婚約者がおバカだったので。自由を満喫しようと思います?

紫楼

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 家に戻って完全に寛ぎモードになったレインティアは護衛が付いているものの一人で公園に行ったり、王都の商店街を見て回ったり、王太子の婚約者のままでは出来なかったことを楽しんでいる。
 家族や友人たちは自分たちも付き合うと独り歩きを反対したが、レインティアは《やりたかったリスト》《一人でv er》を誰かと共有する気がない。
 身軽で自由な身であったならという婚約前からの憧れも混ざっているのだから。

 普段身に纏っている衣装より数段格の落ちる服をメイドに頼んで仕入れてもらい、染粉で髪の色を地味にして、ノーメイクに近いレインティアの思う町娘の姿に変装して出歩いていた。

「お嬢様、これより奥は危険ですからそろそろ戻りましょう」

 護衛のカイルがスラムに近寄るのを避けるため提案した。

 護衛には他に3名ほど付かず離れずで配置されている。

 いくら自由を楽しむと言っても彼らに皺寄せがいくのである程度見たかったものを見らてたので帰宅するため街の隅に待機させていた馬車に戻る。

「楽しかったわ」
 
 公爵令嬢が自分の足で買い物に行き。さほど高価ではないものをあれこれ楽しげにウィンドーショッピングして、屋台の串焼きを立ち食いした。

 こんな些細なことをやってみたかったと嬉しげにするレインティアをカイルたち護衛は切なく思う。
 幼い頃から見守ってきたお嬢様が、なんでも手に入り希望が全て叶えられるような立場のお嬢様が、この程度のことを我慢する抑圧された状況下に置かれていたことが悔しい。

 カイルは歳が近いためレインティアの王宮暮らしに付き添うことは許されなかった。
 護衛は王家の近衛がいるからと必要がないと外されてしまっていた。

 王妃はレインティアのそばから徹底的に実家の勢力を削いて自分の扱いやすい者を置きたがったが、執事ジェイドと侍女のナーシャ、ネネを連れて行けないなら教育は公爵家で請け負うと猛抗議して同行させた。
  
 
 ジェイドたちが支えたを陰で婚約破棄に向けての対策はスムーズに行われて良かったのだが、その中に自分もいたかったとカイルは苦々しく思っている。

「カイル、今日は付き合ってくれてありがとう」

 レインティアがそう笑いかけてくれたから黒い気持ちは霧散する。
 今までは側にいることが出来なかったがこれからは何があっても護るとカイルは誓う。


 サンダーホーク家は事後処理や引き継ぎの問題で王都に残っていたがついに領地に向けて出発する日が来た。タウンハウスは仕事のため残すが常駐するのは執事とサーンダーホーク領の抱える事業の統括責任者だけになっている。

 エリアーナ達や婚約者たちの家は王都に残る家もあったが事業のためであって王家のためではない。

 朝早い時間であるのに友人たちが見送りに来てくれた。

「私たちも領地に戻ってからすぐにサンダーホーク領にお伺いいたしますわ」
「まぁ久しぶりの領地、ゆっくりした方がいいわよ?」
 
 鼻息荒く意気込むナナミーにレインティアは軽くハグをする。

「ティアさまと長く離れるのは嫌です~」
「そうよ!領地に落ち着いたら旅行に行ったり船に乗ったりするんですのよ」

 アリエルもミシェルもレインティアより〈やってみたいリスト〉が多いかもしれない。

 みんなで行き先や旅程を考えて・・・これからは何も気にせず先の事を楽しみにできるのだ。いっそ世界一周もいいかもしれない。
 さすがにそこまでは考えていないけれど。
 有名な史跡とか聖王国の大聖堂とかベタな観光地に行きたいと思う。

「ティア、そろそろ出発だよ」

 家の前にズラリと並んだ馬車準備が整ったようだ。
 公爵家当主ジョシュアに声をかけられて、エリアーナたちは少し緊張する。

「君たち見送りありがとう。領地でもレインティアと仲良くしてやってくれ」
 
 クールと評判のジョシュアが微笑むとエリアーナとミシェルがふらりと体を揺らがせる。
 自分の父と同世代でも美形には弱いらしい。
 ジョシュアはポーカーフェイスで仕事のできる男として王宮では密かに人気のあった男なのだ。

 カイルとジェイドが音もなく支えて事なきを得たが父はびっくりして笑顔のまま固まっている。

「お父様、お二人は父のファンですの」
「・・・ファン?」

 きょとんとしてしまうジョシュアに今度はナナミーとアリエルが悶える。

「わ、私も好きです」
「はわわ、私もファンです」

 娘の友人たちに頬を染められて悪い気がしないジョシュアは、

「そうか。ありがとう」

 ちょっと照れながらお礼を言うのがまた可愛いと彼女たちは内心が大変落ち着かないことになっている。

「お父様、お母様に言っちゃいますよ?」
「!?」
 途端に眉をハの字にするジョシュアにエリアーナたちは今日はいろいろな表情を見られていい日だと喜んだ。

 ずっと苦労をかけてしまった友人たちに思わぬところでご褒美が発生したことでレインティアの心は少し軽くなった。
 領地に遊びに来てくれた時は父と母、兄とお茶や食事と同席してもらってもっと楽しんで頂きましょうと家族をダシにすることを決めた。


「ではまたお会いしましょう」

 婚約破棄から一月、レインティアは王都から領地に戻った。


 元王太子とルルアンナが王宮の地下室から怨嗟の声を上げていたがレインティアたちの知ることではない。




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