婚約者がおバカだったので。自由を満喫しようと思います?

紫楼

文字の大きさ
1 / 8

しおりを挟む
 レインティアは今日も王子の代理で大臣会議に参加している。

 本人が全く役に立たないため自分が出席することは構わないが、同席すらしないのでは重鎮たちにますます軽んじられ居場所を失っていくだろうにとため息が出る。

 陛下や各大臣の並ぶ中、王太子が参加していないのに王太子の婚約者が出席している。誰がどう見ても違和感しかない。

 とは言え、王子の不出来、性格は上層部は知っていて全てを婚約者であるレインティア・サンダーホーク公爵令嬢に押し付けている。
 要するに暗黙の了解で、いつものこととして本日も流されているだけだ。

「おい!!ここにいたのか!!」

 扉の向こうから俄かに騒がしくなったと思ったら件の王子が乱暴に扉を破りズカズカと入ってくる。
 侍従たちが押し留めようとしているが王子の腕にはリボンたっぷりのスカートで半径1メートルは近づけなさそうなパニエドレスの女性がぶら下がっていることと、無闇に女性に触れる訳にもいかず手をこまねいているようだ。

「何事か?」

 陛下が眉根を寄せながら声を掛けると王子は一瞬たじろいだ。まさか会議に父である王が参加していることを忘れていたのだろうかと大臣たちも呆れる。

「父上、ちょうど良かった!!レインティア!お前は私を一切立てず歩み寄りもしない!そんな女と愛のない結婚などごめんだ。私はお前と婚約破棄してこの可愛くて愛らしい。何もかもぐぁ!!好ましいルルアンナと婚約する!!!否!!すぐにでも結婚する!!!」

 周りを顧みることをせず、言いたいことを言い切った王子は鼻息荒く満足そうだ。

「いやぁーん🤍うれしいですぅうううん」
 物語のヒロインにでもなった気分なのだろうルルアンナと呼ばれた令嬢は頬を薔薇色に染め、ギュッと胸を腕に押し付けている。それを王子は嬉しそうに鼻の下を伸ばしているが、部屋の温度が一気に冷えていることにアツアツ()な二人は気にもならないのだろう。

「だそうですが?陛下?」
 この部屋で一番冷気を発しているであろうサンダーホーク公爵が国王に声をかければ、国王は静かに目を閉じて物凄く深い息を吐いた。

「この顔触れの前で言葉に出した以上覆すことは出来まい。サンダーホーク公爵、レインティア嬢、全て誓約書通りにする」

 この婚約はサンダーホーク家にはほぼメリットが無く、幾度も断りを入れていたが王妃の強い希望と、王子を支えてさらに国政に携われる能力を見込まれての強硬な打診で公爵家が折れた形で決まった。
 婚約誓約書にはかなり事細かく条項を書き記し、違約時にサンダーホーク公爵の大臣辞任、破格の賠償金と二度と王家に縁付かせないこと、レインティアの次の婚約、もしくは国外移住に口を出さないことなど、王国の中枢から完全にレインティア、およびサンダーホーク公爵家を退かせることが盛り込まれている。
 レインティアの父であるジョシュア・サンダーホーク公爵は以前より役職を後任に任せて領地に戻りたがっていたが愛娘が王太子妃、のちに王妃となるならばと残っていたにすぎない。

「それでは引き継ぎをして帰りましょうか?お父様」

 レインティアは席を立ち、他の大臣に礼をするとサンダーホーク公爵と退出しようとした。

「待て!!なぜ仕事を途中で投げ出す!?」

 レインティアとサンダーホーク公爵は冷たい眼差しで王子を見るが当の本人は意に返さずにさらに詰ろうとする。

「やめよ」

 国王が王子を引き留めると大臣たちは呆れ返って声を上げる。

「サンダーホーク嬢がしていた仕事は本来、フリードリヒ殿下の仕事です」
「王族ではない令嬢がすることではないのに殿下が丸投げしていたのですから仕事を続けろと言うなら殿下がご着席ください」
「そもそも王家の仕事はまだ婚約者の状態でする範囲ではなかったのだ」

