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File:02
邂逅 その五
「「「申し訳ございませんでした!」」」
三人の刺客はジャパニーズ土下座で許しを乞うている。
義乳の女を懲らしめた後、残り二人の男は私に恐れをなして降伏。
めでたしめでたし……というわけではない。
ちょうどいい。
ルシアンとジョーンズの適性を試す。
「あ、姐さん。もういいじゃないですか。反省しているみたいですし」
「まだ。ルシアン、ジョーンズ。彼女にトドメを」
「「はあ?」」
二人は声をそろえ、聞き返すが、私はもう一度告げる。
「トドメを。ソウル杯はPVP……プレイヤー同士を脱落させるために戦うのが目的」
「けど!」
「このゲームを続けていくのなら、殺りなさい。相手は待ってくれない。それに現実で死ぬわけじゃない」
この世界はリアルすぎる。
それ故、相手を倒せるかがこのゲームを生き抜くための必須条件。
「ちょ! ちょっと待って! どうして、私だけなの! いや、リーダーだから私が責任とるけど、二人は許してくれるのよね?」
「……敗者が交渉などありえない。嫌なら戦いを仕掛けてきた自分達の愚かさを呪いなさい」
命を狙ってきて助けて欲しいとかありえない。
「あ、姐さん、ひどくないっすか? 自分は手を汚さずに俺達に殺れだなんて」
「安心して。私が残り二人を脱落させるから」
「「……」」
はい、反論終了。
ジョーンズも黙り込んでしまい、何も言葉が出てこないみたい。
「さあ、殺りなさい。それとも、お手本を見せた方がいい?」
私はルシアンとジョーンズを睨みつける。戦場で綺麗事などガムの包み紙にも劣る。
私は嫌われてでも、彼らに教えなければならない。
自然の基本を。
やられる前にやれ。でなければやられる。
ルシアンとジョーンズの決断は……。
「「……」」
……はあ。終わり……。
私は彼らを見限ることにした。
彼らは正しいのかもしれない。命はきっとかけがえのないものなのだろう。たとえ、仮想世界でも。
ただ、戦場では……害でしかない。敵を倒せない兵士など獅子身中の虫。論外。勿論、兵士ならだけど。
餞別として彼女たちを生かしておく。後は五人で今後を話せばいい。
私はこの三人からルシアンとジョーンズを救ったのだから、これで離れても文句は言えまい。
私は本来の任務に戻ろうとしたとき。
「おい、面白い事やってるな」
「……」
次から次へと……。
ゲームとはこれほどイベントが続くものなの?
声を掛けてきたのは五人組の男達。真ん中のリーダーの男は下卑た笑みを浮かべている。
身長は百八十ちょい。筋肉はあるが、引き締まっていない。街のチンピラのような迫力程度。
ただ、私は知っている。
戦場でもバーでも見たことがある。
屑の目。
「女が土下座している姿とか、そそるよな~。このソウル杯って人殺しを体験できるっていうから参加したんだけど、もっと楽しいことがあるみたいだな」
「へへっ……俺、一度人殺しってやってみたかったんだよな」
「俺もだ。ここなら犯罪者にならずに済むからな」
「俺は女を殺してやりたかった」
「まあ、仮想だけどな。それでも、楽しめそうだぜ」
「……」
日本の言葉話に類は友を呼ぶとあるが、まさにそのとおり。残りの四人も同類みたい。
いい加減、うんざり……。
彼らに教える必要がある。ネーム持ちに喧嘩を売るとどうなるのか……。
私はダガーを握りしめ……。
「いたぞ! アイツらだ!」
「野郎! よくも仲間を!」
おおぅ……。
今度は別の団体さんがやってきた。
そこにいる五人のよりもガラが悪く、粗暴な顔と容姿をしている。
手にはソードやアックスといった武器を握り、憤怒の形相でこちらにやってくる。
ただ、分かっているのは私達を助けにやってきた正義の味方ではなさそう。
「ちっ! アイツら、仲間がいやがったのか!」
「おい、どうする、スタルジス! 数が多いぞ!」
「逃げるぞ!」
ゲス野郎ことスタルジスは脱兎の如く逃げていった。
チンピラ風情の男達はスタルジスを追いかけることもなく……私達の前で止まる。
数は十五人。油断できない数。
「おい! お前らはアイツらの仲間か!」
「ち、違う! 俺達だって襲われたんだ!」
ルシアンは心外だと言わんばかりに怒鳴り返す。
確かにその通り。アイツらと仲間ではない。
けど、あちらはそう思っていないみたい。
「ああん! お前ら同じ格好してるじゃねえか! 仲間だろうが!」
初期装備が災いとなり、めでたく私達はあのゲス野郎のお仲間認定。
ああっ……止められない……止めらそうにない。
「俺達黒いカモリアに手を出して、まさか生きていられると思ってねえよな!」
「黒いカモリア? なんだそれ?」
「てめえ……いい度胸だ。死ぬ覚悟は出来ているみたいだな」
「ま、待って! 俺達は違う! 無実だ!」
ルシアン……いい加減、黙れ……うるさい……。
