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17巻
17-3
「そうでしたか。しかし、そうなるとなぜ、その死神様が四天王をなさってるんですか?」
という疑問が湧いてくる。何も魔王様に仕える必要はないと思うのだが。
「私がここにいる理由は、死神という存在を魔族の方々に正しく理解してもらうためと、治療法の伝達のため。人族風に言うのであれば、私は戦える医者。様々な病気に対する治療法が間違っていることを私が指摘したら、魔王様からしばらく四天王として魔王城に滞在し、知恵を分けてほしいと頼まれた。なので、正確に言うのであれば、私は魔王様の配下ではない。魔王様の人格が良いので、その手助けをしているに過ぎない」
あ、そうなのね。あくまで協力者ってことか。うーん、でもそうなるともう一つ聞きたいことが。
「もう一つ質問してもよろしいですか? 死神様がここにいると、魔族の皆様は死後に迷うことはないでしょうが、他の種族が大変なことになるのではないですか?」
この質問に対する返答は……
「大丈夫、各種族に合わせた死神がいるから。私が魔族担当というだけ」
だそうだ。各種族に対応した死神がいるという点はちょっとびっくりした。
「では、次は私から質問する。貴方にとって『闇』とは何?」
「闇、ですか。闇は闇、それ以上でもそれ以下でもない……という形式ばった答えを聞きたいわけではないですよね?」
自分の言葉に、デスさんは「ん」と言いながら頷く。
そうなると、どう返したものかな。
「繰り返しますが、闇は闇でしかない。決して悪というわけではないし、毒などのように害あるものでもありません。残念なことに、そんな闇に乗じて悪事を働く者が大勢いることは否めません。ですが、それは闇が悪いのではなく、闇を悪用した者が悪い。そういった背景があり、一時期には闇は悪で光が善という風潮が出来上がってしまいましたね」
ひと昔前は、闇に閉ざされた世界を光の戦士が救うってストーリーパターンで、闇が一方的に悪役をやらされた例はかなり多い。まあ、分かりやすいっちゃ分かりやすいんだけど。
「が、闇は安らぎをもたらしてくれることを忘れてはいけない。夜は穏やかに眠ることができるのは、闇が優しく包んでくれるからとも言える」
もちろん、中には明るくないと眠れない、という人もいるけれど……日中の眩しい光の中で眠るのはちょっと厳しいだろう。世界が光一辺倒となったら、それはそれで過ごしにくくなる。
「そう考えれば、光と闇は表裏一体。どちらかがあるから、もう片方も認識できる。そうなると、闇とは世界の秩序の一つ。つまり、自分にとって闇とは『なくてはならない存在』ということになると思います」
〈義賊頭〉としての立場からもね。状況によっては昼間のこともあるにしても、基本的に〈義賊頭〉として動くのは夜だ。最近はこれといった事件が発生していないのでご無沙汰だが。もちろんご無沙汰なほうがいい、それだけ平和だってことなんだから。
「なくてはならないもの、か。これもまた、私の予想とは全く違う答えが返ってきた。私の予想では、恐ろしいものであるとか、邪悪な一面を持つだとかの返答が来ると思っていた。なるほど、貴方には闇に対する偏見はないようだ」
特定属性が好きだ、ってのはあるけど、偏見はさすがにないな。闇という属性が悪いんじゃなくて、その属性を用いて悪事を働く連中が悪いのだ。
このたとえとして、よく包丁が用いられるな。人に向ければ凶器となる。しかし調理道具としては非常に便利で欠かせない。結局、ごく一部の例外を除いて、悪いのは道具や技術そのものではなく使う側である、ということになるだろう。
「まあ、これまで闇と関わることが多かったということもありますからね。自分が持っている魔剣も闇属性ですし」
四天王の試験を受けるにあたってメイドさんに預けてきたので、今ここにはありませんが。
あとは、フェアリークィーンも闇属性。今回の依頼を頼んできたダークエルフの守護者様も闇属性だ。アクアは水属性だけど……自分は闇属性を持つ者たちと頻繁に係わってきている。〈義賊頭〉のスキルだって、闇系統に属すると判定されてもおかしくはない。
「なるほど。貴方自身が闇であるとまではいかなくても、それなりに多く関わってきたからこそ、偏見がないということか。魔族は闇属性の魔法を得意とする者が多い。そして逆に光属性の魔法はあまり得意ではない者が多い。そのため、光を善とする者たちとは幾度となく争ってきた背景があると、先輩の死神から聞かされていたが……貴方にはそういった考えはないな。これならば、次の四天王への道を開いてもいいと私は考える」
どうやら、デスさんにも認めてもらえたようだ。
「人には色々な考え方があるのは分かる。でも、闇だから、あるいは光だから、という理由だけで安易に善悪を決めつけるのはよくない。そのことをこれからも忘れないでほしい」
デスさんの言葉に頷く。少なくとも、この世界ではその通りだな。
「それでは、失礼いたします」
頭を下げて部屋から退出する。さて、これで残る四天王はあと一人か。どんな方が待っているのやら。
