文字の大きさ
大
中
小
623 / 783
連載
PVPの推移
蹴り飛ばされた両手剣を拾うつもりはないようで、二刀流状態のまま自分に詰め寄ってくる男性プレイヤー。こちらもそれに応えて距離を詰め、近距離戦での戦いが始まる。お互いの刃がぶつかり合って火花がいくつも散る。こうやってぶつかり合ってみた感じ、やはり純粋なパワーは相手の方が間違いなく上。鍔迫り合いなどの力がある方が有利になるような形にはするべきではないな。
技量も高い。この辺りは流石ジャグドに勝負を挑みに来るプレイヤーだと感じる。まあ、逆に自分に自信が無きゃ、グラッドパーティの面子に勝負なんて挑まないか……が、いくつかの癖というか感覚は掴んだ。そろそろ受け身気味な動きから攻撃的な動きに変えていこうか。まずは、こう。
「んな……こいつ!?」
向こうも気が付いたんだろう、急に自分に向けて振っている剣が受け流されるようになり始めた事に。そうはさせるかとばかりに攻撃の形を変えたりもしてきているが、焦りの為か些か力み気味だ。その影響で速度が最初よりも落ちている──本人はそれに気がつけていない。故により受け流しやすくなって……遂に自分が振るうレガリオンによる反撃の一太刀が相手の右腕を捉える。
「ぐ……」
おや、アームブレイクには持っていけなかったか。結構いい感じで受け流しからの反撃を入れられたんだがな。だが、それなりのダメージはあったようだ。表情が歪み、右手の動きが明確に悪化した。ワンモアのシステム上、ダメージを受ければ痛覚を感じるようになっている。故に多大なダメージを受ければ痛みになれていないと動きが鈍る。
無論スキルなどでそう言った痛覚を軽減させる事が出来るが、それでも一定レベル以上のダメージを受ければ相応に痛みを感じる。だからこそ、こういった事で相手にどれぐらいのダメージが入ったかが分かる。まあ、自分は今までにやってきた修行や戦闘でこういった大ダメージに対する痛みには慣れているが……彼はそこまでの域には入っていなかったのかもしれない。
とはいえ、遠慮はしない。彼の体自身で相棒たちがおもちゃなどではないという事を理解してもらわないといけないからな。攻め立てる自分に対し、相手の男性プレイヤーは防戦一方。それでもこちらの手数の多さに対抗しきれずダメージが蓄積していっているのは目にも明らかだ。鮮血が舞い、動きが鈍り、右手を動かすときは表情がより苦痛に歪む。
(──だからこそ、起死回生の一発を打ってくる可能性を常に頭の中に入れておかないといけない。ここまで来たプレイヤーが、何かしらの切り札を持っていないなんて事はまずありえないのだから)
勝負は決着がつくまで何があるか分からない。九分九厘勝っている所からひっくり返されたなんて試合は幾つもある。優位はあくまで優位であって勝利じゃない。勝利が確定するまでの間は、何があるか分からないと──何が来ても対処できるように身構えておかなければいけない。それがこういった対人戦で大事な心構えだと自分は考える。
現に、相手の目が死んでない。諦めていない事が良く分かる。相手がこういう目をしている内は絶対に油断は厳禁。優位な状況は保ちつつ、こちらが警戒している事を相手に悟られてはならない。そんな心境のまま戦闘を続けると、やはりその時が来た。突如相手である男性プレイヤーの体全体が赤く発光した。
「使うしか、ねえ!」
叫びながらこちらに向かって先ほどまで振るっていた一対の剣を投げつけてくる。この投擲速度はかなり早く、回避をすることが間に合わないと判断し盾を使っての防御を行ったのだが──なんだ!? 片手剣の投擲攻撃を受け止めたとは思えないこの異様な重さは!? 体が硬直して動かない! この硬直の間に男性プレイヤーは肩に差していたショートソードを抜き放ち、こちらに向かって水平に飛び掛かりながら体全身を赤く光らせて突きを繰り出してきた。
「《ファイナルカード》!」