「教えてやるよ……黒いカモリアはこのアレンバシル最強の戦士で、この大地にある資源、シルバー、家畜、全てが俺達のモノだ。そして、お前らの命もな!」
はぁ……ただのチンピラ。
「ねえ、ヨシュアン、カリアン。アイツら何を言ってるの? 意味不明なんですけど!」
「ミリアン! アイツら、盗賊だ! 襲われるぞ!」
「ホント、ヨシュアン! 僕、戦いなんて無理だよ!」
三人組の名前が判明した。
けど、今はどうでもいい。
私はダガーを隠しながら機会をうかがう。
「おいおい、ビビってるぜ、アイツら! 駆け出しの冒険者か何かか?」
「けど、だ~~~め! お前らはここで死にます!」
「金目の物全て奪われてな~」
黒いカモリアと名乗る男達がゲラゲラと笑っている。
自分たちの勝利に酔いしれている。その間に、私は状況を改めて確認する。
地形、天気、敵の実力、武器……。
次に立ち位置と関係。どこにどう立っているのかや、言葉遣い、風格で敵の人間関係を確認。
最後に順番。
確認完了。
「クルックー」
「敵の数が多いから逃げろですって? それは私? それともアイツら?」
「おい、お嬢さん。怖くて独り言か? 悪いんだけど、俺達は男女平等、老若男女とも同じ扱いなんだ。まあ、運が悪かったと思って死んでくれ」
私の前に一人の男が立つ。ダガーをちらつかせ、自分は優位だと油断している。
無警戒。
順番変更。
実行。
「お前がな」
私は右手を横に振った。
その瞬間。
「ぎゃあああああああああああ!」
男は断末魔をあげる。手にしたダガーを相手の首を狙って斬りつけた。血飛沫が舞う、男は倒れる。
私は間髪入れずに二歩右前に出て、男の頸動脈に向かってナイフを突きつける。
「ごほぉおおおお!」
「あ、アイツ!」
「とりおさえ……ぎゃあああああああ!」
三人目。
一人で十五人はキツい。けれども、勝つ見込みはある。
それ故、私は殺す。
目の前の敵を殲滅するまで。
「あ、姐さん!」
「ルシアン! 覚悟を決めろ! お前達も戦え! 死にたくなかったらな!」
ジョーンズはショートソードを握り、敵に刃先を向ける。
「ちょっと! そんなの知らないわよ!」
「ミリアン! そんなこと、言っている場合じゃないぞ! 戦うぞ、カリアン!」
「えっ? えっ? そんな、急に言われても……」
ルシアン達も参戦の構えを見せることで、黒いカモリアの視線が私から何人か外れる。
一人なら苦しかった。けれども、私を含め六人いれば状況は全く変わる。
五人がつかえないずぶの素人であろうとも、数秒時間稼ぎしてくれれば勝機はこちらのもの。
「野郎!」
黒いカモリアの一人が私めがけてバトルアックスを振り下ろす。
マヌケ!
私は横に跳んで攻撃を回避した後、すぐに頸動脈にダガーを突き立てる。私は返り血で赤く染まりながら、次のターゲットを睨みつける。
男は私の睨みに臆し、一歩下がる。
このド素人が!
私は全力で距離を詰め、相手の喉笛にダガーを押し込む。
ちっ! ダガーの切れ味が悪くなってきている。人の血、肉、油……それらの不純物がダガーを汚し、劣化していく。
手にしたダガーを敵の一人に投げつけ、視界を奪う。
私はこの百五十……ギリギリまで身長を低めたソウルメイトを利用し、地面をこするような低姿勢で距離をゼロにし、敵の背後に飛びつき、その勢いで首の骨を折る。
「ば、化物が!」
「おい! あのひ弱なヤツらを取り押さえろ! アイツらは仲間だ!」
私は手を止めることなく、死体からソードを奪い、更に敵を駆逐する。
「きゃあああ! き、来たわよ!」
「ど、どうすればいいんだ!」
「……ヨシュアン! その戦鎚を振り回せ!」
「えっ?」
「当たらなくていい! 威嚇して敵を近寄らせるな! ミリアン! てめえの弓で援護しろ!」
「め、命令しなくても分かってるわよ!」
ジョーンズの指示で二人は金縛りからとけたように動き出した。
ヨシュアンは大きな体格とパワーを使って戦鎚をブンブン振り回す。
黒いカモリアは大ぶりで隙が出来た後を狙うが、ミリアンの弓が邪魔をする。
「カリアン! ルシアン! 俺達はヨシュアンを護衛するぞ!」
「ご、護衛するだけで勝てるんですか!」
「そうだぜ! 姐さんを助けないと!」
「俺達はただ姐さんの邪魔をしなければいい! 援護なら、俺達がここで踏ん張るだけで充分だ!」
分かっているじゃない、ジョーンズ。
私は体当たりをするようにソードを敵の土手っ腹に突き刺す。
「馬鹿め! そんなに深く突き刺したら抜けねえだろうが!」
そう、ソードで致命傷を与えるには私の体格と力では全力で体ごと押し込むしかない。そうなると、深々と突き刺さるので、剣が抜けない。
私の背後から二人の敵が襲いかかる。
「あ、姐さん!」
私はソードを……。
「「な、なにぃいいいいい!」」
手放し、突き刺した男の肩に乗り、バク宙する。敵の攻撃は私が突き刺した敵を斬りつける。
同士討ちで二人の気がそれる。
私は落下しながら敵の首にしがみつき、振り子の要領で首の骨をへし折る。美女に抱きつかれてイッテしまった?