5
「お待ちしておりました。では、ご案内いたします」
ミステさんの案内に再び導かれ、魔王城の中を歩く。それにしても上ったり下りたり、左右に曲がったりで、なかなか大変だ。
「魔王城の中はまるで迷路ですね」
自分の言葉に、ミステさんは「ええ、そういう形を取っています」と返答。ありゃ、本当に迷路なのか。
「許可なき侵入者の足を止めるべく、魔王城の通路は複雑に作られています。壁を破壊することで無理やり前進されることを防ぐために、壁にも強化魔法が掛かっていますよ。あまり詳しくは申し上げられませんけど」
ラストダンジョンとして魔王城が出てくるのもよくあるパターンだ。そういう面は踏襲しているらしい。ただ、その分メイドの皆さんの仕事がかさむようで、あちこちから、
「掃除が面倒よね」
「仕方ないわよ、魔王様の居城なんだし」
「でももうちょっとすっきりとした形だと仕事が楽なんだけどなー」
「シッ! メイド長に聞かれたら大目玉を食らうわよ! 話もいいけど手を動かして!」
なんて会話がたまに聞こえてくる。
「あ、あはははは……その、聞かなかったことにしていただけると大変嬉しいです」
ミステさんのヘッドドレスには、いつ現れたのか、でっかい汗マークがくっついていた。変な所で芸が細かい。
「ま、まあ仕事が大変だということは理解できますからね。いちいちメイド長なる方に告げ口はしませんよ。ご安心ください」
多少の愚痴とか不満はしょうがないと思う。それを口に出すことで発散するのは別にアリだろう。大声で言っていたわけではないし、目をつぶってもいい範囲だろう。それすらダメってなると、却って状況が悪化することぐらい、ここのメイド長とやらも多分理解しているんじゃないかな? 部外者である自分の耳に入ったのは、まずいかもだけど。
「あの、メイド内で言い合うぐらいならよいのですが、外からいらっしゃっている貴方様の耳に入ったのが少々まずいと言いますか」
あ、自分と同じところを気にしているのか。考えがほぼ一緒と見ていいのかなこれは。
「重ねて言いますが、口外はしませんので。そもそも自分は押しかけてきた立場ですからね。あれこれ言う資格はないと思いますし」
さすがにアポを取った上でやってきた客に愚痴が聞こえるようではまずいけど、今回はそうじゃない。そんな自分が、余計なことを言うものではない。
「そうしていただけると助かります。お話の分かる方で良かった、あの子たちも命拾いしましたね」
なんか、物騒なことを言っているんですが。ちょっとだけ聞いてみるか。
「命拾いって、どういうことでしょうか? メイド長はそこまで厳しい方なのですか?」
この問いかけに対するミステさんの返答は……
「ちょ、ちょっと頭が痛いので、その件に関するお話はご容赦いただけると助かります、はい」
ミステさんは急に歩き方がぎこちなくなり、宙に浮いているメイド服全体が小刻みにプルプルと震え出した。
──トラウマになっていらっしゃる。これは深く突っ込まないほうがいいですね。
「そ、それでですね。最後の四天王様はあちらの部屋にいらっしゃいます。どうぞ」
そんな話をしていたら、どうやら到着したらしい。さて、最後の一人は一体どんなお姿をしていらっしゃるのやら。
「お待ちしておりました。まずはこちらにお掛けください。改めまして、メイド長と四天王を兼任しております、リビングアーマーです。個人名もあるのですが、名前を知られてしまいますと色々と問題がありますため、名乗ることができません。なにとぞご了承ください」
四天王最後の一人は……最初にお会いしたリビングアーマーさんでした。勧められた椅子に腰を下ろし、まずはひと息つく。
「さて、実は今まで貴方様が出会った四天王たちとの受け答えと、これまでの行動を大まかに調べさせていただきました。方法は内緒です」
リビングアーマーさんは唐突にそう告げてきた。これまでの行動ってのはどこまでを含むんだろう。目の前の報告書らしき物をめくって、リビングアーマーさんは話を続ける。
「えー、妖精と龍の国にはそれなりに顔が利くようですね。また、ゲヘナクロスとの戦いにも参加し、獣人連合内で突如起こったバッファローの大群との戦いにも顔を出しているようですね……なかなかご活躍なさっているようで」
っ! そんなことまでこの短時間で調べ上げた、だと? 最初に会って自己紹介をしてから……まだ二時間も経過していないぞ? これは各方面に何らかのパイプがあるな。いくら魔法で短縮できる部分を短縮しても、二時間足らずでそこまでの情報を集めることはできまい。
だが、〈義賊頭〉としての活動内容については一切触れない、か。そっちがばれていないなら、何ら問題はないな。
「──といった感じの旅を続け、魔王領に入った直後、この城にやってきた。間違いはありませんか?」
と、こちらに確認を求めるリビングアーマーさん。隠すようなことはないから、素直に答える。
「ええ、間違いありません。それにしてもよく調べ上げましたね……かなりあちこちを行ったり来たりしてきたのですが」
