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2巻
2-3
翌日もログイン。次は変形機構を考えないといけない。そう、自分の考えているのは、コンパウンドと盾を合体させ、変型機能をつけたものなのだ。そのために、またも設計図とのにらめっこ再開である。
風の妖精達にぷにぷにしてもらい続けて、イライラを抑えながらの作業。この作業が地味にきついので、妖精達にはずいぶん助けられている。
変形機構案をいくつか出したが、できるだけシンプルにした方が製作難易度、耐久性の両面で効果的なため、中央で折れる形を採用。パーツを引っ張ることで弓の形が復元されるように設計した。直接手に持つということを考えないからこそできる変形機構である。この日は設計だけで終わった。
――そして更にその翌日。設計図に従って変形式コンパウンドボウを製作する。またそれに平行して、木製小盾の製作も行う。
普段は小盾だが、変形させると隠れていた弓が現れる。「右手で支えて左手で引いて撃つ」という、何から何まででたらめな隠し弓の完成形がついに見えてきた。
もちろん使い方を練習しないといけないだろうが、コンパウンドボウは狙いをつけやすいという特性から考えて、こんな無茶もいけると踏んだのである。
盾は五角形を採用し、中央で左右に切断。そこに一枚の板を被せて切れ目を覆う。
変形させると、手首付近に設置した完全固定の土台を基に、天道虫が羽を広げたように盾は左右に分かれ、切断面を隠している板は上へスライドする。そして弓の形を取ったコンパウンドボウが割れた盾の下から出現。あとは腕を回転させ、弓を内側に持ってきて撃つのだ。
本番ではふんだんにライトメタルと一部鋼鉄を用いるが、今は試作なので全部木材で作る。だが完成したら即使えるようなクオリティでなくてはいけないので、当然本気を込める。
これができて初めて、ようやく本当の意味で設計図の完成と言えるのだ。
当然一日では終わらず、満足がいくまでに二日が必要となった。
最終的に、盾の下にメリケンサックのような形をした取っ手付きの紐を組み込み、取っ手を左手で引っ張ると変形、そのまま右手で持つと維持できるようにした。
【試作型変形盾】
変形機構を備えた盾。純粋な盾としての能力は低いが、本領は変形した後に発揮される。
効果:Def+8
特殊効果:「変形可能」
製作評価:4
これが、こうなる。
【試作型仕込み異界の弓】
変形盾の裏に隠されていた異界の弓。
小盾の裏に仕込まれているために狩弓としては小さめだが、殺傷力は高い。
専用の矢のみ射ることができる。
効果:Atk+38 Def+3
製作評価:4
とりあえず完成ではあるが、ここからさらに細かく詰めていかねばならない。
盾の左右にロック・アントの甲殻をつけて、ややはみ出しているコンバウンドボウのパーツを保護。他にもいくつか欠点を潰さないと製作評価は上がらないだろう。
いよいよ新しいダンジョンの実装が迫ってきており、それまでには完成させておきたい。ここまでこぎつけるのに既に四日が過ぎ、きついスケジュールとなってしまった。
明けて翌日。製作に取り掛かってから既に五日目、今日こそは完成させねば時間的に厳しい。
盾の部分はライトメタルで、切れ目を隠す板は鋼鉄で作る。
コンパウンドボウは全部ライトメタルで製作する。ライトメタルという柔軟性がある特殊な金属が存在していなければ、自分の装備はもっと貧弱だっただろうな……
既に昨日の時点で設計そのものは完成しているので、部品作りは手間こそ掛かるが組み立ては早い。必要な部分をガンガン組み立てていく。
盾の左右にロック・アントの甲殻を加工した補強具を備えつけた結果、一回り大きくはなったが、コンパウンドボウは完全に隠れた。ライトメタルの鈍い青色と揃えて、この甲殻部分は青く染める。青く光る左右はまるで飾りのようだ。
【シークレットライトメタルシールド】
ライトメタル製の小盾。盾としても十分に機能するが、隠し機能が搭載されている。
効果:Def+25
特殊効果:「変形能力所持」「右腕専用装備」
製作評価:6
そして、弓としての性能がこちら。
【シークレットアナザーボウ】