私は敵の腰にあったダガーをとり、もう一人の敵の首元を斬りつける。
「ルシアン! 前に出すぎだ!」
あのバカ!
ルシアンはあろうことか、私を助けに来た。実力もないくせに、何様!
案の定、ルシアンの真横から敵が襲いかかる。
マズイ! 間に合わない!
「るしあぁあああああああああああああああああああん!」
ジョーンズが陣形から飛び出し、ルシアンを狙う敵の横っ腹にソードを突き刺すが。
「痛ってぇ! や、野郎!」
アーマに阻まれ、あまり深く突き刺さなかった。敵はまだ動ける。
「ジョーンズ、ひねれ!」
私の指示にジョーンズはソードをぐるっとひねり、敵の肉をえぐっていく。
「うぉおおおおおおおおおおおおお! おおおおおおおおおおおおおお!」
口から血を吹き出す敵にジョーンズは押し倒し、首を両手で絞める。
「死ね! 死ね! 死ね!」
「ぐぼぉ!」
「このガキが!」
ジョーンズを斬り殺さんと別の敵が襲いかかるが。
「じょぉおおおおおおおんんず!」
今度はルシアンがシールドで敵の動きを止める。シールドを前にして敵を押し返そうとする。
「このクソガキが! 死ね!」
敵はルシアンの頭を掴み、激しく振って転ばせようとする。
「ジョーンズは絶対に俺が護る!」
ルシアンは叫び声を上げながら、必死に耐える。
「俺達は黒いカモリアだぞ! 逆らったら……」
「しゃべりすぎ」
「ぎゃああああああ!」
私は弓と矢を取り出し、ルシアンの頭を掴んでいた敵に矢を放ち、喉を射貫く。
更に矢で敵を殺していく。
「こうなったら、てめえだけでも!」
三人の敵が私に近づいてくる。
私は目をそらさず、瞬きをせず、一人、また一人、射貫く。
三人目を狙う前に間合いを入られた。
「この距離ならソードの方がはええぜ! しねええええええ!」
私は弓を捨て、矢を握りしめ、前に飛び出す。
相手がソードを横になぎ払う前に私は矢じりを敵の目玉に叩きつける。
「うぎゃあああああああああああ!」
「死ね」
私は首に二度矢じりを突き刺す。
敵は血の涙を流し、手を空へと伸ばす。死にたくない、助けてくれと言いたげに手を伸ばすが……。
私は近くにあったソードを瀕死の敵の首に突き刺した。
敵の叫び声は途絶え、静寂が戻る。
敵を再度確認。
死体は十五。援軍はなし。
それ以外の敵の影もなし。
終了。
周りを見渡すとおびただしい血の池と臭いが充満している。動かない屍は大地に晒され、誰にも埋葬されることなく朽ちていく。
「う……うええええええ!」
この光景が刺激が強すぎたのか、お嬢様育ちのミリアンは口を押さえ、吐き気をおさえている。
ミリアンだけではない。ここにいる全員が顔を真っ青にして立ち尽くしている。
特にジョーンズは自分の手が血で汚れていることをじっと見つめている。
敵は近くにいないみたいだけど、ここから離れるにこしたことはない。また草のようにどんどん増えたら厄介。
「な、なあ、姐さん。ここまでするつもりあったのか? いくら賊だからってやり過ぎじゃないか? 姐さんなら戦意喪失させて……」
ジョーンズの間抜けな質問にため息をつく。
どこまで平和ボケをかませば気が済むのか?