ここであれこれ聞こうとしても、どうせ『メイドですから』でごまかされそうな気がする。ファンタジーにおけるメイドって、可愛いだけではなく、戦ったり情報収集をしてきたりと多才な子が多いしね。メイドと言えば、あのダークエルフのメイド三人組は元気でやってるかな。
「収集した情報は、この後破棄します。あくまで魔王様と謁見させても問題ない人物か否かを確認するためだけに集めたものですので、確認が取れた今はもう不要です」
言うが早いか、分厚い報告書を自分の目の前で部屋の隅にある暖炉に突っ込み、火をつけて燃やしてしまうリビングアーマーさん。外の気候に反して城の中は十分暖かいので、ただの飾りなのかと思っていたが、こういう風に使うのか。
「さて、私の試験ですが……実はもう終わっております。それと同時に、ここまでの試験の意味などを発表しようと思います。こちらの考えを一切教えないのでは、そちらも気味が悪いでしょうから」
いや、別に。何かにつけ、知らないうちに試されるなんてのは世の中ではしょっちゅうだしねぇ。
とはいえ、いちいちそんなことを告げる必要もあるまい。ここは大人しく話を聞こう。
「まず、最初のエキドナのマドリアの試験は、『自分の姿とは大きく異なる姿をしている者でも受け入れるか否か』の審査です。特に彼女は、背中から翼が生え、下半身は蛇というエキドナですからね。受け入れられない者は簡単に拒絶反応を示します。たとえポーカーフェイスを保てたとしても、一瞬目に浮かぶ脅えや嫌悪は隠せません。そして、そういったものを見逃さないのがマドリアなのです」
あー、うん。これは分かりやすかった。何せ下半身の蛇の部分をことさら強調してきたからね。あれで自分の目に嫌悪感とかが浮かんだら、即座に不合格だったんだろう。
残念ながら、もう色々と見てきちゃったこっちにしてみれば、一つの種族特性としか思えないんだよね。別段嫌悪感を抱くこともない。
「次のサキュバスクィーンであるヘテラの試験は、『色欲に簡単に流されるような心弱き者であるか否か』を見るものでした。サキュバスという種族が持つ色香は、多くの男性を惑わしてきました。肌を晒さない彼女であっても、その力が減じてはいません。美しかったでしょう? そして、彼女が誘惑の精神魔法を放っていたことに気がつかれましたか? それらに負けて彼女に襲い掛かるようでは、失格でしたね」
ああ、何かされていたなーとは思っていたが、そういうことか。にしても、その手の精神系魔法ってこの世界の人相手ならまだしも、プレイヤーに効くのか? だが、色々と変な部分があるのが「ワンモア」だし……追及するのはちょっと怖いから黙っておこう。
「三番目の死神のデスの試験は『闇を一方的に悪と見なしていないか』ですね。魔族は種族の関係上、光系統の魔法や技術は苦手で、闇系統の魔法などが得意です。そのため、光を正義、闇を悪と断じる者から一方的に攻撃を仕掛けられたことが多々あります。そしてそれが他の種族との戦争の切っ掛けになったことも一度や二度ではありません。今は時代が変わって、そういった考えはかなり薄れましたが……やはり、ゼロにはなっておりません」
あーうん、とくに宗教関連でそういう考えが根強いと面倒だよね。もしかすると、過去妖精たちが各国に攻め入っていた時期ってのは、そういう腐れ宗教が原因だったのかもしれない。で、それをやめる妖精の王が出てやっと、侵略行為が収まった、と。
宗教が理由ってなると、なかなか終わりが見えないんだよね。これも歴史が証明してる。
「そして最後の私ですが……やってきた人物の情報を集め、それらの情報と、事前に試験をした四天王三人の評価から、魔王様に謁見する資格があるかどうかを判断するのです。なので、四天王の前でだけ猫を被っても無意味、というわけですね。魔王様に害をなそうという者が掃いて捨てるほどいた時代があり、そのときの名残もあって、このような判別方法を採っているのです」
何せ魔族の王様だもんね、謁見したいという者がいればそれぐらい調べるのは当然だろう。が、自分も今回ばっかりは遊びでも好奇心でもなく、引けない理由があるから、落とされるわけにはいかない。
かといって、ダークエルフの守護者様から預かっている手紙を先に出して、これを見せれば分かるはず──なんて方法は、要らん混乱を招く可能性があった。確認のために封を開けろなんて言われるのを避けたかったから、自分は素直に試験を受けたのだ。
「なるほど、そういうわけで、ここにやってきた時点であなたの試験は終わっていることになるのですね。では、今回の試験の合否を教えて頂けますか?」
もし否だった場合は……また何か手を考えよう。とにかく四天王の皆さんと顔を合わせることはできたのだから、例の手紙を魔王様に届けることぐらいは何とかなりそう、か。その場合、自分で直接持っていけないのは気がかりだが。
「では、発表します。アース様の魔王様謁見許可の合否、それは~~~~」
なぜそこで溜める。そしてどこからともなくリビングメイドが数名やってきて、一斉にドラムロールを始める。そんな知識をどこで手に入れた! そしてまだ溜めるんかい! こんな焦りを煽るような演出は要らない!