と、アーツの宣言をしながらだ。先ほどの一対の剣を相手に当てて動きを封じ、そこに必殺の一突きを当てると言う連携なのだろう。だが、残念ながらこちらの硬直はもう解けてしまっている。が、まだ動けないふりをしてぎりぎりまで相手の突きを引き寄せる。そこから、タイミングを合わせてからのパーリング。これで相手は勢いが乗ったショートソードの切っ先ごと体全体が自分から右側へと流されて後ろへと吹っ飛んでいく。
え? という声が聞こえた。ただただ何故自分が動ける? という疑問が彼の頭の中で駆け巡ったのだろう。それぐらい、相手の男性プレイヤーにとっては想定外だったという事だ。硬直がなぜこうも早く解けたのかと。必殺の連携がなぜ外されるのかと。その理由だが、自分の左目にあった。そう、状態異常を吸ってしまうというこの魔眼が理由である。
こういった相手の攻撃による硬直も状態異常の一つであると判断されたようなのだ。特に今回は投擲された片手剣をガードしたにも拘らず異様な重さを感じた。それが状態異常だと魔眼が判断したが故に発動して硬直という状態異常を吸いあげてしまったのである。
(魔眼が無ければ、直撃を貰っていただろう。やっぱり、ここまで来るプレイヤーはこういった切り札を持っているよな)
まあ、直撃を貰ったとしても魔王様から頂いたマントの効果とクラネス師匠のドラゴンスケイルメイルをどれだけ抜いてこれたかはまた別の話だが……とにかく、これで相手の男性プレイヤーは大剣、一対の剣、そしてショートソードの全ての剣を抜いたことになる。これで一折の相手の技は見たか? そう思った瞬間後頭部に悪寒が走ったので素早くしゃがんだ。
「く、回避されたか!?」
悪寒の正体は、先ほど投げつけられた一対の剣による攻撃だった。先ほど自分に投げつけられてガードした時にバラバラの方向に飛んだはずの剣が赤く光る男性プレイヤーの両手に収まっている。間違いなく、何かのからくりがある……いくらなんでも剣の回収が早すぎる。
(なんだ? どうすればそれを可能にできる?)
そんな自分の疑問など知るかとばかりに再び投擲される一対の剣。だが一度見れば動きから投擲をやってきそうだという予測はつけられる。故に今度は回避行動をとる事が出来た。そして避けた一瞬、飛んできた剣と男性プレイヤーの間に細い細い一筋の光が一瞬見えた。
(そう言う事か!)
答え合わせだとばかりに、回避した剣の切っ先が自分に向かって方向転換してくる。もちろん、男性プレイヤーも自分の避けた方向に向かって手を振っている。剣を素早く回収できた理由、そしてこの剣の動き。ガントレットと剣を非常に細い糸で繋げているのだ。もちろんそこには更なる工夫もあるんだろうが……簡易的とはいえ操れるとなれば、ぎりぎりのタイミングで回避すると斬られる可能性がある。
逆に理由が分かれば動きようがある。距離を詰めて剣を戻さなきゃいけないように仕向ける。剣の操作が間に合わないように動きに幻惑とフェイントを混ぜて的を絞らせない。もっと単純に距離を話して弓による射撃を仕掛ける。が最後のだけはやめておこ……ここできゅにアウトレンジからの射撃で射殺したらギャラリーから何を言われるか分からん。
(何より対戦相手の彼が、それじゃ納得できないだろうしな)
勝てばいい、それが全てだというのは一つの意見としてありだし理解も出来る。ただ、今求められるのはたぶんそれじゃない。こいつならジャグドと対戦してもおかしくねえ、と周囲に思わせる戦いをしなきゃいけない。相手の切り札から逃げるのではなく、真っ向から向かって叩き伏せるぐらいの事をしなければそう言う意見にはつながらない、か。
(ならば、剣を掻い潜って接近、そしてとどめを入れる形が一番か。相手の土俵にあえて上がって勝つ、これが一番納得しやすいかもしれない)
方針は決まった。ならばあとは実行に移すのみ。ジャグドと戦うだけの力がある、そうギャラリーとなにより対戦している男性プレイヤーに納得してもらわないと。
技量も高い。この辺りは流石ジャグドに勝負を挑みに来るプレイヤーだと感じる。まあ、逆に自分に自信が無きゃ、グラッドパーティの面子に勝負なんて挑まないか……が、いくつかの癖というか感覚は掴んだ。そろそろ受け身気味な動きから攻撃的な動きに変えていこうか。まずは、こう。
