浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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俺でよければいくらでも力になるよ

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「ちょっとお兄さん、暇?」
声をかけてきたのが、あきらかにこちら側の人ではないとき。
「で、ないなら、いいや」
とわりとすぐに諦めてくれたのだが。
「いいよ、やるよ」
「私がいうのもなんだが、そこで答えていいのかな、人生、もう少し大事にしたほうがいいんじゃない?」
「…もういいんだ」
「もし話は受けなくても、その足でお金借りたり、どこか遠くにいくためにその格好で電車に飛び乗ったりしないことだ、たぶんろくでもないことになる」
「そういえばさっき話しかけられたな」
「それは…」
「やっぱりあの人たち、そういう人か」
「そうはいうよ、なんていうの、狙っているってやつ、そうか、もう目をつけられてたのか」
「こんな辛気くさい顔で歩いていたら、そうなるんじゃない」
「で、お兄さんはどうしたいの?」
「どうって?」
「何かあったんでしょ?だからどう?って聞いているんだよ、戻りたいのか?それとも復讐か」
「復讐ね…」
「その腕があるならば出来るでしょ」
「何かむなしくなってしまって…ダメだな」
「重傷だね」
「そうだね」
「暇?」
「暇、やること全部消えちゃった」
「そう、じゃあ、まずは私と食事しない、この辺のことはあんまり知らないけども、チェーン店があるなら、そこで、話も聞くよ、お金も出すよ」
そこでじろっと見ながら。
「あなたが何でそうなったのか興味はあるの」
なんて言った。
「つまんない話だ、それに長くなる」
「構わないわ」
「そして聞いてて面白くないだろう」
「そこがいいのよ」
「そう、後悔しても知らないよ」
「たぶん聞かなかった方が後悔するわ、冷たい雨でも降ってきたら、お兄さんは大丈夫かしらって思うもの」
「俺は野良猫か、何かかな」
「今はそんな目をしているわ」
「番犬だったんだけどもね」
「やっぱりちょっとおかしいと思ったら、そっちか」
「うん、そうよ」
「とりあえず、ここだと暑いし、日差しも強くなるし、さっさと店内いきましょう」
予算も聞いていたので。
「このぐらいならと答えると」
「えっ?このお店は値段を間違ってないか?今時こんな値段で食べれるの?信じられない」
「来たことないの?ここは手頃な値段が売りなんだけども」
「でもさ、この値段はさ」
カルチャーショックを受けている。ファミレスの値段と、いつもの食費と比べているのだろう。
(そういえば前にもこういう人いたわね)
全国チェーンで慣れている人は気にしないが、その文化がない人たちにとっては値段を見ただけで大騒ぎ。
「お肉、注文していいですか?」
「いいよ、気にしないで」
値段もそこまで高いものではないから、許してみると、おそるおそる注文していった。
「俺は今日、死ぬかもしれない」
「最後の晩餐にはしないでよ」
「いや、だってさ、あんなことがあって、今ここでご飯おごってもらえることになってさ、意味わからないじゃん」
「人生、そういうときもある」
「そういうのを求めているときにお願いするよ」
「それね、私も思うよ」
「なんで俺に声をかけたの?」
ここで注文の品物の一部がやってくる。
「サラダも美味しいです、本当にあの値段なの?桁を間違ってないの?いや~すごいな」
「話、戻しても?」
「あっ、どうぞ」
「所用でこっち来たんだけどもね、人が歩いてなくて」
「今はそういう時期というか、歩いていることの方が少なくなりましたね」
「衰退しているって本当なのね」
「ですよ、だから俺の夢見た先も大幅縮小で無くなるんです」
「でも、その、まだ若いんだよね、お兄さん」
「もうおっさんに足を踏み入れてますよ」
「それはわかるんだけども、そうか、ちゃんと務めてくれそうな人がこれって、どんどん悪くなるのが見えるんだけども」
「そうでしょうね」
「あなたは他のところに行こうとは思わないの?」
「他のところってどこでしょうか?」
「うん、まあ、そうか、わからないし、縁がなければ他所では使い潰されるだけだし」
「やっぱりそんなこと起きているんですか?」
「起きているよ、それこそ全国的に持っている人が少ない資格とか、他の人が真似できない経験とかスキル持っているのならば通用する、そうでなければね」
「立身出世は難しいか」
「そういうこと」
「で、君は?」
その後、炭酸水に口をつけた。
「私は所用だよ、こちらとは縁がないわけないから、歩けることは歩けるんだが、久しぶりに来たら変わりすぎているわ、知っているお店が閉店しているからすんごい困った」
「そうでしょうね…歩き回るとしたら不便だ」
「そこに歩いている人がいたので」
「歩きたくなる気分だったんですよ、このまますぐに家に帰っても、何がダメだったのか苛むだけで、それだったらまだ歩いた方がいいんじゃないかってね」
「いいアイディアは浮かんだ?」
「全然」
でも笑いながら言った。
「やっぱり俺ではダメだったかってところですね…しかし、肉が旨い」
「チーズ類も美味しいんだけどもね」
「今日のことは忘れられそうにないな」
「忘れてもいいんじゃない?」
「君と話をしながら、食事をするのが楽しくて忘れたくない」
「そう、それは良かったのかな、悪かったのかな」
「どっちかになるのは、今日じゃないかな、後で思い返してみると…だと思う」
「ではちょっとでもいい思い出になるように務めるわ」

それから街を案内、行きたかった店が閉店していたので、代わりを扱ってそうな店を一緒に探すことになった。

この時を見られていたせいで、後日、彼女かよと、聞かれたりしたのだが。
「あの人に道案内頼まれたんだよ、ほら、閉店になった店があったじゃん、あそこに用事があったんで」
「ああ、そういうやつか」
「一応見つけたんだけどもさ、すんごい歩いたよ」
「それは大変だったな」
当たり障りのない話で終わらせた。

帰宅後
返信が来ていたので目を通す。
「おかげで助かりました」というタイトルから、あなたがいてくれたおかげだというメッセージだった。
「俺でよければいくらでも力になるよ」
気の抜けた言葉を口にしながら、返事を送ったという。
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