「~~~~合格です! 四天王の評価が良く、今までの行いからも魔王様に狼藉を働く人物ではないと判断できます。魔王様もすでにスタンバイしておりますので、早速謁見に向かいましょう!」
魔王様がスタンバイしてるって何ですか。カタパルトにでも乗って、いつでも行けますってことですか。
……いや、これが「ワンモア」の世界だ。常識なんかかなぐり捨てるべきなんだ。色々と不安なんだが、どの道、魔王様に直接会える絶好の機会を捨てるという選択肢はない。
「合格と聞いてほっとしました。では……今更と言えば今更なのですが、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
早速案内しようとしていたリビングアーマーさんを呼び止める。そのリビングアーマーさんが『どうしました? 何か問題が?』と言わんばかりに首を傾げたので、話を続ける。
「魔王様に謁見するというのに、こんな冒険者姿のままでよろしいんでしょうか?」
ほら、魔王様に限らず、王様に謁見するときはそれにふさわしい格好をしろっていうのが、一種のお約束的な面があるじゃないですか。一般的に、その場に合わせた物を纏うのは必要なことなんだよ。
「ああ、服装ですか。今回は完全に私的な謁見ですから、そのままで問題ありませんよ。もちろん公式行事としての謁見であったならば、それ相応の服を無理やりにでも着ていただいたところですけどね」
それでいいのかメイド長。まあ、いいと言うのであればいいんだろう。
幸いこの外套も擦り切れているわけではないし、そんなに不潔にも不衛生にも感じないはずだ。一応メイド長であるリビングアーマーさんに確認して問題なしと言ってもらえたのだから、よしとしよう。
そうしてまた城の中を案内されて歩くことしばし、ついに謁見室の前に到着する。
「では、中に入ってこちらのメイドの出す指示に従ってください。一応、王との謁見ということになりますので、最初だけはそれなりの手順を踏んでいただきます」
で、謁見室の中に通されていくつかの指示を受けた。まあ、大体予想通りだ。
まず、最初は片膝をついた格好で頭を下げておき、魔王様から「面を上げよ」と言われたところでゆっくりと顔を上げる。それから魔王様の挨拶があり、「して、何の用でここまで来たのかを聞かせてもらおう」と言われた後、「では、恐れながら申し上げます」とひと言断りを入れてから理由を述べる――という流れにしてください、とのこと。
「よく分かりました、その流れに従います」
「よろしくお願いしますね、もう少ししたら魔王様がいらっしゃいます。少々窮屈かもしれませんが、そのままお待ちくださいませ」
リビングメイドさんが立ち去り、すぐに謁見室の奥のほうが騒がしくなってきた。非公式なので、部屋にいる人も魔王様の護衛の方々とリビングアーマーさんを除いた四天王の三名しかいないようだ。
いよいよだ、これで目的が達成される。そして──
「魔王様、ご入場! 皆、敬意をもって迎えよ!」
との号令がかかった。
さて、どんな魔王様なのか……ちょっと楽しみだ。
6
「魔王様、ご入場!」の号令で、謁見室には静寂が訪れた。
そんな中、コツコツという足音が聞こえてくる。ああ、この足音の主が魔王様なんだな。頭を上げるわけにいかないので確認はできないが、今足音を出すことが許されるのは魔王様だけだ。
足音はやがて自分の前方から聞こえるようになり、さて、いよいよかと身構えた瞬間、それは起こった。
ズルッ ガン! べちょっ ドッスーン
(何事!?)
