風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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五章

五話 ハーレム男の落日 押水一郎編 その二

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「はあ……」

 モヤモヤする。胃が痛い……。
 原因ははっきりしている。藤堂だ……藤堂のせいだ。そのせいで、全然授業に集中できなかった。頭の中に二人の姿が思い浮かんでしまい、そのたびにシャーペンを強く握りしめてしまう。
 ハル姉だって女の子だ。男と話すことはあるだろう。業腹ごうはらだけど、仕方ない。だけど、藤堂はダメだろ! なんで、あんな嬉しそうに話しているんだよ、ハル姉!
 ハル姉に裏切られた気がして、余計に辛くなる。
 なんでなんだよ……ハル姉……。

「どったの、一郎君? 機嫌悪いみたいだね」
「右京か……なんでもないよ」

 今の僕に誰かをかまう余裕はない。一人になりたかった。

「そうかい? ならいいけど、め込むと体に毒だよ。ほら、一郎君も言ってたじゃない。相談してみると、思っていたよりも簡単に解決出来るかもしれないって。僕はね、一郎君のことが心配なんだ。お節介かもしれないけど、話してもいいと思ったら、話して」

 ううっ、右京……キミってヤツは……おじさん、目にゴミが……。
 相談したら、思っていたよりも簡単に解決出来るか……。
 でも、話すのは恥ずかしいし……そうだ!

「……右京さ、例えばなんだけど、僕の友達の話なんだけど、友達の姉が弟と仲良くない……憎んでさえいる相手と仲が良かったらどう思う?」

 これならバレないだろう。僕ってかしこい!

仇敵きゅうてきってことかい? それなら許せないな。うん、許せない」
「そうだよね! やっぱり右京は分かってる! 裏切りは許せないよ!」

 右京なら同意してくれると思っていたよ。やっぱり、許せないよ!
 当たり前の感情じゃん!

「と、友達の話だよね?」
「そう、友達の話! じゃあ、どうしたら憎き敵を排除はいじょできると思う?」

 藤堂を排除できるならなんだってやるぞ、僕は。
 僕の過激な発言に、左近は目を丸くしていたけど、すぐに落ち着いて助言じょげんしてくれた。

「ううん……そうだな……でも、まずはお姉さんの話を聞いてみるかな、僕なら」
「話を聞く?」

 話なんて聞いてどうするんだ? 意味が分からない。嫌な思いをするだけじゃないか。それが苦しくて相談しているのに。

「だって勘違いなら恥ずかしいでしょ。何か理由があったのかもしれない」
「どんな理由だよ!」

 もし、ハル姉と藤堂が笑って会話するほど仲が良かったら、ショックで死にそうになる。

「それはいてみないと分からないよ。案外、なんてことない理由かもしれない。それに変に疑って誤解だったってことになったら、お姉さんに申し訳ないよね? 別に裏切っていなかったんだから。勝手に裏切者扱いしたら、お姉さん、悲しむんじゃない? それとも、お姉さんの事が信じられない?」
「……そんなことはない」

 それは断言できる。ハル姉はいつも僕の味方をしてくれた。そんなハル姉が大好きだ。
 そっか……誤解かもしれないんだ……それだったら、疑ったら申し訳ないよね。
 頭の中のイライラが消えていく。気分が落ち着いてきた。
 そうだ、会いにいこう。会って確かめよう。誤解だって分かるはずだ。大体、ハル姉が藤堂なんかと仲良くなるはずがない。
 藤堂みたいな男なんかモテるはずがない! そうだよ! そうに違いない!

「参考になったかい?」
「ああ、ありがとう。悪い、用事を思い出したから」
「お姉さんとうまくいくといいね」
「……右京にはかなわないな。じゃあ!」

 僕は片手をあげ、右京と別れた。
 よし! まずはハル姉と話をしよう。理由を確かめなくっちゃ。ハル姉を捜して廊下を走っていると。

 ドン!

「きゃ!」

 ヤベ! 女の子とぶつかった! 視線はついスカートに……あれ、ジャージ?

「ご、ごめん! 大丈夫!」
「は、はい。こっちこそごめんなさい」

 女の子とぶつかってしまって、地面に書類が散らばっている。僕は慌てて、女の子と一緒に書類をひろう。

「ありがとうございました」
「いや、僕も悪かったから」
「生徒会長から渡された資料ですし、なくしたら困るところでした」

 思わぬところでハル姉の情報を手に入れてしまった。

「生徒会長? 会ったの?」
「はい、先程さきほど渡り廊下で会いました」

 思わぬところでハル姉の居場所いばしょが分かった。よし、いくか。
 それにしても、ジャージ姿の女の子とぶつかるのは珍しい。運動部系の女の子かな?
 僕って女の子とぶつかりやすい体質で、どんなに気をつけても女の子だけぶつかってしまうからなぁ。
 ぶつかったとき、いろいろなものが見えたり触ったりしてしまうけど、あまり嬉しくない。その後の女の子による制裁が耐えられない。

 大体だいたい、家で嫌というほど見ているのだ。女物の洗濯物が多いからな、ウチは。
 妹達は年頃だから下着をちゃんと隠しているけど、姉はオープンだ。少しは恥らってほしい。
 目の保養と引き換えに臨死りんし体験はこりごりだ。
 あれ? 僕の左手が震えている。

「くっ、収まれ! 僕の左手!」

 ト、トラウマが……なんのトラウマだったっけ……プロレス技? ロープなしのバンジージャンプ? やばい、マジで脳が警告している。思い出すなと。
 深淵トラウマをのぞく時、深淵トラウマもまたこちらをのぞいているのだ。

 まずい! 公衆の面前で左手を押さえている僕、マジ恥ずかしい。でも、この湧き上がる喜びはなんだ? 新しい能力ちからに目覚めそう。
 幻○殺しの一郎。見られて快感を覚えることが変態だというその常識げんそうをぶち殺す!
 痙攣けいれんする手を必死に押さえ、ハル姉をのいる方へ歩き出した。



 やっとハル姉を見つけた。ハル姉に近寄ろうとすると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

「な、なんだと?」

 ぼ、僕は夢でも見ているのか? 目を何度こすっても頬をつねっても、目の前の光景は変わってくれなかった。
 ハル姉と藤堂が……抱き合っている!
 無理やりじゃない、ハル姉が藤堂に抱きついて……藤堂もハル姉を抱きしめている。
 足が震えている……手の震えも止まらない。

 嘘だ……嘘だ!
 僕は、一秒でもその光景を見ていることが出来なくて、走り去った。
 なんで、なんで、あんなヤツと抱き合ってるんだよ! 僕がいるじゃないか! それなのに……それなのに!
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