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序章
秘密の庭園
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そっと雪峰は、庭園でお茶をしている三番目の兄である嘉徳とその友人の青孟徳を部屋の扉の隙間から覗いていた。兄が、科挙を蹴り、武官となった青孟徳を連れている。そんな珍事に雪峰は少なからず驚きを隠せなかった。けれども、雪峰は表に出ることができない。
『いいかい、千南。お嬢様のときは、決して家の者以外に姿を見られてはいけないよ』
長兄からの言いつけは、守らねばならない。
だから、こっそり千南は部屋の扉の隙間からしか孟徳の姿は見ることはできない。
☆☆☆
「そういえば……話を聞いているか? 孟徳」
感じる視線に注意をとられていて孟徳は嘉徳の話が右から左へと流れてしまっていた。楊家にいるのに、間者がいるとはありえるはずもないと内心思っていても先ほどから注がれる視線に孟徳は疑心暗鬼になっていた。
「ん?」
嘉徳が孟徳の視線の先を見れば、我が妹がいる。しかも、女性の姿で。その状態に嘉徳は、一瞬困惑の表情を見せたが、そのままぐっと腕を掴み、扉の間にいた子猫を部屋に招き入れた。
「っ……」
一瞬にして、孟徳の顔が桃色に染まった。
「どう? 似てるでしょう」
そして、なんとも言えないような表情になって、「姫君なのか……」とぼそっと孟徳が呟いた。
「本当は君にも教えてはいけない我が家の秘密だけれども……どうせ、君はいつかは知ることになるだろうから。知っていたって損はないと思うんだ。これは楊家と青家での秘密ごとだから」
とうの子猫はきょとんとした顔で、兄とその友人を見やっていた。
「彼は青孟徳……―――。青家の次期当主であり、ゆくゆくこの国を担っていく人だ。いいか、千姫。この彼だけは頼ってもいい」
そういいながら、妹の目線に合わせながら言って聞かせると
扉の先から「おやおや……」という呆れたような長兄の声が聞こえてきた。
とっさに、嘉徳と孟徳は兄の声を聞くに礼をとった。
「こんなところにいたのかい。それに……ああ、君もいたんだね。驪修に見つかると大変だからね……」
そんな呑気なことを言う長兄に、嘉徳は「怒らないのですか?」と恐る恐る質問すると、ああ、そんなことかいと返す長兄。
「君にはいつかは紹介することになるだろう。それが早いことには越したことにはないさ。
鈴蘭の君とそっくりだろう……? 私も嘉徳も驪修も怖いぐらいにそっくりさ。だから、見つからないように守ってやらればならない。でも限界がありうる。そのときは、君の手を借りるだろう、青孟徳」
「はい……」
「驪修がなんというかはわからない。
けれども、私からすれば、君以外にいないんだ。
でも、君も望んでいることだろう……」
孟徳が望んでいる。そう郭嘉は言い切った。
この国随一と謳われた美貌を持ち合わせたこの楊家の後妻。
実際は、そうみせかけた郭嘉の妻。
孟徳の初恋の人が自分の妻ということは、大人の郭嘉からすれば見ていればわかることだ。
たかだか、十数歳の子の初恋。
そして、その初恋の君はもういない。
(私も君も、この姫に面影を求めて重ねているんだね……)
『いいかい、千南。お嬢様のときは、決して家の者以外に姿を見られてはいけないよ』
長兄からの言いつけは、守らねばならない。
だから、こっそり千南は部屋の扉の隙間からしか孟徳の姿は見ることはできない。
☆☆☆
「そういえば……話を聞いているか? 孟徳」
感じる視線に注意をとられていて孟徳は嘉徳の話が右から左へと流れてしまっていた。楊家にいるのに、間者がいるとはありえるはずもないと内心思っていても先ほどから注がれる視線に孟徳は疑心暗鬼になっていた。
「ん?」
嘉徳が孟徳の視線の先を見れば、我が妹がいる。しかも、女性の姿で。その状態に嘉徳は、一瞬困惑の表情を見せたが、そのままぐっと腕を掴み、扉の間にいた子猫を部屋に招き入れた。
「っ……」
一瞬にして、孟徳の顔が桃色に染まった。
「どう? 似てるでしょう」
そして、なんとも言えないような表情になって、「姫君なのか……」とぼそっと孟徳が呟いた。
「本当は君にも教えてはいけない我が家の秘密だけれども……どうせ、君はいつかは知ることになるだろうから。知っていたって損はないと思うんだ。これは楊家と青家での秘密ごとだから」
とうの子猫はきょとんとした顔で、兄とその友人を見やっていた。
「彼は青孟徳……―――。青家の次期当主であり、ゆくゆくこの国を担っていく人だ。いいか、千姫。この彼だけは頼ってもいい」
そういいながら、妹の目線に合わせながら言って聞かせると
扉の先から「おやおや……」という呆れたような長兄の声が聞こえてきた。
とっさに、嘉徳と孟徳は兄の声を聞くに礼をとった。
「こんなところにいたのかい。それに……ああ、君もいたんだね。驪修に見つかると大変だからね……」
そんな呑気なことを言う長兄に、嘉徳は「怒らないのですか?」と恐る恐る質問すると、ああ、そんなことかいと返す長兄。
「君にはいつかは紹介することになるだろう。それが早いことには越したことにはないさ。
鈴蘭の君とそっくりだろう……? 私も嘉徳も驪修も怖いぐらいにそっくりさ。だから、見つからないように守ってやらればならない。でも限界がありうる。そのときは、君の手を借りるだろう、青孟徳」
「はい……」
「驪修がなんというかはわからない。
けれども、私からすれば、君以外にいないんだ。
でも、君も望んでいることだろう……」
孟徳が望んでいる。そう郭嘉は言い切った。
この国随一と謳われた美貌を持ち合わせたこの楊家の後妻。
実際は、そうみせかけた郭嘉の妻。
孟徳の初恋の人が自分の妻ということは、大人の郭嘉からすれば見ていればわかることだ。
たかだか、十数歳の子の初恋。
そして、その初恋の君はもういない。
(私も君も、この姫に面影を求めて重ねているんだね……)
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