突如起こった四つの音に反応して、つい頭を上げてしまった自分。だが、それを窘める人も警告してくる人もいない。
「ま、魔王様~~~!?」
マドリアさんの絶叫が響き渡る。
前を見ると、ドレス姿の女性がうつ伏せに倒れていた。しかも、その状態で豪華な玉座の下敷きになっている……一体何が起こったんだ……さっきの音から予想すると……
『ズルッ』で女性が足を滑らした。それから『ガン!』で玉座の手すりに体のどこかをぶつけた。そして『べちょっ』が女性がうつ伏せに倒れた音で、『ドッスーン』は玉座がその上に落ちた音なんだろう。
玉座が空を舞った理由は、女性が手すりにぶつかったときになぜか跳ね上がったのだろう。「ワンモア」世界だと物理法則がたまにサボるからね。
「おはな打った、痛い……」
女性の可愛い声。マドリアさんとリビングアーマーさんが大慌てで、その上に乗っかった玉座をどかす。そしてそのまま女性をいったん外に運び出していく。あっけにとられている自分に、サキュバスクィーンのヘテラさんが近寄ってきてこう一言。
「見なかったことにしてください」
いや、見なかったことにしろって……何だろう、これから重要な話をしなければならないというのに、そこはかとなく不安になってくるこの気持ちは。
とりあえず、囁いた後はじーっとこちらを見てくるヘテラさんに頷いておく。美人から無言の圧力を受けると実に怖いね。
そしてそれから待つこと数分……
という疑問が湧いてくる。何も魔王様に仕える必要はないと思うのだが。
「私がここにいる理由は、死神という存在を魔族の方々に正しく理解してもらうためと、治療法の伝達のため。人族風に言うのであれば、私は戦える医者。様々な病気に対する治療法が間違っていることを私が指摘したら、魔王様からしばらく四天王として魔王城に滞在し、知恵を分けてほしいと頼まれた。なので、正確に言うのであれば、私は魔王様の配下ではない。魔王様の人格が良いので、その手助けをしているに過ぎない」
あ、そうなのね。あくまで協力者ってことか。うーん、でもそうなるともう一つ聞きたいことが。
「もう一つ質問してもよろしいですか? 死神様がここにいると、魔族の皆様は死後に迷うことはないでしょうが、他の種族が大変なことになるのではないですか?」
この質問に対する返答は……
「大丈夫、各種族に合わせた死神がいるから。私が魔族担当というだけ」
だそうだ。各種族に対応した死神がいるという点はちょっとびっくりした。
「では、次は私から質問する。貴方にとって『闇』とは何?」
「闇、ですか。闇は闇、それ以上でもそれ以下でもない……という形式ばった答えを聞きたいわけではないですよね?」
自分の言葉に、デスさんは「ん」と言いながら頷く。
そうなると、どう返したものかな。
「繰り返しますが、闇は闇でしかない。決して悪というわけではないし、毒などのように害あるものでもありません。残念なことに、そんな闇に乗じて悪事を働く者が大勢いることは否めません。ですが、それは闇が悪いのではなく、闇を悪用した者が悪い。そういった背景があり、一時期には闇は悪で光が善という風潮が出来上がってしまいましたね」
ひと昔前は、闇に閉ざされた世界を光の戦士が救うってストーリーパターンで、闇が一方的に悪役をやらされた例はかなり多い。まあ、分かりやすいっちゃ分かりやすいんだけど。
「が、闇は安らぎをもたらしてくれることを忘れてはいけない。夜は穏やかに眠ることができるのは、闇が優しく包んでくれるからとも言える」
もちろん、中には明るくないと眠れない、という人もいるけれど……日中の眩しい光の中で眠るのはちょっと厳しいだろう。世界が光一辺倒となったら、それはそれで過ごしにくくなる。
「そう考えれば、光と闇は表裏一体。どちらかがあるから、もう片方も認識できる。そうなると、闇とは世界の秩序の一つ。つまり、自分にとって闇とは『なくてはならない存在』ということになると思います」
〈義賊頭〉としての立場からもね。状況によっては昼間のこともあるにしても、基本的に〈義賊頭〉として動くのは夜だ。最近はこれといった事件が発生していないのでご無沙汰だが。もちろんご無沙汰なほうがいい、それだけ平和だってことなんだから。
「なくてはならないもの、か。これもまた、私の予想とは全く違う答えが返ってきた。私の予想では、恐ろしいものであるとか、邪悪な一面を持つだとかの返答が来ると思っていた。なるほど、貴方には闇に対する偏見はないようだ」
特定属性が好きだ、ってのはあるけど、偏見はさすがにないな。闇という属性が悪いんじゃなくて、その属性を用いて悪事を働く連中が悪いのだ。
このたとえとして、よく包丁が用いられるな。人に向ければ凶器となる。しかし調理道具としては非常に便利で欠かせない。結局、ごく一部の例外を除いて、悪いのは道具や技術そのものではなく使う側である、ということになるだろう。
「まあ、これまで闇と関わることが多かったということもありますからね。自分が持っている魔剣も闇属性ですし」
四天王の試験を受けるにあたってメイドさんに預けてきたので、今ここにはありませんが。
あとは、フェアリークィーンも闇属性。今回の依頼を頼んできたダークエルフの守護者様も闇属性だ。アクアは水属性だけど……自分は闇属性を持つ者たちと頻繁に係わってきている。〈義賊頭〉のスキルだって、闇系統に属すると判定されてもおかしくはない。
