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番外編

幻想への道のり 第二歩 前編

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 番外編05は『第六部 カースルクーム奪回戦 前編』のおまけシナリオです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぁ~」
「眠そうだね、ジャック」
「んん……」

 ジャックは眼をこすりながら、クロスロードの町中を歩いていた。
 今日もクロスロードは活気あふれる雰囲気で満ちている。誰もが今日を一生懸命生きていた。
 この街の住人は誰もが明日を疑っていないだろう。
 だが、エンフォーサーが負ければ、彼らに明日がやってくるのか?
 ビックタワーがこの街をカースルクームのように占拠しないという補償がどこにあるのか?

 ――必ず勝つ。

 ジャックは改めて四日後に迫ったカースルクーム奪還戦に向け、気持ちをあらたにした。

 どん!

「あ痛ぁ!」
「痛ぇえな! 気をつけろ、ガキ!」
「いやいや……アンタがぶつかってきたんでしょ!」

 ジャックは思わずぶつかってきた相手に文句を言う。
 ジャックにぶつかった男は子供に注意されたことで逆上し、ナイフを取り出した。
 死亡フラグがたち、異世界転生が始まる……。

「ほげぇ!」

 わけもなく、ジャックは返り討ちにする。
 ジャックの左フックが男のあごを打ち抜く。

「ごめんね。僕、この世界でリザードマンやスパイデーとか、化物を相手にしてきたの。ナイフをもった暴漢くらいじゃあ、ビビらないよ。あっ、コリー君は別だけど。でも、現実なら一目散に逃げていたかもね。ボクサーだからマラソンなら絶対に負けないし」

 実際、ナイフを持った暴漢に襲われたら、ボクシングで立ち向かうのは無謀だ。
 ボクサーの拳はナイフと同じ扱いにはなるが、それは法の話。
 素人でも人を殺す威力をナイフは備えている。

 ボクサーも拳で人を殺める事は不可能ではないが、自分が破滅する可能性があるため、あきらかに暴漢の方が有利だ。
 ただ、足の速さはボクサーにはかなわないだろう。
 強いパンチは下半身の安定が必須となり、下半身の強化の為に走り込みが一つの理由としてあげられるからだ。
 短距離、中距離、長距離を走る事にジャックは慣れていた。

「ジャック。一般人に暴力を振るったら、めっ! なの!」
「正当防衛だよ、リリアン。座右の銘は『やられるまえにやれ』、だから!」

 ジャックは軽くリリアンにデコピンをする。

「痛ぁ! も、もう!  ひどい!」

 リリアンは泣きべそをかきながら、ジャックの頭をポカポカと叩く。

「な、なんだ?」
「何が起こったんだ?」

 いつの間にか衛兵が集まってきている。
 ジャックはリリアンを隠し、衛兵に言い訳する。

「いや、この人、暴漢です。いきなりナイフを振り回してきて……」

 ジャックは真実を半分、嘘を半分交えて説明する。
 確かに男はナイフを持っていたが、振り回す前にジャックが殴り飛ばした。
 それに男がナイフを手にしたのはジャックが原因ともいえなくもない。

「ジャックのせいじゃん」

 リリアンは腕を組み、頬を膨らませてそっぽ向いている。
 衛兵はジャックを見つめ……。

「でかした! キミは真のマルダーク人だ!」
「ご協力、感謝いたします!」
「「はい?」」

 ジャックとリリアンは顔を合わせ、何事かと不思議に思っていた。



「「ひゃ、百万シルバーだと!」」

 テツとムサシの声がアレンバシルの空に響き渡る。
 ジャックは二日前に偶然殴り飛ばした男を屯所に突き出したら、懸賞金百万シルバーをゲットした。
 まさに棚からぼた餅だ。
 クロスロードにある丘でジャックはその話をテツ、ムサシ、エリン、ソレイユに話した。
 テツはすぐさまジャックの肩を抱き寄せ……。

「俺達、親友だよな? 分け前、あるんだろ?」
「……テツ君」
「流石はテツさん。守銭奴ですよね~」

 ソレイユは軽蔑のまなざしを、エリンは生暖かな視線をテツに送っている。

「ごめん、全額使っちゃった」
「お前は友じゃねえ。気安く触るな」
「……テツ君」
「流石はテツさん。熱い手のひら返しですね~。これが日本で言うところの金の切れ目が縁の切れ目ってヤツですね~」

 ソレイユは侮蔑のまなざしを、エリンはニコニコとテツの態度を静観している。

「なあ、ジャック。自慢話がしたかったわけじゃないよな?」

 ムサシは助け船を出し、テツをなだめようとする。
 ジャックは笑顔でサムズアップする。

「勿論! 僕ね、いつもお世話になっているみんなにプレゼントを用意したんだ。その為に百万シルバー使ったわけ」

 ジャックのシルバーの使い道に、ムサシ達の反応は……。

「お、おう……太っ腹だな」
「……俺はシルバーがよかったんだけど、貰えるものならもらってもいい」
「……ジャック君。アナタ、金遣いが荒すぎ」
「……ほんと、ジャックさんってある意味すごいですよね……百万シルバーを二日で使うんですから」

 ジャックの金遣いのひどさにムサシは心配げに、テツは未練がましく、ソレイユはこめかみを押さえ、エリンは苦笑いしている。

「ちっちっち! MMORPGならM単位でのカスタマイズはフツウだよ。億いくこともあるしね」
「M?」

 ソレイユとエリンはジャックの言葉に首をかしげている。

「百万ってこと。だよね、ムサシ」
「あっ……ああ……確かに強い武器ほど数分で数百万単位で金が溶けていくけど、なんだろうな、このゲームで百万も使うとかちょっともったいないかもな」

