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2巻
2-2
それから、最初の街「ファスト」の鍛冶場へ。相変わらずここに居る親方に挨拶をして、早速鉱石をインゴットにする作業を始める。
今日は近くで小さい火の妖精がいっぱい飛んでいる。生産のときに妖精が多くうろついていると、良い物ができやすい気がする。自分の妖精を持っている人はそんなことに左右されないと思うので、妖精を持っていない自分としては、羨ましい限りだが……
それはともかく、とにかく炉に鉱石を突っ込み、熱で溶かして不純物を排除し、インゴットをどんどん作っていく。
ライトメタルと鋼鉄はよく使うので、いくらでも数を得たい。しばらく時間をかけてインゴットを生産していった。
ようやくインゴットの数が揃い、ブレードシューズの製作に取り掛か……ろうとするところなのだが……
「あの……なんでこんなにぎっちり周りに居るんでしょうか……?」
親方も含めた多くの鍛冶屋プレイヤーが、自分の手元を覗き込んでいる。その姿を外から見たら、とてつもなくマヌケに見えそうだ。
「まあしょうがない、お前さんは今注目のプレイヤーだからな!」
そう、親方に言われてしまう。ううむ、結局はこの状況を受け入れろというわけか……有名になんてなるもんじゃない!
仕方がないので、「もうちょっとだけ離れてくださいな」と言って、ブレードシューズ第二作の製作に取り掛かる。
靴部分は既に前回苦労して作った型があるので、それを流用する。ただ鉄より軽いライトメタルがメインになったため、靴を覆う装甲部分を全体的に増やせる。
結果的に、より強固な仕上がりとなり、安定性が増した。ここまでは予定通り。
靴底につけるスパイク……いや率直に言えば杭は鋼鉄で作る。それに鏃の製作で培ったツイスト式のねじりを加える。これでただの杭よりも攻撃力が増すはずだ。より残虐になってしまうが、この際良しとしよう。
そしていよいよ肝心の刃だが、ここは大きく変更する。前回は靴の側面につけていたが、今回はその部分はカットする。なんせ蹴り方が限定されてしまうし、何より整備が面倒だ。
ではどうするか。まずつま先に牙を模した上向きの刃を四本、そして足の甲部分にツイストさせた杭を三本、あえて間隔を空けて備え付ける。
つまり、つま先で相手を蹴ると、牙が食い込み、杭がえぐるという形状を設計してみた。この形ならどう蹴ってもいいし、今まで以上に刃を長く鋭くすることも可能になる。攻撃力がさらに上がるだろう。
また、牙型ブレードは簡単に交換できるように、はめ込み式を採用。これによって、蹴りまくって切れ味が落ちてもすぐに交換できる柔軟性が生まれた。ここもこれまでとは違う点だ。
前回のブレードシューズは無駄が多かったが、良いデータを提供してくれた。挑戦した意味は十二分にあったといえよう。
さて、完成形が見えたら後は作るだけだ。
杭をツイスト式にするのに手こずったが、こつこつ製作していく。
まずは靴の裏に七本、上に三本、それを両足分で合計二〇本ほど杭を作る。鋼鉄製だからさらに手間が掛かるが、これも自分だけの一点もののためだ。
周りの人達が騒がしいが、相手にしていると終わらないから全力でスルー。ちなみに足裏の杭は長さ二センチほど、足の甲の方は五センチの長さにした。
次は牙型のブレードにとりかかる。前方は全部、後ろは半分ぐらいまで刃にする。牙を模すため、一本一本がやや太くなるが、力が掛かる部分なのでやむを得ないだろう、簡単にぽっきりと逝ってしまうようでは「牙」じゃない。
牙のはめ込み部分は、根元を差し込んで上に引き上げると固定できるように作成。その前方の隙間に固定具を差し込める場所も作ることで、より固定性を高くする。牙の長さは五センチほどだが、本物の牙のように少し反っているため、刃の長さはもう少しある。
ハンマーをふるって各部位をいくつも作り、できの悪いものは撥ねていく。
結局一時間以上かかってようやく、全部の部品が完成した。あとは本体となる靴にそれぞれを装着していくだけ。新しい試みとなる牙型ブレードは特に不安だったが、無事に装着できた。
【ファング・レッグブレード】
ライトメタル製と鋼鉄製の刃を持つ装着具。
レザー製の靴か軽鎧の靴に装着することで蹴りの威力を上げられる。
靴に装着しないと何の意味もない。また、〈蹴り〉スキルが30以上ないと扱うことはできない。
効果:追加Atk+29 追加守備力+10
特殊効果:「〈蹴り〉系による反射ダメージ軽減」「攻撃時、稀に[裂傷]付与」「重量増加」
製作評価:6
何とか形になったようだ。周りからは「おお~……」なんて声が上がっている。「また変なもの作ってるなー」って意見の方が気楽で良いんだけどなぁ。
ともかくこの装着具で、〈蹴り〉の攻撃力がかなり上がる。試作のレッグブレードは追加Atk+12だったから、大幅な増加となった。
しかしやっぱり一般的な武器からは離れている部分が多いから、一つ作るだけでひと苦労だ。材料の浪費と時間の消費が激しいのは、やむを得まい。
早速装着し、軽く使い心地を試す。鉄で覆われた部分は前作より増えているが、ライトメタルを使用したので総重量は大して変わらない。むしろ少し軽いぐらいだ。何度か〈蹴り〉を試してみても、重さによる違和感などはない。
試作品と違い、色んな蹴り方でも杭や牙が突き刺さる設計になったため、良い感じといって差し支えないだろう。これからはコイツが蹴り技の相棒だな。
さて、今まで使ってきた試作品の扱いについてだが……ここに置いていくわけにはいかないな、皆に研究材料扱いされてしまう。後日インゴットに戻すにしても、差し当たりアイテムボックスに入れておこう。
今まで頑張ってくれたのだ。用が済んだから、はいゴミ箱行き……ではあまりにも寂しい。コイツにも労いの言葉の一つぐらいかけてから別れよう、かつての愛弓のように。
翌日ログインするとメールが一件届いており、その内容は「マントできたよ~」であった。そういえば前に注文していたのだ。ようやく完成してくれたかと、早速受け取りに向かう。
「はい、これが完成品です。材料持ち込みだから五〇〇〇グローね」
そう言って完成品を見せてくる革職人プレイヤー。
