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バットエンド_届かない声 後編 第七章
七話 縁 その一
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土曜日の放課後。
俺と左近、上春と朝乃宮は風紀委員室で明日の捜査に向けて、打ち合わせをしていた。
捜査とは平村と白部と一緒に腕時計盗難事件の検証、真相追究の事である。
半年以上前の事件のため、真相追究は困難であることは分かっているが、それでも、白部の無実を立証できると信じて行動するまでだ。
土曜日は半日授業なので、昼ご飯がてら話をしている。
「ねえ、正道。今更だけど、別に腕時計盗難事件を解決させなくても、平村さんのイジメを解決する方法なんていくらでもあるんじゃない? 僕達なりのやり方ってものがあるでしょ? わざわざ困難な道を選ぶなんて意味あるの?」
左近の皮肉に、俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
確かに平村のイジメをやめさせるだけなら、わざわざ腕時計盗難事件を解決する必要はないし、教師と連携して、白部とこの一件の黒幕と思われる相手共々、力で押さえ込めばいい。
だが、そのやり方は白部と平村の気持ちを無視したやり方だ。本人達は納得しないだろう。それでは、本当の解決にはならない。
ただ、風紀委員が処理するべき仕事は白部達の一件だけではない。問題行動を起こす生徒の調査、町内の清掃活動等、他にもやるべきことが沢山あるのだ。
この一件だけに時間を掛けられない事は分かっているが、約束したからな。約束は破るためにあるのではない、護る為にある。
それに、白部と平村。離れた二人の仲が修復できるのか、俺が知りたいんだ。
左近はやれやれと言いたげに肩をすくめている。
悪いな。
俺は心の中で左近に謝罪した。
「別にいいじゃないですか。私は好きですよ、藤堂先輩の方針」
上春が俺を擁護してくれた。上春の言葉に、左近は呆れたように上春を見つめている。
「な、なんですか?」
「いや、別にいいんだけどね。でも、警告はしておくから。余計な詮索は手痛い目にあうよ」
「……」
警告という単語に、上春の笑顔が曇っていく。以前、上春は左近に冷たい態度をとられ、半泣きになったことがある。
だから、不安なのだろう。
「橘はん、あまり咲を不安にさせるようなこと、言わんとってください。押水はんのようなことは起きんよう、注意しとくさかいに」
「それならいいんだけど」
朝乃宮と左近のやりとりに上春は一人、首をかしげている。上春は俺がしでかした事を、ハーレム騒動の結末を知らないから分からないのだろう。
あのときは失敗した。誰もが不幸になった。
だから、今回は……今回こそは、伊藤の言うようにハッピーエンドで終わらせるつもりだ。
そう言いたかったが、急に気恥ずかしくなってしまい、言葉を飲み込む。思い返してみれば、誰かを幸せにしたいとか、こっぱずかしいな。俺のガラじゃない。
それでも、やる気になってしまっていることに、伊藤にうまくのせられたなとつくづく思う。だが、悪い気はしなかった。
「それじゃあ、ちょっとおさらいをしようか。事の原因は……」
「掃除ロッカーに平村さんが閉じ込められていた事だな」
あれには本当に驚かされた。
始まりは教室から聞こえてきた異音。
たまたまそこに居合わせた俺と上春、朝乃宮が原因を探るべく、音の出所、掃除ロッカーを調べたところ、中に人が閉じ込められていた事が判明。
掃除ロッカーの鍵は鍵が刺さったまま、鍵が根元から折られていて、開けることが出来なかった。
掃除ロッカーに閉じ込められていた平村を助けるのに、一時間かかってしまった。
あのときは本当に恐怖した。
平村をただ閉じ込めるだけでなく、声が出ないよう口を塞がれていた。暗闇の中、狭すぎる掃除ロッカーに閉じ込めた犯人の神経が全く理解できなかった。
平村を閉じ込めた犯人はどうして、ここまで残酷なことが出来るのか? 良心のかけらもないのか?