「なるほど。貴方自身が闇であるとまではいかなくても、それなりに多く関わってきたからこそ、偏見がないということか。魔族は闇属性の魔法を得意とする者が多い。そして逆に光属性の魔法はあまり得意ではない者が多い。そのため、光を善とする者たちとは幾度となく争ってきた背景があると、先輩の死神から聞かされていたが……貴方にはそういった考えはないな。これならば、次の四天王への道を開いてもいいと私は考える」
どうやら、デスさんにも認めてもらえたようだ。
「人には色々な考え方があるのは分かる。でも、闇だから、あるいは光だから、という理由だけで安易に善悪を決めつけるのはよくない。そのことをこれからも忘れないでほしい」
デスさんの言葉に頷く。少なくとも、この世界ではその通りだな。
「それでは、失礼いたします」
頭を下げて部屋から退出する。さて、これで残る四天王はあと一人か。どんな方が待っているのやら。
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「お待ちしておりました。では、ご案内いたします」
ミステさんの案内に再び導かれ、魔王城の中を歩く。それにしても上ったり下りたり、左右に曲がったりで、なかなか大変だ。
「魔王城の中はまるで迷路ですね」
自分の言葉に、ミステさんは「ええ、そういう形を取っています」と返答。ありゃ、本当に迷路なのか。
「許可なき侵入者の足を止めるべく、魔王城の通路は複雑に作られています。壁を破壊することで無理やり前進されることを防ぐために、壁にも強化魔法が掛かっていますよ。あまり詳しくは申し上げられませんけど」
ラストダンジョンとして魔王城が出てくるのもよくあるパターンだ。そういう面は踏襲しているらしい。ただ、その分メイドの皆さんの仕事がかさむようで、あちこちから、
「掃除が面倒よね」
「仕方ないわよ、魔王様の居城なんだし」
「でももうちょっとすっきりとした形だと仕事が楽なんだけどなー」
「シッ! メイド長に聞かれたら大目玉を食らうわよ! 話もいいけど手を動かして!」
なんて会話がたまに聞こえてくる。
「あ、あはははは……その、聞かなかったことにしていただけると大変嬉しいです」
ミステさんのヘッドドレスには、いつ現れたのか、でっかい汗マークがくっついていた。変な所で芸が細かい。
「ま、まあ仕事が大変だということは理解できますからね。いちいちメイド長なる方に告げ口はしませんよ。ご安心ください」
多少の愚痴とか不満はしょうがないと思う。それを口に出すことで発散するのは別にアリだろう。大声で言っていたわけではないし、目をつぶってもいい範囲だろう。それすらダメってなると、却って状況が悪化することぐらい、ここのメイド長とやらも多分理解しているんじゃないかな? 部外者である自分の耳に入ったのは、まずいかもだけど。
「あの、メイド内で言い合うぐらいならよいのですが、外からいらっしゃっている貴方様の耳に入ったのが少々まずいと言いますか」
あ、自分と同じところを気にしているのか。考えがほぼ一緒と見ていいのかなこれは。
「重ねて言いますが、口外はしませんので。そもそも自分は押しかけてきた立場ですからね。あれこれ言う資格はないと思いますし」
さすがにアポを取った上でやってきた客に愚痴が聞こえるようではまずいけど、今回はそうじゃない。そんな自分が、余計なことを言うものではない。
「そうしていただけると助かります。お話の分かる方で良かった、あの子たちも命拾いしましたね」
なんか、物騒なことを言っているんですが。ちょっとだけ聞いてみるか。
「命拾いって、どういうことでしょうか? メイド長はそこまで厳しい方なのですか?」
この問いかけに対するミステさんの返答は……
「ちょ、ちょっと頭が痛いので、その件に関するお話はご容赦いただけると助かります、はい」
ミステさんは急に歩き方がぎこちなくなり、宙に浮いているメイド服全体が小刻みにプルプルと震え出した。
──トラウマになっていらっしゃる。これは深く突っ込まないほうがいいですね。
「そ、それでですね。最後の四天王様はあちらの部屋にいらっしゃいます。どうぞ」
そんな話をしていたら、どうやら到着したらしい。さて、最後の一人は一体どんなお姿をしていらっしゃるのやら。
「お待ちしておりました。まずはこちらにお掛けください。改めまして、メイド長と四天王を兼任しております、リビングアーマーです。個人名もあるのですが、名前を知られてしまいますと色々と問題がありますため、名乗ることができません。なにとぞご了承ください」
四天王最後の一人は……最初にお会いしたリビングアーマーさんでした。勧められた椅子に腰を下ろし、まずはひと息つく。
「さて、実は今まで貴方様が出会った四天王たちとの受け答えと、これまでの行動を大まかに調べさせていただきました。方法は内緒です」
リビングアーマーさんは唐突にそう告げてきた。これまでの行動ってのはどこまでを含むんだろう。目の前の報告書らしき物をめくって、リビングアーマーさんは話を続ける。
「えー、妖精と龍の国にはそれなりに顔が利くようですね。また、ゲヘナクロスとの戦いにも参加し、獣人連合内で突如起こったバッファローの大群との戦いにも顔を出しているようですね……なかなかご活躍なさっているようで」
っ! そんなことまでこの短時間で調べ上げた、だと? 最初に会って自己紹介をしてから……まだ二時間も経過していないぞ? これは各方面に何らかのパイプがあるな。いくら魔法で短縮できる部分を短縮しても、二時間足らずでそこまでの情報を集めることはできまい。
だが、〈義賊頭〉としての活動内容については一切触れない、か。そっちがばれていないなら、何ら問題はないな。
