した。
「少し大げさではないのか? ふふっ」
その姿にゼティフォールは少し笑ってしまった。
「──────やんちゃだったり、おとなしかったり、皆性格は色々ですがヒトに慣れていますので、本気で噛むことはまずありません。ですが、急に大きな声を出したり、叩いたりすると驚いて暴れてしまうかもしれません。ですから、できるだけ優しくしてあげてくださいね。そうすれば、きっと仲良くなれますよ」
「はーい!」
指導員の女のヒトが一通り説明した後、ステラが大きな声で返事する。
「いい返事ですね~。お名前は、なんですか?」
「ステラ!」
「では、ステラちゃん。どの子に乗ってみたいですか?」
指導員さんがステラに色んな種類のモンスターを指さして訊いていく。
「どうしよ~」
ステラが悩むのも無理はない。種族がひとつだけなら見た目や雰囲気で選べば良いが、ここにはイノシシ型、鹿型、馬型、トカゲ型、ウシ型、ウサギ型等、他にも色んな種類のモンスターがいたのだ。
「しんしさんからきめて!」
悩んでしまって一向に答えが出なかったステラは、ゼティフォールに先に選ぶよう言った。
「私か?! そうだな……。すまない指導員さん、一番おとなしくて噛まない種はどれだろうか?」
このような事を訊くのは少し恥ずかしかったが、万が一、そう万が一噛まれてしまったら抜け出せる自信が無かったのだ。
「ははは。そうですねー。“走りトカゲ”はどうですか? 爬虫類型なんですが人懐っこくて、それに果物なんかをメインに食べる草食モンスターですよ」
「ほう。草食ならばヒトを食べる事もないし、人懐っこいなら襲う心配も少なそうであるな。では、その子にしよう!」
ゼティフォールは即決した。
「しんしさんはトカゲかー。じゃあステラは……、イノシシ!」
ステラは楽しそうに言った。
「“ヤマクズシ”はやんちゃな子だけど、大丈夫かな?」
指導員さんが心配そうに訊く。
「なかなか強そうな名前であるな、そのヤマクズシとは。どのようなモンスターなのだ?」
「ヤマクズシは、大きな個体ですと体長5m、体高3mに達する大型の雑食イノシシモンスターです。名前の由来はその長くて強靭な牙で、小さな山を崩してしまったという逸話からきているんです」
「……それで、そのような種、本当に乗れるものなのか?」
ゼティフォールは恐る恐る訊いた。今の話だけなら、もし怒らせてしまえば命はなさそうだ。
「ああ、ここにいるのは小さいですし、騎乗用に育てているので問題ありませんよ。ですが、ちょっとやんちゃな子なんで、お子さんにはあまり向かないな、と思いますが……。ほら、あそこの」
指導員さんの指し示す場所には、確かに説明よりは小さいかもしれないが、体長4m近くありそうな、いや牙の長さを含めれば4mを優に超える大きさの“ヤマクズシ”がいた。
そして、片方だけ半端に折れてしまっている牙と、所々ついている傷跡が、そのやんちゃさがちょっとで済まない事をを物語っている。
「……ステラ、あのヤマクズシは危ないのだ! ほら、他のモンスターはどうだ? ウサギなんて可愛くて良いのではないか?」
ゼティフォールは説得を試みるが、
「や! ヤマクズシにのるの!」
ステラの意思は固い。
「怪我をしたらどうするのだ! いや、あれは怪我で済めばまだ良い方だぞ」
ゼティフォールはそれでも諦めず再度ステラを言い聞かせようとする。
「そんなに……?」
一瞬迷いが見えるが、
「そこまで心配する程危険ではないですけどね、私もいますし……」
「きけんじゃないなら、ステラのりたい!」
「指導員さん、少し静かにしてください! 今せっかく揺らいだというのに!」
指導員さんの言葉で熱が入ってしまった。
「ああ、すみません。良い子なんですけどね……」
「ほら! いいこって、いってるよ!」
今度は逆にステラがゼティフォールを言いくるめようとする。
「きっと、あれだ。そう、どのような強力なモンスターであっても、余裕で倒せる程にこの指導員さんは途轍もなく強いのだ。故に危険ではないと言ってるのだ。そうであろう、指導員さん!」
ゼティフォールは早口になりながら指導員さんに話を振った。
「う~ん。そこまで強いわけではありませんが、それなりに自身はありますねー」
強いと言われるのがまんざらでもないようで、指導員さんは乗せられてしまう。