隠し機構を展開した姿。狩弓としては小ぶりであるが、殺傷能力、命中率は高い。
ただし、専用の矢しか扱えないという欠点がある。
効果:Atk+60 Def+5
特殊効果:「変形能力所持」「右腕専用装備」「命中補正(弱)」
製作評価:6
これでようやく完成である……長かった、本当に。変形機構のテストを繰り返し、問題なく動くことを確認して、やっとひと息つけた。
新しい能力として命中補正(弱)が付いているが、これはコンパウンドボウのスコープサイトを、擬似的ながら再現したためと思われる。
早速試し撃ちである。ライトメタルで専用の矢を山ほど生産し、ガンガン撃ってみる。
最初はやはり右手で支えて左手で引くという特殊な動作のため狙いがずれることが多かった。だが、それでも山ほど矢を撃ってきた今までの経験、スキルLv、命中補正などが組み合わさって、こんな無茶な弓矢でも目標に当てられるようになってしまった。リアルでは絶対に真似できない行為である。これで[ブレイクアーム]を受けても、即座に遠距離攻撃能力が消失することはなくなった。
もちろん食らわないのが一番ではあるが、「こんなこともあろうかと」と言えるような備えをしておくべきだ。
十分に満足した自分は、残っていたライトメタルを全部専用の矢に作り変えてからログアウトした。いよいよ「死者の挑戦状」と銘打たれた新しいダンジョンの実装が迫っている。
【スキル一覧】
〈風塵狩弓〉Lv2(←1UP) 〈蹴撃〉Lv17(←5UP) 〈遠視〉Lv47
〈製作の指先〉Lv50(←3UP) 〈小盾〉Lv3(NEW!) 〈隠蔽〉Lv38
〈身体能力強化〉Lv18(←1UP) (盗賊〉Lv33 〈鞭術〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv33(←5UP) 〈鍛冶〉Lv38(←5UP) 〈薬剤〉Lv40 〈上級料理〉Lv1(NEW!)
ExP11
称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者
4
メンテナンスが明けて、いよいよ「死者の挑戦状」が開放された。それから第二陣プレイヤーの参加が始まると、ファストの街は一気に人でごった返すようになった。
ダンジョン挑戦のためにアイテムを調達する人や、その人達相手に商売するプレイヤー、それから当然新規参加者もファストに降り立つわけで……初日のときのような活気に溢れている。
といっても、自分が仕事を終えてログインする頃にはある程度落ち着いていたが。
自分もとりあえず下見として「死者の挑戦状」に挑むつもりだ。回復アイテムは自作してあるし、矢の数も十分に揃えてある。アナザーボウ専用の矢も、本番用のものをしっかり作っておいた。
【アナザーアロー】
アナザーボウ専用の矢。アナザーボウでしか放つことができない。
効果:Atk+10(アナザーボウ専用矢)
製作評価:5
これが本番用。ちなみに以前の矢は試験用の数打ちなので、雑魚相手ならともかくそれなりの相手にはまったく使えないから、紹介しなかっただけである。
◆ ◆ ◆
【強化オイル】の数をしっかり確認して、ネクシアに向かう。「死者の挑戦状」のダンジョンは、ネクシアの北側に存在しているのだ。そこまで辿り着くのに迷う心配はない。行き先が同じと思われるプレイヤーが山ほどいるから、それに付いていけばいい。
街から多少歩くと、いかにも入り口らしき神殿の門のようなものが見えてきた。あの中にダンジョンがあるのだろう。
どんどん入っていく人の列から離れて、所持品を最終確認。単独でダンジョンに入るだけでも無謀極まりないのだから、すぐにアイテムを使えるようにきちんと最終的な準備をしておかなければならない。アイテム良し、矢良し、オイル良し、装備も良し! ではいざ、とつにゅ……
「そこの弓使い、ちょっと待ってくれっ!」
……いやな予感がまたするが、仕方なく振り向くと……そこには実にカラフルな五人がいた。
「ええと、何事でしょうか……?」
そんな自分の質問に……
「俺はレッド!」(ジャキーン!)
「オレはブルー!」(ジャッキーン!)
「オラはイエロー!」(どどーん!)
「私はピンク!」(キラリーン!)
「我はグリーン!」(キュピーン!)