「ここで彼らを逃がせば、仲間をつれて復讐に戻ってくる。黒いカモリアの規模が分からない以上、生存者は必ず殺す」
「け、けど!」
この場での最大の脅威は私が黒いカモリアのメンバーを殺したことを同じ黒いカモリアのメンバーに知られること。
地理、地形、数では彼らの方が圧倒的に有利。いつ襲われるか分からないことこそ、最大のプレッシャーとなる。
ならば、優先事項は私達が殺した事実を知るものを排除すること。
「自分の身ひとつ護れない弱者がキミ達を救った恩人に意見?」
「……」
「痕跡を消せ。すぐにここから離れる」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
はぁ……今度はなに?
ひょろっちいカリアンが私を呼び止める。
カリアンは……。
「……何をしている」
「……あ、あった! ドッグタグだ!」
理解できない。
死体から金目の物を奪うとか、どういう神経をしているの?
「やめろ。略奪したブツから我々の元にたどり着かれたら面倒。痕跡を残すな」
「けど、シルバーを稼がないと今日の晩ご飯だって食べられないんですよ? それにさっき僕達に絡んできたプレイヤーだって黒いカモリアと戦っているんです。他のプレイヤーも同じ事をしている可能性があり、同じ装備品を使っているんですから、バレないですよ」
「カリアンに賛成。やっぱ、戦利品をとっておかないとシルバーを稼げないし。貧乏な男には女は寄りつかないしな」
大男のヨシュアンまで死体からマントや武器、シルバーをとっていく。
私は二人を嫌悪した。
「今すぐ離れて」
「……あの……」
「なに?」
「それなら、どうやってシルバーを稼ぐんですか?」
シルバーを稼ぐ? お金?
そんなもの……。
「ギルドの仕事をこなして稼げばいい」
「けど、手数料とかとられるし、新米の冒険者がいきなり食っていけるほど稼げるとは思えないんですけど。それにさっき倒したオオカミとか採取してませんでしたけど、大丈夫なんですか? 武器の耐久力が減っただけで損じゃないですか?」
「……」
「クルックー」
相棒、うるさい。
分かってる。正論。金こそ正義。
カリアンの指摘は実に合理的かつ、現実そのもの。
「それに武器はどうするんです? 初期装備のもの、もう使い物に……」
「……ごめんなさい。お手伝いします」
悲しかな。私がまさか物乞いのような事をするハメになるとは……。
全ては貧乏が悪い。
そう、私の持ち金はゼロ。無。すっからかん。サジタリアスの件で根回し等にシルバーを使い切ってしまい、このままだと乞食にジョブチェンジ。
今の戦闘で手持ちの武器がほぼ使えなくなった。
敵は黒いカモリアだけではない。プレイヤーこそ敵であり、武器がないと戦いにならない。命守れない。
ついでに狩りもできない。お金稼げない。
武器を新調する余裕も新しい防具を買う事もできない。
味気ない堅い黒パンすら買えない。
軍隊の進軍は腹次第。当たり前のことだけど、基本こそ大事。
「ああ、別に無理に脱がさなくても、オート機能に切り替えてタッチするだけでいけますよ」
「……すごい」
カリアンの言うとおり、オート設定にしてタッチすると、死体のマントが消え去り、ポーチに収納されていた。
このポーチだけでもノーベル賞ものの世紀の大発見であるのに、タッチでモノを奪えるとか、これが現実なら世界は根底から覆る。
私は妙なところで科学の進歩に感心しつつ、カリアンとヨシュアンと一緒に戦利品を回収した。
どうでもいいけど、カリアンって一番戦闘を怖がっていなかった?
それなのに率先して死体からアイテム回収とかどうなの?
ゲームは優男を男にするってキャッチフレーズにした方がよくない?
「クルックー!」
相棒に頭より手を動かせとありがたいお言葉をいただき、私はせっせと回収し続ける。
「とりあえず、血で汚れた武器は近くの海か川で洗いましょうか」
「川はよくない。川に生息する微生物が体から入ってきたら、病気に……」
「ここはゲームの世界ですよ?」
「……そうですね」
カリアン先生に論破され、私は彼の言われるがまま、作業する。
途中で立ち直ったジョーンズも作業に加わるが……。
「……なぜ、ローブを着ている?」
「だって、姐さん言ってたじゃないですか。報復の危険があるって。だから、顔くらいは隠した方がいいかなって……姐さんは隠さないんですか? あっ、隠せないんでしたっけ?」
こ、このガキ!
お金がないので、ローブを買う金がない事を知っていて煽ってくるとは……。
私、キミ達の命の恩人だよね?
ザック! ザック!
