鏡節物語

野部 悠愛

文字の大きさ
2 / 2
プロローグ

しおりを挟む
今は放課後。
保健室を覗くと顔色の悪いあいつの姿がある。
『巽、助けて。保健室教諭の脳内が今日もえげつないよ…』
脳みそに直接届く声は内容ほど深刻そうではない。
顔色もだいぶ落ち着いたように見える。
やっぱり人が少ない環境が良いのだろうか?
『うん。人が少ない方が落ち着くかな。』
返事が返ってきた。

「夜宵、帰るぞ。歩けそうか?」
「うん。まだ本調子じゃないけど大丈夫。」

こいつ、夜宵の能力はテレパシーだ。
だから、教室にいると色々な人の心の声が聴こえてきて落ち着かないようだ。
今日だって無理して教室に長くいたから体調を崩したのだろう。

『どうしたの?今更この力について考えてるなんて。どうせわからないし、わかって貰えないし無駄じゃない?』
「……そうだな。帰るか。」

……

いつもと変わらない帰り道。
二人並んで黙って会話しながら歩く。

″黙って会話″だなんておかしなものだ。
本来ならできるはずもない。

でも、こいつは人の心を見ることが出来る。
そして、心に語りかけることも出来る。

でも、人の心を受信する力は強いのに、どうしてか自分の心を送信する力の弱い夜宵は俺にしか送信はできないようだ。

これは色々な人に対して試したことだから確かだ。

『それにしても、学校ってつまんないよな。先生のギャグとか言う前に何言うかわかるから、リアクションに困るし、疲れる……。』
『そうだね、本当に学校は疲れるよ。みんなが色々なことを考えていて、女の子なんか特に表面上は笑顔なのに目の前の相手を脳内では貶して蔑んでいるから。』
まぁ、悪いことを考えるのも裏表が激しいのも女の子に限ったことじゃないけどね。
そう言う夜宵の顔はいつもと同じように微笑みを浮かべているのに悲しそうだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

よくある風景、但しある特殊な国に限る

章槻雅希
ファンタジー
勘違いする入り婿、そしてそれを受けてさらに勘違いする愛人と庶子。そんなお花畑一家を扱き下ろす使用人。使用人の手綱を取りながら、次期当主とその配偶者の生きた教材とする現当主。それをやりすぎにならないうちに収めようと意を痛める役所。 カヌーン魔導王国では、割とよくある光景なのである。 カヌーン魔導王国シリーズにしてしまいました(笑) 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

【完結】アル中の俺、転生して断酒したのに毒杯を賜る

堀 和三盆
ファンタジー
 前世、俺はいわゆるアル中だった。色んな言い訳はあるが、ただ単に俺の心が弱かった。酒に逃げた。朝も昼も夜も酒を飲み、周囲や家族に迷惑をかけた。だから。転生した俺は決意した。今世では決して酒は飲まない、と。  それなのに、まさか無実の罪で毒杯を賜るなんて。

処理中です...