風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

文字の大きさ
344 / 545
十章

十話 真相 その二

しおりを挟む
「「ごめんなさい!」」

 謝罪の言葉だった。深々と頭を下げる姿に誠意を感じる。心からの謝罪である事が分かる。
 この謝罪は、二人の犯行を自分たちで認めてくれた証拠であり、ずっと後悔してきた事を物語っていた。
 俺は肺にたまっていた空気と共に力が抜けるのを感じていた。

 よかった……最悪の事態にはならなかったようだ。俺は二人の勇気ある謝罪に敬意を表したかった。
 この事態を理解しているのは俺と司波、髙品……朝乃宮も顔色を変えていないことから四人といったところか。朝乃宮の場合は興味ないので驚かなかったとも言えなくもないが。
 残りのメンバーは戸惑いと驚きを隠せないでいた。

「ねえ、藤堂先輩。そろそろ種明かししてくれない? 理解できないんだけど」
「そ、そうですよ! 確か、司波さんと髙品さんってアリバイがあるんですよね? どういうことですか?」

 白部と上春が俺に抗議をしてきた。ここは司波達に問いかけて欲しかったのだが、この状況を生み出したのは俺だ。ならば、俺から説明するのが筋だろう。

「簡単なトリックを使っただけだ」
「トリック?」

 首をかしげる上春に、俺は自分の推理を披露してみせた。

「まず、髙品さんが仮病をつかい、司波さんが髙品さんの付き添いとして、二人は体育館を抜け出した。司波さんは真っ直ぐ職員室に向かって鍵を手に入れ、更衣室に向かい腕時計を平村さんの鞄に入れた。その間、髙品さんは一人で保健室に向かった。犯行を終えた司波さんは保健室前で髙品さんを合流し、保健室に入り、髙品さんは保健室で病人として残り、司波さんは体育館に戻ったってわけだ」
「それだと、辻褄つじつまがあわない。どんなに速く走っても、五分以上はかかる。でも、保健室にあったノートは九時四分。これをどう説明するつもりなの? 藤堂先輩も知っているでしょ? 保健室にあった時計は電波時計で、時間に狂いはないはず」

 白部の指摘は俺も頭を悩ませたことだ。
 何度も実験して犯行には最低でも五分はかかる。
 九時八分には第二クォーターが始まるので、それまでに体育館に戻らなければならない。
 九時四分に司波が保健室にいた時点で彼女には犯行が不可能なのだ。

 だが、ここであるトリックを使えば犯行が可能になる。
 実に単純で子供じみた事だが、それ故、気づかなかったのだ。
 そのトリックとは……。

「簡単なことだ。時計を手動で変更すればいい。例えば犯行を終えて、保健室に入ったのが九時六分だったとしても、ノートに記載する時に時計を手動で九時四分にしておけばいいだろ?」

 時計は掛け時計ではなく、置き時計なので時間を調整することは可能だ。しかも、司波は保健委員なので置き時計の存在も、調整の仕方も前もって知ることが出来たはず。
 それに二、三分程度の誤差なら、誤魔化すのもたやすいだろう。
 これが十分や二十分、時間が狂っていれば遠藤先生は気づいていたかもしれないが、小さな時間の誤差なら気づきにくい。
 だから、遠藤先生も九時四分であることを疑わなかったのだろう。

 電波時計が狂うわけがない。
 その考えにとらわれてしまい、時計の時間を手動で変更できてしまうことをすっかりと忘れてしまっていた。
 やはり、俺は名探偵にはなれない。探偵ならすぐに分かっていただろう。

「で、でも、時間が狂ったままなら、いつか気づかれるのではないですか? チャイムが鳴る時間帯って決まっていますよね? その時間と置き時計の時間があっていなかったらバレると思うんですけど」
「上春、大事なことを忘れていないか? 置き時計は電波時計だぞ。自動で電波を受信できるが、手動でも電波を受信できるんだ」
「あっ……そっか」

 そうだ。
 保健室を出るときに電波を受信するよう、手動でやればいいだけだ。置き時計を調べてみると、受信と書かれたボタンがあった。
 そのボタンを押すと、電波を受信しているマークが表示され、しばらくするとマークが消えた。
 試しに時間を手動で変更し、受信のボタンを押して電波を受信してみると五分程度で時間が元に戻った。
 この方法を使用し、手動で変更した痕跡を消したわけだ。

 俺の推理に司波達は黙ったままうつむいている。
 否定しないということは、俺の考えが正しいと証明されたと考えてもいいだろう。
 だが、それは……。

「嘘です! 私は信じません!」

 平村がぽろぽろと涙を流しながら、俺を睨みつけてきた。
 俺の推理を認める事は、二人が平村達を陥れた事になる。そんなこと、平村には耐えがたい事実なのだろう。
 だが、その事実を突き止めないことには白部がいつまでも腕時計盗難事件の犯人として冤罪を背負うことになる。

 俺はそんなものを白部に背負って欲しくなかった。
 たとえ、辛い現実が待っていたとしても俺は事実を突き止め、白部の潔白を証明したかった。
 俺の想いが今、平村を傷つけている。俺はぎゅっと拳を握りしめ、平村の視線を真っ直ぐに受け止める。

「瑠々ちゃんが……莉音ちゃんが……私達に酷い事なんて……ぐすっ……しませんから……しませんから……私みたいなバカじゃないんです……みんながそんな酷いこと……絶対にしませんから」
「真子……」

