とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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あの時の戦いを振り返って

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 知りたくなかった話を聞いて、自分は顔を手で押さえていた。なんとなく中二病的な話が作られて流されている可能性がある様な気がしてならない。掲示板を見るのが怖いなぁ。どんなとんでも話が展開しているのか。

「英雄なんて目指しているつもりは全くなかったんですよ。このままではこの世界を全て有翼人が支配する形になってしまうと知って、何が何でもそれを阻止するために動いただけで──そして相応の結末を迎えただけなんですよ」

 あんな過去の魔王様からの悲痛な叫びが刻み込まれた手紙の願いを聞かないなんて選択肢はなかったし、いろんな関わり合いをしてきたこの世界が滅茶苦茶にされるのもごめん被ると言った所だった。だからこそ色々手を尽くして阻止するためにできる事はとことんやった。その途中で予想外の味方を見つけただけの話なんだよなぁ。

「もし英雄がいるとするならば、彼女だろうなぁ。肉体を捨てて本当の意味で孤独に戦い続けてきたのはまさに彼女だ。有翼人のボスの妻となってまで暴走を止めようとし、その後あんな姿になってなお戦いを続けて、やっと目的を達成して静かに逝った彼女こそが英雄と呼ぶにふさわしい」

 あのパワードスーツの中に己の脳を移植し、鉄の冷たい体になってもなお抗い続けた彼女の存在がなかったら勝てたかどうかは怪しい。彼女がいたからこそ様々な手が打てたし、彼女がいたからこそ前もって情報を手に入れる事が出来たのだから。最後には己の存在が新しい災いを呼び込むとして、消えることを望んだ彼女。あの献身と、何より事を成すまでは倒れられぬと意地を見せてくれた彼女こそ英雄だ。

「事情を知ったのは事が終わった後だったが、確かにあのパワードスーツの中にいた彼女は英雄だな。正直、あそこまでやらなきゃ目的を達成できず、そして達成した後は静かに世を去っていく……正直に言うが、アースと彼女が出会わなかったとしたら、マジであの戦いがどうなったか分からなかったな。間違いなく言えるのは、もっと苦戦をしていただろうし、負ける可能性は間違いなく高まっていただろうって事だが」

 ツヴァイも当時を振り返えったようで、懐かしむ様子で言葉を発した。あの時彼女が静かに旅立ったことを見届けたのはほんのわずかな人間だけだった。ここに居るブルーカラーの面々はその少ない人間だ。

「終わった後に振り返ってみれば、薄氷の上の勝利でしたからね。しかしその薄氷の上を見事にわたり切ったからこそ、今がある。戦いの場に上がった連合軍の兵士の皆さんの大半が命を落とし、ドラゴンの皆さんは全員死亡したと知らされました。この世界において間違いなく一番の戦争であったことは間違いないでしょう」

 連合軍の数はそう多くはなかったが、洗脳対策のために人数を絞らざるを得なかったからな。鍛えに鍛えて対策も打ってなお、大半が返らぬ人になってしまった。砂龍師匠もその一人か……弟子である自分を庇って逝ってしまった。

「現場で実際に戦った面々の言葉は重いですね……その間洗脳で操られていた自分達の不甲斐なさには苛立ちを覚えます」「仕方がないわよ、あれは知らなきゃどうしようもないもの。しかも知った人間も大勢に広める事が出来ないという事情もあったから。あの戦いは有翼人側の圧倒的優位な状態で始まっていた以上、理不尽すぎたのよね」

 ヴァルキュリアスのメンバーの一人の言葉に、ノーラが貴方達の責任ではないと伝える。うん、プレイヤーも洗脳を食らってしまった被害者だからね。そんなプレイヤーの中で奮闘してくれたブルーカラーの面々とグラッドのパーティメンバーは本当に奮闘してくれた。

「俺達も一歩道がずれてたら操られる側に回っていただろうからな。アースと言うつながりがあったからこそ、真相をいち早く知る事が出来て洗脳を回避できただけだ。俺達も運を引き寄せただけに過ぎない」