「「「「「五人揃って、ゴ……」」」」」
「ストップストップストーップ! それ以上はいけない!」
危ない台詞を言い出しそうだったので、大慌てで止める。何故効果音が付いているのかは思考放棄をさせて頂く。
よくある戦隊モノをイメージしているのだろうが、わざわざ全員同じデザインのフルフェイスメットと、五色に分けられたカラフルな鎧を着込んでいる。
しかし、かなりの猛者だなこの五人。周りに人が山ほどいるのに、ここまでド派手な格好をよくできるものだ。とりあえず疑問をぶつけてみる。
「……ブラックは?」
そう、戦隊物であと一色あるとすればブラックだろう。
「……あいつは、なんか今日腹痛いって……」
ばつが悪そうに、ブルーがぼそっと教えてくれた。なんかせっかくの戦隊モノの雰囲気が一気に崩れた気がするが、スルーしとこう。それが良い。
「まあ、それは置いといて、ね?」
ピンクが念押しでスルーしてくれって注文してきたぞオイ。
「ともかく、これでは制限人数より一人欠けて五人PTになってしまう。そこでソロ行動している君に協力してもらえないかと、声をかけてみたのさ!」
レッドは暑苦しい空気をぶつけることで、微妙になってきた空気を無理やり吹き飛ばそうとしている……まあ乗ってあげよう。どの道ソロじゃ大した下見はできないだろうなと思っていたからな。
「つまり、臨時PTのお誘いということで良いんだよな?」
間違ってはいないだろうが。
「それで間違っていないぜ」
何はともあれ、じゃあPT申請をお願いすると伝え、今回限りのPTを組む。
「よし、では行くぞ!」
やっぱりリーダーの役目を背負っているレッドが声を上げて、ダンジョンに進入する。入った途端、穴に落ちたような浮遊感があり、自分達はダンジョンの中に降り立った。
最初のダンジョンは人工物がメインの、いかにもな形だった。早速〈盗賊〉スキルの《罠探知》を作動させると……
「では、ゆ……」
「行くなっ!」
明かりをつけながら声を出したレッドを遮って、自分は叫んだ。五人&五人の妖精がこっちを向く。それぞれの妖精を今のうちに教えておくと、レッドが火の中型犬、ブルーが水の大きな鳥、イエローが土の小さめなサイ、ピンクが光のうりぼう、グリーンが風のリスである。
「いきなり極悪なマップにぶち当たったようだ、この部屋の中に罠が一五個ある!」
その一言に絶句するヒーロー戦隊メンバー。ヒーローが罠にはまるのはお約束かもしれないが、その罠でやられたいわけではないのは当たり前である。
それにしても、《罠探知》の赤警告罠が四つも……つまり引っかかったら即死がありうるレベルと判断して良いだろう。
「ヒーローが罠で全滅なんてウケないぞ。先導するから自分と同じ場所を歩いてくれ」
罠がない場所を丁寧にゆっくり歩く。いきなり最初からこれなのか。本気で殺しに来てるダンジョンのようだ。油断は即死亡を意味する。これは気合を入れ直さないとまずい。
「……レッドの判断は正しかったな、一人入れると聞いたときは大丈夫なのかと心配したが」
「……いきなり全滅の危機を回避できたのは大きいわね」
ブルーとピンクがぼそぼそ喋っている。そりゃそうだろう、急造メンバーを入れるのは当たり外れが非常に大きい。よくもまあ入れる気になったものだ。
「おいおい、フェアリークィーンの旦那さんが弱いわけがないだろう?」
なんかとんでもない言葉が飛び出したぞ……!?
「あの、そのフェアリークィーンの旦那さんって……自分のことか?」
恐る恐る訊いてみる。返答は、「本人は知らなかったのか」であった。
泣いていいかね?
