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第十二話

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「おい、起きろ。アレル。おい」

「ん…?」

生と死の剣によって治療したアレルを、俺は揺り起こす。

眠っていたアレルがゆっくりと瞼を開けた。

「よかった…!アレル。無事だったんだな…!死んだと思ったぞ…!」

「お、俺は何を…?」

アレルがとろんとした瞳で、当たりを見渡す。

「アレル…!!自分が何をしたのか覚えていないのか!?お前が俺たちを助けてくれたんじゃないか…!」

「え…助ける…?」

「ああ…!!魔族を倒して俺たち3人をお前が助けたんだ…!」

「魔族…?はっ…!」

アレルがようやく全てを思い出したようで、バッと立ち上がる。

「あ、あいつは…!?魔族は…!?アンナはどうなったんだ!?」

「魔族ならあそこだ」

俺は近くで倒れている魔族の死体を指差した。

「死んだのか…?」

「お前が倒したんだぞ」

俺がアレルにいうと、アレルがキョトンとした。

「え、俺…?」

「そうだぞ!!お前何も覚えてないのか…!」

「お、俺は…魔族に殺されかけて…そ、その後の記憶が…」

「お前が魔族を倒したんじゃないか…!!本当にびっくりしたぞ…!!突然別人みたいな動きをして魔族と互角に渡り合ったんだ…!!」

「俺が…?魔族と互角に…?」

信じられないといった表情のアレルを、俺はひたすら持ち上げる。

「マジですごかったぜ…!!あれが勇者の力ってやつなんじゃないのか!?」

「勇者の…力…」

アレルが自分の腕に浮かび上がった勇者の紋章を撫でる。

よし。

いいぞ。

思いっきり持ち上げた甲斐あってその気になってくれたな。

これで魔族を倒した功績をアレルに押し付けられる。

すまんな、アレル。

あの状況でなんの力も持っていないはずの俺が魔族を倒したという事実は流石に無理があるからな。

勇者のお前が倒したというのなら不思議はないし、伯もつくだろう。

というか実際のゲームのシナリオではそうなる予定だったんだから、これでいいだろ。

「本当に俺が…魔族を倒したのか…?」

「お前以外に誰がいるっていうんだ!?俺やアンナには絶対に不可能だ!な?」

「確かに…そう、かもな…」

アレルがうんうんと頷いて、自信げな表情になってきた。

「俺が戦って魔族を倒して…グレンとアンナを助けた…この俺が…」

「…」

もうアレルは完全にその気になっていた。

「アンナ…!大丈夫か!!魔族は俺が倒した
ぞ!!」

嬉しげな笑みで、寝ているアンナを揺り起こしている。

「すまん、アレル…」

俺は小さな声でぬか喜びをしているアレルに謝りながら、すでに治療ずみのお告げの巫女を起こして、王都を目指したのだった。

ちなみにお告げの巫女も、アレルが魔族を倒したという話を完全に信じていた。

ただ1人、アンナだけが…

「アレルが魔族を…?本当に…?」

「あ、あぁ…ほ、他に誰がいるっていうんだ?」

「…あ、うぅん、別に疑っているわけではないんだけど…」

という具合で、なぜかちょっと納得いかない感じではあった。


「す、すげぇ…これが王都か…!」

それから半日後。

俺たち4人は、王都に到着していた。

死んだ御者に変わって手綱を握ったのはお告げの巫女だった。

魔族の襲撃があった後は、ゲームのシナリオでそうだったように、特にトラブルもなくすんなりと王都に到着した。

「こんなに大勢の人が一ヶ所に集まっているところなんて俺、初めて見た…」

ゲームの中の勇者アレルと全く同じセリフを口にしたアレルに、俺は苦笑する。

「すごい…綺麗な街並み…」

俺の横ではアンナが、アレル同様に王都の景色に見入っていた。

俺も夕刻の王都の街並みをあらためて眺める。

「確かに、綺麗だな…」

そんな呟きを漏らしつつ、本当にゲームの中と何一つ変わらないんだなという感想を抱いた。

石造りの建物。

たくさんの人々が交流する市場。

そして中心にある王城に向かってまっすぐに伸びる一本の道。

何もかもが『世界の終わりの物語』の中の光景と一致しており、俺は一種の感動を覚えていた。

まさか大好きなゲームの中に、登場人物として転生することになるなんてな。

「このまま王城を目指します。もうしばらくお待ちください」

お告げの巫女が、馬車を王城まで進める。

人々の行き交う大通りをゆったりと進んでいく馬車の中で、俺たちはただひたすら王都の景色に見入るのだった。




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