しまねことサヨ〜島と猫と、まったりスローライフ〜

川上とむ

文字の大きさ
14 / 39
第一章『しまねこと、春に拾った少女』

第14話『島の賑わいと、マリンソーダ』

しおりを挟む

「わー、すごい人なのです」

「これは予想以上だね。小夜さよ、大丈夫かい?」

 ……全身全霊でお店を回していると、おじーちゃんとヒナが団体さんを連れてカフェに戻ってきた。

「ぜ、全然大丈夫! おかえりなさーい!」

 揃って心配顔をしてくれる二人に空元気で応えて、おじーちゃんにカフェの仕事を引き継ぐ。

 その後は団体さんを連れて島猫ツアーに出発するも、いつも猫たちがいる神社や漁港は人で溢れかえり、普段の半分ほどの猫たちにしか出会うことができなかった。

 いくら佐苗島さなえじまの猫が人に慣れているといっても、人が多すぎると隠れてしまう子もいる。

 人が増える前にさっさと隠れてしまったトリコさんなど、その最たる例だった。

  ◇

 一時間ほどの島猫ツアーを終えると、すぐにまたカフェの手伝いが待っていた。

 お昼時はとうに過ぎたというのに、客足は途絶えず。ようやく休めたのは14時を回った頃だった。

「はー、これがあと数日は続くのかぁ……」

 港周辺を適当にぶらつきながら、思わずそんな声を漏らす。

 カフェの中ではまだ多くのお客さんがいるので、店内では十分に休めないだろう……と、おじーちゃんが配慮してくれたのだけど、今日はどこに行っても人で溢れていた。

 5月にしては少し強い日差しの中、特設の売店や屋台、果てはお手洗いにまで人の列ができている。

 普段の佐苗島からはかけ離れた光景がそこにあった。

「島の夏祭りでも、ここまで人集まらないわよ……ゴールデンウィーク、おそるべし」

 誰にともなく呟いて、比較的人の少ない屋台でマリンソーダを買う。

 本土からやってきたお店のようで、店員さんは知らない人だった。

「はー、おいしい」

 空の色と同じ青色に染まった炭酸を喉に流し込むと、しゅわしゅわとした刺激のあとに強烈な甘味が口に残った。普段なら甘すぎると感じるけれど、今は疲れた体に染み渡る。

「……あれ?」

 飲み物を片手に港を歩き、いつもミミとハナがいる郵便局の前へとやってくるも、そこに彼女たちの姿はなかった。

 あの子たちは人懐っこいけど、あまりに人が多いと隠れてしまう。

 島唯一の観光名所である灯台に行くには、ここを通るのが一番近いし、今日は人通りが多すぎるのだろう。

 一人納得しながらストローに口をつけたとき、少し離れた港の駐車場に人影があることに気がついた。

 パステルカラーに統一されたブラウスとスカートを身に着け、腰ほどまでありそうな髪は桜色のリボンでポニーテールに結われていた。

 どうみても観光客で、年はあたしより少し上だろう。モデルと言われても誰も疑わないような、可愛らしい容姿をしている。

 そんな人が、スカートや髪が汚れるのも気に留めず、車の下を覗き込んでいた。
声をかけようか迷っていると、彼女は立ち上がり、肩を落としながら人波へと消えていった。

「……なんだったのかしら。まるで何か探してるみたいだったけど」

「あれ、小夜じゃん。こんなところで何してんだ? 暇なのか?」

 不思議に思いながら首をひねっていると、すぐ近くから知った声がした。

 見ると、黒のワイシャツ姿の新也が驚いた表情であたしを見ていた。

「暇なわけないでしょー。ずっとカフェ手伝ってて、ようやく休憩時間なの。そーいうあんたこそ暇そうねー」

「しょ、しょーがねーだろ。うちは別に商売してるわけじゃねーしさ。父ちゃんは忙しそうだったけど、俺が手伝えるもんじゃねーし」

 ばつが悪そうに言って、彼は被っていた帽子の位置を整えた。

 見慣れないデザインだけど、あれが先日コンビニヨシ子でお取り寄せした帽子のよう。

 服と同じような黒っぽいデザインで、彼に似合っていた。

「それなら、なっちゃんの手伝いでもしてあげたらいいのに。ゴールデンウィークは民宿忙しいって言ってたし、きっと喜ぶわよー?」

「男と女じゃ持ち場が違うんだよ。すぐに親父のほうに捕まって、魚の下ごしらえばっかやらされる」

 すでに経験済みなのだろう。言いながら、げんなりとした顔をしていた。

 今のうちに将来のお義父さんと仲良くなっとけばいいのに。わかってないわねー。

 あたしはつい、そんなことを考えてしまう。新也となっちゃん、実は両思いなのだ。

 知ったのはつい最近だけど、その情報源はもちろん、猫たちだ。

 そりゃあ、そろそろ異性を意識する年頃だし? 吐き出せない心のもやもやを、偶然居合わせた猫に相談する……なんてことがあっても不思議じゃない。

 普通なら絶対バレないと思う。そう、普通なら。猫の言葉がわかる、あたしがいなければ。

 小耳に入れておきたい話があるんだけどネ……と、どこか嬉しそうに寄ってきたネネの話を興味本位で聞いてしまったことを、あたしは今更ながら後悔していた。

「あーもー、ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと手伝いに行く! ほら、歩いて歩いて!」

「ちょっ……押すなよ! わかったって! 行くって!」

 二人の秘密を知ってしまった後ろめたさを隠すように、あたしは新也の背後に回ると、その背中を押す。

 恋のキューピットになるつもりは毛頭ないのだけど、罪滅ぼしというか、この二人にはうまくいってほしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を

花籠しずく
キャラ文芸
 ――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。  月のものが来るようになってから、琥珀は不思議な夢を見る。誰かに探されている夢。きっと大切な人だったことは分かるのに、目が覚めると朧気で何も思い出せない。婚約者である志貴の言いなりの人形になる生活をし、生家とは会うと脅され、心が疲弊していたある日、家からひとり抜け出すと、妖魔のようなものに出会う。呪術師である志貴に、一時祓ってもらいはしたが、不思議と心が痛む。夢に美しい男が現れ、声に導かれるようにして、ある山のふもとの、廃れた神社の中に入ると、そこには苦しそうに蹲るあの妖魔がいた。琥珀はそれが夢に現れた、蘿月という男だと直感する。全身が黒い靄で包まれた彼の、靄を払う方法を、どうしてか琥珀は知っていた。口づけをし、息を吹き込むように、生きて、と願った。  帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。 「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」  これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。 ※R-15っぽいゆるい性描写があります。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...