いきなりの罠満載な部屋を抜けて、通路に出る。この分じゃとにかく罠だらけだろうし、《罠探知》を常に起動しておかないと危険すぎるな。
レッドの妖精が火で明かりをつけてくれているが、このダンジョンの中は明かりが届く距離が短くなっているらしい。暗視能力を持つ自分は良いが、他の五人はそうはいくまい。ナビゲートした方が良いだろう。
レッドとイエローが前衛列、中衛が自分とピンク、後衛がブルーとグリーンという編成だ。何で弓使いの自分が中衛なんだ? という意見もあるだろうが、ダンジョンではバックアタックこそが一番恐ろしいので、後衛にも接近戦に強いプレイヤーを配置しないといけない。ブルーには十分な前衛能力があるため、バックアタック警戒要員として後ろにいるのである。
モンスターも出てきたのだが、特筆することはない。なんせヒーロー戦隊を名乗っているだけあって五人の実力はかなり高く、ゾンビやスケルトンといった雑魚モンスターは瞬殺されていく。
自分はちょいちょいモンスターに射かけて妨害するぐらいしかしていない。それで十分とばかりにレッドの剣とイエローの斧がうなりを上げて、モンスターをなぎ倒していった。
探索はゆっくりとだが順調に進み、しばらくして地下二階へ降りる階段を発見した。モンスター戦は圧倒的な強さを持つヒーロー五人組が完封するため障害にならなかったのだが、問題は罠と宝箱だった。
罠を発見・解除できるのが自分しかいないため、どうしても時間が必要になる。また、ドコに持っていたんだと突っ込み全開なほど大きな宝箱を、倒したモンスターが落としていくことがあるのだ。もちろんご丁寧に罠付き。《罠探知》が強く危険を知らせる宝箱は、開けずに放置して進んでいる。
「結局ここまで来るのに時間はどれぐらい掛かった?」
レッドが確認を取る。ここまで時間が掛かるとは誰も予想していないだろう。一〇階がとりあえずのゴールなんて運営は言っていたが、そうそう辿り着ける場所じゃない。なんせ一時間の制限時間付きだ。
「一八分……だな、正直ここまで第一階で時間を取られるとは思わなかった」
ブルーが冷静に告げる。確かに、とてもじゃないが一〇階どころか五階に行けるかすら怪しい。
「うーん、モンスターは現時点では大したことないわね。問題は罠と箱よね」
「すまん、もっと早く解除できれば良いのだが……焦るとかえって危険なのでな」
ピンクの後に、自分の意見も言っておく。遠慮してしまう方が今は危険だ。
「そこに文句を言う馬鹿は我らの中には居ないから安心してくれ。正直いてくれて助かっている」
グリーンがそう言ってくれる。
「ともかく、注意を払いつつ前進するしかないとオラは思う」
イエローの締めに全員が無言で頷き、階段を降りていく。ダンジョンが見せる牙は、まだまだ極僅かである。
二階はすぐに突破できた。なんと次の階段が降りた場所のすぐ近くにあったのである。これもランダムゆえの運不運に含まれるのだろう、すぐさま三階へ降りた。
三階に降りた後、罠がないかどうか慎重に確認しながら進んでいると、槍を構えているグリーンから声がかかった。
「アースさん、質問しても良いか? スキルの詮索がタブーなのは承知なのだが、アースさんの〈盗賊〉スキルはLv20を超えているのか? これまでの罠は、〈盗賊〉スキルがなくてもなんとなく怪しい感じがして見破れていたのだが……このダンジョンの中ではその感覚がまったく通用しないのだ」
ふむ、今まで色々な場所に行っていれば、罠を踏んでしまった経験は当然あるだろうし、その経験から怪しいと思う場所は自然と警戒するだろう。しかしこのダンジョンではその常識が通じないのか。だから最初の部屋で、レッドは無造作に進もうとしたわけだ。
「詳しい数値はいえない、だが20以上なのは認めるよ」
とりあえず間違ってはいない。本当は30以上だが、そこまで伝えるのはまずい。つまりこのダンジョンは〈盗賊〉スキルをしっかり鍛えている人が一人はいないと、まともに進めない仕組みか。
今日はこの場にいないブラックが〈盗賊〉スキルを持っていないとしたら、今後は彼らも苦戦しそうだ。実際30オーバーの自分でも、ここの罠の発見・解除でものすごいペースで〈盗賊〉スキルが上がっているから、相当な高難易度設定になっているらしいことが窺える。
「チッ、感覚があてにならないのがここまでキツイとはな……」
ブルーが憎らしげにダンジョンの罠に対して舌打ちをする。一部とはいえ、今まで培ってきものが役に立たないのは厳しいだろうな。
「ねえ、一つだけ予想を教えて欲しいな。アースさんの言う『危険度が高すぎる罠』って、どれぐらいの被害が出るのかな?」