「おお、これは良い物だな。感謝する」
少々言い方がアレになってしまったが、代金を手渡してマントを受け取る。
【ベアーマント】
主にベアの毛皮を使用して製作されたマント。背面からの攻撃を軽減する効果がある。
効果:Def+15
特殊効果:「背面攻撃軽減(中)」
製作評価:9
なんと製作評価が9もある。これ本当に五〇〇〇グローでいいのか? と確認したが、構わないとのこと。それならばありがたく使わせてもらおう。さて、早速狩りに行こうかと考えたところで、もう一件メールが届いた。
「差出人は……アヤメ? ……記憶にないなぁ?」
頭をひねりつつ一応本文を確認する。間違いだったら間違いだったで、すぐに破棄すれば良いだけだ。そこには、次の文章がしたためてあった。
〝突然のメールで失礼致します。『アポロンの弓』ギルドマスターを務めるアヤメと申します。
この度、ネイザーを中心とした我がギルドの恥部が大変なご迷惑をおかけしたことを確認し、
大慌てでこのメールを送らせていただきました。
きちんとお詫びをさせて頂きたく、恐縮ながらどうかこちらに連絡を頂ければ幸いです〟
うあ、内部抗争っていうか、揉めてるって感じなのか……無視する方が簡単といえば簡単だけど、それはそれで色々面倒になるような気もするし……行くしかないか。
そう覚悟を決めて、ウィスパーチャットを起動させる。ウィスパー先は「アヤメ」っと……
【あー、突然のウィスパーに対する許可を感謝する。そちらはアヤメさんかな。メールを確認したのだが】
一応確認する。
【あ、貴方がアースさんですね。この度は大変申し訳ありません。『アポロンの弓』ギルドマスターのアヤメと申します。今お時間は宜しいでしょうか?】
時間は大丈夫だな。面倒は早めに潰すに限る。
【かまいません、場所の指定をお願いします。ただしギルドルームはなしでお願いします】
ギルドルームの中は声などが外に漏れない密室になっているからな。まだ彼女を信用したわけじゃない。
【分かりました……では、こちらでお願いします】
場所を示す地図がメールで送られてきたので、ウィスパーチャットを終了させた。あまり待たせるわけにはいかないし、さっさと移動しますかね。
指定された場所は、あるNPCが住む一軒家の二階だった。人が滅多に来ないから、話をするには良いな。
到着すると、既に男性が三人いた……アレ? アヤメって名前からして、てっきり女性だと思っていたのだが……? 首を傾げつつ「『アポロンの弓』ギルドの関係者ですか?」と声をかけると、真ん中に座っていた人が立ち上がる。
「はじめまして、私がギルドマスターのアヤメです。よろしくお願いします」
挨拶をしてきたその人は、分かりやすく言えばタカ○ヅカの男装の麗人。びっくりした。
「我がギルドの恥部を晒すのは心苦しいのですが、お話しします……」
自分が席に着くと、アヤメさんはそう前置きをして、事のあらましを話し始めた。
そもそも『アポロンの弓』は、ネイザーの言っていたような弓使いの救済組織などではなく、弓使いで集まってゆっくり遊ぼうと考えたアヤメさんが、テスト版のときに設立したギルドだったらしい。
「ギルド設立の資金はどうしたのですか?」と質問したところ、オープンβ中にギルドを作って「ワンモア・フリーライフ・オンライン」を盛り上げましょう、みたいなイベントがあったらしく、格安でできたとのこと。
気心の知れた弓使い数名でスタートし、正式にサービスが公開されたら増えるであろう弓使いを迎えて弓の指導をしながら遊ぼう、という流れだったという。
「そして正式スタートを迎えたのですが……」
ここでアヤメさんはため息をつく。
「Wikiによる情報で弓使いの芽が多く摘まれた上に、初日にあった自分のトラブルが原因で、か……」
苦い記憶が蘇る。自分はログインそうそう、モヒカンPT(雰囲気から勝手にそう呼んでいたのだが)に絡まれて、弓はダメだのなんだのと嫌がらせを受けてしまったのだ。
あんな人前で悪し様に言われてしまったのが痛すぎたのだろう。アレを見た人は、弓を背負っているだけで差別されかねないと考えてしまう。プレイヤー間で差別されるのは辛いものがある。ただでさえ弓は扱いが難しいと事前情報があったのに、なおさら弓離れは進んだはずだ。
自分は開き直って弓を背負い続けたが、それを他の人に強要する権利なんてない。
「それでも、弓を使うプレイヤーさんはちらほらと居ました。私達はそういった人に声をかけて、入っても良いよと言う人達をギルドに招き、できるだけ人目につかないように注意しながら活動していました。弓への風当たりが弱まるまでは、それも仕方がないと考えていました。そんなとき、ある動画が上がってきたんです……大剣使いと弓使いのPvPの動画が」
また自分がらみか……知らず知らずのうちにフラグが立っていたということかな。
ポーションの在庫が枯渇していたあのとき、きちんと並んで待っている人がたくさんいるのに割り込みした上、俺の店にあるポーションを全て自分達に売れと強要してきた、横暴極まりないモヒカンPT。挙句の果てにPvPをふっかけてきたから、最後の土産に戦ってやったんだよな。奴等は弓なんて弱いと油断していたから、十分勝ち目はあるとふんだのだが……
「あの動画に、私達は沸きました。弱いと言われ続けた弓で前衛職筆頭である大剣使いを倒す戦術。相手の弱点を的確に撃ち抜くことによる追加効果。弓も十分これから先やっていけると確信できる一戦でした」
弱点に攻撃を当てて優位にしていたことも、見る人が見れば分かるか……なんせ顔面に突き刺さった矢に蹴りを入れてトドメをさしたんだから。そういえば、あの頃から自分の戦い方ってエグいな。
「あの動画の後、私達の存在を知って入ってくる人が増えました。そうして気が付けば、二〇〇人を超えるギルドメンバーがいることになっていたのです」
この一言に、自分はつい大声を上げてしまった。
「に、二〇〇人ですか!? 大型ギルドでもせいぜい一〇〇人ちょっとですよ……?」
ギルドの大きさのものさしとして、二〇人程までが小規模、五〇人から一〇〇人程までが中規模、そしてそれ以上が大規模のギルドと考えられている。そんな中で二〇〇人を超えるというのは……