「──といった感じの旅を続け、魔王領に入った直後、この城にやってきた。間違いはありませんか?」
と、こちらに確認を求めるリビングアーマーさん。隠すようなことはないから、素直に答える。
「ええ、間違いありません。それにしてもよく調べ上げましたね……かなりあちこちを行ったり来たりしてきたのですが」
ここであれこれ聞こうとしても、どうせ『メイドですから』でごまかされそうな気がする。ファンタジーにおけるメイドって、可愛いだけではなく、戦ったり情報収集をしてきたりと多才な子が多いしね。メイドと言えば、あのダークエルフのメイド三人組は元気でやってるかな。
「収集した情報は、この後破棄します。あくまで魔王様と謁見させても問題ない人物か否かを確認するためだけに集めたものですので、確認が取れた今はもう不要です」
言うが早いか、分厚い報告書を自分の目の前で部屋の隅にある暖炉に突っ込み、火をつけて燃やしてしまうリビングアーマーさん。外の気候に反して城の中は十分暖かいので、ただの飾りなのかと思っていたが、こういう風に使うのか。
「さて、私の試験ですが……実はもう終わっております。それと同時に、ここまでの試験の意味などを発表しようと思います。こちらの考えを一切教えないのでは、そちらも気味が悪いでしょうから」
いや、別に。何かにつけ、知らないうちに試されるなんてのは世の中ではしょっちゅうだしねぇ。
とはいえ、いちいちそんなことを告げる必要もあるまい。ここは大人しく話を聞こう。
「まず、最初のエキドナのマドリアの試験は、『自分の姿とは大きく異なる姿をしている者でも受け入れるか否か』の審査です。特に彼女は、背中から翼が生え、下半身は蛇というエキドナですからね。受け入れられない者は簡単に拒絶反応を示します。たとえポーカーフェイスを保てたとしても、一瞬目に浮かぶ脅えや嫌悪は隠せません。そして、そういったものを見逃さないのがマドリアなのです」
あー、うん。これは分かりやすかった。何せ下半身の蛇の部分をことさら強調してきたからね。あれで自分の目に嫌悪感とかが浮かんだら、即座に不合格だったんだろう。
残念ながら、もう色々と見てきちゃったこっちにしてみれば、一つの種族特性としか思えないんだよね。別段嫌悪感を抱くこともない。
「次のサキュバスクィーンであるヘテラの試験は、『色欲に簡単に流されるような心弱き者であるか否か』を見るものでした。サキュバスという種族が持つ色香は、多くの男性を惑わしてきました。肌を晒さない彼女であっても、その力が減じてはいません。美しかったでしょう? そして、彼女が誘惑の精神魔法を放っていたことに気がつかれましたか? それらに負けて彼女に襲い掛かるようでは、失格でしたね」
ああ、何かされていたなーとは思っていたが、そういうことか。にしても、その手の精神系魔法ってこの世界の人相手ならまだしも、プレイヤーに効くのか? だが、色々と変な部分があるのが「ワンモア」だし……追及するのはちょっと怖いから黙っておこう。
「三番目の死神のデスの試験は『闇を一方的に悪と見なしていないか』ですね。魔族は種族の関係上、光系統の魔法や技術は苦手で、闇系統の魔法などが得意です。そのため、光を正義、闇を悪と断じる者から一方的に攻撃を仕掛けられたことが多々あります。そしてそれが他の種族との戦争の切っ掛けになったことも一度や二度ではありません。今は時代が変わって、そういった考えはかなり薄れましたが……やはり、ゼロにはなっておりません」
あーうん、とくに宗教関連でそういう考えが根強いと面倒だよね。もしかすると、過去妖精たちが各国に攻め入っていた時期ってのは、そういう腐れ宗教が原因だったのかもしれない。で、それをやめる妖精の王が出てやっと、侵略行為が収まった、と。
宗教が理由ってなると、なかなか終わりが見えないんだよね。これも歴史が証明してる。
「そして最後の私ですが……やってきた人物の情報を集め、それらの情報と、事前に試験をした四天王三人の評価から、魔王様に謁見する資格があるかどうかを判断するのです。なので、四天王の前でだけ猫を被っても無意味、というわけですね。魔王様に害をなそうという者が掃いて捨てるほどいた時代があり、そのときの名残もあって、このような判別方法を採っているのです」
何せ魔族の王様だもんね、謁見したいという者がいればそれぐらい調べるのは当然だろう。が、自分も今回ばっかりは遊びでも好奇心でもなく、引けない理由があるから、落とされるわけにはいかない。
かといって、ダークエルフの守護者様から預かっている手紙を先に出して、これを見せれば分かるはず──なんて方法は、要らん混乱を招く可能性があった。確認のために封を開けろなんて言われるのを避けたかったから、自分は素直に試験を受けたのだ。
「なるほど、そういうわけで、ここにやってきた時点であなたの試験は終わっていることになるのですね。では、今回の試験の合否を教えて頂けますか?」
もし否だった場合は……また何か手を考えよう。とにかく四天王の皆さんと顔を合わせることはできたのだから、例の手紙を魔王様に届けることぐらいは何とかなりそう、か。その場合、自分で直接持っていけないのは気がかりだが。
「では、発表します。アース様の魔王様謁見許可の合否、それは~~~~」
なぜそこで溜める。そしてどこからともなくリビングメイドが数名やってきて、一斉にドラムロールを始める。そんな知識をどこで手に入れた! そしてまだ溜めるんかい! こんな焦りを煽るような演出は要らない!