「んな……こいつ!?」
向こうも気が付いたんだろう、急に自分に向けて振っている剣が受け流されるようになり始めた事に。そうはさせるかとばかりに攻撃の形を変えたりもしてきているが、焦りの為か些か力み気味だ。その影響で速度が最初よりも落ちている──本人はそれに気がつけていない。故により受け流しやすくなって……遂に自分が振るうレガリオンによる反撃の一太刀が相手の右腕を捉える。
「ぐ……」
おや、アームブレイクには持っていけなかったか。結構いい感じで受け流しからの反撃を入れられたんだがな。だが、それなりのダメージはあったようだ。表情が歪み、右手の動きが明確に悪化した。ワンモアのシステム上、ダメージを受ければ痛覚を感じるようになっている。故に多大なダメージを受ければ痛みになれていないと動きが鈍る。
無論スキルなどでそう言った痛覚を軽減させる事が出来るが、それでも一定レベル以上のダメージを受ければ相応に痛みを感じる。だからこそ、こういった事で相手にどれぐらいのダメージが入ったかが分かる。まあ、自分は今までにやってきた修行や戦闘でこういった大ダメージに対する痛みには慣れているが……彼はそこまでの域には入っていなかったのかもしれない。
とはいえ、遠慮はしない。彼の体自身で相棒たちがおもちゃなどではないという事を理解してもらわないといけないからな。攻め立てる自分に対し、相手の男性プレイヤーは防戦一方。それでもこちらの手数の多さに対抗しきれずダメージが蓄積していっているのは目にも明らかだ。鮮血が舞い、動きが鈍り、右手を動かすときは表情がより苦痛に歪む。
(──だからこそ、起死回生の一発を打ってくる可能性を常に頭の中に入れておかないといけない。ここまで来たプレイヤーが、何かしらの切り札を持っていないなんて事はまずありえないのだから)
勝負は決着がつくまで何があるか分からない。九分九厘勝っている所からひっくり返されたなんて試合は幾つもある。優位はあくまで優位であって勝利じゃない。勝利が確定するまでの間は、何があるか分からないと──何が来ても対処できるように身構えておかなければいけない。それがこういった対人戦で大事な心構えだと自分は考える。
現に、相手の目が死んでない。諦めていない事が良く分かる。相手がこういう目をしている内は絶対に油断は厳禁。優位な状況は保ちつつ、こちらが警戒している事を相手に悟られてはならない。そんな心境のまま戦闘を続けると、やはりその時が来た。突如相手である男性プレイヤーの体全体が赤く発光した。
「使うしか、ねえ!」
叫びながらこちらに向かって先ほどまで振るっていた一対の剣を投げつけてくる。この投擲速度はかなり早く、回避をすることが間に合わないと判断し盾を使っての防御を行ったのだが──なんだ!? 片手剣の投擲攻撃を受け止めたとは思えないこの異様な重さは!? 体が硬直して動かない! この硬直の間に男性プレイヤーは肩に差していたショートソードを抜き放ち、こちらに向かって水平に飛び掛かりながら体全身を赤く光らせて突きを繰り出してきた。
「《ファイナルカード》!」
と、アーツの宣言をしながらだ。先ほどの一対の剣を相手に当てて動きを封じ、そこに必殺の一突きを当てると言う連携なのだろう。だが、残念ながらこちらの硬直はもう解けてしまっている。が、まだ動けないふりをしてぎりぎりまで相手の突きを引き寄せる。そこから、タイミングを合わせてからのパーリング。これで相手は勢いが乗ったショートソードの切っ先ごと体全体が自分から右側へと流されて後ろへと吹っ飛んでいく。
え? という声が聞こえた。ただただ何故自分が動ける? という疑問が彼の頭の中で駆け巡ったのだろう。それぐらい、相手の男性プレイヤーにとっては想定外だったという事だ。硬直がなぜこうも早く解けたのかと。必殺の連携がなぜ外されるのかと。その理由だが、自分の左目にあった。そう、状態異常を吸ってしまうというこの魔眼が理由である。
