婚約者がおバカだったので。自由を満喫しようと思います?

紫楼

文字の大きさ
6 / 8

5

しおりを挟む

 しばらくは母がべったりで街に買い物に出たり、カフェに行ったり、外商を呼び母がレインティアと一緒に楽しみたかったのだとドレスや宝石など選ぶ日々。

 すでに情報に聡い貴族からたくさんの釣り書きが届いていたがしばらくは誰にもやりたくないと両親も兄も勝手に断っていた。

「ふふ、ティア、そのドレスもお飾りも素敵ね」

 ようやく母の興奮が落ち着いたので友人たちをテラスに招いた。
 エリアーナがレインティアのペールブルーの装いに目を細めて褒める。

「お母様が選んでくださったのよ」
 
 柔らかな色合いに繊細なレースがレインティアの透明感のある美しさを最大限に引き出している。
 先日まで高級だがゴテゴテした刺繍に黄色に近い金色が主張していたドレスは事情を知っていたが上に気の毒だった。
 侍女たちに手腕でかろうじてレインティアの美しさは崩されていなかったが、本来のレインティアを知っているから最初の頃は「今から嫁いびりだなんて」と本気で心配していた。ただの王妃の好みで純粋に親切心と知らされた時は驚愕したものである。

「さすがはロザンナさまね。デザインも色合いもティアにためにあるようよ」
「ロザンナさまのセンスは王国一ですもの」

 アリエルやミシェルも頬を染めてレインティアを見る。
 彼女たちにとってレインティアもロザンナも憧れの人なのだ。

「そういえば、王子のこと聞きまして?」
「廃太子でも第二王子の成人まで置いておかれるのでしょう?」

 二人がそう話し出したのでレインティアは耳を傾ける。

「王子も桃色ちゃんももう表舞台に立てないのは確定してるのに一番嫌がる罰として教育を受けるみたいですの」

 それは教師たちが一番きつい思いをするのでは?とレインティアは思った。

「王子は王国の歴史、って今まで学んでなかったのね~?桃色ちゃんには五カ国語を習得するまでって公用語どころか我が国の言語も怪しいでしょうに?」
 
 王子も公用語もダメだったと遠い目をしてしまう。
 何を言っても逆ギレで暴言を吐くのでレインティアはもちろん教師たちもお手上げだった。

「王子については教師陣の怠慢でもありますよ」
 エリアーナがばっさり切り捨てたけれど、レインティアも王子を諭せなかったので同罪だと思っている。

「王妃さまは桃色ちゃんに王子妃になると言うならレインティアと自分が受けた教育を受けろって言ったそうよ」

 それはただの私怨と言うか。なんと言うか、王妃の受けた教育も微妙だったと聞いている。

「桃色ちゃんって一学年の中で最下位クラスなのよー?王子妃教育なんて無理過ぎですわ」

 一学年はかなり簡単なレベルでカリキュラムが組まれてるはずだが最下位になるのは逆にすごいと思う。

「勉強ができないとかではなく殿方に必死だったんでは?」
「どのみち利口な立ち回りではないですわ」

 いくら教師をつけても覚える気も学ぶ意識もなきゃ進まない。

「しかも側妃?陛下が妻二人で側妃は子供が出来なかったから迎えたっていうのに婚姻前から四人候補がいるとかどんな思い込みなんだか」
 
「おバカたちの不出来を押し付けられるだけの婚姻なんか誰が引き受けるのよねぇ」

 普段は朗らかだが王子とその相手に対しては感情が昂りがちの友人たちがレインティアのために言ってくれてるのはわかってるので、ささくれがちな心は少し癒される。

 いくら興味のない相手からでも自分を否定されると言うのはやはり少し切ない。
 
「今度は観劇に参りましょう」
「あら泉に行きましょうよ」
「それなら同じ日に行けそうですわ」

 学園時代にお友達としたかったことを全部叶えようとしてくれる気持ちが嬉しい。
 レインティアは婚約破棄によってこの友人たちの人生ががあの王宮で自分のために使い潰されずに済んで良かったと思っている。

「そうそう、フローラル侯爵夫人が甥っ子のためにお茶会を開かれるそうよ」
「あら、甥っ子ってディライト公爵の放浪次男ディーンさま?」

 ナナミーたちが話題に出した男は私たちが幼い頃はよく母親たちの集まりで顔を合わせていた三つ上の幼馴染だ。
 

「どうも隣国に留学してたとかで帰還の祝いだそうよ」
「隣国に留学ってなぜか不都合を誤魔化してる言葉に思えますわ」
「ふふ、駆け落ちや出奔を誤魔化してそうよね」

 公爵家の若い息子ならその動向は常に人目についてるので隣国に留学とは確かに曖昧な聞こえ方に感じる。

 レインティアが婚約を決めた頃には隣国ハーマンではなく魔法学に強いバルドガ国に行っていたはず。


 その後、彼女たちの婚約者たちが顔を出して、王宮の仕事を片付けたことや観劇や買い物、旅行には付いてくることを強く訴えられた。

 人数がいた方が楽しいし、今まで恋人たちの時間を制限させてしまっていただろうからとレインティアは快諾した。

「もう、過保護ではなくて?」

 エリアーナが頬を膨らませつつも嬉しそうで婚約者のアーネストは冷徹な雰囲気を和らげる。その瞳の色はついに王子から抜けられることのなかった優しい思いやりに満ちていて、レインティアは友人が大切にされていることを嬉しく思った。

 彼女たちはレインティアが今後始める仕事の手伝いを志願してくれていて、婚約者たちもそれぞれが自身の家の事業との連携を約束してくれているので、末長く付き合いは続いていく。

 望んでいなかった婚姻がなくなって、友人たちとやりたいことを出来る環境になったことが改めて感じる。

 ミシェルやアリエルも婚約者と笑い合いつつ、レインティアを気にしているが、レインティアは今婚約者がいなくて寂しいとかではなく、いなくて嬉しいので「お気遣いなく」と笑う。

 このまま結婚をしないと言うわけにはいかないだろうけど、次はせめて会話の成立する相手がいいな、と願った。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。 〔2026/02・大幅加筆修正〕

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...