人の悪意が心底恐ろしいと思ったんだ。
「そうだね。それで正道にはこの事件の犯人と思われる人物、白部さんを調査してもらったわけだけど……」
「意外な展開になったな」
左近の調査から、平村はある人物からイジメを受けていたことが判明した。その人物、白部こそが最有力容疑者であると判断し、俺は白部に会いに行った。
最初は白部のふてぶてしい態度に、キレて胸ぐらを掴んだっけな。自分のやったことに全く悪気を感じさせない素振りをみせる白部にふざけるなって怒りがわいたんだ。
だが、白部と話をする中で、白部は平村の事を裏切り者であると吐き捨てた。
そのときの白部の表情は強い感情、憎しみが込められていて、この事件が単純なイジメではないことを思い知らされたんだ。
「そうですよね。被害者と加害者。どちらがどっちなのか、分からなくなりましたよね」
上春は目を伏せ、困った顔をしている。
そうだな。平村が被害者だと思われたこの一件、実は平村が加害者で白部が被害者だった事を二人の親友である井波戸から教わったのだ。
二人が中学生の頃はとても仲がよく、親友同士だった。
だが、中学三年の時に起きた腕時計盗難事件。この事件で二人の仲は百八十度変化してしまう。
事件の内容は、平村達のクラスメイトの腕時計が体育の時間中に盗まれた。腕時計は荷物検査で平村の鞄に入っていた事が判明した。
当然、犯人は平村だと思われた。
だが、平村は白部が自分の鞄に腕時計を入れたと告発したのだ。
白部は自分はやっていないと言い張ったが、調査してみると、腕時計を盗めた人物は白部しか該当せず、平村にはアリバイがあり、結局、白部が犯人で片がついた。
白部は親友に裏切られ、その恨みから平村をイジメるようになった。
「でも、結局は二人の勘違いだったわけやね」
朝乃宮の言うとおり、二人は勘違いしていた。
白部は平村の鞄に腕時計を入れたわけではなく、平村の鞄から自分の鞄に腕時計を入れたのだ。親友の平村をかばうために。
そのときの行動を平村は目撃したわけだが、実際には腕時計は平村の鞄から出てきたので、結果論から平村は白部が自分に濡れ衣を着せようとしたと勘違いしたわけだ。
平村は白部を疑ったことを後悔し、また白部と仲直りしたいと思っていたため、白部のイジメに何も言わずに耐えてきた。それが償いだと言わんばかりに。
俺は白部と平村の本音を聞き出し、それを二人に伝えることで仲違いを解消させた。
完全に元に戻ったわけではないが、それでも、一歩前進したと思う。
それにしても、腕時計を盗んだのは誰なのか?
なぜ、平村の鞄に腕時計を入れたのか?
白部が自分の鞄に腕時計を入れたにもかかわらず、腕時計は平村の鞄の中から発見された。なぜなのか?
疑問はつきないが、俺は白部と平村が腕時計盗難事件の犯人ではないと確信している。
白部と平村から話を聞いて、自分の考えに自信が持てた……のだが、ここであらたな疑問がうまれた。
それは……。
「勘違いが分かったわけだし、僕的には問題ないと思うんだけどね」
左近の感想に、俺は考えを中断させる。今、その疑問を考えても仕方ない。今は必要なことを考えればいい。
俺は左近の意見に異を唱える。
「そうはいかない。前にも言ったが、腕時計盗難事件の犯人は平村さんに冤罪を押しつけたんだ。また、何か仕掛けてくるかもしれない。そうなれば、また二人は傷つく。それだと意味がない」
せっかく二人の仲が修復されても、黒幕に水を差されてはたまったものではない。
それにもし、その黒幕が二人の仲を引き裂くために腕時計盗難事件を起こしたのだとしたら、無視できないし、卑劣な行動を許せるはずがない。
必ずだ……必ず黒幕を表舞台に引きずり出してやる。
これはもう平村達だけの問題ではない。俺自身、この一件に関わった者として傍観者ではいられない。
密かに決意を固めていると、視線を感じた。
その視線の主は上春だった。
なんだ? 俺に何か言いたいことがあるのか?