「むー! しんしさん、わがままだよ!」
ステラが怒る。
「怒っても無駄だ」「あ!」
ゼティフォールは最後の詰めをしようとするが、
「危険なものは危険なのだ。どのような相手であれ、」「やた!」
ステラは何かに気を取られて、ゼティフォールの話を聞いていない。
「侮って挑めば足を掬われる事になるのだ。なあステラ、聞いているのか?」「むふふ~」
しかし、ゼティフォールの声は届かない。
「まったく、せっかく私が話していると、……くすぐったいな。いうのだから最後まで、何だ少し刺さる……?」
ゼティフォールは首元にまとわりつくゴワゴワな毛に、集中を乱される。
「何だこれは……」「あ、きづいた!」「きっと驚かれますね!」
眉間にシワの寄っているゼティフォールと裏腹に、ステラと指導員さんは楽しそうに笑う。
そして、痺れをきらしたゼティフォールは、邪魔するモノの正体を暴いてやろうと振り向いた。
「誰だ、話を邪魔するやつ、は、ヤマクズシ────────!?」
『ブフォオ!』
ゼティフォールは驚きのあまり、盛大にひっくり返ってしまった。
「ヤマクズシー!」「ヤマクズシー!」
そしてしばらくの間、ステラと飼育員さんの笑い声が響いたという。
息も切れ切れで倒れこむようにステラの待つ牧場の入り口に辿り着いたゼティフォール。
「ステラのかちー!」
ステラは嬉しそうに跳ね回っている。
「まだそれ程までに元気を残していたか。おそるべし……」
受付近くに設置してある椅子に、ゼティフォールはよろよろと座った。
「ジュース買ってくる?」
まだ息が整わないゼティフォールに、ステラが訊いた。
「はあ、はあ、売っているのか?」
「うん、あそこ!」
ステラは自動販売機を指さした。
「あれで、買えるのか……。便利なモノだな」
「それで、かう?」
ステラは再度ゼティフォールに確認する。
「待て……。はあ、ふう、試乗の料金は……」
ゼティフォールは料金表を探す。
「ひとり3700ディアですよ」
受付のヒトが先んじて答えた。
「ああ、ありがとう。ふむ……。よし、すまないがステラ、これで買ってきてくれ」
財布の中身を見て、足りるのを確認したゼティフォールは小銭をステラに渡した。
「はーい」
ステラはお金を受け取ると、近くに設置してあった自動販売機に駆けて行った。
「あのまま別の所で何かを買っていたら、足りぬところであったわ……」
ステラに渡した小銭を省くと、もう財布の中身は試乗体験ふたり分丁度しか残っていなかった。
「はい!」
戻ってきたステラがゼティフォールに飲み物を渡す。
「助かる……。何故、牛乳なのだ?」
渡された飲み物のパッケージには、“特濃牧場牛乳”と書いてある。ついでにステラも同じものを持っている。
「え? チョコにあうでしょ?」
ステラは何故牛乳がいけないのか分からないようだ。
「まあ、相性は良いだろうが、私は喉が渇いてしようがないのだ。お金は? 釣りはどうしたのだ」
ゼティフォールはステラに手を出した。
「これだけー」
ステラはポケットに入れていたお金をゼティフォールの手に乗せた。
「40ディアしかないのか!」
「あ、紳士さん当たってますよ!」
ゼティフォールが頭を抱えていると、他の利用者のヒトが声を掛けてきた。
「む、何が当たっているのだ?」
ゼティフォールが顔を上げると、自動販売機が軽快な音楽を奏でつつ光っている。
「自動販売機、早く飲み物選ばないと貰えないですよ!」
そのヒトは急いた口調でゼティフォールに言う。
「よく分らぬが、み、水を頼む……!」
結局何がどうなって当たった事になっているのか、自分がどう動けばいいか分からなかったゼティフォールはその利用者さんに水を頼んだ。
「はいどうぞ、水ですよ」
そのヒトは水のボタンを押して、出てきた水をゼティフォールの所まで持ってきてくれた。
「ありがとう。貴殿は命の恩人です……」
ゼティフォールは座りながらも礼をして水を受け取る。
「はははっ。子どもの体力は底なしかって、思えるくらい元気ですもんね!」
そのヒトは楽しそうに笑う。
「ごく、ごく、ごく……。ぷはぁっ! 百年越しに朝日を浴びた気分だ!」
水を飲んで元気が戻ったのか、ゼティフォールは清々しい顔をしていた。
「もう大丈夫そうですね。では、俺は帰りますので、さようなら!」
