28 / 39
第二章『しまねこと、夏を連れた旅人』
第11話『島の祭りと、花火大会 その2』
しおりを挟む夕方になり、着々と花火大会の準備が進められる港を抜け、あたしとヒナはさくら荘へやってきた。
「あら、いらっしゃい。待ってたわよー」
「お待ちしてたっす」
あたしたちを出迎えてくれたのは、なっちゃんのお母さんである栄子さんと、さくら荘の飼い猫ハナグロさんだった。
「晩御飯の仕込み、もうすぐ終わらせちゃうから、少し夏海の部屋で待っていて」
笑顔を絶やさない栄子さんにそう言われ、あたしたちはハナグロさんと一緒になっちゃんの部屋へと向かう。
「ナツミお嬢、サヨお嬢たちをお連れしたっすよ」
「なっちゃん、来たわよー」
扉の前でハナグロさんが言うも、なっちゃんに伝わるはずもないので、あたしは控えめに扉をノックする。
「あ、いらっしゃい。ごめんね。ちょっと準備してて」
ややあって扉が開き、なっちゃんが顔を覗かせる。
続いて招き入れられた彼女の部屋は、扇風機やテーブルが壁際に寄せられていた。
「三人分の着付けをするんだし、少しでも部屋が広いほうがいいかなって。髪もセットするから、姿見だけ置いてるんだけど」
どこか申し訳なさそうになっちゃんは言う。
彼女の部屋には久しぶりに入ったけど、相変わらず必要最低限のものしかない。シンプルな部屋だった。
そんな中、ベッドの上にあたしがプレゼントした猫クッションが置かれているのを見つけ、少し嬉しくなる。
「お母さん、もう少し準備に時間かかると思うから。麦茶でも飲んで待ってよう。あ、ヒナちゃんはジュースがよかったかな?」
「おかまいなく! 麦茶は好きです!」
おぼんの上に置かれたピッチャーから麦茶を注いでくれながら、なっちゃんが苦笑する。ヒナは満面の笑みで、それを受け取っていた。
続いてあたしが麦茶を受け取った時、建物のどこからか話し声が聞こえた。
「今日もお客さん来てるのね。お祭りの日なのに大変ねー」
「大変だけど、楽しいよー。色々な場所の話聞けるし」
ニコニコ顔でなっちゃんは言う。
彼女いわく、関東や関西といった国内はもとより、遠くは中国や韓国、台湾といった外国からも宿泊客がやってくるらしい。
「外国人のお客さん、最近増えたわよねー。やっぱり、猫目当て?」
「そう。猫好きに国境はないって感じ」
「言われてみれば、島猫ツアーを希望する観光客の中にも、外国の人いたわねー。アイラブキャットって言われた」
「え、もしかして小夜ちゃん、その人たちと英語で話してるの?」
「サヨ、すごいです!」
「そこまではできないわよー。なんだかんだで日本語が話せたり、日本の友だちと一緒に来てるパターン多いから」
「そうなんだ……小夜ちゃん、猫と話せるから英語もペラペラなのかと思った」
「それ、どういう理屈よ……英語のテスト、イマイチなの知ってるでしょーが」
「おまたせー。着付け、始めちゃいましょうか」
そんな話をしていると、歪なノックの音とともに栄子さんの声が聞こえた。
「ちょっと扉開けてくれないー? 両手、塞がっててー」
言われてすぐに扉を開くと、栄子さんは両手に大きな箱を抱えていた。
「お母さん、夕飯の仕込み、もう終わったの?」
「ううん。間に合いそうになかったから、お父さんに丸投げしちゃった」
その荷物を引き受けながらなっちゃんが尋ねると、栄子さんはいたずらっぽくウインクをする。それを見たなっちゃんは明らかに苦笑していた。
料理の仕込みがどれだけ大変なのか、あたしには想像できないけど……哲朗さん、頑張って。
「それじゃ、まずは髪のセットからねー。ヒナちゃん、おいで」
「はい!」
いの一番に呼ばれ、ヒナは栄子さんの前にちょこんと座った。
「ふわふわのウェーブヘアねー。編み込みはしやすそうだし、ここはアップスタイルにしちゃいましょ」
言うが早いか、栄子さんはヒナの髪を整えていく。
彼女はかつて本土の美容室で働いていた経験もあるらしく、なっちゃんの髪も、普段は栄子さんがカットしているそうだ。
「はい、完成。どうかしら?」
そんなことを考えているうちに、栄子さんはヒナの髪をセットし終えてしまう。見事な手際だった。
「おおー」
姿見の前に立ったヒナを見て、あたしたちは思わず歓声を上げる。
その銀色の髪はきれいに編み込まれ、普段とは全く印象が違う。
これはかわいい。ますますお人形さんのようだ。
「次は小夜ちゃんねー。ほい、いらっしゃい」