「はい、妖精イベントが始まる前までは、弓使いのほぼ全てが私のギルドにいたと思います。アースさんは数少ない例外でした。私達は狩りをするときはサブ武器として剣や杖などを持ち、人気がないときに弓に持ち替えてスキルLvを上げていたのです」
だから、あのPvPと妖精イベント最終戦で弓の人気が急騰したとき以外、自分以外の弓使いを見かけることがなかったのか……? そう考えると、アヤメさんの言うことは筋が通る。
「……正直、私達はアースさんが羨ましかった。何を言われようと弓を背負って弓で戦っている。私達には……真似ができませんでした。色眼鏡で見られることを、私達は恐れていました。弓に対する愛着はもちろんありましたが、それを堂々とさらけ出す勇気が持てなかったのです。その頃からだったのでしょう、ネイザーを柱とした一派が生まれたのは」
そこまで話し終えると、アヤメさんは深く息を吐き出す。左右に座る人達は何も言わない。この人達はおそらく、アヤメさんの腹心みたいな存在か。
疲れてきたようなので、常備しているポーションジュースをアヤメさんに渡す。するとお金を出そうとしたので、「今回はいい」と押し切った。
「ありがとうございます……話が長くなってごめんなさい。ネイザー達は貴方を利用しようと決めました。あの男こそがこのギルドに必要だと。そして貴方がフェアリークィーンに一対一で勝利を収めたときに、何が何でもギルドに引き込もうと考えたのでしょう。私が全てを知ったのは、既に彼らが行動を始めた後でした。結果として貴方に対する強引な勧誘を止めることができず、本当に申し訳ありません……」
そう言って、アヤメさんは頭を下げてきた。左右に居た男性二人も「申し訳なかった」と頭を深く下げる。
「そういうことでしたか。お話は分かりましたし、謝罪も受け入れます。貴方達を責めることもしませんのでご安心ください……ただ、ネイザー達一派はどうなりましたか?」
さくっと断ったから自分は大して気にしていないし、『アポロンの弓』ギルドがあんな勧誘を是としていたわけでないと分かった以上、ネチネチと責める必要はない。だが、ネイザー達の動向だけは確認しておきたい。
「……彼らには当分、罰則を科します。狩りは止めませんが、勧誘能力はギルドマスターの能力を用いて凍結させました。もちろんネイザーは副ギルドマスターから一般ギルドメンバーへ降格済みです。また、ギルド追放はしません。追放するよりもギルドの中で相応の罰を受けさせる方が、ギルドとしての責任を果たすことになると考えるからです。以上がネイザー一派への制裁となりますが……」
ああ、安易に追放という方法はとらなかったのか。なら文句はないな。
「結構です、こちらに異論は一切ありません」
この一言に、アヤメさんをはじめ左右の男性二人も、明らかにほっとした表情を浮かべた。こういう問題は厄介だからな……気持ちはよく分かる。
「最後に一つ、宜しいでしょうか? あのフェアリークィーンとの一戦は本当にお見事でした。貴方の勝利が決定したとき、私達は本当に興奮しました。弓にも十分に将来性がある、と確信することができました。これからも弓使いの先達として、ぜひ活躍して頂きたいです」
アヤメさんのこの言葉を最後に話は終了し、彼女達と別れた。
とりあえず、状況は理解できた。やはりあのクィーンとの一戦が色々な所に影響を及ぼしている。もうしばらくは勧誘が止まりそうにないな……
運営も、拡張アップデートや第二陣プレイヤーの参戦も近いと仄めかしているし、気を抜いている暇はなさそうだ。
今日も訓練を兼ねて狩りに出るとするか……先達の自覚は欠片もないけれど。
【スキル一覧】
〈風塵狩弓〉Lv1 〈蹴撃〉Lv12 〈遠視〉Lv47 〈製作の指先〉Lv47(←2UP) 〈料理〉Lv50
〈隠蔽〉Lv38 〈身体能力強化〉Lv17(←1UP) 〈盗賊〉Lv33 〈鞭術〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv28 〈鍛冶〉Lv33(←3UP) 〈薬剤〉Lv40
ExP17
称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者
3
アヤメさん達との会合から数日後、第二陣となるプレイヤーの参入がいよいよ運営から発表された。
サーバーの安定化ならびに最適化が進み、今の倍の人数を受け入れることが可能になったことと、VR(ヴァーチャル・リアリティ)に必要な機材の供給が安定したことなどから、ようやく決定したようだ。
それから、昨日行われたメンテナンス後に更なる状態異常が追加されている。
[ブレイクアーム]状態というそれは、単純に言えば武器や盾を持てなくなる、とても凶悪な異常であった。発生すると装備を落としてしまい、拾い上げることができない時間が数秒続くらしい。
もちろん発生条件も発表されている。手や腕が[麻痺]や[石化]になると追加発生するのが一つ目。そして二つ目が、手か腕に最大HPの二十五%以上のダメージを受けることであった。
僅かな救いは、落とした装備をモンスターや他のプレイヤーが盗めないようになっていること。かつてあるゲームで、死亡した直後にレア装備を落としてしまい、そのまま他人に盗まれた経験が有る身としてはひと安心である。
それに続いて、次回のアップデートによる追加要素として、「死者の挑戦状」と名付けられた完全ランダム地下ダンジョンが登場することも発表された。一時間の制限時間内にダンジョンをどこまで踏破できるかという趣旨のようだ。ちなみに最初は、地下一〇階がひとまずのゴールになるらしい。
設定は本当にランダムで、明るい森林マップになることもあれば、いかにもダンジョンといった暗いマップになることもあるそうだ。その上、罠も多種多様、今までにはなかったタイプも仕掛けられており、力押しではすぐに死者の仲間入りになるぞ~とPVで紹介されていた。さすが鬼畜運営。
さらに第二陣プレイヤーに向けてのPVも流れたのだが、それは今までの目立ったプレイヤーの行動をつなぎ合わせて作られていた。出演者の中にはツヴァイ、グラッド、シルバーが……そして自分はどうかと言うと、フェアリークィーンにトドメを刺すシーンが採用されていた。