今度はルシアンが奇妙な行動をとる。
剣の鞘で穴を掘り出した。
「……ルシアン……何をやっている?」
「墓を作ろうと思いまして……死ねば悪人も善人もないでしょ?」
「「……」」
私とジョーンズは呆然としてしまう。
意味がない。それは敵。効率が悪い。
そもそもNPCなので生き物ではない。
それなのに……。
「どうします、姐さん?」
「……はぁ……」
私達だけでなく、カリアンもヨシュアンも手を止め、呆然としている。
ここに長居するのは愚策。それならば……。
「ルシアン、死体を処理するのは地元民に任せるべき」
「地元民に任せる?」
「死体に何枚かのシルバーの入った袋を置いておけば、地元の人達が埋葬してくれる仕組み。これは現実でも同じような風習がある」
ルシアンは何の罪悪感を抱いているのか、納得いかない顔をしている。
「で、でも、これは俺達のせいで……」
「ルシアン。死体処理も地元の人間にとっては稼ぎの一つ。それで生活が成り立っている。我々はこの世界ではゲストでしかない。彼らの収入源を犯すことはダメ」
「……分かりました」
ルシアンは手を止め、黒いカモリアだった死体に手を合わせ、頭を下げていた。
もう知らん。好きにして。
「姐さん。そんな風習、よく知ってますね」
「デマ」
「はぁ?」
ジョーンズは目を丸くしている。そんなに驚くこと?
「現実にはあったけど、その風習は全世界共通ではない。限られた地域、時代だけ。勿論、この世界にはそんな風習はない。通りかかった人達はその場を離れるか、ただお金を盗って終わるだけ。それがフツウ」
「姐さ~ん」
罪のない嘘。これで作業に戻れる。
私達はせっせと追い剥ぎに勤しむ。
どうでもいいけど、偽乳のミリアンだけ私達の作業に加わることはなかった。
三人の刺客はジャパニーズ土下座で許しを乞うている。
義乳の女を懲らしめた後、残り二人の男は私に恐れをなして降伏。
めでたしめでたし……というわけではない。
ちょうどいい。
ルシアンとジョーンズの適性を試す。
「あ、姐さん。もういいじゃないですか。反省しているみたいですし」
「まだ。ルシアン、ジョーンズ。彼女にトドメを」
「「はあ?」」
二人は声をそろえ、聞き返すが、私はもう一度告げる。
「トドメを。ソウル杯はPVP……プレイヤー同士を脱落させるために戦うのが目的」
「けど!」
「このゲームを続けていくのなら、殺りなさい。相手は待ってくれない。それに現実で死ぬわけじゃない」
この世界はリアルすぎる。
それ故、相手を倒せるかがこのゲームを生き抜くための必須条件。
「ちょ! ちょっと待って! どうして、私だけなの! いや、リーダーだから私が責任とるけど、二人は許してくれるのよね?」
「……敗者が交渉などありえない。嫌なら戦いを仕掛けてきた自分達の愚かさを呪いなさい」
命を狙ってきて助けて欲しいとかありえない。
「あ、姐さん、ひどくないっすか? 自分は手を汚さずに俺達に殺れだなんて」
「安心して。私が残り二人を脱落させるから」
「「……」」
はい、反論終了。
ジョーンズも黙り込んでしまい、何も言葉が出てこないみたい。
「さあ、殺りなさい。それとも、お手本を見せた方がいい?」
私はルシアンとジョーンズを睨みつける。戦場で綺麗事などガムの包み紙にも劣る。
私は嫌われてでも、彼らに教えなければならない。
自然の基本を。
やられる前にやれ。でなければやられる。
ルシアンとジョーンズの決断は……。
「「……」」
……はあ。終わり……。
私は彼らを見限ることにした。
彼らは正しいのかもしれない。命はきっとかけがえのないものなのだろう。たとえ、仮想世界でも。
ただ、戦場では……害でしかない。敵を倒せない兵士など獅子身中の虫。論外。勿論、兵士ならだけど。
餞別として彼女たちを生かしておく。後は五人で今後を話せばいい。
私はこの三人からルシアンとジョーンズを救ったのだから、これで離れても文句は言えまい。
私は本来の任務に戻ろうとしたとき。
「おい、面白い事やってるな」
「……」
次から次へと……。
ゲームとはこれほどイベントが続くものなの?