こういった相手の攻撃による硬直も状態異常の一つであると判断されたようなのだ。特に今回は投擲された片手剣をガードしたにも拘らず異様な重さを感じた。それが状態異常だと魔眼が判断したが故に発動して硬直という状態異常を吸いあげてしまったのである。
(魔眼が無ければ、直撃を貰っていただろう。やっぱり、ここまで来るプレイヤーはこういった切り札を持っているよな)
まあ、直撃を貰ったとしても魔王様から頂いたマントの効果とクラネス師匠のドラゴンスケイルメイルをどれだけ抜いてこれたかはまた別の話だが……とにかく、これで相手の男性プレイヤーは大剣、一対の剣、そしてショートソードの全ての剣を抜いたことになる。これで一折の相手の技は見たか? そう思った瞬間後頭部に悪寒が走ったので素早くしゃがんだ。
「く、回避されたか!?」
悪寒の正体は、先ほど投げつけられた一対の剣による攻撃だった。先ほど自分に投げつけられてガードした時にバラバラの方向に飛んだはずの剣が赤く光る男性プレイヤーの両手に収まっている。間違いなく、何かのからくりがある……いくらなんでも剣の回収が早すぎる。
(なんだ? どうすればそれを可能にできる?)
そんな自分の疑問など知るかとばかりに再び投擲される一対の剣。だが一度見れば動きから投擲をやってきそうだという予測はつけられる。故に今度は回避行動をとる事が出来た。そして避けた一瞬、飛んできた剣と男性プレイヤーの間に細い細い一筋の光が一瞬見えた。
(そう言う事か!)
答え合わせだとばかりに、回避した剣の切っ先が自分に向かって方向転換してくる。もちろん、男性プレイヤーも自分の避けた方向に向かって手を振っている。剣を素早く回収できた理由、そしてこの剣の動き。ガントレットと剣を非常に細い糸で繋げているのだ。もちろんそこには更なる工夫もあるんだろうが……簡易的とはいえ操れるとなれば、ぎりぎりのタイミングで回避すると斬られる可能性がある。
逆に理由が分かれば動きようがある。距離を詰めて剣を戻さなきゃいけないように仕向ける。剣の操作が間に合わないように動きに幻惑とフェイントを混ぜて的を絞らせない。もっと単純に距離を話して弓による射撃を仕掛ける。が最後のだけはやめておこ……ここできゅにアウトレンジからの射撃で射殺したらギャラリーから何を言われるか分からん。
(何より対戦相手の彼が、それじゃ納得できないだろうしな)
勝てばいい、それが全てだというのは一つの意見としてありだし理解も出来る。ただ、今求められるのはたぶんそれじゃない。こいつならジャグドと対戦してもおかしくねえ、と周囲に思わせる戦いをしなきゃいけない。相手の切り札から逃げるのではなく、真っ向から向かって叩き伏せるぐらいの事をしなければそう言う意見にはつながらない、か。
(ならば、剣を掻い潜って接近、そしてとどめを入れる形が一番か。相手の土俵にあえて上がって勝つ、これが一番納得しやすいかもしれない)
方針は決まった。ならばあとは実行に移すのみ。ジャグドと戦うだけの力がある、そうギャラリーとなにより対戦している男性プレイヤーに納得してもらわないと。
感想 5,013
あなたにおすすめの小説
名門御曹司の婚約者を奪ったあざといルームメイトが、三日後「助けて」と泣きついてきた
熾星 午前一時、大学近くの女性専用シェアハウスは、エアコンの低い音だけが響いていた。森下莉香から一枚の写真が送られてきた。ホテルのスイートルームらしいベッドの上で、彼女は片方の肩を露わにし、鎖骨のあたりには生々しい赤い痕が残っていた。
背後の男の顔は写っていなかった。けれど、画面の端に映った手首だけで、私は十分だった。そこに巻かれていた白檀の腕輪念珠を、私は知っていた。
あれは、私が神宮寺怜央に贈ったものだった。
東京・港区の旧財閥系一族、神宮寺家の後継者。神宮寺家は老舗の不動産開発会社を中核に、近年は医療・介護施設への投資も広げていた。怜央はその跡取りとして、著名な卒業生であり、大学の有力なスポンサーでもある人物として、たびたび私たちの大学に顔を出していた。
『嘘の病気で同情を買うな』と私を死に追いやった婚約者、私の墓標の前で額を叩きつけ、血の涙を流して号泣する大破滅!