フェアリークィーンは見えないように処理されていたが、〈鞭〉で《拘束》からの〈弓〉&〈蹴撃〉コンボが全部流れていた。
「アレを流すな~!」とつい声を出してしまったのもやむを得まい。これを見たプレイヤーが変に弓への幻想を持つと、後々きついのに。
ともかく、運営の鬼畜さに負けないように戦力を調えねばなるまい。そう考えると、いよいよ盾が必要になってくる。さすがに防御能力が回避だけでは、この先厳しいだろうからな。ソロプレイが多い自分は、常に不意打ちで攻撃できるわけではない。新しいダンジョンならなおさら。
……だが、ただの盾じゃ面白くないよなぁ? とりあえず、手に持つタイプは却下だな。弓が引けなくなっては意味がない。やっぱり腕につけるタイプか……そうするとバックラーなどの小盾系統が無難か。
それでは、変則武器製作者の本領発揮といきますか。
良い弓なのは分かっていたが、X弓には採用できなかった弓がある。それはコンパウンドボウ。滑車などを使うので弦が引きやすく、威力も申し分ないのだが、その複雑な機構ゆえ、これまで採用を見送っていた。
だが次に製作する弓には採用しよう……とりあえず盾スキルが上がってからだな、それに取り掛かるのは。
肉料理素材の調達や〈盾〉スキルの練習を兼ねて、じっくりと戦闘を繰り返す。
間に合わせで作った鉄製の盾を右手に持ち、相手の攻撃を盾で防御することでスキルLvをガンガン上げていく。
何故利き腕である右手なのか。それは、右腕に盾を装着する予定だからだ。まともな盾を作るつもりははじめからない。また悪目立ちするだろうが、という意見は無視する……ああ無視するっ!
とりあえずウルフで〈盾〉スキルLvを5まで上げて、続いて森でロック・アント相手にスキル上げ。このロック・アントの殻も素材に使ってみる価値があるから、その採集も兼ねて。もちろん、〈盗賊〉スキルによるレーダーで、他のロック・アントが集結してこないようにきちんと警戒している。
成果は上々で、〈盾〉スキルは一気に急上昇、スキルLvが25までいった。さすが初期スキルは上がりが早い。〈蹴撃〉もLvが4上昇、こちらもなかなかだろう。明日もう一回来れば、盾を特化進化させてバックラーなどがある〈小盾〉系統に進ませることができるだろう。
ちなみに盾の進化先は〈小盾〉〈中盾〉〈大盾〉に分かれ、〈中盾〉はカイトシールドなどのミドルサイズが該当し、〈大盾〉はタワーシールドなど体をほぼ隠せるものが該当する。
街に帰還した後でネクシアに転移する。目的は上級者用の製作セットの購入だ。
〈料理〉がLv50に到達し、上位スキルに進化させた結果、上級者製作セットが使えるようになった。
これで蒸し器が使えるようになったので、肉まんとかを作ってみるつもりでいる。そのために薄力粉になりそうな小麦粉を購入した。これもひたすら実験だな。時間が取れるかが怪しいが……
後はとにかく武具製作用のインゴットを用意しておかねばならない。コンパウンドボウを作るとなるとまた素材が大量に必要になるだろうし、さらに今考えているコンパウンドボウにはある特別な機構が必要で、余計に手間が掛かる。また、矢も専用のものを作らねばならない。ライトメタルがいくらあっても足りないぞこれは……
一回作れれば次からは手順をスキップできるので楽なのだが、その最初の一歩が非常に大変である。そのへんは現実と変わりがないのが、この世界だったりする。まして作るのは持ち手が逆さまな弓。おそらく完成したとしても、鍛冶屋の仲間からは「こんなのまともに使えるのか?」と言われるだろうな。
まあ問題はない、自分しか使えない専用武器にすれば良いだけだ。
結局今日は、素材の調達に〈盾〉スキル上げと、めまぐるしく動き回っている間に終わってしまった。
次回のダンジョン追加まであと一週間か。どこまで戦力を上げられるかが勝負どころという感じになった。〈盾〉スキルを特化進化させた後は、コンパウンドボウの製作に全力を注ぐことになるだろう。料理は気晴らしにやることになりそうだ……
掘りに掘ってかき集めたライトメタルと鋼鉄で、いよいよ試作品ではなく本当に使い続ける盾兼弓を製作する。
製作の前にロック・アントを倒して最後の甲殻集めを行い、ついでに〈盾〉を特化進化させておいた。進化先は予定通り〈小盾〉。これで下準備は整った。
まずは普通にコンパウンドボウを作ってみる。現実世界から引っ張ってきた設計図を基に、木を主体として製作。とりあえず試作品として、ひと通り作ってみた。使い物にならなくても問題ない。大体の流れを覚えたいだけだからだ。
【異界の弓】
この世界の考えではない方法で生み出された弓。
滑車などが使われており、原理は不明ながら威力や安定性は非常に高い。
その反面、専用の矢でないと運用できない。
効果:Atk+38
製作評価:3
製作評価がたったの3程度で、やっと完成にまでこぎつけただけなのにこの攻撃力か……今巷に溢れている、弓を訓練中の人達に売るのには良いかも知れない。
けどダメだな、矢のコストが高くなりすぎるから、お勧めするにはハードルが高い。とりあえず今日はこれで落ちよう。
今日は近くで小さい火の妖精がいっぱい飛んでいる。生産のときに妖精が多くうろついていると、良い物ができやすい気がする。自分の妖精を持っている人はそんなことに左右されないと思うので、妖精を持っていない自分としては、羨ましい限りだが……
それはともかく、とにかく炉に鉱石を突っ込み、熱で溶かして不純物を排除し、インゴットをどんどん作っていく。
ライトメタルと鋼鉄はよく使うので、いくらでも数を得たい。しばらく時間をかけてインゴットを生産していった。
ようやくインゴットの数が揃い、ブレードシューズの製作に取り掛か……ろうとするところなのだが……
「あの……なんでこんなにぎっちり周りに居るんでしょうか……?」
親方も含めた多くの鍛冶屋プレイヤーが、自分の手元を覗き込んでいる。その姿を外から見たら、とてつもなくマヌケに見えそうだ。
「まあしょうがない、お前さんは今注目のプレイヤーだからな!」
そう、親方に言われてしまう。ううむ、結局はこの状況を受け入れろというわけか……有名になんてなるもんじゃない!