声を掛けてきたのは五人組の男達。真ん中のリーダーの男は下卑た笑みを浮かべている。
身長は百八十ちょい。筋肉はあるが、引き締まっていない。街のチンピラのような迫力程度。
ただ、私は知っている。
戦場でもバーでも見たことがある。
屑の目。
「女が土下座している姿とか、そそるよな~。このソウル杯って人殺しを体験できるっていうから参加したんだけど、もっと楽しいことがあるみたいだな」
「へへっ……俺、一度人殺しってやってみたかったんだよな」
「俺もだ。ここなら犯罪者にならずに済むからな」
「俺は女を殺してやりたかった」
「まあ、仮想だけどな。それでも、楽しめそうだぜ」
「……」
日本の言葉話に類は友を呼ぶとあるが、まさにそのとおり。残りの四人も同類みたい。
いい加減、うんざり……。
彼らに教える必要がある。ネーム持ちに喧嘩を売るとどうなるのか……。
私はダガーを握りしめ……。
「いたぞ! アイツらだ!」
「野郎! よくも仲間を!」
おおぅ……。
今度は別の団体さんがやってきた。
そこにいる五人のよりもガラが悪く、粗暴な顔と容姿をしている。
手にはソードやアックスといった武器を握り、憤怒の形相でこちらにやってくる。
ただ、分かっているのは私達を助けにやってきた正義の味方ではなさそう。
「ちっ! アイツら、仲間がいやがったのか!」
「おい、どうする、スタルジス! 数が多いぞ!」
「逃げるぞ!」
ゲス野郎ことスタルジスは脱兎の如く逃げていった。
チンピラ風情の男達はスタルジスを追いかけることもなく……私達の前で止まる。
数は十五人。油断できない数。
「おい! お前らはアイツらの仲間か!」
「ち、違う! 俺達だって襲われたんだ!」
ルシアンは心外だと言わんばかりに怒鳴り返す。
確かにその通り。アイツらと仲間ではない。
けど、あちらはそう思っていないみたい。
「ああん! お前ら同じ格好してるじゃねえか! 仲間だろうが!」
初期装備が災いとなり、めでたく私達はあのゲス野郎のお仲間認定。
ああっ……止められない……止めらそうにない。
「俺達黒いカモリアに手を出して、まさか生きていられると思ってねえよな!」
「黒いカモリア? なんだそれ?」
「てめえ……いい度胸だ。死ぬ覚悟は出来ているみたいだな」
「ま、待って! 俺達は違う! 無実だ!」
ルシアン……いい加減、黙れ……うるさい……。
「教えてやるよ……黒いカモリアはこのアレンバシル最強の戦士で、この大地にある資源、シルバー、家畜、全てが俺達のモノだ。そして、お前らの命もな!」
はぁ……ただのチンピラ。
「ねえ、ヨシュアン、カリアン。アイツら何を言ってるの? 意味不明なんですけど!」
「ミリアン! アイツら、盗賊だ! 襲われるぞ!」
「ホント、ヨシュアン! 僕、戦いなんて無理だよ!」
三人組の名前が判明した。
けど、今はどうでもいい。
私はダガーを隠しながら機会をうかがう。
「おいおい、ビビってるぜ、アイツら! 駆け出しの冒険者か何かか?」
「けど、だ~~~め! お前らはここで死にます!」
「金目の物全て奪われてな~」
黒いカモリアと名乗る男達がゲラゲラと笑っている。
自分たちの勝利に酔いしれている。その間に、私は状況を改めて確認する。
地形、天気、敵の実力、武器……。
次に立ち位置と関係。どこにどう立っているのかや、言葉遣い、風格で敵の人間関係を確認。
最後に順番。
確認完了。
「クルックー」
「敵の数が多いから逃げろですって? それは私? それともアイツら?」
「おい、お嬢さん。怖くて独り言か? 悪いんだけど、俺達は男女平等、老若男女とも同じ扱いなんだ。まあ、運が悪かったと思って死んでくれ」
私の前に一人の男が立つ。ダガーをちらつかせ、自分は優位だと油断している。
無警戒。
順番変更。
実行。
「お前がな」
私は右手を横に振った。
その瞬間。
「ぎゃあああああああああああ!」
男は断末魔をあげる。手にしたダガーを相手の首を狙って斬りつけた。血飛沫が舞う、男は倒れる。
私は間髪入れずに二歩右前に出て、男の頸動脈に向かってナイフを突きつける。
「ごほぉおおおお!」
「あ、アイツ!」
「とりおさえ……ぎゃあああああああ!」
三人目。
一人で十五人はキツい。けれども、勝つ見込みはある。
それ故、私は殺す。
目の前の敵を殲滅するまで。
「あ、姐さん!」
「ルシアン! 覚悟を決めろ! お前達も戦え! 死にたくなかったらな!」
ジョーンズはショートソードを握り、敵に刃先を向ける。
「ちょっと! そんなの知らないわよ!」
「ミリアン! そんなこと、言っている場合じゃないぞ! 戦うぞ、カリアン!」
「えっ? えっ? そんな、急に言われても……」
ルシアン達も参戦の構えを見せることで、黒いカモリアの視線が私から何人か外れる。
一人なら苦しかった。けれども、私を含め六人いれば状況は全く変わる。
五人がつかえないずぶの素人であろうとも、数秒時間稼ぎしてくれれば勝機はこちらのもの。
「野郎!」
黒いカモリアの一人が私めがけてバトルアックスを振り下ろす。
マヌケ!
私は横に跳んで攻撃を回避した後、すぐに頸動脈にダガーを突き立てる。私は返り血で赤く染まりながら、次のターゲットを睨みつける。
男は私の睨みに臆し、一歩下がる。
このド素人が!