ピンクがさらに質問してきた。少しでも情報が欲しいのだろう。PTを組んでもらっているし、自分もそれぐらいは情報を出すべきか。
「良くて半壊、悪ければ一発全滅と予想してる」
この見積もりは、ウィザー○○○での経験からだ。あのゲームで危険な感じを受けたときの感覚を基に予想を立ててみた。
もちろん経験だけが根拠ではなく、これまで、はまれば即死となる吊り天井の部屋はいくつかあったし、その部屋には必ず危険度が極高の罠が仕掛けられていた。
これらの判断材料があれば、良くて半壊と見積もって間違いないだろう。吊り天井だけなら急いで部屋から出れば良いが、そこに足止め系の罠がコンボするとジ・エンド。
吊り天井の部屋にはそれらしい罠がほぼ毎回設置されていたし、本気で殺しに来ているのがよく分かる良い見本である。
「……ブラックには悪いが、頭脳と参謀役だけでなく、そういう罠の見破り役もお願いしないといけなくなったな」
レッドが小さく呟いていた。
風の妖精達にぷにぷにしてもらい続けて、イライラを抑えながらの作業。この作業が地味にきついので、妖精達にはずいぶん助けられている。
変形機構案をいくつか出したが、できるだけシンプルにした方が製作難易度、耐久性の両面で効果的なため、中央で折れる形を採用。パーツを引っ張ることで弓の形が復元されるように設計した。直接手に持つということを考えないからこそできる変形機構である。この日は設計だけで終わった。
――そして更にその翌日。設計図に従って変形式コンパウンドボウを製作する。またそれに平行して、木製小盾の製作も行う。
普段は小盾だが、変形させると隠れていた弓が現れる。「右手で支えて左手で引いて撃つ」という、何から何まででたらめな隠し弓の完成形がついに見えてきた。
もちろん使い方を練習しないといけないだろうが、コンパウンドボウは狙いをつけやすいという特性から考えて、こんな無茶もいけると踏んだのである。
盾は五角形を採用し、中央で左右に切断。そこに一枚の板を被せて切れ目を覆う。
変形させると、手首付近に設置した完全固定の土台を基に、天道虫が羽を広げたように盾は左右に分かれ、切断面を隠している板は上へスライドする。そして弓の形を取ったコンパウンドボウが割れた盾の下から出現。あとは腕を回転させ、弓を内側に持ってきて撃つのだ。
本番ではふんだんにライトメタルと一部鋼鉄を用いるが、今は試作なので全部木材で作る。だが完成したら即使えるようなクオリティでなくてはいけないので、当然本気を込める。
これができて初めて、ようやく本当の意味で設計図の完成と言えるのだ。
当然一日では終わらず、満足がいくまでに二日が必要となった。
最終的に、盾の下にメリケンサックのような形をした取っ手付きの紐を組み込み、取っ手を左手で引っ張ると変形、そのまま右手で持つと維持できるようにした。
【試作型変形盾】
変形機構を備えた盾。純粋な盾としての能力は低いが、本領は変形した後に発揮される。
効果:Def+8
特殊効果:「変形可能」
製作評価:4
これが、こうなる。
【試作型仕込み異界の弓】
変形盾の裏に隠されていた異界の弓。
小盾の裏に仕込まれているために狩弓としては小さめだが、殺傷力は高い。
専用の矢のみ射ることができる。
効果:Atk+38 Def+3
製作評価:4
とりあえず完成ではあるが、ここからさらに細かく詰めていかねばならない。
盾の左右にロック・アントの甲殻をつけて、ややはみ出しているコンバウンドボウのパーツを保護。他にもいくつか欠点を潰さないと製作評価は上がらないだろう。
いよいよ新しいダンジョンの実装が迫ってきており、それまでには完成させておきたい。ここまでこぎつけるのに既に四日が過ぎ、きついスケジュールとなってしまった。
明けて翌日。製作に取り掛かってから既に五日目、今日こそは完成させねば時間的に厳しい。
盾の部分はライトメタルで、切れ目を隠す板は鋼鉄で作る。
コンパウンドボウは全部ライトメタルで製作する。ライトメタルという柔軟性がある特殊な金属が存在していなければ、自分の装備はもっと貧弱だっただろうな……
既に昨日の時点で設計そのものは完成しているので、部品作りは手間こそ掛かるが組み立ては早い。必要な部分をガンガン組み立てていく。
盾の左右にロック・アントの甲殻を加工した補強具を備えつけた結果、一回り大きくはなったが、コンパウンドボウは完全に隠れた。ライトメタルの鈍い青色と揃えて、この甲殻部分は青く染める。青く光る左右はまるで飾りのようだ。