「どうした、上春? 何かあるのか?」
「ええっと……藤堂先輩って意外にも年下キラーなんですね」
何を言っているんだ、藪から棒に。ふざけているのか。
俺はつい、上春を睨むと、上春は両手をパタパタと手を振り、言い訳してきた。
「だ、だって、ほのかさんに続いて白部さんと平村さんじゃないですか。やはり、ハーレム騒動が藤堂先輩を目覚めさせたのでしょうか?」
何に目覚めたというのか?
上春に悪気はないのだろうが、悪口を言われたような気がして、苦々しい気分になる。
俺はため息をついた。
「意味が分からん。伊藤が俺と組んでいるのはただの好奇心に過ぎん。漫画やドラマのような体験を期待しているだけだろ。白部さんと平村さんは、また昔のように仲直りをしたいから俺と組んでいるだけだ。それが終われば、ただの他人同士に戻る。それだけだ」
お互い関わり合う理由がなくなるのだ。離れていって当然だろう。
しかし、上春には俺の説明が納得いただけないようだ。
「でも、せっかく知り合えたんですよ。言い方は悪いと思いますが、この一件があったからこそ、藤堂先輩は白部さんと平村さんと出会えたとは思いませんか? きっと、普通に過ごしていたら、絶対に出会えなかったと思います。始まりはお互い最悪かもしれませんが、これを機に仲良くなるのもありじゃないですか?」
「必要ない」
俺は上春の意見を一言で切り捨てる。確かに、上春の言うとおり、事件がなかったら俺達は知り合うことなく、卒業していただろう。この機を逃せば、二人と仲良くなる機会はなくなるだろう。
だが、それがなんだというのだ?
『一年生になったら』という歌を小学一年生になるくらいに教えられるが、俺はこの歌が嫌いだった。
友達百人もつくって関係をどう維持するのかと言いたくなる。
友達を百人作ったところで、いつもそばにいる友人はごくわずかだ。だったら、最初から百人など必要ない。三人くらいで十分だ。薄っぺらい友情など、何の意味があるのか。
特に異性の知り合いなんて何を話したらいいのか分からないし、話題もかみ合わないだろう。
お互いつまらない思いをするだけで何の得にもならない。不毛だ。
年下の女子の知り合いなんて、伊藤一人で間に合っている。
新しい出会いよりも今ある縁こそ大切にするべきだと俺は思う。押水のように無節操に作るようなものではないからな、人とのつながりは。
俺は左近に同意を求めたが、左近は首を横に振った。
「僕は上春さんの意見に賛成。今は意味を見いだせなくても、どんなときに役立つものか分からないからね、人とのつながりは。キープしておくに超したことはないんじゃない」
「そんな打算的な理由じゃありませんから!」
確かにな。
左近らしい意見に上春は抗議し、俺は呆れていた。まあ、それでこそ、左近としか言い様がない。
朝乃宮と言えば、つまらなさそうに弁当のそうめんをいじりまわしていた。
今日もそうめんか……。
俺はつい、口に出してしまった。
「今日も弁当はそうめんなんだな」
俺の一言に場が凍り付く。
上春は苦笑し、朝乃宮は恨めしそうに俺を、俺の弁当を睨んでいた。
不味い、余計なことを言ってしまったか?