 これはレイジの発言。こちらとしてもブルーカラーの面々と知り合えてよかったと思っているよ。実力ももちろんだが付き合いやすい人柄もあって本当に助かった。

「話を知った時点ですでに後手に回っていたという展開ですからね~。凄まじいハードモードだったことは確かですよ~。まさに理不尽そのものでした~」

 ミリーもあの時の戦いの全体を鑑みた感想としてそう口を開いていた。本当によく勝ったもんだ。もう一回は絶対できない。真同化の中に眠っていたかつての英雄達も、もう天に昇っていったからな。有翼人のボス、ロスト・ロスとの戦いには本当に真同化の今と過去の全てを尽くした戦いでもあった。あの日以降、真同化はスネークソードとしての力を失い、アンカー能力のみを残している。

「最後は、あの鎧と言うかパワードスーツですか? が動いてボスにとどめを入れたって話でしたが」「それは本当よ、彼女が自分自身で最後の一撃を入れたのよ。あの場に生き残っていた皆が見届けているわ」

 ヴァルキュリアス側から飛んできた質問に、エリザが返答する。更にエリザが当時の状況を少し詳しく説明すると──感極まったのか、涙をこぼす人が数名いた。気持ちは分かる、耐えに耐えて忍びに忍んでついに掴んだ瞬間、変わり果てた姿になったとはいえ、己の手で決着をつけたのだから。

「彼女の一撃を食らった後のボスの無様さったらなかったわね。圧倒的に強い力で一方的に押しつぶすだけの戦いをしてきたんでしょう。散々喚き散らして見苦しい死にざまだったわよ。だからこそ、なおさら彼女が静かに消えていった姿が引き立ってしまったわね……」

 と、エリザが説明の最後をそう結んだ。エリザにとっても、忘れられない経験となっていたようだ。説明が間違っていたら修正しようと思っていたが、その必要はなかったな。

「お会いしたかったですね、その彼女に」「その精神性は、見習いたいところです」「孤独に長い間、己の肉体を失ってなお目的のために戦い続ける。どれだけの苦痛と孤独感を味わったのでしょうか? 想像すらできません」

 等の感想がヴァルキュリアスの面々から発される。彼女の精神性は本当に気高かった。もし本当に彼女が天国に行けたのなら、ただ穏やかに過ごしてほしい。血なまぐさい事からは無縁の世界で。と、そろそろみんな食事が終わったな。これで解散かね?

「素晴らしい話を聞かせてもらって感謝するよ。そして、明日の試合が楽しみになった。それだけの戦いを経験してきた戦士と戦える幸運を噛みしめながら挑ませてもらうよ」

 お店を後にして解散をする直前に、ヴァルキュリアスのギルドマスターであるネフィさんがそうこちらに宣言し、ツヴァイが「いい勝負をしよう」と返答。ギルドマスター同士の握手を経て解散となった。そしてログアウトするために宿屋に向かっていたのだが。

「明日の戦いは、厳しくなりそうだな……」

 と、ツヴァイが呟いたのだ。当然視線がツヴァイに集まる。

「握手したときの力強さが半端じゃなかった。槍を相当必死になって振ってきたってのが嫌でもわかる。まさしく鍛えこまれた戦士の手だったんだ。外見はきれいな女性だったが、その中身はやっぱり強者と呼ぶべき戦士だ」

 最強ギルド決定戦の準決勝に残るだけの物を確かに持っているという事か。だが──

「鍛えこんできたのはこちらも同じだろう? 並のプレイヤーならば無縁の戦いを経験し、乗り越えてきたのはこちらも同じ。侮ってはならないが臆する理由もない、そうだろう?」

 自分の言葉にツヴァイは一瞬あっけにとられたようだが、すぐに頷きを返してきた。さあ、いよいよ最強ギルド決定戦も最終日を迎える。悔いのない戦いをしなければな。
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