「はい。お気をつけてさようなら」
「さよーなら」
ゼティフォールは立ち上がり、恭しく挨拶を返した。それを見てステラも後に続く。
「いいヒトだったね。チョコたべる?」
「そうだな。……ここで食べて良いのだろうか?」
「あ、大丈夫です。そこのテーブルを使ってもらっていいですよ」
聞いていたらしく、受付のヒトが即座に答えた。
「助かる」
「ぅおー!」
ステラは喜びのあまり唸りを上げる。
「では、開けるぞ?」
ゼティフォールは紙袋から箱を取り出して、近くのテーブルに置いた。
「うん……!」
ステラの瞳は、もうチョコレートの箱以外映していない。
「それ!」
ゼティフォールが箱を開けて中に入っていたチョコレートが露わになる。一度店頭で見たモノではあるが。
「きゃー!!」
ステラの喜びは頂点に達し、思わず叫んでしまった。
「おっと、ステラ喜ぶのは良いが、少し声を小さくしなさい。それに踊りも控えて。受付のお兄さんが驚いてしまっているぞ」
ゼティフォールは謎のダンスを踊っているステラに注意する。受付のヒトは苦笑いをしている。
「……は~い!」
注意されても気は落とさず、少しだけ声を落としつつ返事をした。
「ほら、戻ってこないと先に食べてしまうぞ」
ゼティフォールはチョコレートをひとつ摘まんでステラに見せた。
「たべるたべる!」
それを見たステラはダンスを止めて、急いでテーブルの所に戻って椅子に座った。
「はい、よく味わうのだぞ」
ゼティフォールは戻ってきたステラにチョコを渡す。
「うん。いっただきまーふ。ん~、おいしー!」
待ちきれないステラは、いただきますの“す”を言い終える前に口に入れた。
「そうか、牛乳もあるぞ」
ゼティフォールはステラに牛乳も渡す。
「うん。ごく、ごく……。きゃは~! おいしー!」
ステラはよほどお気に召したのか、目を力強く瞑ってじたばたしている。
「ふむ。それ程までに美味そうに食べられると、買って良かったというものだな。では、私も……」
ゼティフォールもチョコレートを口に放り込んだ。
「ふむ。間違いないとは思ったが、高いだけあって美味いな。甘いモノ好きも満足できる甘さでありながら、ラズベリーソースの酸味が調和する事でくどさを感じさせにくくしているのか……。これは牛乳によく合う」
中々のお値段で、ゼティフォールは4個も買ってしまったのを後悔していた。だが、お値段以上の美味しさだったので考えを改める事となった。
「ないなった!」
ステラはもう自分の分の2個を食べてしまったようだ。
「味わえと言っただろうに。……私の分も食べるといい」
少しぼやきながらも、ゼティフォールは残っていた最後のひとつをステラにあげる事にした。
「いいの!?」
驚いたステラは、目を丸くしてチョコとゼティフォールを何度も見比べる。
「ああ。私よりステラの方がこのチョコレートを美味しく食べるからな、その方がきっと作ったヒトも喜ぶだろう」
そう言ってゼティフォールはステラの口にチョコレートを放り込んだ。
「あ、む! おいしゃー」
ステラはまたじたばたしてチョコレートを堪能した。
「少し大げさではないのか? ふふっ」
その姿にゼティフォールは少し笑ってしまった。
「──────やんちゃだったり、おとなしかったり、皆性格は色々ですがヒトに慣れていますので、本気で噛むことはまずありません。ですが、急に大きな声を出したり、叩いたりすると驚いて暴れてしまうかもしれません。ですから、できるだけ優しくしてあげてくださいね。そうすれば、きっと仲良くなれますよ」
「はーい!」
指導員の女のヒトが一通り説明した後、ステラが大きな声で返事する。
「いい返事ですね~。お名前は、なんですか?」
「ステラ!」
「では、ステラちゃん。どの子に乗ってみたいですか?」
指導員さんがステラに色んな種類のモンスターを指さして訊いていく。
「どうしよ~」
ステラが悩むのも無理はない。種族がひとつだけなら見た目や雰囲気で選べば良いが、ここにはイノシシ型、鹿型、馬型、トカゲ型、ウシ型、ウサギ型等、他にも色んな種類のモンスターがいたのだ。
「しんしさんからきめて!」
悩んでしまって一向に答えが出なかったステラは、ゼティフォールに先に選ぶよう言った。