もしかして、上春家は給料日前なので、お金があまりないのかもしれない。だから、そうめんでしのいでいるかもしれない。
これは完全に俺の落ち度だな。俺は心の中でため息をつく。
やはり、俺が女子と話してもろくな事にはならないな。分かっていたとはいえ、うかつだった。
俺はおずおずと自分の弁当を上春と朝乃宮の前に差し出した。
「おかずをトレードしないか? その……そうめんに興味があるんだ」
やめておけばいいのに、それでも俺は上春達に話しかけてしまった。自分の中にある罪悪感を消すために。
上春は申し訳なさそうに俺と弁当に視線を交互させている。上春の葛藤が目に見えてしまい、余計にいたたまれなくなってしまう。
ああっ、やっぱり女子は苦手だ。左近や順平なら遠慮なく食べてくれるが、女子はそうではない。(伊藤は例外)
繊細というか、慎み深いというか……美徳なのだろうが、ノリが違うので思うようにいかず、どうしていいのか分からない。
お互い気まずい空気が流れたと思っていたら……。
俺と左近、上春と朝乃宮は風紀委員室で明日の捜査に向けて、打ち合わせをしていた。
捜査とは平村と白部と一緒に腕時計盗難事件の検証、真相追究の事である。
半年以上前の事件のため、真相追究は困難であることは分かっているが、それでも、白部の無実を立証できると信じて行動するまでだ。
土曜日は半日授業なので、昼ご飯がてら話をしている。
「ねえ、正道。今更だけど、別に腕時計盗難事件を解決させなくても、平村さんのイジメを解決する方法なんていくらでもあるんじゃない? 僕達なりのやり方ってものがあるでしょ? わざわざ困難な道を選ぶなんて意味あるの?」
左近の皮肉に、俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
確かに平村のイジメをやめさせるだけなら、わざわざ腕時計盗難事件を解決する必要はないし、教師と連携して、白部とこの一件の黒幕と思われる相手共々、力で押さえ込めばいい。
だが、そのやり方は白部と平村の気持ちを無視したやり方だ。本人達は納得しないだろう。それでは、本当の解決にはならない。
ただ、風紀委員が処理するべき仕事は白部達の一件だけではない。問題行動を起こす生徒の調査、町内の清掃活動等、他にもやるべきことが沢山あるのだ。
この一件だけに時間を掛けられない事は分かっているが、約束したからな。約束は破るためにあるのではない、護る為にある。
それに、白部と平村。離れた二人の仲が修復できるのか、俺が知りたいんだ。
左近はやれやれと言いたげに肩をすくめている。
悪いな。
俺は心の中で左近に謝罪した。
「別にいいじゃないですか。私は好きですよ、藤堂先輩の方針」
上春が俺を擁護してくれた。上春の言葉に、左近は呆れたように上春を見つめている。
「な、なんですか?」
「いや、別にいいんだけどね。でも、警告はしておくから。余計な詮索は手痛い目にあうよ」
「……」
警告という単語に、上春の笑顔が曇っていく。以前、上春は左近に冷たい態度をとられ、半泣きになったことがある。
だから、不安なのだろう。
「橘はん、あまり咲を不安にさせるようなこと、言わんとってください。押水はんのようなことは起きんよう、注意しとくさかいに」
「それならいいんだけど」
朝乃宮と左近のやりとりに上春は一人、首をかしげている。上春は俺がしでかした事を、ハーレム騒動の結末を知らないから分からないのだろう。
あのときは失敗した。誰もが不幸になった。
だから、今回は……今回こそは、伊藤の言うようにハッピーエンドで終わらせるつもりだ。
そう言いたかったが、急に気恥ずかしくなってしまい、言葉を飲み込む。思い返してみれば、誰かを幸せにしたいとか、こっぱずかしいな。俺のガラじゃない。
それでも、やる気になってしまっていることに、伊藤にうまくのせられたなとつくづく思う。だが、悪い気はしなかった。
「それじゃあ、ちょっとおさらいをしようか。事の原因は……」
「掃除ロッカーに平村さんが閉じ込められていた事だな」
あれには本当に驚かされた。
始まりは教室から聞こえてきた異音。
たまたまそこに居合わせた俺と上春、朝乃宮が原因を探るべく、音の出所、掃除ロッカーを調べたところ、中に人が閉じ込められていた事が判明。
掃除ロッカーの鍵は鍵が刺さったまま、鍵が根元から折られていて、開けることが出来なかった。
掃除ロッカーに閉じ込められていた平村を助けるのに、一時間かかってしまった。
あのときは本当に恐怖した。
平村をただ閉じ込めるだけでなく、声が出ないよう口を塞がれていた。暗闇の中、狭すぎる掃除ロッカーに閉じ込めた犯人の神経が全く理解できなかった。
平村を閉じ込めた犯人はどうして、ここまで残酷なことが出来るのか? 良心のかけらもないのか?