【シークレットライトメタルシールド】
ライトメタル製の小盾。盾としても十分に機能するが、隠し機能が搭載されている。
効果:Def+25
特殊効果:「変形能力所持」「右腕専用装備」
製作評価:6
そして、弓としての性能がこちら。
【シークレットアナザーボウ】
隠し機構を展開した姿。狩弓としては小ぶりであるが、殺傷能力、命中率は高い。
ただし、専用の矢しか扱えないという欠点がある。
効果:Atk+60 Def+5
特殊効果:「変形能力所持」「右腕専用装備」「命中補正(弱)」
製作評価:6
これでようやく完成である……長かった、本当に。変形機構のテストを繰り返し、問題なく動くことを確認して、やっとひと息つけた。
新しい能力として命中補正(弱)が付いているが、これはコンパウンドボウのスコープサイトを、擬似的ながら再現したためと思われる。
早速試し撃ちである。ライトメタルで専用の矢を山ほど生産し、ガンガン撃ってみる。
最初はやはり右手で支えて左手で引くという特殊な動作のため狙いがずれることが多かった。だが、それでも山ほど矢を撃ってきた今までの経験、スキルLv、命中補正などが組み合わさって、こんな無茶な弓矢でも目標に当てられるようになってしまった。リアルでは絶対に真似できない行為である。これで[ブレイクアーム]を受けても、即座に遠距離攻撃能力が消失することはなくなった。
もちろん食らわないのが一番ではあるが、「こんなこともあろうかと」と言えるような備えをしておくべきだ。
十分に満足した自分は、残っていたライトメタルを全部専用の矢に作り変えてからログアウトした。いよいよ「死者の挑戦状」と銘打たれた新しいダンジョンの実装が迫っている。
【スキル一覧】
〈風塵狩弓〉Lv2(←1UP) 〈蹴撃〉Lv17(←5UP) 〈遠視〉Lv47
〈製作の指先〉Lv50(←3UP) 〈小盾〉Lv3(NEW!) 〈隠蔽〉Lv38
〈身体能力強化〉Lv18(←1UP) (盗賊〉Lv33 〈鞭術〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv33(←5UP) 〈鍛冶〉Lv38(←5UP) 〈薬剤〉Lv40 〈上級料理〉Lv1(NEW!)
ExP11
称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者
4
メンテナンスが明けて、いよいよ「死者の挑戦状」が開放された。それから第二陣プレイヤーの参加が始まると、ファストの街は一気に人でごった返すようになった。
ダンジョン挑戦のためにアイテムを調達する人や、その人達相手に商売するプレイヤー、それから当然新規参加者もファストに降り立つわけで……初日のときのような活気に溢れている。
といっても、自分が仕事を終えてログインする頃にはある程度落ち着いていたが。
自分もとりあえず下見として「死者の挑戦状」に挑むつもりだ。回復アイテムは自作してあるし、矢の数も十分に揃えてある。アナザーボウ専用の矢も、本番用のものをしっかり作っておいた。
【アナザーアロー】
アナザーボウ専用の矢。アナザーボウでしか放つことができない。
効果:Atk+10(アナザーボウ専用矢)
製作評価:5
これが本番用。ちなみに以前の矢は試験用の数打ちなので、雑魚相手ならともかくそれなりの相手にはまったく使えないから、紹介しなかっただけである。
◆ ◆ ◆
【強化オイル】の数をしっかり確認して、ネクシアに向かう。「死者の挑戦状」のダンジョンは、ネクシアの北側に存在しているのだ。そこまで辿り着くのに迷う心配はない。行き先が同じと思われるプレイヤーが山ほどいるから、それに付いていけばいい。
街から多少歩くと、いかにも入り口らしき神殿の門のようなものが見えてきた。あの中にダンジョンがあるのだろう。
どんどん入っていく人の列から離れて、所持品を最終確認。単独でダンジョンに入るだけでも無謀極まりないのだから、すぐにアイテムを使えるようにきちんと最終的な準備をしておかなければならない。アイテム良し、矢良し、オイル良し、装備も良し! ではいざ、とつにゅ……
「そこの弓使い、ちょっと待ってくれっ!」
……いやな予感がまたするが、仕方なく振り向くと……そこには実にカラフルな五人がいた。
「ええと、何事でしょうか……?」
そんな自分の質問に……
「俺はレッド!」(ジャキーン!)
「オレはブルー!」(ジャッキーン!)
「オラはイエロー!」(どどーん!)
「私はピンク!」(キラリーン!)
「我はグリーン!」(キュピーン!)