熾星婚姻届を出す前日、久世景人はようやく、十年遅れの婚約指輪を私の指にはめた。
銀色の輪が薬指に滑り込んだ瞬間、私は照明の下で光るダイヤをぼんやり見つめた。長く続いた待ち時間が、やっと終わったような気がした。けれど次の瞬間、彼は私の手を見下ろし、まるで似合わない品物を評するように静かな声で言った。
「正直、澪の手ってあまりきれいじゃないよな」
私は言葉を失った。
景人はそのまま私の指先を取ると、さっきはめたばかりの指輪を抜き取った。十年待ち続けた指輪は、彼の手のひらの上で冷たく光っていた。
「この指輪、瑠奈の手にあったほうが似合うと思う」
私は手を引き戻し、信じられない思いで彼を見た。
「どういう意味? 瑠奈と結婚するつもりなの?」
景人は目を伏せ、指輪の縁を指先でなぞった。まるで、たいしたことではない問いを少し考えているだけのようだった。
「そこまでじゃない。ただ、会えない時間が長くなると、どうしても瑠奈のことを考えるんだ」
その瞬間、私は自分がどうやってあのタワーマンションを出たのかさえ覚えていない。
「もやし炒めかぁ」——切り忘れた本音が、世界中のお姉さんを落とした件。
冬野 結流行りのイケメンボイスが出せず、事務所の同期やマネージャーから「才能がない」とバカにされ契約解除された底辺個人VTuber。絶望しながら最後の個人配信を終えた後、マイクの切り忘れに気づかず「お姉さん達に美味しいご飯作ってあげたいな」と素朴な本音を愚痴ってしまう。その不器用なギャップがSNSで世界中に大拡散。配信画面に戻ると、赤スパチャの嵐。元事務所が泣きついてくるが、すでに億万長者になった彼は完全無視する。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
夫が私の移植用心臓を運ぶヘリを愛人の犬に回したので、目覚めた私は彼を知らないふりをした
熾星 宗一郎がシャツの三つ目のボタンを留めたときには、私はもうスマートフォンで銀行アプリを開いていた。
ベッドの脇には女物のワンピースと彼のベルトが散らばっている。神崎美月はホテルのバスローブをまとい、浴室の入り口に立っていた。鎖骨には意味ありげな赤い痕。まるで私に見せつけるために、そこに立っているようだった。
カーテンは完全には閉じられていない。朝の光が絨毯に差し込み、部屋の惨状を残酷なほど鮮明に照らしていた。
初めてこんな場面に出くわしたとき、私は部屋のグラスを叩き割り、宗一郎の胸ぐらをつかんで理由を問い詰めた。
あのときの彼はベッドヘッドにもたれて煙草を吸い、ズボンすらまともに穿かないまま、淡々と言った。
「部屋が暗くて、お前と間違えた」
その後、同じような「人違い」は二度起きた。
それをきっかけに、私たちは書面で取り決めを交わした。不貞行為が一度発覚するたび、離婚成立前の解決金として、彼は私に五百万円を支払う。
「振り込んで」
「愛していない」って言われましても
小鳥遊 れいら結婚式前夜に「お前など愛していない」と言ったフォーエル侯爵家嫡男のルーカスに嫁ぐことになったスターリング伯爵家長女のべリーチェは、驚きながらも冷静だった。所詮は、貴族同士の政略結婚なのだから愛してほしいなど願ったこともなかった。べリーチェの反応に驚きながらも恋人との時間を優先していくルーカス。
ルーカスが本当に大切なものに気づいた時には時すでに遅かった・・・
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。