「私か?! そうだな……。すまない指導員さん、一番おとなしくて噛まない種はどれだろうか?」
このような事を訊くのは少し恥ずかしかったが、万が一、そう万が一噛まれてしまったら抜け出せる自信が無かったのだ。
「ははは。そうですねー。“走りトカゲ”はどうですか? 爬虫類型なんですが人懐っこくて、それに果物なんかをメインに食べる草食モンスターですよ」
「ほう。草食ならばヒトを食べる事もないし、人懐っこいなら襲う心配も少なそうであるな。では、その子にしよう!」
ゼティフォールは即決した。
「しんしさんはトカゲかー。じゃあステラは……、イノシシ!」
ステラは楽しそうに言った。
「“ヤマクズシ”はやんちゃな子だけど、大丈夫かな?」
指導員さんが心配そうに訊く。
「なかなか強そうな名前であるな、そのヤマクズシとは。どのようなモンスターなのだ?」
「ヤマクズシは、大きな個体ですと体長5m、体高3mに達する大型の雑食イノシシモンスターです。名前の由来はその長くて強靭な牙で、小さな山を崩してしまったという逸話からきているんです」
「……それで、そのような種、本当に乗れるものなのか?」
ゼティフォールは恐る恐る訊いた。今の話だけなら、もし怒らせてしまえば命はなさそうだ。
「ああ、ここにいるのは小さいですし、騎乗用に育てているので問題ありませんよ。ですが、ちょっとやんちゃな子なんで、お子さんにはあまり向かないな、と思いますが……。ほら、あそこの」
指導員さんの指し示す場所には、確かに説明よりは小さいかもしれないが、体長4m近くありそうな、いや牙の長さを含めれば4mを優に超える大きさの“ヤマクズシ”がいた。
そして、片方だけ半端に折れてしまっている牙と、所々ついている傷跡が、そのやんちゃさがちょっとで済まない事をを物語っている。
「……ステラ、あのヤマクズシは危ないのだ! ほら、他のモンスターはどうだ? ウサギなんて可愛くて良いのではないか?」
ゼティフォールは説得を試みるが、
「や! ヤマクズシにのるの!」
ステラの意思は固い。
「怪我をしたらどうするのだ! いや、あれは怪我で済めばまだ良い方だぞ」
ゼティフォールはそれでも諦めず再度ステラを言い聞かせようとする。
「そんなに……?」
一瞬迷いが見えるが、
「そこまで心配する程危険ではないですけどね、私もいますし……」
「きけんじゃないなら、ステラのりたい!」
「指導員さん、少し静かにしてください! 今せっかく揺らいだというのに!」
指導員さんの言葉で熱が入ってしまった。
「ああ、すみません。良い子なんですけどね……」
「ほら! いいこって、いってるよ!」
今度は逆にステラがゼティフォールを言いくるめようとする。
「きっと、あれだ。そう、どのような強力なモンスターであっても、余裕で倒せる程にこの指導員さんは途轍もなく強いのだ。故に危険ではないと言ってるのだ。そうであろう、指導員さん!」
ゼティフォールは早口になりながら指導員さんに話を振った。
「う~ん。そこまで強いわけではありませんが、それなりに自身はありますねー」
強いと言われるのがまんざらでもないようで、指導員さんは乗せられてしまう。
「むー! しんしさん、わがままだよ!」
ステラが怒る。
「怒っても無駄だ」「あ!」
ゼティフォールは最後の詰めをしようとするが、
「危険なものは危険なのだ。どのような相手であれ、」「やた!」
ステラは何かに気を取られて、ゼティフォールの話を聞いていない。
「侮って挑めば足を掬われる事になるのだ。なあステラ、聞いているのか?」「むふふ~」
しかし、ゼティフォールの声は届かない。
「まったく、せっかく私が話していると、……くすぐったいな。いうのだから最後まで、何だ少し刺さる……?」
ゼティフォールは首元にまとわりつくゴワゴワな毛に、集中を乱される。
「何だこれは……」「あ、きづいた!」「きっと驚かれますね!」
眉間にシワの寄っているゼティフォールと裏腹に、ステラと指導員さんは楽しそうに笑う。
そして、痺れをきらしたゼティフォールは、邪魔するモノの正体を暴いてやろうと振り向いた。
「誰だ、話を邪魔するやつ、は、ヤマクズシ────────!?」
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