「「「「「五人揃って、ゴ……」」」」」
「ストップストップストーップ! それ以上はいけない!」
危ない台詞を言い出しそうだったので、大慌てで止める。何故効果音が付いているのかは思考放棄をさせて頂く。
よくある戦隊モノをイメージしているのだろうが、わざわざ全員同じデザインのフルフェイスメットと、五色に分けられたカラフルな鎧を着込んでいる。
しかし、かなりの猛者だなこの五人。周りに人が山ほどいるのに、ここまでド派手な格好をよくできるものだ。とりあえず疑問をぶつけてみる。
「……ブラックは?」
そう、戦隊物であと一色あるとすればブラックだろう。
「……あいつは、なんか今日腹痛いって……」
ばつが悪そうに、ブルーがぼそっと教えてくれた。なんかせっかくの戦隊モノの雰囲気が一気に崩れた気がするが、スルーしとこう。それが良い。
「まあ、それは置いといて、ね?」
ピンクが念押しでスルーしてくれって注文してきたぞオイ。
「ともかく、これでは制限人数より一人欠けて五人PTになってしまう。そこでソロ行動している君に協力してもらえないかと、声をかけてみたのさ!」
レッドは暑苦しい空気をぶつけることで、微妙になってきた空気を無理やり吹き飛ばそうとしている……まあ乗ってあげよう。どの道ソロじゃ大した下見はできないだろうなと思っていたからな。
「つまり、臨時PTのお誘いということで良いんだよな?」
間違ってはいないだろうが。
「それで間違っていないぜ」
何はともあれ、じゃあPT申請をお願いすると伝え、今回限りのPTを組む。
「よし、では行くぞ!」
やっぱりリーダーの役目を背負っているレッドが声を上げて、ダンジョンに進入する。入った途端、穴に落ちたような浮遊感があり、自分達はダンジョンの中に降り立った。
最初のダンジョンは人工物がメインの、いかにもな形だった。早速〈盗賊〉スキルの《罠探知》を作動させると……
「では、ゆ……」
「行くなっ!」
明かりをつけながら声を出したレッドを遮って、自分は叫んだ。五人&五人の妖精がこっちを向く。それぞれの妖精を今のうちに教えておくと、レッドが火の中型犬、ブルーが水の大きな鳥、イエローが土の小さめなサイ、ピンクが光のうりぼう、グリーンが風のリスである。
「いきなり極悪なマップにぶち当たったようだ、この部屋の中に罠が一五個ある!」
その一言に絶句するヒーロー戦隊メンバー。ヒーローが罠にはまるのはお約束かもしれないが、その罠でやられたいわけではないのは当たり前である。
それにしても、《罠探知》の赤警告罠が四つも……つまり引っかかったら即死がありうるレベルと判断して良いだろう。
「ヒーローが罠で全滅なんてウケないぞ。先導するから自分と同じ場所を歩いてくれ」
罠がない場所を丁寧にゆっくり歩く。いきなり最初からこれなのか。本気で殺しに来てるダンジョンのようだ。油断は即死亡を意味する。これは気合を入れ直さないとまずい。
「……レッドの判断は正しかったな、一人入れると聞いたときは大丈夫なのかと心配したが」
「……いきなり全滅の危機を回避できたのは大きいわね」
ブルーとピンクがぼそぼそ喋っている。そりゃそうだろう、急造メンバーを入れるのは当たり外れが非常に大きい。よくもまあ入れる気になったものだ。
「おいおい、フェアリークィーンの旦那さんが弱いわけがないだろう?」
なんかとんでもない言葉が飛び出したぞ……!?
「あの、そのフェアリークィーンの旦那さんって……自分のことか?」
恐る恐る訊いてみる。返答は、「本人は知らなかったのか」であった。
泣いていいかね?
いきなりの罠満載な部屋を抜けて、通路に出る。この分じゃとにかく罠だらけだろうし、《罠探知》を常に起動しておかないと危険すぎるな。
レッドの妖精が火で明かりをつけてくれているが、このダンジョンの中は明かりが届く距離が短くなっているらしい。暗視能力を持つ自分は良いが、他の五人はそうはいくまい。ナビゲートした方が良いだろう。
レッドとイエローが前衛列、中衛が自分とピンク、後衛がブルーとグリーンという編成だ。何で弓使いの自分が中衛なんだ? という意見もあるだろうが、ダンジョンではバックアタックこそが一番恐ろしいので、後衛にも接近戦に強いプレイヤーを配置しないといけない。ブルーには十分な前衛能力があるため、バックアタック警戒要員として後ろにいるのである。
モンスターも出てきたのだが、特筆することはない。なんせヒーロー戦隊を名乗っているだけあって五人の実力はかなり高く、ゾンビやスケルトンといった雑魚モンスターは瞬殺されていく。
自分はちょいちょいモンスターに射かけて妨害するぐらいしかしていない。それで十分とばかりにレッドの剣とイエローの斧がうなりを上げて、モンスターをなぎ倒していった。