 大臣たちが口々に責め立てると王子はどんどん小さくなっていく。

「さぁさぁお席にどうぞ」
 侍従にルルアンナの分の椅子も用意させる。当然仕事など出来るとは思っていないが。

「いやぁよぅ。私にはぁ無理でぇすぅ~」

「ならばレインティア!側妃にしてやる!仕事が好きなんだから嬉しいだろう」

 王子がいい事を思いついた風に言えば、ルルアンナが首を振る。
「だぁめでぇすーうわきぃですよぉおー」
 
 レインティアは人生で初めて見る巷の流行小説に出てくるようなぶりぶりして語尾を伸ばす女性をある意味感心し、観察していた。

 (まぁ!あれが〈kawaii〉ですのね!)

 そんなことを思ってしまっていたから側妃云々は耳に入ってこずスルーしてしまっていた。

「馬鹿馬鹿しい。側妃になどさせぬ」

 サンダーホーク公爵がバッサリ断ったが能天気な王子は自分が仕事をしたくないので足りない頭を一生懸命回転させる。

「そうだ!!ならば側妃候補のエリアーナ・ブロンディ侯爵令嬢かミシェル・アイスバーグ侯爵令嬢を繰り上げて仕事をしてもらおう!!」

 やった!良いことを思いついたとばかりに満面の笑顔になる王子をヘクソムシを見たように微妙な顔をした高位貴族の重鎮たちをレインティアは舞台でも見ている気持ちで眺める。

「「「「「はぁ?」」」」」
「え?」
「だからぁ~うわきだめでぇすー~」
 国王と大臣たちから怒気を当てられて訳がわからず、ルルアンナのぷんと頬を膨らませた抗議で(可愛いけど困ったちゃんだな)と言う場違いな惚気をした王子は国王の次の言葉でさらに困惑する。

「お前に側妃候補などいないが?」
「うちの娘をそのピンク頭の代わりに仕事をさせる駒にしたいといったのか?」
「ミシェル嬢にもエリアーナ嬢にも婚約者がいますぞ」

 怒り心頭に発する国王とブロンディ侯爵、アイスバーグ侯爵に対して王子は勘違いを理解できない。

「え?だって彼女たちはレインティアと一緒に王宮で教育を受けていたではないか???」


「あれらは将来王太子妃に仕える女官見習いとして修行していたのですぞ」
「!?ならば彼女たちをルルアンナの女官に迎えれば良いのだな!?」

 王子は側妃候補と思い込んでいた四人いた令嬢のうち侯爵令嬢のみを指名し、伯爵家や子爵家はスルーしていた。
 腕にぶら下げているのは男爵家の庶子だったはずだ。
 その令嬢たちに男爵令嬢に仕えるようになどと言い出した王子には大臣たちがさらに呆れ返った。


「私の娘はレインティア嬢の右腕になりたいと必死に食らいついて学園3位まで行ったのだ」
「私の娘もレインティア嬢のお役に立ちたいと生徒会活動を頑張り、成績も高順位を維持して士官免許を取ったのです」

 大臣たちが褒めてもちあげるせいでレインティア初めて居た堪れない気持ちだったがサンダーホーク公爵は愛娘が褒められて友人たちに好かれていることを聞けて喜んでいる。

「「娘は王子の都合の良い駒になるために頑張ったのではない!!」」

 大臣たちの怒りに驚いて王子はルルアンナごと後ろに転けた。
「きゃっっぁあんっ☆」
「・っな・・・ん・・・」

「はぁ・・・衛兵、王子たちを自室に軟禁せよ」

「父上!?」
「えぇ?いやぁぁぁんん~」


 二人は近衛兵に引き摺られるように連れて行かれた。

「皆、すまなかったな、それぞれ追って連絡をする」

 今日はもう仕事にならないと解散になった。

 レインティアは自分用の執務室と仮眠部屋を引き払って、エリアンナたちと王家の執務官全部引き継ぎをして・・・今日中に出ていけるかしら?と首を傾げた。

 その足取りは常より軽やかで、すれ違った侍従や侍女たちは「珍しい」「良いことがあったのかしら?」と微笑ましく思ったのだが、それが王宮に勤める者たちにとっての悪夢の前兆だった。

















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。 〔2026/02・大幅加筆修正〕

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

処理中です...