 現実と同じ感覚でお金を使っているので、百万も使うとなると少し躊躇してしまうムサシに、ジャックは肩をすくめる。

「けど、いくらお金を持っていても、カースルクーム奪還戦で脱落したら意味ないじゃん。それなら有意義に使うべきだよ」
「それでジャックさんは何にお金を使ったんですか~?」
「話の内容から分からねえのか? 武器や防具だろ?」

 エリンの質問に、テツが代わりに答える。
 ぷくっと頬を膨らませるエリンに、ジャックは拳を突き出して答えた。

「正解! MMORPGで優先的にお金を使うといったら、武器でしょ。攻撃こそ最大の防御って言うしね」

 強い武器があれば、雑魚は瞬殺、ボスも楽に倒せるので、万が一も起こりにくい。
 勿論、防具も大事だが、お金や素材を稼ぐために何十万、何百万、何千万もの敵を倒す必要があるので、時間短縮や疲労軽減を優先し、武器が優先しがちになる。
(これはあくまで個人的な意見です)

「まずはエリンからね。総制作費十万ゴールドのダガーだよ」
「……」

 ジャックはポーチからダガーを取り出す。
 そのダガーを見て、エリンは珍しく顔が引きつっている。
 ジャックが作ったダガーは武器屋や初期装備のダガーよりも少し大きいが、重さや刃渡りはエリン好みに仕上がっている。
 切れ味も攻撃力もエリンが装備しているククリナイフよりも高い。
 エリンにとって、ダガーは使い勝手がいいのでベストチョイスなのだが……。

「なあ、ジャック」
「なに、テツ。あっ、あまりにも格好いいから欲しくなった?」

 テツも顔を引きつらせつつも、ジャックに問いかける。

「いや、その、なんだ……そのダガー……刃に飾っているモノはなんだ?」
「あっ、気づいてくれた? これはデコレーションだよ」
「で、デコレーションっすか……」

 そう、エリンとテツの顔が引きつっていたのはダガーの刃にそってキラキラした石がデコレーションされていた。

「そう、デコ! 女の子ってこう無駄にキラキラしたモノが好きでしょ? エリンは女の子だから可愛くデコったの。でも、ただのデコじゃないよ。パワーストーンでデコっているから、全ステータス、全耐性が3パーセントアップしているわけ」
「それはすげえな!」

 ムサシは感嘆の声をあげる。
 初期のゲーム進行で全ステータス、全耐久値が上がる装備品をゲットできたことはかなりの幸運だ。
 ただ、攻撃力の高い武器が出てくれば、そちらが優先することになるかもしれないが、それでも優秀な武器だとムサシは素直に思った。

 ジャックは笑顔で自分の自信作をエリンに渡す。
 エリンは更に微妙な顔になる。
 確かに性能は高い。それが分かる故、デコダガーが微妙だとエリンは感じてしまう。

「うっ! まぶしぃ!」

 太陽の光がデコしたストーンに反射し、エリンはまぶしくて目をつぶった。

 エリンのテンションが2下がった。

「次はムサシね!」
「お、オラかぁ……」

 ムサシは少し困った顔になる。
 エリンの武器を見せられたら、次に何が出るのか、楽しみよりも不安の方が大きい。

「安心してよ、ムサシ! リーダーのムサシにはカリスマ性に富んだ最高の剣を用意したんだ! 制作費も二番目に高いしね!」
「そ、そうなのか……」

 ジャックが一生懸命ムサシのために武器を作ってくれたのはうれしく思う。
 だが、なぜだろう。ムサシには不安しかなかった。
 そんなムサシの気持ちに気づかず、ジャックはポーチからムサシの武器を取り出す。

「じゃじゃじゃ~~~~~ん! これがムサシの武器だよ!」
「……おおぅ……」

 ムサシはジャックが取り出した武器に、驚きのあまり、声を失った。テツもソレイユも驚いている。
 ジャックが取り出した武器。
 それは黄金のツーハンデッドソードだった。
 全てが金に彩られているまさにゴールデンツーハンデッドソードだ。
 かなり……いや、ものすごく目立つ。

「リーダーなんだからこれくらいはしないとね。どう、ムサシ。気に入ってくれた? まさに王者の風格があるでしょ? 王者=リーダー。力強いムサシにぴったりだよ!」
「……お、おう、ありがとうな、ジャック」

 ジャックは照れた顔をしているが、ムサシは顔が引きつっていた。
 確かにこの黄金のツーハンデッドソードはムサシが装備しているツーハンデッドソードよりも数段攻撃力がアップしている。
 パワーストーンも埋め込まれているため、攻撃力が更にアップしている。
 それに重さもグリップも、ムサシにぴったりとあう。
 だが、いくら強い武器でも、全身金の武器を使用するのは気が引けた。
 少しでも欠けたらもったいなくて気が引け……。

「あれ? これ、金で出来ているんだろ? それにしては軽いっていうか……」
「そりゃそうだよ。金メッキだし」
「金メッキ~?」

 ムサシはぽかんと口を開けてしまう。
 ジャックはばつの悪い顔になる。

「いや、だって、金だよ? いくら百万シルバーあるとしてもツーハンデッドソードを全身全て金にするにはお金が足りないよ~」
「そりゃそうだよな……」

 RPGでは金属の種類によって攻撃力が変わるが、実際に鋼鉄と金、どちらが切れ味がいいかは鋼鉄としかムサシには思えなかった。
 ただ、打撃に関しては明らかに金の方が上だと思われるが。

「まぶしぃ!」

 金メッキが光を反射させ、ムサシはまぶしくて目をつぶった。
 ムサシのテンションが2下がった。
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