人の悪意が心底恐ろしいと思ったんだ。
「そうだね。それで正道にはこの事件の犯人と思われる人物、白部さんを調査してもらったわけだけど……」
「意外な展開になったな」
左近の調査から、平村はある人物からイジメを受けていたことが判明した。その人物、白部こそが最有力容疑者であると判断し、俺は白部に会いに行った。
最初は白部のふてぶてしい態度に、キレて胸ぐらを掴んだっけな。自分のやったことに全く悪気を感じさせない素振りをみせる白部にふざけるなって怒りがわいたんだ。
だが、白部と話をする中で、白部は平村の事を裏切り者であると吐き捨てた。
そのときの白部の表情は強い感情、憎しみが込められていて、この事件が単純なイジメではないことを思い知らされたんだ。
「そうですよね。被害者と加害者。どちらがどっちなのか、分からなくなりましたよね」
上春は目を伏せ、困った顔をしている。
そうだな。平村が被害者だと思われたこの一件、実は平村が加害者で白部が被害者だった事を二人の親友である井波戸から教わったのだ。
二人が中学生の頃はとても仲がよく、親友同士だった。
だが、中学三年の時に起きた腕時計盗難事件。この事件で二人の仲は百八十度変化してしまう。
事件の内容は、平村達のクラスメイトの腕時計が体育の時間中に盗まれた。腕時計は荷物検査で平村の鞄に入っていた事が判明した。
当然、犯人は平村だと思われた。
だが、平村は白部が自分の鞄に腕時計を入れたと告発したのだ。
白部は自分はやっていないと言い張ったが、調査してみると、腕時計を盗めた人物は白部しか該当せず、平村にはアリバイがあり、結局、白部が犯人で片がついた。
白部は親友に裏切られ、その恨みから平村をイジメるようになった。
「でも、結局は二人の勘違いだったわけやね」
朝乃宮の言うとおり、二人は勘違いしていた。
白部は平村の鞄に腕時計を入れたわけではなく、平村の鞄から自分の鞄に腕時計を入れたのだ。親友の平村をかばうために。
そのときの行動を平村は目撃したわけだが、実際には腕時計は平村の鞄から出てきたので、結果論から平村は白部が自分に濡れ衣を着せようとしたと勘違いしたわけだ。
平村は白部を疑ったことを後悔し、また白部と仲直りしたいと思っていたため、白部のイジメに何も言わずに耐えてきた。それが償いだと言わんばかりに。
俺は白部と平村の本音を聞き出し、それを二人に伝えることで仲違いを解消させた。
完全に元に戻ったわけではないが、それでも、一歩前進したと思う。
それにしても、腕時計を盗んだのは誰なのか?
なぜ、平村の鞄に腕時計を入れたのか?
白部が自分の鞄に腕時計を入れたにもかかわらず、腕時計は平村の鞄の中から発見された。なぜなのか?
疑問はつきないが、俺は白部と平村が腕時計盗難事件の犯人ではないと確信している。
白部と平村から話を聞いて、自分の考えに自信が持てた……のだが、ここであらたな疑問がうまれた。
それは……。
「勘違いが分かったわけだし、僕的には問題ないと思うんだけどね」
左近の感想に、俺は考えを中断させる。今、その疑問を考えても仕方ない。今は必要なことを考えればいい。
俺は左近の意見に異を唱える。
「そうはいかない。前にも言ったが、腕時計盗難事件の犯人は平村さんに冤罪を押しつけたんだ。また、何か仕掛けてくるかもしれない。そうなれば、また二人は傷つく。それだと意味がない」
せっかく二人の仲が修復されても、黒幕に水を差されてはたまったものではない。
それにもし、その黒幕が二人の仲を引き裂くために腕時計盗難事件を起こしたのだとしたら、無視できないし、卑劣な行動を許せるはずがない。
必ずだ……必ず黒幕を表舞台に引きずり出してやる。
これはもう平村達だけの問題ではない。俺自身、この一件に関わった者として傍観者ではいられない。
密かに決意を固めていると、視線を感じた。
その視線の主は上春だった。
なんだ? 俺に何か言いたいことがあるのか?