「~~~~合格です! 四天王の評価が良く、今までの行いからも魔王様に狼藉を働く人物ではないと判断できます。魔王様もすでにスタンバイしておりますので、早速謁見に向かいましょう!」
魔王様がスタンバイしてるって何ですか。カタパルトにでも乗って、いつでも行けますってことですか。
……いや、これが「ワンモア」の世界だ。常識なんかかなぐり捨てるべきなんだ。色々と不安なんだが、どの道、魔王様に直接会える絶好の機会を捨てるという選択肢はない。
「合格と聞いてほっとしました。では……今更と言えば今更なのですが、一つ質問してもよろしいでしょうか?」
早速案内しようとしていたリビングアーマーさんを呼び止める。そのリビングアーマーさんが『どうしました? 何か問題が?』と言わんばかりに首を傾げたので、話を続ける。
「魔王様に謁見するというのに、こんな冒険者姿のままでよろしいんでしょうか?」
ほら、魔王様に限らず、王様に謁見するときはそれにふさわしい格好をしろっていうのが、一種のお約束的な面があるじゃないですか。一般的に、その場に合わせた物を纏うのは必要なことなんだよ。
「ああ、服装ですか。今回は完全に私的な謁見ですから、そのままで問題ありませんよ。もちろん公式行事としての謁見であったならば、それ相応の服を無理やりにでも着ていただいたところですけどね」
それでいいのかメイド長。まあ、いいと言うのであればいいんだろう。
幸いこの外套も擦り切れているわけではないし、そんなに不潔にも不衛生にも感じないはずだ。一応メイド長であるリビングアーマーさんに確認して問題なしと言ってもらえたのだから、よしとしよう。
そうしてまた城の中を案内されて歩くことしばし、ついに謁見室の前に到着する。
「では、中に入ってこちらのメイドの出す指示に従ってください。一応、王との謁見ということになりますので、最初だけはそれなりの手順を踏んでいただきます」
で、謁見室の中に通されていくつかの指示を受けた。まあ、大体予想通りだ。
まず、最初は片膝をついた格好で頭を下げておき、魔王様から「面を上げよ」と言われたところでゆっくりと顔を上げる。それから魔王様の挨拶があり、「して、何の用でここまで来たのかを聞かせてもらおう」と言われた後、「では、恐れながら申し上げます」とひと言断りを入れてから理由を述べる――という流れにしてください、とのこと。
「よく分かりました、その流れに従います」
「よろしくお願いしますね、もう少ししたら魔王様がいらっしゃいます。少々窮屈かもしれませんが、そのままお待ちくださいませ」
リビングメイドさんが立ち去り、すぐに謁見室の奥のほうが騒がしくなってきた。非公式なので、部屋にいる人も魔王様の護衛の方々とリビングアーマーさんを除いた四天王の三名しかいないようだ。
いよいよだ、これで目的が達成される。そして──
「魔王様、ご入場! 皆、敬意をもって迎えよ!」
との号令がかかった。
さて、どんな魔王様なのか……ちょっと楽しみだ。
6
「魔王様、ご入場!」の号令で、謁見室には静寂が訪れた。
そんな中、コツコツという足音が聞こえてくる。ああ、この足音の主が魔王様なんだな。頭を上げるわけにいかないので確認はできないが、今足音を出すことが許されるのは魔王様だけだ。
足音はやがて自分の前方から聞こえるようになり、さて、いよいよかと身構えた瞬間、それは起こった。
ズルッ ガン! べちょっ ドッスーン
(何事!?)
突如起こった四つの音に反応して、つい頭を上げてしまった自分。だが、それを窘める人も警告してくる人もいない。
「ま、魔王様~~~!?」
マドリアさんの絶叫が響き渡る。
前を見ると、ドレス姿の女性がうつ伏せに倒れていた。しかも、その状態で豪華な玉座の下敷きになっている……一体何が起こったんだ……さっきの音から予想すると……
『ズルッ』で女性が足を滑らした。それから『ガン!』で玉座の手すりに体のどこかをぶつけた。そして『べちょっ』が女性がうつ伏せに倒れた音で、『ドッスーン』は玉座がその上に落ちた音なんだろう。
玉座が空を舞った理由は、女性が手すりにぶつかったときになぜか跳ね上がったのだろう。「ワンモア」世界だと物理法則がたまにサボるからね。
「おはな打った、痛い……」
女性の可愛い声。マドリアさんとリビングアーマーさんが大慌てで、その上に乗っかった玉座をどかす。そしてそのまま女性をいったん外に運び出していく。あっけにとられている自分に、サキュバスクィーンのヘテラさんが近寄ってきてこう一言。
「見なかったことにしてください」
いや、見なかったことにしろって……何だろう、これから重要な話をしなければならないというのに、そこはかとなく不安になってくるこの気持ちは。
とりあえず、囁いた後はじーっとこちらを見てくるヘテラさんに頷いておく。美人から無言の圧力を受けると実に怖いね。
そしてそれから待つこと数分……
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