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番外編

起死回生! 新必殺技! 前編

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「ネルソン、そこ気をつけて」
「大丈夫ですよ、ジャックさん」

 ジャックはネルソンの手をとり、足場の悪い場所をフォローする。
 二人はアミルキシアの森におつかいイベントに来ていた。

 おつかいイベントとはクエストの種類の一つで、主にNPCから○○○へ行って○○してくださいといった内容だ。
 素材を手に入れる、もしくは集めてくる。
 モンスターを討伐してくる。
 といった具合だ。
 イベントの進行やチュートリアル、デイリーミッションorクエスト等のRPGの定番でもある。

 ジャックとしてはグリズリーとの決戦にむけてトレーニングしておきたいところだが、カースルクーム奪還戦は大規模PVPとなるため、武具の強化やヒーリングストーン、状態異常の回復薬などの用意が必要となり、金がかかる。
 運良く手に入れた百万シルバーもムサシ達の武器とリリアンへの小遣いで全てとけてしまい、せっせと働いているわけだ。
 それに冒険者ギルドからの依頼を積み重ねることでランクアップし、情報や特権といったものが手に入る。

 ちなみに資金集めはジャックだけでなく、エンフォーサーのメンバーもするようにテツは指示をしている。
 テツは目先の戦いだけでなく、戦いの先も見据えて行動していた。
 カースルクーム奪還戦で負けたら元も子もないという意見もあるが。

「お前ら、脱落することを考えているのか?」

 と一刀両断した。
 テツは先の未来を見据えることで、戦いに生き残ることを考えるよう誘導している。
 ジャックはテツの考えに賛成だ。
 前向きになれるし、勝つイメージをするのは基本中の基本。

 勝って当然。

 それくらいの自信過剰でなければリングにあがる資格はないとさえ思っている。
 ジャックがお使いイベントの消化をしているのはそれだけではない。
 レベッカのお願いもあったからだ。

「申し訳ございません、ジャックさん。レベッカの料理の材料を集めるのを手伝ってもらって」
「別にいいよ。レベッカの料理、好きだし」

 自分の為に料理してくれていると思うだけで、ジャックは頬が緩むのを抑えきれなかった

「あまり甘やかさないでくださいね。彼女、少し世間に疎いところがあるので……」
「ネルソンってレベッカのお姉さんみたいだね。面倒見がいいというか」

 ジャックは褒めたつもりだが、ネルソンの表情は暗い。

「……迷惑でしょうか?」
「迷惑だったら、ちゃんとそう言うでしょ? レベッカなら」
「そうでしょうか? レベッカもアナタと同じで辛いときには我慢する子ですから」
「心配しすぎだって!」

 ジャックは明るくネルソンの杞憂を笑い飛ばそうとするが……。

「心配しすぎってことはありません! あの子に限ってはやりすぎってことはないんです!」
「……」
「……ご、ごめんなさい。取り乱しました」

 ネルソンはジャックを追い越し、先へと進む。
 ジャックは肩をすくめていた。
 レベッカの料理の材料集めはあくまで表向きの理由で、本当は別のことを頼まれていた。
 ジャックはレベッカの依頼したことを思い返す。



「ネルソンの愚痴に付き合って欲しい?」

 レベッカはネルソンに内緒でジャックを呼び、お願い事をしていた。

「そうなの。ネルソン、私のこととかでいろいろと抱えているから」

 レベッカの心配はジャックにも共感できた。
 ネルソンはレベッカを過保護といってもいいほど、気にかけている。
 その理由はジャックには分からないが、ネルソンの力になりたいとは思っていた。
 しかし、ソウル杯でのジャックとネルソンの出会いからして最悪で、ようやく最近になって話ができる間柄まで修復した。
 ジャックがネルソンを男と勘違いしてしまったことが原因だったので、ジャックはネルソンに多少引け目があったのだが、ここいらで腹を割って話したかったので、レベッカの依頼はジャックにとってまたとないチャンスだ。

「けど、僕の誘いに乗ってくれるかな? ネルソンはレベッカの元から離れたがらないし」
「それなら大丈夫。私の方でなんとかするから」

 こうして、ジャックとネルソンはアミルキシアの森へとお使いイベントに向かうことになった。



 気まずいのはジャックだけでなかった。
「よう、リリアン!」
「ううっ……マジドール」

 ジャックのサポキャラ、リリアンは、ネルソンのサポキャラであるマジドールが苦手だった。
 マジドールも妖精型のサポキャラで、性別は男。
 リリアンがマジドールを苦手とする理由は……。