私は全力で距離を詰め、相手の喉笛にダガーを押し込む。
ちっ! ダガーの切れ味が悪くなってきている。人の血、肉、油……それらの不純物がダガーを汚し、劣化していく。
手にしたダガーを敵の一人に投げつけ、視界を奪う。
私はこの百五十……ギリギリまで身長を低めたソウルメイトを利用し、地面をこするような低姿勢で距離をゼロにし、敵の背後に飛びつき、その勢いで首の骨を折る。
「ば、化物が!」
「おい! あのひ弱なヤツらを取り押さえろ! アイツらは仲間だ!」
私は手を止めることなく、死体からソードを奪い、更に敵を駆逐する。
「きゃあああ! き、来たわよ!」
「ど、どうすればいいんだ!」
「……ヨシュアン! その戦鎚を振り回せ!」
「えっ?」
「当たらなくていい! 威嚇して敵を近寄らせるな! ミリアン! てめえの弓で援護しろ!」
「め、命令しなくても分かってるわよ!」
ジョーンズの指示で二人は金縛りからとけたように動き出した。
ヨシュアンは大きな体格とパワーを使って戦鎚をブンブン振り回す。
黒いカモリアは大ぶりで隙が出来た後を狙うが、ミリアンの弓が邪魔をする。
「カリアン! ルシアン! 俺達はヨシュアンを護衛するぞ!」
「ご、護衛するだけで勝てるんですか!」
「そうだぜ! 姐さんを助けないと!」
「俺達はただ姐さんの邪魔をしなければいい! 援護なら、俺達がここで踏ん張るだけで充分だ!」
分かっているじゃない、ジョーンズ。
私は体当たりをするようにソードを敵の土手っ腹に突き刺す。
「馬鹿め! そんなに深く突き刺したら抜けねえだろうが!」
そう、ソードで致命傷を与えるには私の体格と力では全力で体ごと押し込むしかない。そうなると、深々と突き刺さるので、剣が抜けない。
私の背後から二人の敵が襲いかかる。
「あ、姐さん!」
私はソードを……。
「「な、なにぃいいいいい!」」
手放し、突き刺した男の肩に乗り、バク宙する。敵の攻撃は私が突き刺した敵を斬りつける。
同士討ちで二人の気がそれる。
私は落下しながら敵の首にしがみつき、振り子の要領で首の骨をへし折る。美女に抱きつかれてイッテしまった?
私は敵の腰にあったダガーをとり、もう一人の敵の首元を斬りつける。
「ルシアン! 前に出すぎだ!」
あのバカ!
ルシアンはあろうことか、私を助けに来た。実力もないくせに、何様!
案の定、ルシアンの真横から敵が襲いかかる。
マズイ! 間に合わない!
「るしあぁあああああああああああああああああああん!」
ジョーンズが陣形から飛び出し、ルシアンを狙う敵の横っ腹にソードを突き刺すが。
「痛ってぇ! や、野郎!」
アーマに阻まれ、あまり深く突き刺さなかった。敵はまだ動ける。
「ジョーンズ、ひねれ!」
私の指示にジョーンズはソードをぐるっとひねり、敵の肉をえぐっていく。
「うぉおおおおおおおおおおおおお! おおおおおおおおおおおおおお!」
口から血を吹き出す敵にジョーンズは押し倒し、首を両手で絞める。
「死ね! 死ね! 死ね!」
「ぐぼぉ!」
「このガキが!」
ジョーンズを斬り殺さんと別の敵が襲いかかるが。
「じょぉおおおおおおおんんず!」
今度はルシアンがシールドで敵の動きを止める。シールドを前にして敵を押し返そうとする。
「このクソガキが! 死ね!」
敵はルシアンの頭を掴み、激しく振って転ばせようとする。
「ジョーンズは絶対に俺が護る!」
ルシアンは叫び声を上げながら、必死に耐える。
「俺達は黒いカモリアだぞ! 逆らったら……」
「しゃべりすぎ」
「ぎゃああああああ!」
私は弓と矢を取り出し、ルシアンの頭を掴んでいた敵に矢を放ち、喉を射貫く。
更に矢で敵を殺していく。
「こうなったら、てめえだけでも!」
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私は目をそらさず、瞬きをせず、一人、また一人、射貫く。
三人目を狙う前に間合いを入られた。
「この距離ならソードの方がはええぜ! しねええええええ!」
私は弓を捨て、矢を握りしめ、前に飛び出す。
相手がソードを横になぎ払う前に私は矢じりを敵の目玉に叩きつける。
「うぎゃあああああああああああ!」
「死ね」
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敵を再度確認。
死体は十五。援軍はなし。
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終了。
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「う……うええええええ!」
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特にジョーンズは自分の手が血で汚れていることをじっと見つめている。
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「な、なあ、姐さん。ここまでするつもりあったのか? いくら賊だからってやり過ぎじゃないか? 姐さんなら戦意喪失させて……」
ジョーンズの間抜けな質問にため息をつく。
どこまで平和ボケをかませば気が済むのか?