探索はゆっくりとだが順調に進み、しばらくして地下二階へ降りる階段を発見した。モンスター戦は圧倒的な強さを持つヒーロー五人組が完封するため障害にならなかったのだが、問題は罠と宝箱だった。
罠を発見・解除できるのが自分しかいないため、どうしても時間が必要になる。また、ドコに持っていたんだと突っ込み全開なほど大きな宝箱を、倒したモンスターが落としていくことがあるのだ。もちろんご丁寧に罠付き。《罠探知》が強く危険を知らせる宝箱は、開けずに放置して進んでいる。
「結局ここまで来るのに時間はどれぐらい掛かった?」
レッドが確認を取る。ここまで時間が掛かるとは誰も予想していないだろう。一〇階がとりあえずのゴールなんて運営は言っていたが、そうそう辿り着ける場所じゃない。なんせ一時間の制限時間付きだ。
「一八分……だな、正直ここまで第一階で時間を取られるとは思わなかった」
ブルーが冷静に告げる。確かに、とてもじゃないが一〇階どころか五階に行けるかすら怪しい。
「うーん、モンスターは現時点では大したことないわね。問題は罠と箱よね」
「すまん、もっと早く解除できれば良いのだが……焦るとかえって危険なのでな」
ピンクの後に、自分の意見も言っておく。遠慮してしまう方が今は危険だ。
「そこに文句を言う馬鹿は我らの中には居ないから安心してくれ。正直いてくれて助かっている」
グリーンがそう言ってくれる。
「ともかく、注意を払いつつ前進するしかないとオラは思う」
イエローの締めに全員が無言で頷き、階段を降りていく。ダンジョンが見せる牙は、まだまだ極僅かである。
二階はすぐに突破できた。なんと次の階段が降りた場所のすぐ近くにあったのである。これもランダムゆえの運不運に含まれるのだろう、すぐさま三階へ降りた。
三階に降りた後、罠がないかどうか慎重に確認しながら進んでいると、槍を構えているグリーンから声がかかった。
「アースさん、質問しても良いか? スキルの詮索がタブーなのは承知なのだが、アースさんの〈盗賊〉スキルはLv20を超えているのか? これまでの罠は、〈盗賊〉スキルがなくてもなんとなく怪しい感じがして見破れていたのだが……このダンジョンの中ではその感覚がまったく通用しないのだ」
ふむ、今まで色々な場所に行っていれば、罠を踏んでしまった経験は当然あるだろうし、その経験から怪しいと思う場所は自然と警戒するだろう。しかしこのダンジョンではその常識が通じないのか。だから最初の部屋で、レッドは無造作に進もうとしたわけだ。
「詳しい数値はいえない、だが20以上なのは認めるよ」
とりあえず間違ってはいない。本当は30以上だが、そこまで伝えるのはまずい。つまりこのダンジョンは〈盗賊〉スキルをしっかり鍛えている人が一人はいないと、まともに進めない仕組みか。
今日はこの場にいないブラックが〈盗賊〉スキルを持っていないとしたら、今後は彼らも苦戦しそうだ。実際30オーバーの自分でも、ここの罠の発見・解除でものすごいペースで〈盗賊〉スキルが上がっているから、相当な高難易度設定になっているらしいことが窺える。
「チッ、感覚があてにならないのがここまでキツイとはな……」
ブルーが憎らしげにダンジョンの罠に対して舌打ちをする。一部とはいえ、今まで培ってきものが役に立たないのは厳しいだろうな。
「ねえ、一つだけ予想を教えて欲しいな。アースさんの言う『危険度が高すぎる罠』って、どれぐらいの被害が出るのかな?」
ピンクがさらに質問してきた。少しでも情報が欲しいのだろう。PTを組んでもらっているし、自分もそれぐらいは情報を出すべきか。
「良くて半壊、悪ければ一発全滅と予想してる」
この見積もりは、ウィザー○○○での経験からだ。あのゲームで危険な感じを受けたときの感覚を基に予想を立ててみた。
もちろん経験だけが根拠ではなく、これまで、はまれば即死となる吊り天井の部屋はいくつかあったし、その部屋には必ず危険度が極高の罠が仕掛けられていた。
これらの判断材料があれば、良くて半壊と見積もって間違いないだろう。吊り天井だけなら急いで部屋から出れば良いが、そこに足止め系の罠がコンボするとジ・エンド。
吊り天井の部屋にはそれらしい罠がほぼ毎回設置されていたし、本気で殺しに来ているのがよく分かる良い見本である。
「……ブラックには悪いが、頭脳と参謀役だけでなく、そういう罠の見破り役もお願いしないといけなくなったな」
レッドが小さく呟いていた。
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