「どうした、上春? 何かあるのか?」
「ええっと……藤堂先輩って意外にも年下キラーなんですね」
何を言っているんだ、藪から棒に。ふざけているのか。
俺はつい、上春を睨むと、上春は両手をパタパタと手を振り、言い訳してきた。
「だ、だって、ほのかさんに続いて白部さんと平村さんじゃないですか。やはり、ハーレム騒動が藤堂先輩を目覚めさせたのでしょうか?」
何に目覚めたというのか?
上春に悪気はないのだろうが、悪口を言われたような気がして、苦々しい気分になる。
俺はため息をついた。
「意味が分からん。伊藤が俺と組んでいるのはただの好奇心に過ぎん。漫画やドラマのような体験を期待しているだけだろ。白部さんと平村さんは、また昔のように仲直りをしたいから俺と組んでいるだけだ。それが終われば、ただの他人同士に戻る。それだけだ」
お互い関わり合う理由がなくなるのだ。離れていって当然だろう。
しかし、上春には俺の説明が納得いただけないようだ。
「でも、せっかく知り合えたんですよ。言い方は悪いと思いますが、この一件があったからこそ、藤堂先輩は白部さんと平村さんと出会えたとは思いませんか? きっと、普通に過ごしていたら、絶対に出会えなかったと思います。始まりはお互い最悪かもしれませんが、これを機に仲良くなるのもありじゃないですか?」
「必要ない」
俺は上春の意見を一言で切り捨てる。確かに、上春の言うとおり、事件がなかったら俺達は知り合うことなく、卒業していただろう。この機を逃せば、二人と仲良くなる機会はなくなるだろう。
だが、それがなんだというのだ?
『一年生になったら』という歌を小学一年生になるくらいに教えられるが、俺はこの歌が嫌いだった。
友達百人もつくって関係をどう維持するのかと言いたくなる。
友達を百人作ったところで、いつもそばにいる友人はごくわずかだ。だったら、最初から百人など必要ない。三人くらいで十分だ。薄っぺらい友情など、何の意味があるのか。
特に異性の知り合いなんて何を話したらいいのか分からないし、話題もかみ合わないだろう。
お互いつまらない思いをするだけで何の得にもならない。不毛だ。
年下の女子の知り合いなんて、伊藤一人で間に合っている。
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俺は左近に同意を求めたが、左近は首を横に振った。
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「そんな打算的な理由じゃありませんから!」
確かにな。
左近らしい意見に上春は抗議し、俺は呆れていた。まあ、それでこそ、左近としか言い様がない。
朝乃宮と言えば、つまらなさそうに弁当のそうめんをいじりまわしていた。
今日もそうめんか……。
俺はつい、口に出してしまった。
「今日も弁当はそうめんなんだな」
俺の一言に場が凍り付く。
上春は苦笑し、朝乃宮は恨めしそうに俺を、俺の弁当を睨んでいた。
不味い、余計なことを言ってしまったか?
もしかして、上春家は給料日前なので、お金があまりないのかもしれない。だから、そうめんでしのいでいるかもしれない。
これは完全に俺の落ち度だな。俺は心の中でため息をつく。
やはり、俺が女子と話してもろくな事にはならないな。分かっていたとはいえ、うかつだった。
俺はおずおずと自分の弁当を上春と朝乃宮の前に差し出した。
「おかずをトレードしないか? その……そうめんに興味があるんだ」
やめておけばいいのに、それでも俺は上春達に話しかけてしまった。自分の中にある罪悪感を消すために。
上春は申し訳なさそうに俺と弁当に視線を交互させている。上春の葛藤が目に見えてしまい、余計にいたたまれなくなってしまう。
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