「ここで彼らを逃がせば、仲間をつれて復讐に戻ってくる。黒いカモリアの規模が分からない以上、生存者は必ず殺す」
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「……」
「痕跡を消せ。すぐにここから離れる」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
はぁ……今度はなに?
ひょろっちいカリアンが私を呼び止める。
カリアンは……。
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「やめろ。略奪したブツから我々の元にたどり着かれたら面倒。痕跡を残すな」
「けど、シルバーを稼がないと今日の晩ご飯だって食べられないんですよ? それにさっき僕達に絡んできたプレイヤーだって黒いカモリアと戦っているんです。他のプレイヤーも同じ事をしている可能性があり、同じ装備品を使っているんですから、バレないですよ」
「カリアンに賛成。やっぱ、戦利品をとっておかないとシルバーを稼げないし。貧乏な男には女は寄りつかないしな」
大男のヨシュアンまで死体からマントや武器、シルバーをとっていく。
私は二人を嫌悪した。
「今すぐ離れて」
「……あの……」
「なに?」
「それなら、どうやってシルバーを稼ぐんですか?」
シルバーを稼ぐ? お金?
そんなもの……。
「ギルドの仕事をこなして稼げばいい」
「けど、手数料とかとられるし、新米の冒険者がいきなり食っていけるほど稼げるとは思えないんですけど。それにさっき倒したオオカミとか採取してませんでしたけど、大丈夫なんですか? 武器の耐久力が減っただけで損じゃないですか?」
「……」
「クルックー」
相棒、うるさい。
分かってる。正論。金こそ正義。
カリアンの指摘は実に合理的かつ、現実そのもの。
「それに武器はどうするんです? 初期装備のもの、もう使い物に……」
「……ごめんなさい。お手伝いします」
悲しかな。私がまさか物乞いのような事をするハメになるとは……。
全ては貧乏が悪い。
そう、私の持ち金はゼロ。無。すっからかん。サジタリアスの件で根回し等にシルバーを使い切ってしまい、このままだと乞食にジョブチェンジ。
今の戦闘で手持ちの武器がほぼ使えなくなった。
敵は黒いカモリアだけではない。プレイヤーこそ敵であり、武器がないと戦いにならない。命守れない。
ついでに狩りもできない。お金稼げない。
武器を新調する余裕も新しい防具を買う事もできない。
味気ない堅い黒パンすら買えない。
軍隊の進軍は腹次第。当たり前のことだけど、基本こそ大事。
「ああ、別に無理に脱がさなくても、オート機能に切り替えてタッチするだけでいけますよ」
「……すごい」
カリアンの言うとおり、オート設定にしてタッチすると、死体のマントが消え去り、ポーチに収納されていた。
このポーチだけでもノーベル賞ものの世紀の大発見であるのに、タッチでモノを奪えるとか、これが現実なら世界は根底から覆る。
私は妙なところで科学の進歩に感心しつつ、カリアンとヨシュアンと一緒に戦利品を回収した。
どうでもいいけど、カリアンって一番戦闘を怖がっていなかった?
それなのに率先して死体からアイテム回収とかどうなの?
ゲームは優男を男にするってキャッチフレーズにした方がよくない?
「クルックー!」
相棒に頭より手を動かせとありがたいお言葉をいただき、私はせっせと回収し続ける。
「とりあえず、血で汚れた武器は近くの海か川で洗いましょうか」
「川はよくない。川に生息する微生物が体から入ってきたら、病気に……」
「ここはゲームの世界ですよ?」
「……そうですね」
カリアン先生に論破され、私は彼の言われるがまま、作業する。
途中で立ち直ったジョーンズも作業に加わるが……。
「……なぜ、ローブを着ている?」
「だって、姐さん言ってたじゃないですか。報復の危険があるって。だから、顔くらいは隠した方がいいかなって……姐さんは隠さないんですか? あっ、隠せないんでしたっけ?」
こ、このガキ!
お金がないので、ローブを買う金がない事を知っていて煽ってくるとは……。
私、キミ達の命の恩人だよね?
ザック! ザック!
今度はルシアンが奇妙な行動をとる。
剣の鞘で穴を掘り出した。
「……ルシアン……何をやっている?」
「墓を作ろうと思いまして……死ねば悪人も善人もないでしょ?」
「「……」」
私とジョーンズは呆然としてしまう。
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そもそもNPCなので生き物ではない。
それなのに……。
「どうします、姐さん?」
「……はぁ……」
私達だけでなく、カリアンもヨシュアンも手を止め、呆然としている。
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「……分かりました」
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