「相変わらず泣きそうな顔をしてるな、弱虫リリアン~」
「そ、そんなことないもん! 弱虫じゃないもん!」
「そりゃ!」
「い、痛い! 髪を引っ張らないで!」

 マジドールは乱暴で悪戯好き。
 リリアンに意地悪をするので、リリアンはマジドールが苦手になった。



 ジャックはネルソンとの会話の糸口がつかめず、お互い黙ったままアミルキシアの森を進んでいく。
 木漏れ日を浴びつつ、ジャックは冒険者達が歩いて出来た土が露わになった道を歩いて行く。
 ネルソンの潜在能力と匂い袋の恩恵で、モンスターには会っていない。それでも、ジャックは油断せずに森を進んでいく。
 森にはマイナスイオンがあるというが、この世界にもあるのかとジャックは思った。
 あったとしても、森の生き物が人間に優しいことはない。
 ここでジャックはリザードマンと出会い、仲間だったロイドを失っている。
 それに……。

「……どうかしましたか?」
「……いや、ここでコリーと戦ったことを思い出していたんだ」

 リザードマンをなんとか倒すことが出来たが、その後、ライザー率いる『トラヤヌス旅団』と出会い、その一員であるコリーと初めてのPVP、そして……プレイヤーを脱落させた。
 ジャックは自分の両手を見る。
 不思議なもので、いつもは何の汚れもない鍛えた手が目に映るのに、少しでも脱落させた相手のことを想うと、手が真っ赤に染まって見えるのだ。
 血の感触も……血の臭いも……色も……鮮明に思い浮かぶ。
 ただ、現実世界ではそんなことはなかった。
 この世界に来ているときにだけ、それを感じる。

「……」
「ごめんね」
「なぜ、謝るのです?」
「だって……コリーと仲よさそうだったし……その……」

 ジャックは胸が少し痛んだ。
 現金なもので、ネルソンの立場が違うだけで、ジャックは嫉妬してしまっている。
 好きな女の子が別の男の子と仲良くしているのはあまり見たくない。そんな勝手な想いが抑えきれないでいる。

 ――人を好きにあるっていいことだらけだと思っていたんだけどね……。

 ジャックは理想と現実の間に心がうまく整理できないでいた。
 ネルソンはそんなジャックの想いに気づかず、純粋に言葉通りに受け取り、目を細める。

「かまいませんよ……逆にお礼を言いたいくらいです」
「お礼? 友達を殺……脱落させたのに?」
「彼は一人の武人になろうとしていた。自分がどこまでやれるのかを試していたんです。その想いをまっすぐにジャックさんは受け止めて真剣勝負をしてくれた。きっと、彼もジャックさんのこと、恨んでませんよ。逆に約束を果たせなかった私を恨んでいるかもしれません」

 ネルソンはコリーと約束していた。
 殺しに来いと……。
 それは真剣勝負の誓い。
 お互いがお互いを認め、値の一滴まで戦う死闘。
 そんな殺伐とした二人にしか分からない友情。

 ネルソンはふっと笑ってしまった。
 自分はやるべきことがある。それなのに、死闘を望んでいたことが矛盾している。
 短い間の付き合いで最後は裏切ったけれども、それでも、ネルソンはコリーを友だと信じている。

「……ねえ、ネルソンはコリーやライザーの仲間だったんでしょ? それなのに、どうして仲違いしたの?」

 ジャックは気になっていたことを口にした。
 ネルソンのイメージは徹底した現実主義者で、敵を試すためなら裏切りも辞さない、そうジャックは思っていた。
 それにジャックが最初に出会ったとき、ネルソンはジャックを騙し討ちしようとした。
 後にそれは、ジャックがネルソンを男だと誤認識した事への仕返しだったことがネルソンの口から教えられた。
 ただ脅すだけで、脱落させる気はなかったと謝罪してくれたのだ。
 ジャックもネルソンを男と間違ったことを何度も謝罪し、あの一件は水に流すことになった。

 そのときのことと、ネルソンの行動を知れば知るほど、ジャックはそのイメージがかみ合わないことに気づく。
 先ほどもジャックは感じていたが、ネルソンはレベッカに過保護で、同じ仲間のラックやグリムを心から信頼している。
 ムサシに負けないくらい、仲間想いの面が強く感じていた。
 このギャップは何なのか?
 ネルソンは悲しそうな目でライザーが脱落した方に視線を送り、つぶやく。

「……ライザーはとりつかれていたんです。復讐に」
「復讐? 確かコスモスさんだっけ?」
「……知っていたんですか?」
「いや、復讐で思いついたのが以前、クリサンに教えてもらった人のことを思い出して……」
「そうですか……彼らもまた、復讐にとりつかれているんですね……」

 コスモスとは、以前ライザーやグリズリー達とチームを組み、共に戦った仲間である。
 コスモスの犠牲があって、ライザーとグリズリー、クリサンは助かったとジャックは聞いていた。
 ネルソンは疲れたような顔で、その裏に隠された真実を口にする。

「……白いローブの女……気をつけてください、ジャックさん。彼女は……」

 ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ!!!
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