 白部がそっと平村を抱きしめる。平村はあまりの悲しさに嗚咽を漏らしながら、白部に抱きついている。

「私……もう……嫌です……友達を……疑うことなんて……だって……苦しかったから……何度も何度も……後悔したから……奏水ちゃんを疑ったこと……後悔したから……もう……嫌……嫌だよ……奏水ちゃん……私が……私が……悪かったから……ごめんね……ごめんね……奏水ちゃん……ごめんね……私が……疑いさえしなかったら……こんなことにはならなかったのに……」

 涙を流し、親友しろべを疑ったことを謝罪し続ける平村に俺達は何も言えなかった。
 平村はきっとこう思っているのだろう。これは白部を疑った罰なのだと。その罪に平村は悲鳴を上げているのだ。
 事実を突きつけられて、それでも尚、現実を認めず、謝罪を続ける平村を俺は愚かだとは思わなかった。
 平村の気持ちは痛いほど分かる。俺にも同じ経験があるからだ。

 平村の姿が昔の俺とかぶってしまう。
 親友けんじにイジメられ、俺は健司を恨んでしまったことがある。悪いのは健司ではない。健司をイジメていたヤツらだ。
 でも、それでも、俺は健司を恨んでしまった。

 もっと、素直になっていたら……健司を恨んでいる暇があったら、自分の気持ちに正直になって健司と話し合うべきだったんだ。
 健司と仲直り出来ず、別れてしまったあの日がフラッシュバックしてしまい、胸が締め付けられた。

 知っていたはずなのに。その痛みを共感できたはずなのに。
 真実を追い求めることに夢中になり、平村の気持ちを無視してしまった結果がこれか……。
 俺は結局、誰かを傷つけることしか出来ないのか?

 くそっ! どうしたらいいんだ?
 俺はただ、真実を司波達に認めさせ、謝罪させれば平村達のわだかまりを解消できると考えていたのに……。
 どう収集すればいいのか分からず、喉の渇きを感じながら何か言おうとしたとき。

「ごめんなさい、真子! ごめんなさい……」

 髙品がぎゅっと平村と白部を抱きしめ、嗚咽を漏らす。

「ごめん……真子、奏水。本当にごめん……」

 司波も泣きながら三人の輪に入る。

「……私もごめん……真子のこと、ずっと傷つけて……ごめん」

 白部も平村が自分を陥れようとしたときの恨みと悲しみから、一番の親友をずっと傷つけてきた事を謝罪しながら、涙がぽろぽろと地面に落ちていく。
 涙が涙をよび、四人ともこの一年間抱えていた想いを打ち明け、懺悔を繰り返していた。

 きっと、この涙は後悔や悲しみだけではない、四人がこれから先に進むために必要なことなんだ。
 この場合、何をしたらいいのか、俺にだって分かる。
 俺は何も言わず、四人が泣き止むのを見守っていた。
 空を見上げると、水色に澄んだ空がどこまでも高く澄み渡っていた。



「ええっ話やないですか……俺まで涙が……」
「……」

 目元を拭う庄川と無表情で俺を見つめてくる井波戸。
 四人はお互いの罪を認め、仲直りした。
 これで終われば万々歳なのだが、まだ肝心な謎が残っている。
 白部が平村をかばうため、自分の鞄に隠した腕時計がなぜ、平村の鞄に移動されていたのか?
 腕時計が勝手に移動するわけがない。つまり、誰かが白部の鞄から腕時計を平村の鞄に移動させた事になる。
 そして、その犯人は目の前にいる。
 その犯人はこの事件の黒幕で、全てを仕組んだ張本人である。

「ちょいちょい、美花里。藤堂先輩が謎を解明したからって拗ねてるのか? 大切なことは、誰が謎を解いたかじゃなくて、四人の仲が戻ったことじゃねぇ? それでいいじゃん」

 庄川らしい意見だ。
 自分のプライドよりも人の幸せを優先させる。心の優しいヤツだ。

「庄川君。まだ話は終わっていない。むしろ、ここから先が肝心なところなんだ」
「?」

 俺は話の続きを語った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

マーラッシュ
恋愛
 俺は知ってしまった。 まさか今更こんな真実を知ってしまうとは。 その日は何故かリビングのテーブルの上に戸籍謄本が置いてあり、何気なく目を通して見ると⋯⋯。  養子縁組の文字が目に入った。  そして養子氏名の欄を見てみると【天城リウト】俺の名前がある。  う、嘘だろ。俺が養子⋯⋯だと⋯⋯。  そうなると姉の琴音ことコト姉と妹の柚葉ことユズとは血が繋がっていないことになる。  今までは俺と姉弟、兄妹の関係だったからベタベタしてきても一線を越えることはなかったが、もしこのことがコト姉とユズに知られてしまったら2人の俺に対する愛情が暴走するかもしれない。もしコト姉やユズみたいな美少女に迫られたら⋯⋯俺の理性が崩壊する。  親父から日頃姉妹に手を出したらわかっているよな? と殺意を持って言われていたがまさかこういうことだったのか!  この物語は主人公のリウトが姉妹に血が繋がっていないことがバレると身が持たないと悟り、何とか秘密にしようと奔走するラブコメ物語です。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...