仕方がないので、「もうちょっとだけ離れてくださいな」と言って、ブレードシューズ第二作の製作に取り掛かる。
靴部分は既に前回苦労して作った型があるので、それを流用する。ただ鉄より軽いライトメタルがメインになったため、靴を覆う装甲部分を全体的に増やせる。
結果的に、より強固な仕上がりとなり、安定性が増した。ここまでは予定通り。
靴底につけるスパイク……いや率直に言えば杭は鋼鉄で作る。それに鏃の製作で培ったツイスト式のねじりを加える。これでただの杭よりも攻撃力が増すはずだ。より残虐になってしまうが、この際良しとしよう。
そしていよいよ肝心の刃だが、ここは大きく変更する。前回は靴の側面につけていたが、今回はその部分はカットする。なんせ蹴り方が限定されてしまうし、何より整備が面倒だ。
ではどうするか。まずつま先に牙を模した上向きの刃を四本、そして足の甲部分にツイストさせた杭を三本、あえて間隔を空けて備え付ける。
つまり、つま先で相手を蹴ると、牙が食い込み、杭がえぐるという形状を設計してみた。この形ならどう蹴ってもいいし、今まで以上に刃を長く鋭くすることも可能になる。攻撃力がさらに上がるだろう。
また、牙型ブレードは簡単に交換できるように、はめ込み式を採用。これによって、蹴りまくって切れ味が落ちてもすぐに交換できる柔軟性が生まれた。ここもこれまでとは違う点だ。
前回のブレードシューズは無駄が多かったが、良いデータを提供してくれた。挑戦した意味は十二分にあったといえよう。
さて、完成形が見えたら後は作るだけだ。
杭をツイスト式にするのに手こずったが、こつこつ製作していく。
まずは靴の裏に七本、上に三本、それを両足分で合計二〇本ほど杭を作る。鋼鉄製だからさらに手間が掛かるが、これも自分だけの一点もののためだ。
周りの人達が騒がしいが、相手にしていると終わらないから全力でスルー。ちなみに足裏の杭は長さ二センチほど、足の甲の方は五センチの長さにした。
次は牙型のブレードにとりかかる。前方は全部、後ろは半分ぐらいまで刃にする。牙を模すため、一本一本がやや太くなるが、力が掛かる部分なのでやむを得ないだろう、簡単にぽっきりと逝ってしまうようでは「牙」じゃない。
牙のはめ込み部分は、根元を差し込んで上に引き上げると固定できるように作成。その前方の隙間に固定具を差し込める場所も作ることで、より固定性を高くする。牙の長さは五センチほどだが、本物の牙のように少し反っているため、刃の長さはもう少しある。
ハンマーをふるって各部位をいくつも作り、できの悪いものは撥ねていく。
結局一時間以上かかってようやく、全部の部品が完成した。あとは本体となる靴にそれぞれを装着していくだけ。新しい試みとなる牙型ブレードは特に不安だったが、無事に装着できた。
【ファング・レッグブレード】
ライトメタル製と鋼鉄製の刃を持つ装着具。
レザー製の靴か軽鎧の靴に装着することで蹴りの威力を上げられる。
靴に装着しないと何の意味もない。また、〈蹴り〉スキルが30以上ないと扱うことはできない。
効果:追加Atk+29 追加守備力+10
特殊効果:「〈蹴り〉系による反射ダメージ軽減」「攻撃時、稀に[裂傷]付与」「重量増加」
製作評価:6
何とか形になったようだ。周りからは「おお~……」なんて声が上がっている。「また変なもの作ってるなー」って意見の方が気楽で良いんだけどなぁ。
ともかくこの装着具で、〈蹴り〉の攻撃力がかなり上がる。試作のレッグブレードは追加Atk+12だったから、大幅な増加となった。
しかしやっぱり一般的な武器からは離れている部分が多いから、一つ作るだけでひと苦労だ。材料の浪費と時間の消費が激しいのは、やむを得まい。
早速装着し、軽く使い心地を試す。鉄で覆われた部分は前作より増えているが、ライトメタルを使用したので総重量は大して変わらない。むしろ少し軽いぐらいだ。何度か〈蹴り〉を試してみても、重さによる違和感などはない。
試作品と違い、色んな蹴り方でも杭や牙が突き刺さる設計になったため、良い感じといって差し支えないだろう。これからはコイツが蹴り技の相棒だな。
さて、今まで使ってきた試作品の扱いについてだが……ここに置いていくわけにはいかないな、皆に研究材料扱いされてしまう。後日インゴットに戻すにしても、差し当たりアイテムボックスに入れておこう。
今まで頑張ってくれたのだ。用が済んだから、はいゴミ箱行き……ではあまりにも寂しい。コイツにも労いの言葉の一つぐらいかけてから別れよう、かつての愛弓のように。
翌日ログインするとメールが一件届いており、その内容は「マントできたよ~」であった。そういえば前に注文していたのだ。ようやく完成してくれたかと、早速受け取りに向かう。
「はい、これが完成品です。材料持ち込みだから五〇〇〇グローね」
そう言って完成品を見せてくる革職人プレイヤー。
「おお、これは良い物だな。感謝する」
少々言い方がアレになってしまったが、代金を手渡してマントを受け取る。
【ベアーマント】
主にベアの毛皮を使用して製作されたマント。背面からの攻撃を軽減する効果がある。
効果:Def+15
特殊効果:「背面攻撃軽減(中)」
製作評価:9
なんと製作評価が9もある。これ本当に五〇〇〇グローでいいのか? と確認したが、構わないとのこと。それならばありがたく使わせてもらおう。さて、早速狩りに行こうかと考えたところで、もう一件メールが届いた。
「差出人は……アヤメ? ……記憶にないなぁ?」
頭をひねりつつ一応本文を確認する。間違いだったら間違いだったで、すぐに破棄すれば良いだけだ。そこには、次の文章がしたためてあった。
〝突然のメールで失礼致します。『アポロンの弓』ギルドマスターを務めるアヤメと申します。
この度、ネイザーを中心とした我がギルドの恥部が大変なご迷惑をおかけしたことを確認し、
大慌てでこのメールを送らせていただきました。
きちんとお詫びをさせて頂きたく、恐縮ながらどうかこちらに連絡を頂ければ幸いです〟
うあ、内部抗争っていうか、揉めてるって感じなのか……無視する方が簡単といえば簡単だけど、それはそれで色々面倒になるような気もするし……行くしかないか。
そう覚悟を決めて、ウィスパーチャットを起動させる。ウィスパー先は「アヤメ」っと……
【あー、突然のウィスパーに対する許可を感謝する。そちらはアヤメさんかな。メールを確認したのだが】
一応確認する。
【あ、貴方がアースさんですね。この度は大変申し訳ありません。『アポロンの弓』ギルドマスターのアヤメと申します。今お時間は宜しいでしょうか?】
時間は大丈夫だな。面倒は早めに潰すに限る。
【かまいません、場所の指定をお願いします。ただしギルドルームはなしでお願いします】
ギルドルームの中は声などが外に漏れない密室になっているからな。まだ彼女を信用したわけじゃない。
【分かりました……では、こちらでお願いします】
場所を示す地図がメールで送られてきたので、ウィスパーチャットを終了させた。あまり待たせるわけにはいかないし、さっさと移動しますかね。
指定された場所は、あるNPCが住む一軒家の二階だった。人が滅多に来ないから、話をするには良いな。
到着すると、既に男性が三人いた……アレ? アヤメって名前からして、てっきり女性だと思っていたのだが……? 首を傾げつつ「『アポロンの弓』ギルドの関係者ですか?」と声をかけると、真ん中に座っていた人が立ち上がる。
「はじめまして、私がギルドマスターのアヤメです。よろしくお願いします」
挨拶をしてきたその人は、分かりやすく言えばタカ○ヅカの男装の麗人。びっくりした。
「我がギルドの恥部を晒すのは心苦しいのですが、お話しします……」
自分が席に着くと、アヤメさんはそう前置きをして、事のあらましを話し始めた。
そもそも『アポロンの弓』は、ネイザーの言っていたような弓使いの救済組織などではなく、弓使いで集まってゆっくり遊ぼうと考えたアヤメさんが、テスト版のときに設立したギルドだったらしい。
「ギルド設立の資金はどうしたのですか?」と質問したところ、オープンβ中にギルドを作って「ワンモア・フリーライフ・オンライン」を盛り上げましょう、みたいなイベントがあったらしく、格安でできたとのこと。
気心の知れた弓使い数名でスタートし、正式にサービスが公開されたら増えるであろう弓使いを迎えて弓の指導をしながら遊ぼう、という流れだったという。
「そして正式スタートを迎えたのですが……」
ここでアヤメさんはため息をつく。
「Wikiによる情報で弓使いの芽が多く摘まれた上に、初日にあった自分のトラブルが原因で、か……」
苦い記憶が蘇る。自分はログインそうそう、モヒカンPT(雰囲気から勝手にそう呼んでいたのだが)に絡まれて、弓はダメだのなんだのと嫌がらせを受けてしまったのだ。
あんな人前で悪し様に言われてしまったのが痛すぎたのだろう。アレを見た人は、弓を背負っているだけで差別されかねないと考えてしまう。プレイヤー間で差別されるのは辛いものがある。ただでさえ弓は扱いが難しいと事前情報があったのに、なおさら弓離れは進んだはずだ。
自分は開き直って弓を背負い続けたが、それを他の人に強要する権利なんてない。
「それでも、弓を使うプレイヤーさんはちらほらと居ました。私達はそういった人に声をかけて、入っても良いよと言う人達をギルドに招き、できるだけ人目につかないように注意しながら活動していました。弓への風当たりが弱まるまでは、それも仕方がないと考えていました。そんなとき、ある動画が上がってきたんです……大剣使いと弓使いのPvPの動画が」
また自分がらみか……知らず知らずのうちにフラグが立っていたということかな。
ポーションの在庫が枯渇していたあのとき、きちんと並んで待っている人がたくさんいるのに割り込みした上、俺の店にあるポーションを全て自分達に売れと強要してきた、横暴極まりないモヒカンPT。挙句の果てにPvPをふっかけてきたから、最後の土産に戦ってやったんだよな。奴等は弓なんて弱いと油断していたから、十分勝ち目はあるとふんだのだが……
「あの動画に、私達は沸きました。弱いと言われ続けた弓で前衛職筆頭である大剣使いを倒す戦術。相手の弱点を的確に撃ち抜くことによる追加効果。弓も十分これから先やっていけると確信できる一戦でした」
弱点に攻撃を当てて優位にしていたことも、見る人が見れば分かるか……なんせ顔面に突き刺さった矢に蹴りを入れてトドメをさしたんだから。そういえば、あの頃から自分の戦い方ってエグいな。
「あの動画の後、私達の存在を知って入ってくる人が増えました。そうして気が付けば、二〇〇人を超えるギルドメンバーがいることになっていたのです」
この一言に、自分はつい大声を上げてしまった。
「に、二〇〇人ですか!? 大型ギルドでもせいぜい一〇〇人ちょっとですよ……?」
ギルドの大きさのものさしとして、二〇人程までが小規模、五〇人から一〇〇人程までが中規模、そしてそれ以上が大規模のギルドと考えられている。そんな中で二〇〇人を超えるというのは……
「はい、妖精イベントが始まる前までは、弓使いのほぼ全てが私のギルドにいたと思います。アースさんは数少ない例外でした。私達は狩りをするときはサブ武器として剣や杖などを持ち、人気がないときに弓に持ち替えてスキルLvを上げていたのです」
だから、あのPvPと妖精イベント最終戦で弓の人気が急騰したとき以外、自分以外の弓使いを見かけることがなかったのか……? そう考えると、アヤメさんの言うことは筋が通る。
「……正直、私達はアースさんが羨ましかった。何を言われようと弓を背負って弓で戦っている。私達には……真似ができませんでした。色眼鏡で見られることを、私達は恐れていました。弓に対する愛着はもちろんありましたが、それを堂々とさらけ出す勇気が持てなかったのです。その頃からだったのでしょう、ネイザーを柱とした一派が生まれたのは」
そこまで話し終えると、アヤメさんは深く息を吐き出す。左右に座る人達は何も言わない。この人達はおそらく、アヤメさんの腹心みたいな存在か。
疲れてきたようなので、常備しているポーションジュースをアヤメさんに渡す。するとお金を出そうとしたので、「今回はいい」と押し切った。
「ありがとうございます……話が長くなってごめんなさい。ネイザー達は貴方を利用しようと決めました。あの男こそがこのギルドに必要だと。そして貴方がフェアリークィーンに一対一で勝利を収めたときに、何が何でもギルドに引き込もうと考えたのでしょう。私が全てを知ったのは、既に彼らが行動を始めた後でした。結果として貴方に対する強引な勧誘を止めることができず、本当に申し訳ありません……」
そう言って、アヤメさんは頭を下げてきた。左右に居た男性二人も「申し訳なかった」と頭を深く下げる。
「そういうことでしたか。お話は分かりましたし、謝罪も受け入れます。貴方達を責めることもしませんのでご安心ください……ただ、ネイザー達一派はどうなりましたか?」
さくっと断ったから自分は大して気にしていないし、『アポロンの弓』ギルドがあんな勧誘を是としていたわけでないと分かった以上、ネチネチと責める必要はない。だが、ネイザー達の動向だけは確認しておきたい。
「……彼らには当分、罰則を科します。狩りは止めませんが、勧誘能力はギルドマスターの能力を用いて凍結させました。もちろんネイザーは副ギルドマスターから一般ギルドメンバーへ降格済みです。また、ギルド追放はしません。追放するよりもギルドの中で相応の罰を受けさせる方が、ギルドとしての責任を果たすことになると考えるからです。以上がネイザー一派への制裁となりますが……」
ああ、安易に追放という方法はとらなかったのか。なら文句はないな。
「結構です、こちらに異論は一切ありません」
この一言に、アヤメさんをはじめ左右の男性二人も、明らかにほっとした表情を浮かべた。こういう問題は厄介だからな……気持ちはよく分かる。
「最後に一つ、宜しいでしょうか? あのフェアリークィーンとの一戦は本当にお見事でした。貴方の勝利が決定したとき、私達は本当に興奮しました。弓にも十分に将来性がある、と確信することができました。これからも弓使いの先達として、ぜひ活躍して頂きたいです」
アヤメさんのこの言葉を最後に話は終了し、彼女達と別れた。
とりあえず、状況は理解できた。やはりあのクィーンとの一戦が色々な所に影響を及ぼしている。もうしばらくは勧誘が止まりそうにないな……
運営も、拡張アップデートや第二陣プレイヤーの参戦も近いと仄めかしているし、気を抜いている暇はなさそうだ。
今日も訓練を兼ねて狩りに出るとするか……先達の自覚は欠片もないけれど。
【スキル一覧】
〈風塵狩弓〉Lv1 〈蹴撃〉Lv12 〈遠視〉Lv47 〈製作の指先〉Lv47(←2UP) 〈料理〉Lv50
〈隠蔽〉Lv38 〈身体能力強化〉Lv17(←1UP) 〈盗賊〉Lv33 〈鞭術〉Lv34
〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
〈木工〉Lv28 〈鍛冶〉Lv33(←3UP) 〈薬剤〉Lv40
ExP17
称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者
3
アヤメさん達との会合から数日後、第二陣となるプレイヤーの参入がいよいよ運営から発表された。
サーバーの安定化ならびに最適化が進み、今の倍の人数を受け入れることが可能になったことと、VR(ヴァーチャル・リアリティ)に必要な機材の供給が安定したことなどから、ようやく決定したようだ。
それから、昨日行われたメンテナンス後に更なる状態異常が追加されている。
[ブレイクアーム]状態というそれは、単純に言えば武器や盾を持てなくなる、とても凶悪な異常であった。発生すると装備を落としてしまい、拾い上げることができない時間が数秒続くらしい。
もちろん発生条件も発表されている。手や腕が[麻痺]や[石化]になると追加発生するのが一つ目。そして二つ目が、手か腕に最大HPの二十五%以上のダメージを受けることであった。
僅かな救いは、落とした装備をモンスターや他のプレイヤーが盗めないようになっていること。かつてあるゲームで、死亡した直後にレア装備を落としてしまい、そのまま他人に盗まれた経験が有る身としてはひと安心である。
それに続いて、次回のアップデートによる追加要素として、「死者の挑戦状」と名付けられた完全ランダム地下ダンジョンが登場することも発表された。一時間の制限時間内にダンジョンをどこまで踏破できるかという趣旨のようだ。ちなみに最初は、地下一〇階がひとまずのゴールになるらしい。
設定は本当にランダムで、明るい森林マップになることもあれば、いかにもダンジョンといった暗いマップになることもあるそうだ。その上、罠も多種多様、今までにはなかったタイプも仕掛けられており、力押しではすぐに死者の仲間入りになるぞ~とPVで紹介されていた。さすが鬼畜運営。
さらに第二陣プレイヤーに向けてのPVも流れたのだが、それは今までの目立ったプレイヤーの行動をつなぎ合わせて作られていた。出演者の中にはツヴァイ、グラッド、シルバーが……そして自分はどうかと言うと、フェアリークィーンにトドメを刺すシーンが採用されていた。
フェアリークィーンは見えないように処理されていたが、〈鞭〉で《拘束》からの〈弓〉&〈蹴撃〉コンボが全部流れていた。
「アレを流すな~!」とつい声を出してしまったのもやむを得まい。これを見たプレイヤーが変に弓への幻想を持つと、後々きついのに。
ともかく、運営の鬼畜さに負けないように戦力を調えねばなるまい。そう考えると、いよいよ盾が必要になってくる。さすがに防御能力が回避だけでは、この先厳しいだろうからな。ソロプレイが多い自分は、常に不意打ちで攻撃できるわけではない。新しいダンジョンならなおさら。
……だが、ただの盾じゃ面白くないよなぁ? とりあえず、手に持つタイプは却下だな。弓が引けなくなっては意味がない。やっぱり腕につけるタイプか……そうするとバックラーなどの小盾系統が無難か。
それでは、変則武器製作者の本領発揮といきますか。
良い弓なのは分かっていたが、X弓には採用できなかった弓がある。それはコンパウンドボウ。滑車などを使うので弦が引きやすく、威力も申し分ないのだが、その複雑な機構ゆえ、これまで採用を見送っていた。
だが次に製作する弓には採用しよう……とりあえず盾スキルが上がってからだな、それに取り掛かるのは。
肉料理素材の調達や〈盾〉スキルの練習を兼ねて、じっくりと戦闘を繰り返す。
間に合わせで作った鉄製の盾を右手に持ち、相手の攻撃を盾で防御することでスキルLvをガンガン上げていく。
何故利き腕である右手なのか。それは、右腕に盾を装着する予定だからだ。まともな盾を作るつもりははじめからない。また悪目立ちするだろうが、という意見は無視する……ああ無視するっ!
とりあえずウルフで〈盾〉スキルLvを5まで上げて、続いて森でロック・アント相手にスキル上げ。このロック・アントの殻も素材に使ってみる価値があるから、その採集も兼ねて。もちろん、〈盗賊〉スキルによるレーダーで、他のロック・アントが集結してこないようにきちんと警戒している。
成果は上々で、〈盾〉スキルは一気に急上昇、スキルLvが25までいった。さすが初期スキルは上がりが早い。〈蹴撃〉もLvが4上昇、こちらもなかなかだろう。明日もう一回来れば、盾を特化進化させてバックラーなどがある〈小盾〉系統に進ませることができるだろう。
ちなみに盾の進化先は〈小盾〉〈中盾〉〈大盾〉に分かれ、〈中盾〉はカイトシールドなどのミドルサイズが該当し、〈大盾〉はタワーシールドなど体をほぼ隠せるものが該当する。
街に帰還した後でネクシアに転移する。目的は上級者用の製作セットの購入だ。
〈料理〉がLv50に到達し、上位スキルに進化させた結果、上級者製作セットが使えるようになった。
これで蒸し器が使えるようになったので、肉まんとかを作ってみるつもりでいる。そのために薄力粉になりそうな小麦粉を購入した。これもひたすら実験だな。時間が取れるかが怪しいが……
後はとにかく武具製作用のインゴットを用意しておかねばならない。コンパウンドボウを作るとなるとまた素材が大量に必要になるだろうし、さらに今考えているコンパウンドボウにはある特別な機構が必要で、余計に手間が掛かる。また、矢も専用のものを作らねばならない。ライトメタルがいくらあっても足りないぞこれは……
一回作れれば次からは手順をスキップできるので楽なのだが、その最初の一歩が非常に大変である。そのへんは現実と変わりがないのが、この世界だったりする。まして作るのは持ち手が逆さまな弓。おそらく完成したとしても、鍛冶屋の仲間からは「こんなのまともに使えるのか?」と言われるだろうな。
まあ問題はない、自分しか使えない専用武器にすれば良いだけだ。
結局今日は、素材の調達に〈盾〉スキル上げと、めまぐるしく動き回っている間に終わってしまった。
次回のダンジョン追加まであと一週間か。どこまで戦力を上げられるかが勝負どころという感じになった。〈盾〉スキルを特化進化させた後は、コンパウンドボウの製作に全力を注ぐことになるだろう。料理は気晴らしにやることになりそうだ……
掘りに掘ってかき集めたライトメタルと鋼鉄で、いよいよ試作品ではなく本当に使い続ける盾兼弓を製作する。
製作の前にロック・アントを倒して最後の甲殻集めを行い、ついでに〈盾〉を特化進化させておいた。進化先は予定通り〈小盾〉。これで下準備は整った。
まずは普通にコンパウンドボウを作ってみる。現実世界から引っ張ってきた設計図を基に、木を主体として製作。とりあえず試作品として、ひと通り作ってみた。使い物にならなくても問題ない。大体の流れを覚えたいだけだからだ。
【異界の弓】
この世界の考えではない方法で生み出された弓。
滑車などが使われており、原理は不明ながら威力や安定性は非常に高い。
その反面、専用の矢でないと運用できない。
効果:Atk+38
製作評価:3
製作評価がたったの3程度で、やっと完成にまでこぎつけただけなのにこの攻撃力か……今巷に溢れている、弓を訓練中の人達に売るのには良いかも知れない。
けどダメだな、矢のコストが高くなりすぎるから、お勧めするにはハードルが高い。とりあえず今日はこれで落ちよう。
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