ヒナのかわいさの前だと、さすがに自信ないなぁ……なんて思いつつ、ポニーテールを解いて栄子さんの前に座る。
「小夜ちゃんの黒髪も素敵よねー。これくらいの長さだと、耳の上くらいで逆毛ポニーテールにしちゃう?」
「お、おまかせします」
島にいると髪型を気にすることはあまりないので、口頭で言われてもイマイチイメージが湧かない。
「簡単だから、そんな身構えなくても大丈夫よー。まずは毛束を少なめにしてゴムで髪を止めて、そのゴムを隠すように一巻き。それをアメピンで止めちゃって、こうして、こう」
そうこうしているうちに、栄子さんは目にも留まらぬ早さであたしの髪を整えていく。
「完成ー。見てみて。どうかしら」
「わ……」
言われるがまま、姿見の前に立つ。普段よりかなり高い位置にポニーテールが結われていた。
同じ髪型のはずなのに、位置を少し変えるだけで、こうも違うとは。
まるで自分じゃないみたいで、あたしは言葉を失う。
「気に入ってくれたみたいねー。じゃあ、最後は夏海ね」
その沈黙を肯定と捉えたのか、栄子さんは満足げになっちゃんを呼ぶ。
「うん。二人は髪長くていいなぁ」
「あら、夏海の髪だって、やりようによってはいくらでもかわいくできるわよ。まずは前髪いじりましょ」
嬉々として言いながら、栄子さんはなっちゃんの髪を弄っていく。
はたから見ていると、本当に手慣れている。さすが元美容師さんだった。
……髪型のセットが終わると、浴衣の着付けに移る。
先程までと違って、浴衣はある程度自分で着れる部分もあるので、そこまで栄子さんの手を取らせることはなかった。
「うんうん。三人とも、すごく似合ってるわよー」
あたしたちの着付けを終えた栄子さんは、胸の前で両手を合わせながら満足顔で頷く。
「ヒナちゃんもサイズがぴったりで良かったわ」
「ありがとです!」
元気にお礼を言うヒナの浴衣は、薄紅色の生地に朝顔がついた、かわいらしいもの。あたしは藍色の生地に月の模様が描かれた浴衣で、なっちゃんは水色の生地に菖蒲の花の模様が入っていた。
どれも立派な浴衣で、用意してくれた栄子さんには感謝しかなかった。
「そろそろ良い時間ね。それじゃ、楽しんでらっしゃい」
最後に人数分の下駄を用意してくれ、栄子さんはあたしたちを送り出してくれる。
「ナツミお嬢! 似合ってますぜ! まさに高嶺の花! これならシンヤ坊っちゃんもイチコロっす!」
さくら荘の門前まで出てきた時、ハナグロさんがなっちゃんの浴衣姿を絶賛していた。
「……ハナグロさん、やけに興奮してるけど、なんて言ってるの?」
「似合ってるってさー」
「端折らないで、そのままを伝えてほしいっす!」
地面を転がりながら抗議の意を示すハナグロさんをスルーして、あたしたちは港へと向かった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を
花籠しずく
キャラ文芸
――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。
月のものが来るようになってから、琥珀は不思議な夢を見る。誰かに探されている夢。きっと大切な人だったことは分かるのに、目が覚めると朧気で何も思い出せない。婚約者である志貴の言いなりの人形になる生活をし、生家とは会うと脅され、心が疲弊していたある日、家からひとり抜け出すと、妖魔のようなものに出会う。呪術師である志貴に、一時祓ってもらいはしたが、不思議と心が痛む。夢に美しい男が現れ、声に導かれるようにして、ある山のふもとの、廃れた神社の中に入ると、そこには苦しそうに蹲るあの妖魔がいた。琥珀はそれが夢に現れた、蘿月という男だと直感する。全身が黒い靄で包まれた彼の、靄を払う方法を、どうしてか琥珀は知っていた。口づけをし、息を吹き込むように、生きて、と願った。
帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。
「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」
これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。
※R-15っぽいゆるい性描写があります。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる