とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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2巻

2-1




  1


 今、自分ことアースは、VRMMO「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の中の、木材作業場にいる。これまで酷使こくししてきた自作の特殊武器――X弓の大幅なメンテナンス……というより改良を行うためである。狩りの合間に少しずつ細部の手入れはしていたのだが、一度全体的に見直さないといけないほどくたびれていた。
 まずは部品ごとにばらす。そして弓の本体部分と弦を両方とも交換。本体部分は、第二の街「ネクシア」周辺で採れる木材の中でもいいものを選び抜いて、新しく製作し直した。
 次に弓がX字に重なる部分の補強具を、鉄からライトメタル製に変更する。これで重量が軽減される上、強度も向上する。改良できる部分はどんどん改良すべきである。
 土台そのものは変えないため、初めてX弓を作ったときほどの苦労はない。細々こまごまとした部分の調整も簡単にできる。後は間違えないよう注意を払いながら組み立て直すだけである。
 こうして劣化していた部品を全て排除し、強化された部品を組み込むことで、外見こそ大幅な変化はないものの、性能が向上した。



【複合X式狩弓かりゆみ改】

 弓を二本に増やしX字に合わせることで威力の増加を図った弓。
 その異様な形から打ち出される矢の威力は驚嘆の一言。
 ただし難易度は大幅に上がり、駆け出しには絶対扱えない。
 部品が大幅に改良され、能力が向上した。
 効果:攻撃力Atk+46
 製作評価:7



 これでまた当分は戦える。しばらくはこういった強化を繰り返す方がいいか。新しい弓の形なんて、そんなにほいほい浮かばないからなぁ。
 弓の引き具合もなかなかよし、と。しかし……

「あのさ、そう視線が多いと落ち着かないんだけど?」

 振り返りながら声をかける。
 そこでは他の木工職人達はもとより、明らかに職人系スキルを持ってなさそうな人達までが、こちらを見ていたのである。
 目が合うと、途端に視線をらす人達。
 原因は言うまでもなく、先日のイベント「妖精達との舞踏会」でなぜか自分に出番が回ってきた、フェアリークィーンとの最終戦闘にある。
 アレで目立ってしまった結果、出歩くだけで注目される。視線というものは意識するなと言われても感じてしまうもの。イベント前の自分は単独ソロプレイがメインだったので、〈盗賊〉スキルを多用し、隠れて戦うことや気配を殺すことに力を注いでいた。その反動か、なおさら視線を強く感じるのである。
 まあ、あれだけのことをやったのだから、しばらくは目立ってしまうのも仕方がないか。
 それにしても、弓の製作なんて見てて面白いかね~?
 それとも、「変なことやってるな~」という物珍しさかなぁ。
 こんな状況で、またクィーンが突然来ないことを祈る……まあ、来たのはこの前の一回きりだから心配しなくても大丈夫か。


 ともかく用事は済んだので、作業場からは撤収しよう。〈隠蔽いんぺい〉スキルで隠れたい気分なのだが、今のところアレはスキレベルLvが上がってもMPマジックパワーの消費率が改善されず、乱用できない状態である。
 視線が集まるからって、スキルをこうぽんぽん使っていいものではないのだ……分かってはいる、分かってはいるんだがなぁ。
 イベントで目立つってのが、ここまで影響が大きいとは思わなかった。
 あの戦いを記録した動画は運営によって専用ページで公開UPされ、閲覧数がすごいことになっている。それどころか一部分が加工されて公式プロモーションビデオPVのひとコマに使われてしまい、さらに目立つ結果に。そのおかげで、既にX弓が自分の目印になってきている感すらある。
 これが有名税というやつか? 面倒なことこの上ないな~。
 それでも、料理を作って露店に置かないとならないし、素材を集めるために狩りもしたい。とりあえず狩りが先だな……そう考えて街の出口を目指す。今はラビットホーンを狩るのも難しいが。
 なぜかと言うと、街から外に出ると、そこには「開始初日かよ!?」と叫びたくなるぐらい多くのプレイヤーがいたからだ。
 ええ、そうです……自分に続けとばかりに弓を持ち、あちこちで矢を放っているプレイヤーでごった返していたのです。みんな苦労してるな、弓は序盤が一番きついからなぁ。
 この様子だと間違いなく、訓練場にもいっぱいいそうだな。
 弓はノンプレイヤーキャラNPCの店で買える粗末なものなのに、逆に防具は最新式というプレイヤーが多く、なんともちぐはぐだ。
 特にアタッカータイプが牽制けんせいと魔法対策を兼ねて弓を選んだらしく、重鎧、軽鎧のプレイヤーが目立つ。この中の何人が弓をモノにできるかね?
 とりあえず邪魔しないように立ち去りますか……
 あと、むちを振るっている人もそれなりにいるな。
 鞭はLv
10になって《拘束》のアーツを覚えると、途端に活躍の場が増える。
 頑張って鍛えて欲しいところだな。


     ◆ ◆ ◆


 空いているエリアまで行って、ドレッドウルフやベアをいつも通りに〈隠蔽〉からの〈弓〉コンボで暗殺し、まとまった数のお肉を確保。まるで密猟だが、気にしたら負けだ。真っ向勝負なんてもう二度とやりたくない。
 対戦PvPの申し込みも全て断っている。一回受けると悪循環になりそうで。
 最強を目指しているわけでもないし、手の内も既にばれている部分が多い。自分には対戦なんかやる意義が薄いのですよ。こうやってひっそりと楽しめればそれでいい。
 ……そういえば、変な魔法覚えたっけな。他の人も今はいないし、実験するのには丁度いいか。
 フェアリークィーンから強制的に装備させられた指輪によって《プリズムノヴァ》という魔法が解禁され、使えるようになっていた。
 これはなにかのスキルかどうかも不明だ。
 早速、ベア相手に試してみる。
 先にベアのHPヒットポイントを八割以上削り、動きを制限しておく。それから発動……おっと、場所指定をする必要がある魔法なのか、じゃあベアを中心に発動。
 発動した瞬間、自分のMPが四〇%ほど減ったかと思いきや、虹色の玉が隕石のように落下してきて、爆発した。
 魔法の効果が終了した後に確認すると、ベアのHPはまだ五%ほど残っている。威力が低いのは、自分の魔法関連の能力が低いからか? そう思っていたのだが、哀れにもベアはみるみるうちに石像になっていった……これはどういうことだ?
 それから休息を挟みながら、十体ほどのベアに何回も《プリズムノヴァ》を撃ってみた。その結果、「ダメージ率は低いが、ランダムで複数のステータス異常を発生させる魔法」と判明……またあのクィーン、とんでもない魔法をくれたものだ。こんなのを人前で使ったら、チート扱いは必至でしょうが……
 本格的なピンチのとき以外は絶対封印だ、これ。無闇に撃っちゃダメだ。
 ちなみに発生する異常は[毒][火傷][盲目][混乱][拘束][麻痺][石化]の七つのようだ。
[毒]や[火傷]はよく引き起こされるが、[麻痺]や[石化]は滅多に起こらない。まあ、[麻痺]や[石化]が発生しちゃったら、その場でほぼ決着がつくからなぁ。
 一度使ったあと、再度使用出来るようになるまでの時間――クールタイムは二〇分。これだけ高い威力であることを考えれば、連射できないのは当然か。
 こうして《プリズムノヴァ》の実験を終えた後、料理をするために街に帰還。したのだが……

「おい、そこの貴様。お前に用事がある」

 こんな声が聞こえてきた。
 誰だか知らないが、災難な人もいたもんだなぁ。声をかけられた人に、心の中で合掌する。
 この手の高圧的な口調で話す人は、厄介なことが多いからな。

「貴様、こっちを向け。用事があると言っているだろうが!」

 さっさと離れてログアウトしよう、関わるのも面倒だ。君子危うきに近寄らずといったところか。あまりにも強引過ぎる行為にはゲームマスターコールをすればサポートを得られるから、問題ないはず。
 料理は明日にしよう、なんか一気に疲れが出てきてしまった。

「おい……貴様……」

 ああうるさい、あんな声かけじゃ誰だって離れてくって分からんかね~?
 まあいい、とっとと宿屋に入ってログアウトだ。せっかく料理の材料とって来たのになぁ。


 明けて翌日。
 仕事から帰って即ログイン、今日は料理を頑張らないと。
 肉を切って、煮込みと炒めと揚げを同時進行。【熊肉シチュー】【ウルフ肉入りの野菜炒め】【ウサギ肉のから揚げ】の売れ筋三点セットをとにかく量産していく。需要はいくらでもある。自分以外の料理スキル持ちの皆様も、毎日生産にいそしんでいるから、負けないようにせねばな……
 複数の調理作業を同時進行しないとならない状況になってから、それもなんとかこなせるようになってしまった自分が怖い。慣れとは恐ろしいものだ。
 まあ、煮込みは材料さえ用意すれば後は火加減に気を付けるだけでいいし、野菜炒めは大火力で一気に火を通せばサッと仕上げられる。弱火で時間をかけた炒め物なんて、まずいだけだからねえ。
 から揚げも焦げないようにだけ注意しつつ、火力高めで一気に揚げる。
 ある意味料理も戦いだ、それは間違いない。

「そしてでき上がりをおいしく食べる♪」
「いきなり来るな! そして食うな!」

 ライトメタル素材にベア革コーティングを施し、「痛みは少なく音は大きく」を実現したハリセンで、闖入者ちんにゅうしゃの頭を遠慮なくひっぱたく。パーーン! と良い音が周りに響き渡った。


 来たのはもちろん、フェアリークィーンである。しかしコイツ、本当に女王か? まあ、服は地味なワンピースをチョイスしてきたところだけは評価する。

「そいつは商品だ! 勝手に食うんじゃない!」

 確かに揚げたてのから揚げの匂いと湯気は食欲を誘うが。

「だって、妖精の国の料理って大半が甘くって……欲求不満~」

 そう言われてもな。王ってのは大抵がんじがらめの中で生きるものだろうに。
 国一番の地位を持ち、国に一番奉仕しなければならない、国一番の奴隷。それが国王である。
 一方の国民は税金を納めねばならないが、それさえ果たせば国のために戦う義務は無く、自由に動き回ることができる。
 たとえば三角形を描いて、頂点に王、底辺に国民を書いてみよう。一見すると王は国民の上にいるように見えるが、見る向きを逆にしてみると、実は国民を一人で持ち上げねばならない立場、という嫌な事実がよく分かると思う。

「だからって人間の活動エリアにほいほい来るんじゃないっての……」

 ただでさえ美人な上にイベントから日が経っていないから、コイツがここにいるって他のプレイヤーにばれると、非常に面倒なことになる。昨日もそういう厄介な人の声を聞いたところだし。

「おい、貴様!」

 そう、こんな風に……って、え?

「貴様だ貴様! 昨日はよくも無視してくれたな!」

 ……最悪だ。自分だったのか、声をかけられていたのは。
 またか、また面倒ごとがやって来るのか!? 自分はただゆったりと、この世界を楽しめれば良いだけなのに。

「で、何事ですか?」

 正直無視したい。でも料理がまだ全部仕上がっていないし、クィーンを置いては逃げられない。
 料理の火加減などに注意を払いつつ営業スマイルを炸裂させて、外見だけは取りつくろう。

「ふん、まあ良い。こちらはギルド『アポロンの弓』所属のネイザーだ。我々はしいたげられている弓使いを救済するという、崇高すうこうな目的を持っている!」

 あ、この時点で、相手がどうしようもないおばかさんだと分かった。こんなのに名前を使われてしまったアポロン神に同情するわ……自分が正義だと思い込んでいる奴は面倒すぎる。
 クィーンは俺の陰から冷ややかな視線を送っているようだ。
 ネイザーとやらの演説はまだ終わらない。

「故に! 貴様のようにどこのギルドにも加入を拒まれ、泣き崩れているであろう同志を放っておけぬ。我が直々にほどこしを与えようと、このような場所までやってきたのだ!」

 もはや自分はこいつの話を聞き流していた。クィーンが退屈そうなので、から揚げを三つほど渡しておく。おいしそうに食べる姿を見ると、ささくれた気持ちも少しは和らぐ。
 ちなみにだが、ギルド加入のお誘いは既に三〇件以上もらっており、ログインできる時間の関係でやむなくお断りしている状態である。そもそも入るなら、ツヴァイ達のとこへいくのが一番良い。

「われわれにも慈悲は有る! 貴様にも末席を用意してやる! 感謝しながら我らがギルドへ来るが良い!」

 ……これはそろそろできたな。から揚げも数が揃った。じゃ、さっさと露店を出しますかね。
 あ、忘れてた。

「お断りします。じゃ、失礼」

 さっと断りの言葉を一つ残し、「ゑ?」と呆然としているネイザーは放置。いつもの場所へ、できたての料理を運ぶ。
 話の九割は聞いてなかったけど、アレで勧誘してるつもりかねえ? しつこくしてこないなら、あとは放置でいいや。時間がもったいない。

「もっと」

 ……べし。

「もうダメ」

 クィーン、いったいどれだけ食うんだよ!? から揚げっていったって、一つ一つは結構大きい。それをもう四つも食ったのに……ああ、そういえばこのから揚げを作るきっかけとなったあのプレイヤーは、まだ食費に苦労しているのかな、あの大きな羊妖精相手に。
 露店を出して商品を並べると、やっとひと息つけた。だというのに、クィーンはまだ傍に居る。

「そろそろ帰れ」

 そうクィーンに言ってみたのだが……

「や」

 返事はこの一言。おいおい……お前さんは本来、ここでうろうろしてていい存在じゃなかろうに。
 イベントのときの格好じゃないからか、幸いにして周りが気付いた様子はないけれど……コイツはなんだかんだ言って美人。やっぱりオーラというかそういうものがあって、目立つんだよね。
 オドオドしていても仕方がないので、逆に堂々と街を歩く。
 こういうとき、きょろきょろしているとかえって目立ってしまう。堂々としている方が周りに溶け込めるのだ。

「で、食べ物を調達したいのか?」

 一応、クィーンの目的を聞いておく。甘いものに飽きたというなら、何とかしてやれば素直に帰るだろう。

「う~ん、そうね。少し手に入れておきたいところかしら」

 仕方がないのでそれから三〇分ぐらいかけて、色々なプレイヤーの露店を歩き回ることにした。同じ肉を使った料理でも人によってやはり味付けが違うので、良い勉強になった。
 ついでに、ケチらないでクィーンのお持ち帰り用の料理も買う。

「とりあえずこれだけあれば、当分は食えるだろ?」

 肉や野菜の料理を三〇種類以上もかき集めた。
 大きな川や海が見つかっていないので、魚料理はない。魚がいたとしても、〈釣り〉スキルがまだ存在していない。

「うん、これでまた向こうで頑張れそう」

 やれやれ、予定外の出費になっちまったが、まあ良いだろう。
 クイーンの帰る姿は目立つので、街の外れに来た。

「無駄だろうが、言っておく。あんまりぽんぽんこっちに来るなよ、目立つからな」

 釘を刺してもすぐ抜けそうだが、言わないよりは……

「それじゃあまたね~」

 聞いているのかいないのか、そう言い残して、クィーンはテレポートしていく。
 居場所がばれるなんて、厄介な指輪をくれたもんだよ……ため息を一つついて、鍛冶場へ向かう。そろそろブレードシューズの改良をしないといけない時期だ。



【スキル一覧】

 〈風塵狩弓ふうじんかりゆみ〉Lv1 〈蹴撃しゅうげき〉Lv12 〈遠視〉Lv47 〈製作の指先〉Lv45 〈料理〉Lv50(←1UP)
 〈隠蔽いんぺい〉Lv38(←1UP) 〈身体能力強化〉Lv16 〈盗賊〉Lv33 〈鞭術べんじゅつ〉Lv34
 〈妖精言語〉Lv99(強制習得・控えスキルへの移動不可能)
 控えスキル
 〈木工〉Lv28(←2UP) 〈鍛冶〉Lv30 〈薬剤〉Lv40
 ExP17
 称号:妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者



  2


「よいしょ、こらしょっと! よいしょ、こらしょっと!」

 またネクシア付近の坑道にて鉱石掘りに励む。なんせライトメタルの消費が激しすぎて、何度も掘りに来ないと足りない。ブレードシューズの改良、というか大幅な改造にも使うためだ。

「ほうほう……」
「こういう形と発想ですか……」
「これで蹴ったんですか……えぐいですね」
「ですが良い参考にはなりますぞ……」

 おそらく鍛冶屋仲間なのだろうが、自分の足元をじろじろと見てくる集団がある。ぼそぼそと声も漏れ聞こえてるし……

「何事ですか……?」

 ワザとあきれた声色で、その集団に声をかける。

「いやいや、お気になさらず」
「声が届いてるんですよ、正直集中できませんので……」

 まったくこっちの意図を汲んでくれない反応に、苦虫を噛みつぶしたような気分で返答する。
 あのフェアリークィーンとの一戦以降、俺の装備をやたらと見てくるプレイヤーが非常に増えてしまった。見た目がかなり変ということもあるのだろうが、弓使いのトップなんて思われてしまっているらしく、参考にしたいという人が多い。
 人の噂も七十五日とは言うが、噂は特に十日目辺りが盛り上がるものだ。
 この点も、ため息が増える理由の一つだ。目立つために戦ったんじゃなかったんだがなぁ。ちょっと予想をひっくり返して見せようじゃないか、という一心だったのだが。
 ともかく鉱石掘りを終了し、鍛冶場に向かった。その間中、ずっと人の目に晒され続けるって本当にきつい。芸能人とかテレビに出ている人って、すごいわ。
「ああ、もうちょっとよく見せて~!」という声がしたが、「お気になさらず」と言っていたのだから無視した。
 いちいち見せていたら、いつまでたってもこっちの作業ができない。自分でアレコレ研究してこその製作だろうに……
 それとも、「これで蹴ったのか」という声も聞こえていたことからすると、蹴り使いが増えてきたのだろうか? で、このブレードシューズと似たような武器の注文を受けたが、どうやって作れば良いのか見当が付かず、参考にしたかったとか?
 どの道、自分の力で頑張ってくれとしか言いようがない。こっちは製作の依頼を受けるほどの時間は取れないからなぁ……


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